このページでは、賞与計算の方法やその注意点について、わかりやすく解説しています。賞与額は、それぞれの企業によって設けられたルールに基づいて決定します。どういったルールが多いのか、ポイントを押さえて見ていきましょう。
「自社の給与計算の方法があっているか不安」
「労働時間の集計や残業代の計算があっているか確認したい」
「社会保険や所得税・住民税などの計算方法があっているか不安」
など給与計算に関して不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向けて当サイトでは「給与計算パーフェクトマニュアル」という資料を無料配布しています。
本資料では労働時間の集計から給与明細の作成まで給与計算の一連の流れを詳細に解説しており、間違えやすい保険料率や計算方法についてもわかりやすく解説しています。
給与計算の担当者の方にとっては大変参考になる資料となっておりますので興味のある方はぜひご覧ください。
1.賞与額の決め方
ボーナスや夏季・冬季手当といった賞与の金額は、それぞれの企業によって設けられたルールに基づいて決定されます。その例をいくつか見ていきましょう。
1-1.基本給を基準とした決め方
比較的、多く見かけられる賞与額の決め方の1つです。定期的に支払われる基本給を基準として、その数カ月分といったように賞与額を決めます。
金額としてはわかりやすいですが、一方で個人の業績が賞与に反映されません。そのため、従業員のモチベーションの向上が期待できない可能性があります。
1-2.企業の業績に基づいた決め方
企業全体の業績に基づいて、賞与額を決定する方法です。企業の業績がそのまま賞与額に連動するため、決まるまでの流れの透明性が高いのがポイントです。企業の業績が向上した分を賞与として還元することで、従業員にとっても企業の成長が自分と繋がっていると捉えやすくなるでしょう。
一方で、複数の部署があるような規模の大きい企業の場合、不公平に感じられる部分が出てくる可能性があるのがネックです。部署単体で見てみると業績の向上に貢献しているものの、企業全体で見たときに業績が低迷していたのであれば、賞与として反映しにくい状態となってしまいます。
1-3.従業員の個人単位での業績に基づいた決め方
企業の業績について、従業員の貢献度を個人単位で分析、評価して賞与を計算する方法です。売上に対する貢献度だけでなく、業務のために資格を取得したり、勉強会やワークショップに積極的に参加したりなど、これらも評価対象に含まれます。このほか、重要なポジションに就くといったことも評価対象に含んでも良いでしょう。
従業員の業績を個人単位で評価して何らかの形で還元したいと考えたとき、基本給に手を加えると簡単に下げづらくなるというデメリットがあるのがネックです。そのため、月単位や四半期の従業員それぞれの貢献度に基づいて賞与として還元する方法が効果的だと考えられます。
1-4.従業員の勤怠状況に基づいた決め方
遅刻や欠勤といった従業員それぞれの勤怠状況に基づいて、賞与額を決める方法です。遅刻や欠勤が発生した日数を差し引いたり、査定期間内における出勤日の数が設けた基準よりも上回っていたりなど、これらが支給要件として多く見られます。
2.賞与計算の方法
支給される賞与の金額は、どのようなルールが設けられていたとしても、基準となるのは基本給であることが一般的です。その基本給を基準として、企業ごとに設けられたルールに基づき、一定の倍率をかけるなどして賞与額を決定します。
賞与は、社会保険料と税金が控除されます。基本給の計算と比較すると、社会保険料の計算方法や源泉所得税の税率が異なるほか、住民税は天引きされないといった違いがあります。
それぞれ見ていきましょう。
2-1.賞与額を決める際の社会保険料の計算方法
賞与額を計算する際の社会保険料について、細かく解説いたします。
まずは、健康保険料についてです。賞与計算では、健康保険料は以下のように計算します。
控除前の賞与額(1,000円未満切り捨て)×健康保険料率=その従業員の健康保険料
算出された健康保険料は、従業員と企業で折半します。
続いて、厚生年金保険料についてです。こちらも基本的には健康保険料と流れは同じです。また、算出された厚生年金保険料は、従業員と企業で折半します。
控除前の賞与額(1,000円未満切り捨て)×厚生年金保険料率=その従業員の厚生年金保険料
3つ目は、介護保険料についてです。こちらも健康保険料と流れは同じで、算出された介護保険料は従業員と企業で折半します。
控除前の賞与額(1,000円未満切り捨て)×介護保険料率=その従業員の介護保険料
最後に、雇用保険料についてです。雇用保険料の場合、計算に用いる雇用保険料率が事業の種類によって異なる点に気をつけましょう。[注1]
この雇用保険料率を用いて、以下の式で算出します。
控除前の賞与額×雇用保険料率=雇用保険料
2-2.賞与額を決める際の雇用保険料の計算方法
賞与額を決める際は雇用保険料の算出も必要となります。賞与であっても計算方法は給与計算と変わりません。以下の計算式によって雇用保険料を求めましょう。
総支給額(額面)×保険料率=雇用保険料 |
また、一般的に雇用保険料は企業と従業員の両者で負担します。保険料率の合計や双方の負担割合は業種や年度によって異なります。以下の表は令和4年10月1日〜令和5年3月31日の雇用保険料率です。[注1]
業種 | 保険料率の合計 | 企業負担分 | 従業員負担分 |
一般事業 | 13.5/1,000 | 8.5/1,000 | 5/1,000 |
農林水産・清酒製造業 | 15.5/1,000 | 9.5/1,000 | 6/1,000 |
建設事業 | 16.5/1,000 | 10.5/1,000 | 6/1,000 |
保険料率は見直し、改訂が行われるので、常に最新の情報を確認して対応しましょう。
また、雇用保険料の納付についても注意が必要です。
雇用保険料は源泉所得税の納付と違い、労働局が納付先となります。毎年7月10日までに申告・納付する必要があるので期日を守って対応しましょう。[注2]
雇用保険料は毎月の給与や年数回の賞与を支払うタイミングで従業員から徴収しますが、納付は原則として年に1度です。納付額は徴収した保険料を合算するのではなく、4月から翌年3月までの間に従業員に支払った賞与額と年間の給与額の総額に保険料率をかけて算出し直します。
このように、雇用保険料は徴収と納付のタイミングが異なり、納付額は再計算する必要があります。これらの違いを理解し、正しく対処しましょう。
2-3.賞与額を決める際の所得税の計算方法
続いて、所得税の計算方法について見ていきましょう。所得税の計算は3つのステップで考えるとわかりやすいです。
まずは、先月支払われた給与と扶養人数に基づいて、賞与の税率を決定します。計算に用いる式は以下のとおりです。
先月支払われた給与額-先月の社会保険料=所得税率の基準額
所得税率の基準額と扶養人数に基づいて、国税庁が定めている「源泉徴収税額の算出率」を確認します。[注3]
たとえば、扶養人数が2人、給与額が13万3,000円以上26万9,000円未満なのであれば、適用される源泉徴収税額の算出率は2.042%です。
2つ目のステップ、賞与額から控除される社会保険料を差し引きして、所得税の課税対象額を計算します。
そして3つ目、最後のステップで所得税の課税対象額に源泉徴収税額の算出率をかけることで、源泉所得税の金額が求められます。
[注3]賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和 5年分)|国税庁
3.賞与計算における注意点
賞与を計算する際、いくつかの注意点があるので確認しておきましょう。
たとえば、退職予定者に対する賞与計算についてです。先述のとおり、賞与から社会保険料を控除するのが通常の計算方法ですが、退職を予定している場合、その日付によっては控除しない場合も考えられます。
健康保険料と厚生年金保険料は同じ方法で控除について決められます。これらを徴収するのは、その従業員が保険の資格を喪失する日、すなわち退職日の翌日が属する前月までです。
月末に退職するのであれば、その翌月1日から資格を喪失するため、それよりも前に支払われる賞与から健康保険料や厚生年金保険料は控除されます。そのほかのタイミングでの退職の場合、徴収は不要です。
なお、雇用保険料については、どのタイミングで退職したとしても、賞与から控除します。
このほかにも、賞与の回数が多い場合についても注意が必要です。社会保険料は、標準報酬月額に基づいて決定します。賞与は、標準報酬月額を決める際の計算対象である4〜6月に支払われていたとしても、この計算には含みません。
ただし、年に4回以上の頻度で賞与が支払われていたのであれば、標準報酬月額の対象となります。標準報酬月額が増えればそれだけ社会保険料も高くなるため、覚えておきましょう。
3-1.賞与が一定額を超えるケース
賞与が一定の金額を超える場合は注意しなくてはいけません。というのも、以下の表のとおり、健康保険と厚生年金保険には金額の上限が定められているためです。[注4]
種類 | 上限値 |
健康保険 | 年間累計額573万円 (4月1日~翌年3月31日までの累計額) |
厚生年金保険 | 1カ月あたり150万円 |
健康保険、厚生年金保険がそれぞれ上記の上限値を超える場合、超えた部分には保険料はかかりません。
[注4]年間の標準賞与額の累計額が573万円を超えたとき|日本年金機構
3-2.年4回以上賞与支給がされるケース
一般的に、賞与とは年3回以下の範囲で支給されるものを指します。[注5]
そのため、年4回以上賞与が支給される場合は標準報酬月額の対象となるので注意が必要です。
なお、結婚祝い金やお見舞い金のように労働の対償とみなされないものは賞与には該当しません。
4.賞与計算は基本を押さえて企業のルールを整備することが大事
賞与は、基本的にはそれぞれの企業が設けたルールに基づいて算出されます。社会保険料の控除や源泉所得税なども関わってきますので、関わる要素についても細かく理解しておきましょう。
【監修者】涌井好文(社会保険労務士)
涌井社会保険労務士事務所代表。就職氷河期に大学を卒業し、非正規を経験したことで、労働者を取り巻く雇用環境に興味を持ち、社会保険労務士の資格を取得。 その後、平成26年に社会保険労務士として開業登録し、現在は従来の社会保険労務士の業務だけでなく、インターネット上でも活発に活動を行っている。