新卒・中途採用などにおいて、優秀な人材を確保することは、今後の組織の成長・発展を左右する重要な要素の一つです。テレワークの導入により働き方が多様化した今、ITツールを効果的に導入するなど、採用DXの推進が優秀な人材の採用に欠かせない取り組みとなっています。今回は、採用DXの必要性とメリット、推進するための方法、成功事例をわかりやすく解説します。
目次
採用DXとは?
採用DXとは、人材の採用に関するプロセス(採用フロー)にデータやデジタル技術を活用し、より効率的に優秀な人材を確保する取り組みのことです。
DXとはDigital Transformationの略称で、直訳すると「デジタルによる変化・変容」という意味です。しかし、単純にITツールを導入すればいいというわけではなく、データやデジタル技術の活用によって業務プロセスやビジネスモデルそのものを変革し、競争上の優位性を確立することが最終的な目標となります。
そのため、採用活動のDX化を目指す場合は、デジタル化の先に業務効率の向上や優秀な人材の確保が見込めるかどうかをしっかり検討する必要があります。
採用DXはCX(候補者体験)とEX(従業員体験)の向上が重要!
採用DXでは、CX(候補者体験)とEX(従業員体験)をデジタル化によって進化・発展させることが大きな目的となります。
CXとは、採用候補者が企業のことを知って応募し、採用されるまでの一連の体験のことです。
具体的には「認知」「応募」「選考」「内定入社」の4つに区分され、企業はそれぞれのポイントで、以下のような取り組みをおこなう必要があります。
認知:自社の魅力・強みをアピールし、興味・関心を持ってもらう
応募:エントリーしやすい応募のしくみと、候補者への迅速な対応をおこなえる環境を整備する
選考:自社の魅力を伝えるとともに、今後の目標を提示し、入社意欲を向上させる面接をおこなう
内定入社:確実に入社してもらうためのフォロー、ケアをおこなう体制を整える
こうしたCXは従来、会社説明会や対面コミュニケーションなどによって実行されてきましたが、働き方が大きく変わりつつある現代では、CXの在り方も見直されてきています。
一方のEXは、従業員として働く間に得る体験のことです。せっかく優秀な人材を確保しても、早期離職されてしまっては戦力にならず、採用コストも無駄に浪費してしまうことになります。採用活動は人材を確保したら終わりではなく、EXの質を高めて従業員を定着させることも考慮する必要があります。
また、EXはCXに影響を与えます。EXの質が良ければ、従業員や元社員の前向きな発信によって、自社の魅力を社会全体に伝えることが可能です。そうなれば、リファラル採用などにもつながり、結果的にCXの向上が見込めます。
このようなCX・EXの良質化を促す採用DXは、企業にとって必要な人材を確保するとともに、人材の定着による労働生産性や組織力の向上にもつながることから、企業の成長・発展に欠かせない取り組みといえるでしょう。
採用DXを実現するための4つのステップ
採用DXを推進するにはどのようなアプローチが必要なのでしょうか。ここでは、採用DXを実現するための4つのステップを紹介します。
現状のCXを整理する
採用DXを成功に導くにはCXの向上が不可欠です。まずは候補者の心理・行動状況を適切に把握するため、現状のCXを整理しましょう。
昨今ではデジタル技術の発展にともない、SNSや求人サイト、オウンドメディアなど、会社を認知するまでにさまざまな選択肢があります。自社が考えている現状のCXと実際のCXが一致していない可能性もあります。そのため、4P分析やSTP分析といった自社のニーズにあった手法を用いて、正確な現状のCXの確認から始めることが大切です。
理想のCXを定義して課題を洗い出す
現状のCXを把握できたら、次は理想のCXを定義しましょう。理想のCXを定義する際にキャンディデートジャーニーマップを活用すれば、候補者の視点・態度より自社の採用プロセスを見直すことが可能です。
なお、キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)とは、採用活動における候補者体験を可視化するために使用されるツールを指します。このマップは、候補者が採用プロセスを通じて経験するステップやタッチポイントを示し、その間の感情やニーズを把握することができます。
定義したCXと現状のCXの差が採用の課題になります。課題を深堀りし、見直しが必要なアナログ業務やビジネスプロセスを洗い出し、デジタル化できる箇所があれば施策を打ち出し、アップデートしましょう。
EXを整理して施策を検討・実施する
採用DXを成功させるには、CXだけでなく、EXの向上も必要です。同じような方法で現状と理想の従業員体験を整理し、課題を洗い出して施策の検討・実施をおこないましょう。
たとえば、従業員が働き方に満足しているのであれば、オウンドメディアに従業員の仕事状況に関するインタビュー記事を載せてみても良いかもしれません。EXの向上は自社のイメージアップにつながり、結果としてCXの向上にもつながります。
施策を定期的に見直し改善する
施策を実施したら、効果を検証しましょう。たとえば、採用フローの中にWeb面接を導入した場合、候補者にどのような影響があったかを把握することが大切です。面接実施後はアンケートを取るなど、データを蓄積させておくと、定量的に効果を検証することができます。
効果検証後は、改善の余地がないかを検討し、定期的に施策の見直しをおこなうことが重要です。この繰り返しにより、自社の目指す採用DXを実現させることができます。
採用活動をDX化するメリット
採用活動をDX化すると、人材の確保および定着を目指すうえで、以下のようなメリットがあります。
採用活動の効率化
従来の採用活動では、候補者から送られてきたエントリーシートをチェックし、自社が求める人材かどうか、一つひとつ確認していく作業が必要でした。
また、候補者ごとに面接の日程を調整したり、候補者からの問い合わせに対応したりと、さまざまな業務に追われることになり、採用活動中の担当者は多忙を極めます。
採用DXを推進すれば、AIを活用したエントリーシートの自動選別や、オンラインでの面接の日程管理、Web会議システムやAIを使用した候補者とのコミュニケーションなどが可能となるため、採用活動を大幅に効率化できます。
採用活動の質の向上
採用した人材をできるだけ長く定着させるためには、ミスマッチの防止や採用活動中のフォローなどを徹底する必要があります。
採用DXの一環として候補者のデータベースを構築しておけば、長く定着してくれる人材の傾向や、採用活動中に受けたフォローの内容などを確認できるようになります。
データベースの分析から、自社に合った人材の特徴や、早期離職の原因などを把握できるようになれば、採用活動の質が上がり、求める人材を効率的に確保することが可能となります。
候補者数の増加
新卒者は短い期間で自分に合った職場を探さなければならないため、就職活動でも効率を重視する傾向にあります。また、働きながら転職先を探している方は、転職活動に多くの時間を割けない人も少なくないでしょう。そのため、オンライン上でエントリーや問い合わせ、面接などがおこなえない企業は候補の対象から除外される可能性が大きいです。
採用DXを推進すれば、ほとんどの採用フローをオンラインで済ませられるため、就職・転職活動の負担が軽減され、候補者の増加が期待できます。
採用DXを成功させるポイント
ここでは、採用DXを成功させるポイントについて詳しく紹介します。
採用フローをオンライン化する
採用DXのメリットでも触れましたが、現代の採用事情を鑑みた場合、採用フローのオンライン化は必須といえます。
Webサイトを活用したエントリーシステムは当然ですが、エントリーシートの選別から、候補者とのやりとり、面接日程の調整、内定後のフォローに至るまでの流れも、できるだけオンライン化するのが理想です。
ただ、採用フローのすべてを一度にオンライン化すると、不備やトラブルなども発生しやすいので、まずは導入しやすいWeb会議システムを使ったオンライン面接からスタートし、段階的にオンライン化を進めていくのがおすすめです。
自社の課題・ニーズに合ったツールを選ぶ
採用DXの推進に役立つITツールやシステムは複数あり、それぞれ特徴や機能に違いがあります。適当にツール・システムを選んでしまうと、自社の採用活動にマッチせず、無駄なコストを浪費する原因となります。
まずは自社の採用活動における課題やニーズを洗い出し、どのようなシステムを求めているのか、どのようなツールがあれば問題を解決できるのかを明確にしてからシステム・ツールを選ぶようにしましょう。
魅力的なCXを作り出す
採用フローをオンライン化すると、業務効率の向上や候補者の利便性につながる一方、自社の魅力や職場の雰囲気などがいまいち伝わりにくいという欠点もあります。
とくにCXの「認知」の段階で候補者に興味・関心を持ってもらえないとエントリーにつながりませんので、オンライン上でも自社の魅力や社風が伝わるコンテンツを作り出すことが大切です。たとえば、実際の業務の様子や社員のインタビューを動画サイトにアップロードしたり、SNSを使って自社の情報をアピールしたりすることが挙げられます。
オンライン上で候補者参加型のセミナーやイベントを開き、既存の従業員と交流してもらうのも有効な手段の一つです。
オンラインでは何かと制約も多いですが、逆にオンラインならではのコンテンツやサービスを充実させると、新卒者や転職希望者から高く評価してもらえる可能性があります。
採用DXの成功事例
ここでは、採用DXの実現に成功した事例を紹介します。
一次面接の代わりに動画審査を実施
一次面接の代わりに動画審査を実施することで、効率的な採用フローの構築に成功した事例があります。
多くの企業では、採用フローの中に面接を含めています。しかし、複数回の面接の実施は候補者と従業員ともに負担が大きくなります。
そこで、候補者に用意された質問に対して動画で回答してもらう形式を採用し、面接回数を減らすことで、採用活動のコストを削減することが可能です。また、経歴書やエントリーシートといった書類だけではわからない候補者の人柄も把握できるので、マッチング精度の向上にもつながります。
採用フローをデジタル化して工数削減
採用フローの一部である書類選考にAIツールを取り入れることで、エントリーシート選考の工数の削減に成功した事例があります。
採用活動ではいかに精度を落とさず、工数を削減できるかが重要な視点の一つになります。先述した、一次面接の代わりに動画審査を実施することも工数削減につながります。
このように、採用フローを見直し、デジタル化できる部分を見つけて改善することで、採用DXを推進し、競合優位性を得ることが可能です。
採用DXツールを導入してブランディング強化
採用管理ツールを利用し、転職先を探している人に自社の魅力を伝えることで、ブランディングの強化に成功した事例があります。
採用管理システムの機能はツールによってさまざまです。たとえば、リファラル採用機能の搭載されたツールを導入すれば、現場の従業員が採用活動に参加しやすくなります。従業員が友人・知人などに自社のポジティブなイメージを伝えることで、ブランディングの強化が可能です。それにより、マッチング精度が向上し、余計な採用工数を削減することができます。
近年では、さまざまな採用DXを推進するためのITツールが登場しています。複数のシステムを比較して、自社のニーズにあったITツールを導入することが大切です。
採用DXの推進で優秀な人材の確保・定着を実現できる
少子高齢化に伴い、年々労働生産人口が低下している日本では、どの企業も人材不足に悩み、いかに優秀な人材を確保し、長く働いてもらうかが大きな課題となっています。
新型コロナウイルスの影響をきっかけに採用フローにも変革が求められている今、データやデジタル技術をフル活用し、自社にマッチした人材を効率よく採用する「採用DX」の推進は必要不可欠といえます。
採用DXを推進すれば、採用活動にかかる負担の軽減や、人材のミスマッチ防止などの効果が期待できるので、採用に何らかの課題・問題を抱えているのなら、積極的に採用DXの推進を検討してみましょう。