AIは、人手不足・生産性低下を起因とした問題解決や、今後の企業成長のカギとなるのか?
今回は、「採用管理システム sonar ATS」を運営するThinkings株式会社が主催するAI×HRをテーマにしたイベントをご紹介。
このイベントでは、
- 『生成AI導入の教科書』の著者でAI専門メディア「AINOW」編集長を務める小澤 健祐氏をゲストに迎え、HR領域における「AI活用」の最新トレンドを解説
- Thinkings株式会社からは、sonar ATSが構想するAI 活用の未来や、『AI求人作成アシスタント機能』の活用方法について発表
という構成となっており、本記事ではその中の一部をご紹介していきます。
- 盛り上がりを見せるAI活用。しかし、企業への導入は進んでいない?
- いち早く導入している企業のHR領域でのAI活用例とは?
「人材」は重要な経営課題。AI活用の有無が採用活動の成否に影響。
- AIツールを活用した人の81.4%が採用目標人数を達成。
採用した「人材の質」においても、74.4%が目標を達成。
AI活用の有無が採用活動の成否に影響。
- 難易度が上がる採用。「採用の最適化」が問題解決につながる。
目次
1.HR領域における「AI活用」の実態と活用アプローチについて|小澤 健祐
小澤さん:本日はよろしくお願いします。AINOW編集長の小澤 健祐と申します。
登壇者小澤 健祐氏ディップ株式会社 AINOW編集長
「人間とAIが共存する社会をつくる」がビジョン。ディップが運営するAI専門メディアAINOW編集長を務める。書籍「生成AI導入の教科書」。1000本以上のAI関連記事を執筆。一般社団法人生成A 活用普及協会協議員。その他、AI領域で幅広く活動。ディップの生成AI活用推進プロジェクト「dip AI Force」の推進、生成AI教育事業を展開するCynthialy の顧問、日本最大のAI活用コミュニティ「SHIFT AI」のモデレーター&パートナーインフルエンサーを務める。
X(旧Twitter):https://twitter.com/ozaken_AI
小澤さん:私からは、実態として生成AIがどのくらい活用されているのか、またどのようなアプローチで活用していくのがよいのか、お話できればと思います。
生成AI活用が進んでいない日本
小澤さん:日本の生成AI活用率は約10%と言われているのが現状です。その背景にあるのは、生成AIを「対話型のシステム」だと思ってしまってることがあります。
生成AIは開発段階があって、そこで膨大なデータを学習していき、ひとつのモデルをつくりあげていくものです。このモデルがあって、みなさんがプロンプトを入力してより良い出力というのを推定してくれる。そういったシステムです。
ただ、どうしても「対話型で答えを教えてくれるチャットボット」みたいな勘違いが生まれてしまっていると感じています。対話ではなく生成です。検索ツールの延長で考えてしまうと活用は進まないのではないかと考えています。
小澤さん:現在のAI活用を見ると、テキストの生成から、画像生成、動画の生成、音声の生成まで、本当にいろんなことができるようになっています。
例えば「マンモスの画像」「宇宙飛行士が着陸した画像」といった画像の生成から、今では「船が動くとそれにあわせてコーヒーがどう動くのか」といった、物理法則まで学習してシミュレーションできたりもします。
人事の領域に置き換えると、PR動画の自動生成もできたりするし、ひょっとしたら“バーチャル企業人事”が動画で自社の説明会に登場して話す、そんな時代がやってくるかもしれません。
デジタイゼーションとデジタライゼーションでDXを考える
小澤さん:ここからは人事業務との接続で考えていければと思います。
私はいつも、「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」に分けてDXを捉えるのがよいと考えています。
「デジタイゼーション」とは、紙ベースで管理していたようなアナログなデータをデジタル化することです。
「デジタライゼーション」とは、“ビジネスプロセス”をデジタル化することを意味します。デジタイゼーションでデジタル化されたデータを用いてビジネスプロセスを効率化したり、変革化したりすることで新たな事業価値や顧客体験を生み出すことです。
この2つをやっていくのがDXの全体感となります。
小澤さん:人事の領域でも、データマネジメントの動きはどんどん出てきています。実際にsonarさんのようなATS(採用管理システム)の発達もそれに寄与しています。
デジタイゼーションでは、例えば
- ATSでデータを蓄積していく
- OCR(光学的文字認識)を使ってテキストをデータ化していく
- 会計クラウドシステム導入・活用する
- チャットボットを活用する
など、今まで取れていなかったデータをデジタル化して収集・整理できるようになっています。
そしてデジタルデータを使って、例えば求職者個々のシナリオをつくってアプローチすることができたり、マッチング率や承諾率を算出したり、あらゆる活用につなげることができます。
では、生成AIはこの中のどこに影響するのか。明らかにデジタライゼーションの部分で大きなインパクトをもたらすものです。
そう考えたときに、アナログデータがデジタルデータになっておらず、デジタルデータの整備がされていない状況で生成AIを活用しても十分な効果を発揮することはできません。
デジタイゼーションができていないのに、デジタライゼーションを先にやろうとするケースが多く散見されます。
生成AIを使って要約する、議事録をつくる、アイデアを出す。そういった活用もありますが、それでは既存業務が多少効率化されるだけです。
既存業務を大きく変革するためには、適正なフローの中でデジタルデータを収集・整理して、生成AIに学習させていくことです。
小澤さん:これからはデジタルデータをひとつのデータベースの中に貯めながら、効率化だけではなく、アプローチを大きく変革できるようにする必要があると感じています。
それができれば、書類選考の効率化、マッチング精度向上、スカウトメールの最適化など、様々な場面でアプローチが変わってくると思います。「◯◯さんはこの仕事が合っています」と教えてくれる、AIエージェントが出てくる未来もあるかもしれません。
これからは、インターネットにある膨大な情報よりも、むしろインターネット上にない情報の方が大事になってきています。
人事の領域でも、自社にしかない「一次情報」の重要性をあらためて見つめ直し、それをもとにどうDXと結びつけていくのかを考えていけるとよいのではないでしょうか。
2.sonar ATSが構想するAI活用の未来|佐藤 邦彦
佐藤さん:みなさん、本日はよろしくお願いします。Thinkings CHROの佐藤と申します。私からは、sonar ATS(採用管理システム)が描くAI活用の次世代プラットフォーム構想をテーマに解説できればと思います。
登壇者佐藤 邦彦氏Thinkings株式会社 執行役員 CHRO
1999年東京理科大学理工学部卒業後、アクセンチュア入社。2003年にアイ・エム・ジェイに転職し事業会社人事としてのキャリアをスタート。2011年以降、様々な事業会社の人事を歴任し2020年4月よりリクルートワークス研究所に参画。2022年8月まで『Works』編集長を務める。2022年10月にThinkings株式会社執行役員CHROに就任。人事経験20年。
X(旧Twitter):https://twitter.com/Ksato_Thinkings
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AIツールを活用している企業は、採用達成率が高い
佐藤さん:経営課題として人材不足は避けては通れない部分です。さらに、応募者の価値観の多様化など、採用の難易度も非常に上がっています。
そのような状況をクリアしていくためには、生成AIなどの新しいテクノロジーの活用は必須になってきているように感じています。
実際に、AIツールを活用している企業にアンケートを取ったのですが、「目標の採用人数を達成できたか」という問いに対して、AIツールを活用している企業に関しては「達成できた」という声が80%を超える結果となりました。
さらに、「採用した人材のマッチング度合い」についても、AIツールを活用している企業の達成率が非常に高くなりました。
このような結果からも、「採用難だし、人事の人手も足りない」という声が多い中、積極的にAIツールを活用している企業に関しては割とポジティブで、明らかに温度感が違うなと感じています。
採用でのAI活用事例
佐藤さん:ではAIの活用についてどのような事例があるのか、sonar ATSでは現在「個人属性情報」と言われるエントリーシートや適性検査の情報を入力をすると、「合格可能性」がアウトプットされるようになっています。
これは、決してAIが合否を判定するわけではなく、あくまでも情報としての合格可能性になります。
これによって、例えばエントリーシートの段階で、
- 合格可能性が高い
- 見極めが難しい微妙なライン
- 明らかに自社とマッチしない
のように、大きく3カテゴリーに分けることができます。
そうすることで、エントリーシートの確認では、見極めが難しいラインにベテラン人事を配置して対応するといった業務のリソースコントロールが可能になります。特に、何万エントリーも来るような大企業であれば、なおさらプロセスを効率化できますよね。
sonarが描くATSの未来予想図
佐藤さん:ではここからは、sonar ATSが描くAI活用の次世代プラットフォーム構想について触れていければと思います。現在、売り手市場のためここ1~2年で大手企業でも人材獲得に苦戦しはじめています。
そこで、書類選考などでAIの機能を活用して評価の精度を高めたり、さらには、適切な求人票の作成についても効率化でき、AIを積極的に活用されている企業も出てきています。
佐藤さん:では、今後の展望の話になってきますが、ここから2年後はどのように変わっていくのでしょうか。私は、「個別最適化」がキーワードになってくると考えています。
その際にATSは何ができるのか。例えば、応募者のステータスに合わせた連絡の自動化、応募者に合った採用プロセスのレコメンドをするといったイメージです。
応募者の情報や選考ステータス、面接時の評価、特性などを踏まえて、選考ルートを変えたり、アクションを変えたりできるようになってくると思います。
さらに3年後の時間軸でいきますと、例えば応募者の特徴に合わせた面接官の自動的マッチングや、内定承諾に向けたアプローチ、内定承諾後のフォロー、入社後のオンボーディングプランといった部分も、相手に合わせてパターンを変えていけるのではないかと想定しています。
では、5年後はどうなるか。採用目標に沿った、採用計画の率や実行支援のパターン化、求人掲載時の媒体選定などにも踏み込むなど、採用のBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)にも深く突っ込んでいけるようになると思います。
これらの時間軸はあくまでも我々の仮説ではありますが、3年、5年、10年と先を見た際に、どう考えても採用市況が好転することはないと思います。そこに対して我々のようなHRベンダーが、今回はお伝えしたような世界観を実現させていくことで採用難を乗り切る支援をしていく。そのように寄与していければと考えています。
3.『AI求人作成アシスタント機能』とは?|後藤 耕大
後藤さん:Thinkingsでプロダクトマネジメントを担当する後藤と申します。ここからは、今回sonar ATSに実装された『AI求人作成アシスタント機能』について簡単にご紹介できればと思います。
登壇者後藤 耕大氏Thinkings株式会社 Product Management Team
ものづくりが好きで、学生時代は独学でサイト制作に熱中。新卒で地元・九州から上京し、制作会社に入社、webデザイナーやフロントエンジニアとして、WEBサイト制作を担当。Androidアプリの開発会社に転職し、大手通信会社の研究所での業務も経験。その後、デジタル系広告代理店を経て、業務委託をきっかけに2022年にThinkingsにジョイン。現在は、プロダクトマネジメントチームのマネージャー。
「求人票作成業務」は、重要だが改善の余地が大きくある
後藤さん:『AI求人作成アシスタント機能』は、その名の通り、AIを活用して求人票の作成工程を効率化できる機能です。
採用したい職種を入力すると、その求人票の内容をAIが提案してくれ、その後もAIとのやり取りを通じて、採用したい人物の解像度を上げていきながら、求人票をブラッシュアップしつつ作成していくことができます。
後藤さん:求人票の作成業務は採用においては必須な業務ですが、非常に業務工程が多く、人のスキルや経験に依存する課題も多く存在しています。
実際に弊社が独自に取ったアンケート調査だと、
- 約9割近い人事担当者の方が、求人票の重要性は認識している
- 一方で7割以上の方は、求人票の作成業務に対して「魅力が伝わるような文章が書けない」「社内の協力を得られない」「シンプルに時間がない」という課題を感じている
といった結果でした。重要であるにもかからわず、改善余地が大きい業務だと認識をしております。
実際の活用イメージ
後藤さん:大きく、①人材要件の作成と、②人物像の作成の2つをおこなっていきます。
はじめに、採用したい職種とその背景を入力して「①人材要件」を作成していきます。この段階で出てきたアウトプットに対して、再度つくり直してもらったり、追加で要望を伝えて全体を変えてもらうなど、一部修正も可能です。
AIをタタキにして、より解像度を上げていき、ターゲットのイメージを膨らませることができるようになっています。
次のステップとしては、「②具体的な人物像の作成」になります。
先ほど作成した人材要件に対して、
- 現在どんな仕事についているのか
- 年収はどのくらいか
- これまでの職歴
- 性格、趣味はなにか
といったペルソナ情報を落とし込んでいきます。こういった情報があることで、事業部側とのイメージのすりあわせにも活用できるものになります。
後藤さん:このように人材要件、人物像をつくった後に、それらをもとに求人票を作成することができます。出てきたものを最終的に修正するなど調整し、あとはsonar ATSの求人票に連携させるだけで公開することが可能です。
今後は数年かけてsonar ATSにAIを活用した新機能を組み込んでいき、大きく生まれ変わっていければと考えておりますので、ぜひご期待いただければと思います。