【第2回】心理カウンセラーに聞く発達障害「グレーゾーン」部下への接し方~事例解説~ |HR NOTE

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【第2回】心理カウンセラーに聞く発達障害「グレーゾーン」部下への接し方~事例解説~

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※本記事は『発達障害グレーゾーンの部下たち』より寄稿いただいた記事を掲載しております。

本記事では、職場の発達障害に関する相談で圧倒的に多い2種類「自閉症スペクトラム障害:ASD」(以降、ASD)や「注意欠如/多動性障害:ADHD」(以降、ADHD)のグレーゾーンといわれる人たちが、その特性ゆえに職場のどのような場面でつまずきやすいのか、事例を加えながらお伝えします。

本記事を読み進めていくにあたっては、以下のことに留意してください。
  • ASDやADHDと分類されてはいるものの、発達に偏りがある人(グレーゾーンの人を含む)には共通の特性があります。そのため、ASDの事例でありながらADHDにも当てはまる場合があり、その逆の場合もあります。
  • 両方とも、(発達障害ほどではありませんが)能力のバランスが悪く発達に凹凸があり、できることとできないことの差が大きいといわれています。
  • 人間関係の問題を抱えやすく、生きづらさを抱えているという点は、両方に共通する特性だといえます。

執筆者舟木 彩乃心理カウンセラー/ストレスマネジメント専門家/株式会社メンタルシンクタンク副社長

Yahoo!ニュースエキスパートオーサ-として「職場の心理学」をテーマにした記事、コメントを発信中。AIカウンセリング「ストレスマネジメント支援システム」発明(特許取得済み)。国家資格として公認心理師や精神保健福祉士などを保有。カウンセラーとして約1万人の相談に対応し、中央官庁や自治体のメンタルヘルス対策にも携わる。博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」。ストレスフルな職業とされる国会議員秘書のストレスに関する研究で知った「首尾一貫感覚」(別名:ストレス対処力)に有用性を感じ、カウンセリングに取り入れている。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)、近著に『発達障害グレーゾーンの部下たち(SBクリエイティブ)などがある。

 

ASDの傾向があるJさん(男性20代)

統計処理など数字を扱うことが得意なJさんは、マーケティング戦略室に所属しています。その部署はプロジェクトごとにチームが組まれており、Jさんが属するチームは現在繁忙期の真っ只中にあります。

Jさんは、指示された仕事はいつもきっちり処理しており、ミスをしたこともほとんどありません。しかし、自分がやるべき仕事が終わるとボーッとしていたり、他のメンバーがどんなに忙しそうにしていても定時になれば当然のように帰宅したりします。

チームの他のメンバーは、そんなJさんにイラッとすることもあるようです。定時に帰ろうとする彼に対して「なにか急いで帰らないといけない理由でもあるの?」とか、「これはチーム全員の仕事でもあるんだけど……」などという言葉を投げかけることもあるということです。

しかし、Jさんには言葉の背後にある真意は伝わっていないようで、「定時になったので帰るだけです」と言って悪びれもせず帰ってしまいます。

[なぜ、このようなことが起こるのか?]

JさんのようにASD傾向のある人は、言葉の裏側にある相手の真意などを読み取ることが得意ではありません。

また、ASDに多いといわれるデジタル脳(0か1かで捉えるため中間を理解することが苦手)タイプの人は、人間の心のような0か1かで割り切れないものを、きっちりと把握することができません。

そのため、ぼかした言い方や嫌味などが伝わりにくいことがよくあります。周囲の状況を判断し、空気を読むことが苦手なのです。

[周りはどうしたらいいのか?]

ASD傾向のある人は、同じチームの他のメンバーが忙しそうにしているときは手伝うべきだ、などという〝暗黙のルール〟のようなものを思い浮かべることが苦手です。

一方で、就業時間など、はっきりと決まっている職場の規則やルールを忠実に守ることは得意です。リーダーは、ASDの特性を理解したうえで、他のメンバーの仕事を手伝うようにという指示を、そうすべき理由とともに早めに伝えるようにすると良いでしょう。

彼らは臨機応変に対応することが得意ではないため、早めに伝えておくのがポイントです。

ADHDの傾向があるKさん(女性30代)

Kさんは会議が苦手です。自分の企画を発表するときはいきいきとプレゼンすることができますが、興味がない他の人のプレゼンが長引いたりすると、イライラして我慢できなくなり、指でペンをクルクルと回したりカチャカチャさせたりして、落ち着きがなくなります。

ひどいときは居眠りをして、上司から注意されることもありました。また、他の人のプレゼンをあまり聞いていないにもかかわらず、「長いわりに理解しにくい内容でした」などと、厳しい言い回しで批判することもあります。

会議の参加者は、Kさんの態度を見て、「協調性がない」「落ち着きがない」「自分勝手」と思うようです。

[なぜ、このようなことが起こるのか?]

ADHD傾向のある人は、長時間じっと話を聞かなければいけないというような状況が、あまり得意ではありません。退屈で終わるのが待てないことが、居眠りしてしまうなどの非常識な行動につながることがあります。

また、ADHDの特性の1つである衝動性がムクムクと出てきて感情的になり、ついキツイ発言をしてしまうこともあります。

[周りはどうしたらいいのか?]

会議にKさんのような人がいると、場の雰囲気が悪くなることもあるでしょう。しかし、本人に悪気がない場合も多く、特にペン回しなどは退屈しのぎの一環として無意識にやっていることが多いです。

居眠りなどは注意されて当然ですが、ペン回しやキツイ言い方などは、上司や先輩などが丁寧な言葉で指摘する必要があるでしょう。

まずは、本人にペン回しをしていることやキツイ言い方をしていることについて、その自覚があるかどうかを確認しましょう。無自覚であればまず自覚させて、その行為によって周りに不快感を覚える人がいたり、傷つく人がいたりすることを丁寧に伝えます。

このときの大切な留意点としては、いきいきと発表できていることなど、良い面にも目を向けていることを併せて伝えることです。

ASDの傾向があるLさん(男性30代)

Lさんは、数字が得意で記憶力も抜群、学生時代は勉強がよくできたそうです。入社試験でもかなりの高得点を取ったようで、社内では期待の星と言われていました。現在は、経営企画部の財務部門の管理職であり、部下も数名います。

彼は、仕事のミスがほとんどないため、周囲から一目置かれています。しかし、仕事の手順や優先順位にこだわりがあり、自分の方法が一番正しいと思っているため、考えを曲げることはありません。

業務さえ滞らなければ通常はそれで問題ないともいえますが、突然なにかの案件が入ったときなど、Lさんのやり方では支障が出る場合もあります。さらにLさんの場合、突然出てきた案件を優先的にやるよう上司から指示されたときなどに、あからさまに表情や声色に不快感が出てしまいます。

また、指示された案件に取りかかることの意味やコスパなど、ややこしい説明を上司に求めては、独自の理屈で論破するようなところもあります。そのため、周りから「面倒な人」とか「失礼な人」などと思われているようです。

Lさんには管理職としての顔もありますが、部下に対して言い方がキツく、言ったあとにフォローもしないことから、「パワハラ」を疑われたこともあります。Lさんは、数字を扱うことにたけ、演繹思考が得意なのでその能力を活かせる部署であれば優れた結果を出すことができます。

しかし、臨機応変な対応を求められる仕事や、対人関係スキルが要求される職位では、能力を上手く活かすことは難しいかもしれません。

[なぜ、このようなことが起こるのか?]

ASD傾向のある人は、デジタル脳の傾向があります。

デジタル脳の人は、他人の感情や気持ちを捉えることは不得意ですが、情報をもとにロジカルな推論をすることは得意です。そのため、学生時代に勉強が得意だったという人は少なくありませんし、仕事では専門職としてその特性を活かすことができる場合があります。

しかし、特定のルールや独自の価値観にこだわるうえに、そのルールや価値観を周囲に押しつけるようなところもあるため、人間関係が崩壊することが少なくありません。これには、同じやり方にこだわる「同一性の保持」というASDの特性が影響しているといえます。

ASDの人は、自分なりのやり方を変えることに不安を感じるのです。

[周りはどうしたらいいのか?]

Lさんのような人はもともとの能力自体は高いことから、得意分野を活かせるような仕事を任せたほうが良いといえるでしょう。また、独特の価値観を譲らないことの根っこには「変化に対する抵抗や不安」があることを理解し、周囲に影響が出ない範囲であれば、その特性を許容していくと良いと思われます。

管理職に就いている場合は、本人が管理職として求められている能力を理解し、職務遂行ができているか否か、客観的なシートを用いるなどして点検していくと良いでしょう。本人が自分には荷が重いと感じているようであれば、その職務から解放することを選択肢に入れることも、必要になる場合があります。

また、部下からのLさんに対する評価について確認することも大切になります

知覚過敏があるPさん(男性30代)

次に、ASDとADHDを分けず、発達障害(グレーゾーンを含む)全般に見られる傾向が勤務態度に影響する事例を紹介します。

Pさんは、小さい頃から「神経質」「気にしい」などと言われてきました。彼の場合は、聴覚と触覚が過敏な傾向があるようです。

黒板を爪で引っ掻く音を聞くと手で耳を塞ぎたくなるという話がありますが、Pさんの場合は、コピー機の音や隣の人がキーボードを打つ音、洋服のタグが肌に触れたりすることも不快なようです。疲れているときは、その傾向はさらに強くなります。

Pさんは、夜中に家族がトイレに行くために廊下を歩いたり、ドアを開閉したりする音などが気になってしまい、眠れなくなることがあります。翌日は寝不足で起きられず、遅刻をしたり昼間に居眠りをしたりすることもあるといいます。以前、会議中に居眠りをしたときに皆の前で叱責されたことがあり、そのときはたいへん落ち込んだそうです。

また、握手や肩を組まれることなどにも敏感に反応することがあり、懇親会の席で肩を組んできた同性の同期に対して、本気で「やめろ!」と声を荒らげて反応したことがあります。そのときは店内で口論になり、普段は大人しいPさんが感情のコントロールができなくなった状態で、相手を罵ののしり続けていたそうです。

周りはその様子に、ただただ驚いて唖然としていたということです。

[なぜ、このようなことが起こるのか?]

グレーゾーンを含む発達障害の人は、知覚過敏の人が多いといわれています。どのような刺激にどの程度反応するかは個人差がありますが、脳の活動性が高まりやすいことが刺激に敏感である一因だといわれています。

五感すべてが過敏だという人もいれば、そのうちのいくつかだけが敏感だという人もいます。特に聴覚(音)に過敏な人が多いようです。一言に「音」といっても、苦手な種類や大きさなどは人それぞれということになります。

問題になるのは、不快症状がストレス反応として勤怠の乱れや睡眠の問題などの行動面に出てしまい、仕事に影響が出るときです。

今回のケースでは、普段は大人しいPさんが声を荒らげて相手を罵り続けた場面がありました。このことは、一見すればADHDの特性である「衝動性」によるものと思われますが、この特性はASDでも見られることがあります。

衝動性の特性が強く出るタイプの場合、不快感情を制御しにくいのです。

[周りはどうしたらいいのか?]

上司は、Pさんが過敏になる感覚はなにかを把握して、職場環境で配慮できることがあれば、対応していくことが必要になります。Pさんの場合であれば、耳栓を許可したり(ただし、使用法や種類などを仕事内容に応じて決める)、席をコピー機やドア付近から離したりすることができると思われます。

肩を組むなどの触覚については、このような特性があることを本人の許可を得たうえで、職場で共有することが人間関係を悪化させないコツとなります。

発達障害などの診断が出て手帳を持っており、障害者雇用の場合は、程度の差はありますが、本採用前の段階でどのような点に配慮してほしいかを、雇用主側(人事や受け入れ先の部署)と被雇用者の間で話し合います。しかし、グレーゾーンの場合、Pさんのような知覚過敏があっても、職場では理解を得にくいケースが多いと思われます。

職場では、聴覚過敏による寝不足で居眠りをしているとは誰も思わないため、単に「社会常識がない人」というレッテルを貼られてしまいます。酒席で同期が肩を組んできたことで怒りが止まらなかったことは、肩を組んだ同期も不快に思うでしょうし、事情を知らない人は、Pさんを「取扱い注意」の人物と見立てることでしょう。

上司(場合によっては人事も入れる)は、Pさんにとって仕事に影響してしまうほど苦手なことはなにか、丁寧にヒアリングをすべきです。周囲にどの程度まで伝えるかを一緒に考え、そのうえで環境を整備する必要があります。

そういった際には、厚生労働省の「就労パスポート」などを利用すると良いでしょう。「就労パスポート」には、勤務形態からコミュニケーションまで、どのような配慮を必要としているかを書き込むことができます。本人が見落としがちな部分まで確認することができるので、一度利用してみてください。

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