新型コロナウイルス感染拡大に伴い、私たちの生活様式は大きく変化しました。 なかでも目まぐるしく変化したのがワークスタイルで、密を避けるためテレワークを導入した企業も多いのではないでしょうか。 テレワークの導入で課題となるのが勤怠管理の方法です。 そこで今回は、テレワークの勤怠管理の選び方やどんな課題を解決できるのかについて紹介します。
目次
1.テレワークの勤怠管理に関する厚生労働省の方針
労働時間の適正な管理を図るため、厚生労働省から平成29年(2017年)1月に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(以下、労働時間ガイドライン)が発表されています。[注1]
さらに、今般のテレワークの急速な普及に伴い、厚生労働省ではテレワーク全般についてのガイドラインを改定しました。2021年3月に「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(テレワークガイドライン)として、発表をしています。[注2]
テレワークガイドラインにおいても労働時間ガイドラインを踏まえて、テレワークにおける労働時間管理のあり方について方針が示されています。
これらのガイドラインによると、テレワークの労働時間管理について以下のポイントに留意する必要があるとされています。
- 労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間のことである。従って、業務に必要な準備行為や手待時間、研修や学習時間も労働時間に含まれることになる
- タイムカードやICカードなどを用いた客観的な記録による労働時間の適正な把握をおこなうこと
- とくにテレワークにおいては、使用する情報通信機器の使用時間の記録や、サテライトオフィスへの入退場の記録などを用いて労働時間を把握することも考えられる
- やむを得ず自己申告制を取る場合、従業員に適正な自己申告をおこなうよう十分に指導すること。とくに管理者には十分な説明をおこなうこと。労働者の自己申告時間とPCの使用状況など客観的な事実とに著しい乖離があれば、所要の労働時間の補正をすること。また、自己申告できる時間に上限を設けるなど、労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと
- 賃金台帳に労働者ごとの労働日数や労働時間などを適切に記入すること
- 労働時間に関する書類を3年間保存する
- 労働時間を管理する者は、その問題点の把握や解消を図ること
- 労働時間等設定改善委員会を活用し、問題点や解消策の検討をおこなうこと
労働時間ガイドラインでは管理監督者、みなし労働時間適用者などは対象外とされていましたが、働き方改革に伴い、現在では原則として全ての労働者について労働時間の適正把握義務が使用者に課されています。例外は高度プロフェッショナル制度適用者のみです。[注3]
上記のポイントを遵守し、適切なテレワークの運用をしていきましょう。
2.テレワークの勤怠管理の方法
テレワークの勤怠管理の方針を理解していても、初めてテレワークを導入する企業の場合、どのような方法で勤怠管理をおこなえばよいかわからず困ってしまうものです。
テレワークの勤怠管理をするときは、メールや電話などで連絡する方法や、Excelや専用のツールを使って管理する方法などが考えられます。まずは、テレワークの勤怠管理の方法について知識を深めていきましょう。
2-1. メールでテレワークの勤怠管理をする
手軽に導入できるのは、メールでテレワークの勤怠管理をする方法です。新しくソフトなどを導入しなくてよいため、すぐにでもテレワークを開始したい企業に最適でしょう。始業時間と終業時間に管理者へ連絡することで、勤務時間を申告します。
2-2. 電話でテレワークの勤怠管理をする
メールと同様、電話での勤怠管理も非常に手軽で導入しやすい方法です。この場合も始業時間と終業時間に管理者へ電話し、勤務時間を申告します。
テレワークをしている従業員に残業があったとき、管理者が労働時間外に対応しなくてはいけなくなる点もデメリットとして挙げられます。電話で勤怠管理をする場合は、管理者の業務が煩雑になりやすくなる点に注意が必要です。
2-3. Excelでテレワークの勤怠管理をする
Excelでテレワークの勤怠管理をするときは、従業員に専用のシートを配布し、そこに勤務時間や勤務内容を記載してもらうことになります。Excelの代わりにスプレッドシートを活用すれば、社内でのリアルタイムな情報共有も可能です。
この管理方法では従業員が各々入力するため、打刻忘れや申告ミスが起きやすい点がデメリットとして考えられます。
2-4. ツールでテレワークの勤怠管理をする
ある程度のコストがかかってしまうものの、スムーズなテレワークの勤怠管理をするならツールの活用が最適でしょう。勤怠管理ツールでは勤務時間だけではなく、給与計算や業務の進捗の管理もまとめておこなうことが可能です。ツールによっては残業や休暇の申請もできるため、労務にかかる業務負担を大きく削減できるでしょう。
近頃は、勤務形態に合わせた労働時間の集計や、離席を報告する在籍管理ツールなどが搭載されているものも増えてきました。うまく活用すれば、よりスムーズなテレワークの導入をサポートしてくれるでしょう。
3.テレワークの勤怠管理によくある課題
従業員と同じオフィスで働けないテレワークでは、どうしても上司が従業員の働いている様子を目で見て確認することができません。そのため、勤怠管理ではいくつかの課題が発生する可能性があります。
ここからは、テレワークの勤怠管理によくある課題についてみていきましょう。
3-1.自己申告のため信憑性が低下する
テレワークの勤怠時間は、従業員の自己申告によって打刻されます。始業時間と終業時間にメールや電話の連絡、Excelの記入などをおこなっても、実際に従業員がその時間内でしっかりと働いていたか確認することはできません。勤怠管理をすべて従業員に任せてしまうと、勤務時間の不正につながってしまう恐れがあるのです。
このように勤怠管理の信憑性が低い点が、テレワークの勤怠管理の大きな課題として挙げられます。とはいえ、Webカメラなどを用いて業務風景を常時監視するのは、従業員のプライバシーへの配慮という点でも問題です。在宅勤務というのは、家庭というプライベートな場所を職場とするものです。プライバシーへの配慮は欠かせません。
3-2.集計と管理に時間がかかる
メールや電話、Excelによる勤怠管理の場合、集計と管理に時間がかかる点も大きな課題です。作業を自動化できるExcelの計算式を使ったとしても、正確に管理するためには定期的に計算式を確認したり、法改正による変更点を反映させる必要があります。フレックスタイムなど多様な勤務形態を採用している企業の場合、その業務負担の大きさは計り知れません。
また働き方改革に伴い、罰則付きで時間外労働の上限規制が適用されています。労働時間の確実な管理は企業の必須の課題です。この場合は、柔軟かつ正確に勤務時間の集計ができる勤怠管理ツールの活用が最適でしょう。
3-3.評価基準が曖昧になってしまう
テレワークの勤怠管理では勤務時間はもちろん、業務内容や進捗についても管理する必要があります。
社内で業務をしていれば、まだ進捗や従業員に対する評価は管理しやすいかもしれません。しかし、コミュニケーションの場が限られてしまうテレワークでは、従業員の働きぶりや業務の進捗状況などを直接目で確かめることが難しく、どのように評価すればよいか基準が曖昧になりやすい傾向にあります。
営業職や技術職など、評価対象となる成果物が客観的に明確な職種であれば比較的評価しやすいでしょう。しかし事務系の職種の場合、テレワークの際に何をもって評価すればよいかわからなくなってしまうことも考えられるでしょう。
このように適正な評価が難しくなる点も、テレワークの大きな課題です。
4.テレワークの勤怠管理をするときのポイント
テレワークの勤怠管理をおこなうときは、上記で紹介したように課題が多く存在しています。そのため正しく勤怠管理をするためには、注意したいポイントや厚生労働省が発表したガイドラインをしっかりと押さえておく必要があります。
ここからは、適正にテレワークの勤怠管理をするときのポイントをみていきましょう。
4-1. 従業員の労働時間を適正に把握する
テレワークの勤怠管理で何よりも大切なのは、従業員の労働時間を適正に把握することです。
働き方改革に伴い、企業は「管理監督者」と「みなし労働時間制の適用者」を含むすべての労働者について労働時間の管理が義務づけられています。例外は高度プロフェッショナル制度適用者のみです。[注3]
原則としてすべての企業では、役員以外の従業員における労働時間の管理が定められているのです。
テレワークでは従業員の労働時間が不透明になりやすいため、正しい管理方法ですべての従業員の労働時間を把握できる体制を整えることが大切です。
4-2. 従業員とコミュニケーションを取る
電話やチャット、メールなどで毎日連絡しているとはいえ、同じオフィス内に上司や同僚がいない環境は、意思疎通の妨げになります。スムーズなテレワークのためには、できるだけコミュニケーションを取ることを意識し、従業員の労働時間や進捗状況を把握することが非常に重要となります。
テレワークの際は勤務時間の管理だけではなく、密なコミュニケーションによる「業務上の問題点」や、勤務時間だけではわからない「評価基準」の洗い出しをおこなっていきましょう。
5.テレワークの勤怠管理システムの選び方
勤怠管理に関する課題点や注意したいポイントは、勤怠管理システムの導入で解消することが可能です。しかし、勤怠管理システムは数多く、どれを導入すればよいか戸惑ってしまう担当者もいるでしょう。
ここからは、勤怠管理システムを選ぶときにチェックしておきたい項目についてみていきます。
5-1. 勤務時間だけではなく作業状況が記録できる
テレワークでは勤務時間の把握が何よりも重要ですが、それだけでは作業の進捗管理や従業員に対する評価をおこないにくくなってしまうでしょう。したがって勤怠管理システムを導入するときは、作業状況が記録できるツールを選ぶ必要があります。
勤怠管理システムのなかには、PCで作業をしている時間を記録できる機能が搭載されたものや、スクリーンショットで作業内容を共有できる機能が搭載されたものなども存在しています。テレワークをスムーズに進めるなら、こういった作業内容の情報も共有できる機能が搭載されたツールを検討しましょう。
5-2. 給与システムと連携できる
せっかく勤怠管理システムを導入するのであれば、給与システムと連携できるものを選ぶことをおすすめします。そうすれば従業員が記録したデータが自動的に集計され、給与計算をシステム化することが可能となります。
給与計算にかかる人的コストと時間的コストを減らしたい企業は、必ず各システムと連携可能かどうかについて確認しておきましょう。
5-3. 各種申請と承認機能の有無
より利便性を求めるのであれば、休暇や残業などの各種申請や、承認機能の有無も確認することをおすすめします。なぜなら、これまで紙ベースで申請や承認をおこなっていた企業の場合、テレワークの導入によって申請プロセスが複雑化しやすいためです。
勤怠管理システムで申請から承認までおこなうことができれば、すべての処理をオンライン上でおこなえるようになります。承認のペーパーレス化は、従業員にとっても承認者にとってもメリットが多いため、しっかり確認しておきましょう。
5-4. コストとサポート体制のバランス
勤怠管理システムの導入時は、当然コストがかかります。初期費用だけではなく運用費用についても考慮し、使用し続けることが負担にならないか事前に確認しておきましょう。
また、導入後のサポート体制も重要な判断材料です。トラブルの際はどれくらいのスピードで対応してくれるのか、適切な運用のために提案してくれるのかなどのポイントに加え、法改正などの場合に迅速的確に対応してくれるか、といったことも確認できると安心です。
6.テレワークの勤怠管理をスムーズにするためシステムを導入しよう
テレワークを導入する際は、勤怠管理の方法に注意する必要があります。メールや電話、Excelなどによる管理では課題が残ってしまうことが考えられるため、適切な勤怠管理のためにも専用のシステムを導入しましょう。
企業の規模や業務内容によって、必要となる機能や最適な勤怠管理システムは異なります。今回紹介した内容を参考に、自社に最適なツールを見極めてください。
[注1]労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン|厚生労働省
[注2]テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン|厚生労働省
[注3]労働安全衛生法|e-Gov法令検索