年末調整を忘れた場合、控除を受けられなかったり、還付金を受け取れなかったりするリスクがあります。年末調整の抜け漏れが生じる可能性があるのは、従業員が「扶養控除等(異動)申告書」などの必要書類を期限までに提出しなかったケースや、控除の金額確定などの手続きにミスがあったケースです。この記事では、年末調整を忘れてしまった場合のリスクと再調整や確定申告、還付申告などでの対処法を紹介します。
目次
1.年末調整を忘れたらどうなる?
年末調整で起こりがちなミスとして、下記のようなものがあります。
- 従業員が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」などの必要書類を提出しなかった
- 会社が年末調整を実施したが、所得控除などの手続きにミスがあった
もし年末調整の際に、必要な書類を出し忘れたり、適切におこなわなかった場合には「所得控除を受けられない」「還付金が帰ってこない」など、さまざまなリスクが生じます。
1-1.各種控除の申告ができない
年末調整とは1年間の給与所得に基づいて税額(年調年税額)を再計算し、源泉徴収した所得税や復興特別所得税に過不足がないか確認する手続きです。年末調整の手続きのなかで、企業は扶養控除等(異動)申告書などの書類を確認し、控除の金額を確定させます。
年末調整に関する控除は下記の通りです。
所得控除例 |
説明 |
基礎控除 |
申告者本人の合計所得金額に応じ、誰でも所得金額から差し引きできる所得控除 |
扶養控除 |
申告者に控除対象扶養親族がいる場合、区分に応じて利用できる所得控除 |
配偶者控除 |
申告者に控除対象配偶者がいる場合、申告者の合計所得金額に応じて利用できる所得控除 |
配偶者特別控除 |
配偶者が配偶者控除の対象ではないものの(※所得が48万円を超える場合)、特別に認められる所得控除 |
勤労学生控除 |
申告者本人が働きながら学校に通う勤労学生の場合、一律で利用できる所得控除 |
ひとり親控除 |
申告者本人がひとり親(シングルマザーなど)の場合、納税者の所得に応じて、一律で利用できる所得控除 |
寡婦控除 |
申告者本人が寡婦である場合、一律で利用できる所得控除 |
障害者控除 |
申告者本人か、生計をともにする配偶者または扶養親族が障害者の場合、区分に応じて利用できる所得控除 |
社会保険料控除 |
生計をともにする配偶者やその他の親族の社会保険料を代わりに支払った場合、支払金額に応じて利用できる所得控除 |
生命保険料控除 |
生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料などを支払った場合、支払保険料の一部または全部を控除できる所得控除 |
地震保険料控除 |
地震保険の掛金や保険料を支払った場合、支払金額の一部または全部を控除できる所得控除 |
小規模企業共済等掛金控除 |
小規模企業共済などの掛金を支払った場合、支払金額に応じて利用できる所得控除 |
住宅借入金等特別控除(2年目以降) |
住宅借入金等特別控除とは、住宅ローンを活用して住宅を新築や購入または増改築などをした場合で、一定の要件に当てはまるときに利用できる税額控除 |
もし年末調整を忘れた場合、このような所得控除を利用することができません。勤労学生や寡婦、ひとり親など、控除の有無が生計を営むうえで大きな影響を与える人もいます。
年末調整の抜け漏れを防ぐため、従業員はを適切に必要書類を記入して期限内に提出しましょう。また、企業は提出された書類の内容に基づいて、抜け漏れなく手続きをおこなうことが大切です。
1-2.所得税の過払いまたは追徴課税の可能性がある
年末調整の結果、年調年税額よりも多くの税金を徴収していたことがわかった場合、差額が還付金として返ってきます。しかし、年末調整を忘れた場合、従業員は還付金を受け取れません。
また、「賞与が多く支払われた」「年の途中で扶養親族の人数が減った」などを理由に、年調年税額のほうがその年の源泉徴収税額よりも大きい場合、従業員から追加徴収をおこなう必要があります。
年末調整を忘れてしまうと、年税額が確定しないため、企業は正しく追加徴収をおこなうことができません。そのため、本来の納税額に延滞税・無申告加算税が課された額を追徴課税という形で請求される恐れがあります。
1-3.住民税の納税額にも影響を与える
従業員の住民税の納税額は、年末調整で申告した控除を基に計算されます。年末調整を忘れた場合には、控除が適用されず、本来の住民税の納税額よりも大きくなる可能性があります。
2.年末調整の提出期限はいつまで?
年末調整をおこなったら、企業は「給与支払報告書(源泉徴収票)」「法定調書合計表」などの書類を作成し、市区町村や税務署に提出する必要があります。また、年末調整を漏れなく実施するには、従業員が扶養控除等(異動)申告書などの申告書を作成し、期限までに提出しなければなりません。
ここでは、年末調整に関連した書類の提出期限を会社側、従業員側の視点からそれぞれ解説します。
2-1.会社が年末調整の手続きをおこなう期限
会社は年末調整の手続きをおこなったら、「給与支払報告書(源泉徴収票)」「法定調書合計表」の2点を提出する必要があります。給与支払報告書(源泉徴収票)は従業員の現住所がある市区町村に、法定調書合計表は所轄の税務署に提出します。それぞれの書類の提出期限は翌年の1月31日までです。
書類 | 提出先 | 提出期限 |
給与支払報告書(源泉徴収票) | 市区町村 | 翌年の1月31日 |
法定調書合計表 | 税務署 | 翌年の1月31日 |
また、年末調整によって徴収した所得税や復興特別所得税は、原則として翌年の1月10日までに納付しなければなりません。源泉所得税について納期の特例の承認を受けている場合は、翌年の1月20日まで納付を待ってもらうことが可能です。
2-2.従業員が年末調整の書類を提出する期限
会社は従業員が提出した扶養控除等(異動)申告書などの申告書に基づいて、控除の金額を確定させます。利用したい控除に応じ、下記の申告書の提出が必要です。(※1)
申告書 | 控除 |
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 扶養控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除 |
給与所得者の基礎控除申告書 | 基礎控除 |
給与所得者の配偶者控除等申告書 | 配偶者控除、配偶者特別控除 |
所得金額調整控除申告書 | 所得金額調整控除 |
給与所得者の保険料控除申告書 | 生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除(申告分)、小規模企業共済等掛金控除(申告分) |
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書 | (特定増改築等)住宅借入金等特別控除 |
従業員は会社の事務手続きに間に合うよう、申告書を提出する必要があります。
年末調整の計算は12月に実施するため、従業員の年末調整書類の提出期限の目安は11月中旬から下旬にかけてです。従業員が提出した年末調整の必要書類に抜けや漏れがあったときでもスムーズに対処できるよう、余裕を持ってスケジュールの管理をおこなうことが大切です。
3.年末調整を忘れたら確定申告か再調整で対処する
年末調整を忘れてしまった場合は、慌てずに下記の対処をおこないましょう。
- 従業員自身で確定申告をしてもらう
- 年末調整の再調整(再年調)のタイミングでやり直しをおこなう
年末調整を忘れた場合には、従業員自身で確定申告をおこなってもらうことで、納税額を確定させることができます。確定申告の期間は、原則として毎年2月16日から3月15日までです。期限までに確定申告をおこなわないと、延滞税や無申告加算税が課される恐れもあるので注意が必要です。
従業員自身で確定申告をしてもらう方法のほか、年末調整が終わった後で手続きをやり直す方法があります。
この手続きは「再年調」と呼ばれます。年末調整の再調整の期限は翌年の1月31日までです。すでに源泉徴収票を交付している場合はやり直しができないため、従業員に確定申告をしてもらう必要があります。
4.年末調整も確定申告も忘れた場合は還付申告ができるかを確認する
年末調整も確定申告も忘れてしまった場合でも、還付申告をおこなうことで、納めすぎた税金が戻ってくる可能性があります。ただし、その年の源泉徴収税額よりも納めるべき税額の合計額のほうが大きい場合には、還付申告ができません。この場合、年末調整も確定申告も忘れてしまうと、ペナルティを課される恐れがあります。
なお還付申告の期間は、対象となる納税期間の翌年の1月1日から5年間が期限となっています。たとえば、2023年に税金を納めすぎている場合、還付金の申告は2024年の1月1日から2028年12月31日までおこなうことができます。このように、税金を納め過ぎている場合に限って、約5年間遡って申告することが可能です。
5.年末調整を忘れた場合のリスクを知って正しく手続きをおこなおう!
年末調整の手続きに抜けや漏れがあった場合には「控除を受けられない」「還付金が帰ってこない」といったリスクがあります。
年末調整で税務手続きを完結させるためにも、従業員は扶養控除等(異動)申告書などの申告書を、会社は「給与支払報告書(源泉徴収票)」「法定調書合計表」を指定された期限までに提出しましょう。
万が一、年末調整を忘れたら、従業員に確定申告してもらうか、年末調整の再調整(再年調)を利用することで対処できます。また、税金を納め過ぎている場合には、還付申告を利用できないかも検討してみましょう。