2023年3月期の有価証券報告書から女性管理職比率の開示が義務付けられるなど、女性活躍を推進する気運が一層高まっています。一方で、「なかなか女性の管理職が増えない」とお悩みの企業は少なくありません。
本連載では「本人・管理職・全社で実現する女性活躍推進」をテーマに、数多くの企業を支援されてきた株式会社リンクアンドモチベーションの宮澤さんにお話を伺います。
第1回では、女性活躍推進を阻む壁として、「キャリアの壁(女性社員本人の壁)」「マネジメントの壁(管理職の壁)」「サポートの壁(全社の壁)」の3つがあることが分かりました。
今回は、そのうちの「キャリアの壁(女性社員本人の壁)」について解説していただきます。
- 01|女性活躍が注目される背景と「3つの壁」
- 02|「キャリアの壁(女性社員本人の壁)」を乗り越えるための意識変革
- 03|「マネジメントの壁(管理職の壁)」を乗り越えるための行動変革
- 04|「サポートの壁(全社の壁)」を乗り越えるための風土変革
- 05|女性活躍推進 実践事例
【人物紹介】宮澤 優里 | 株式会社リンクアンドモチベーション人材育成支援領域 責任者
一橋大学を卒業後、株式会社リンクアンドモチベーション入社。一貫して大手企業向けのビジョン浸透・風土変革・育成に携わり、延べ150社以上を支援。顧客企業の組織変革を成功に導く傍ら、自社のプロダクト開発にも従事。コンサルティング部隊のマネジャーを経て、現在風土変革・人材育成領域、自社の新規事業拡大領域の責任者を務める。また、個人の自立的な成長サイクルを実現する人材育成クラウド「ストレッチクラウド」の事業責任者を兼務。メディアでの解説実績多数。
「キャリアの壁(女性社員本人の壁)」とは?
−今回は、女性活躍推進を阻む「キャリアの壁(女性社員本人の壁)」についてお伺いしていきます。
宮澤さん:前回お伝えしたとおり、女性活躍推進のためには乗り越えるべき3つの壁があります。それが、「キャリアの壁(女性社員本人の壁)」「マネジメントの壁(管理職の壁)」「サポートの壁(全社の壁)」です。
このうち、「キャリアの壁」は、女性社員本人が自らキャリアの可能性を狭めてしまうという壁です。
管理職になってほしいという期待のもと、女性メンバーにそれとなく打診したものの、「私は管理職になりたくありません」「管理職を務められる自信がありません」などと断られてしまう。そんなご相談をいただくことが増えています。
−なぜ、「キャリアの壁」が生まれてしまうのでしょうか?
宮澤さん:女性社員本人の管理職になりたいという「意欲」、もしくは女性社員本人に管理職が務まるだけの「能力」が育まれていないことが大きな要因です。
パーソル総合研究所が実施した「女性活躍推進に関する定量調査」では、女性活躍のための企業課題の上位3つとして、「女性の昇進意欲が無い(42.4%)」「十分な経験を持った女性が不足している(41.6%)」「登用要件を満たせる女性が少ない(40.8%)」という課題が挙がっています(※)。
(※)パーソル総合研究所.”女性活躍推進に関する定量調査”.パーソル総合研究所シンクタンク本部.(2022)
宮澤さん:この調査結果からも、「管理職候補の女性社員はいるが、なりたがらない」という「意欲の醸成不足」と、「そもそも、管理職候補として名前が挙がる女性社員が少ない」という「能力の開発不足」が大きな課題であることが分かります。
企業に「なぜ、女性管理職が増えないとお考えですか?」と尋ねることがありますが、もっとも多いのが「女性社員が管理職になりたがらない」という返答です。
女性社員本人の 管理職になりたいという意欲が低いのであれば、当然女性管理職を増やすことはできません。この状況を打開するためには、いかにして女性社員の「意欲」を醸成できるかがポイントになってきます。
一方で、そもそも中堅・リーダー層の女性社員が少なく、管理職候補となる人材が見つからないというケースも少なくありません。
このような企業は、早期から管理職候補となる女性社員を育成し、「能力」を開発していく必要があります。もちろん、この場合も女性社員本人に「この会社でキャリアアップしたい」という「意欲」があることが大前提です。
−女性社員の「意欲」や「能力」が十分に育まれていない要因はどんなところにありそうですか?
宮澤さん:要因として考えられるのが、女性社員は男性社員に比べ、「成長するための挑戦機会が不足している」ということです。
男女で挑戦機会に差が生まれるのは、無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)による影響があるのではないでしょうか。
内閣府の調査研究では、職場での性別役割意識として以下のようなデータが出ています(※)。
(※)内閣府.“令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究”.内閣府男女共同参画局.(2022)
宮澤さん:男女ともに、「育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきでない」「組織のリーダーは男性の方が向いている」という意見が、上位5項目のうち1位・2位になっています。
このような性別によるアンコンシャス・バイアスが男女の挑戦機会に差をもたらし、結果的に女性社員の成長が阻まれる構造が生じていることがあります。
人の成長は「複利」のように積み上がっていくため、最初は少しの差でも、時間が経つとどんどん差が大きくなっていきます。
他の社員との「能力」の差を目の当たりにして 「私はあんなふうには活躍できない」と思い、挑戦する「意欲」を持てなくなってしまう女性社員もいます。
そうなると将来、管理職として活躍する自分をイメージするのは難しくなります。そのような状態の女性社員に「そろそろ管理職に」と打診しても、「できません」「やりたくありません」といった答えが返ってくるのは、ある意味、当然のことだといえるでしょう。
−挑戦機会を与えることが大事だということですね。
宮澤さん:はい、そう思います。女性が昇進するために「上司によるチャレンジの機会創出および仕事を任される経験」が重要であることを示す研究結果もあります(※)。
管理職になる前から、性別に関係なく挑戦機会を与えていくことが重要なのではないでしょうか。
現場の上司が女性社員に挑戦機会を与えるのはもちろんですが、人事部門も、女性社員の挑戦機会を創出する支援をしていかなければいけません。
昨今、女性活躍推進のために、仕事と家庭の両立支援など「働きやすさの支援」を重視する会社は増えていますが、それと同じくらい「挑戦を生み出す支援」も重要です。
−「キャリアの壁」を乗り越えるため、女性社員本人にはどのような意識変革が求められるでしょうか?
宮澤さん:ポイントになるのが、「自己効力度」を高めることです。「自信を付ける」と言い換えても良いでしょう。当社では、以下のように社員の状態を4つに分類しています。
宮澤さん:縦軸を「自己効力度」、横軸を「自己課題認識度」としているのですが、成長を実現するには、この両方が高い「A:成長」の状態である必要があります。
ですが、女性社員によく見られるのが、自己課題認識度は高いものの自己効力度が低い「C:自信喪失」の状態です。「キャリアの壁」を乗り越えるためには、「C:自信喪失」から「A:成長」の状態に持っていく必要があります。そのためには、自己効力度を高めなければいけません。
−女性社員の自己効力度を高めるには、どのような方法が考えられますか?
宮澤さん:様々な方法があると思いますが、今回は3つほどご紹介します。
自己効力度の高め方① 経験の前倒し
宮澤さん:一つ目が「経験の前倒し」です。これは、メンバーのときからリーダーや管理職としての経験を積むことを指します。
プロジェクトのリーダーを任せたり、後輩の育成担当にアサインしたりと、早い段階から将来を見据えた経験を積ませることで「意欲」や「能力」を育んでいきます。自己効力度を高めるうえで、非常に重要な取り組みだと思っています。
誰でも、できるイメージが湧かない役割には尻込みするものですが、経験の前倒しをすることでイメージが湧くようになります。
その結果、徐々に「できそう」「おもしろいかも」「やってみたい」といった感情が生まれてくるものです。
自己効力度の高め方② 期待や強みの可視化
宮澤さん:二つ目が「期待や強みの可視化」です。
当社では、「360度サーベイ」を用いて可視化することを推奨しています。職場で360度サーベイをおこない、「○○さん(女性社員)に対して何を期待しているのか?どのくらい満足してるのか?」といった設問に回答してもらうことで、周囲からの期待や現状の強みを可視化するのです。
当社の支援企業では、360度サーベイの実施後に「サーベイフィードバック研修」という場を設けることが多いです。
この研修では、近い立場の社員が集まってサーベイ結果を振り返り、研修講師の支援のもと、成長に向けたアクションを決めていきます。
この研修の場では、女性社員の皆さんの間で「こういうところが評価されているんだ」「もっと積極的に動いていいんだ」といったポジティブな反応が見られます。
「もっとこうしてほしい」といった改善を求めるフィードバックがあっても、前向きに捉えてもらえる場合がほとんどです。
ある会社では、「私はこんなに期待されていたんだ」と嬉しさで涙を流す女性社員もいました。このように、360度サーベイで、上司などの周囲からの期待や本人の強みを可視化することは、自己効力度を高める大きなきっかけになります。
自己効力度の高め方③ 挑戦の後押し
宮澤さん:三つ目が、「挑戦の後押し」です。
先ほど、人事は「働きやすさの支援」だけでなく「挑戦を生み出す支援」をすることが重要であるとお伝えしました。
具体的には、手挙げ制や選抜制で女性社員を集め、与えられたテーマに対して課題設定・提案・実行までをおこなう研修などが効果的だと思います。
例えば、当社では、「TOP GUN SELECTION」と呼んでいる取り組みがあります。これは、挑戦の機会を生み出す取り組みで、サクセッションプランの一環でもあります。
男女問わず次世代幹部候補として選抜した社員を対象に、上位階層の視点で考える機会を設けています。
具体的には、「部門長の立場で事業企画を立案する」「経営陣になったつもりで投資家にプレゼンをする」といったプログラムがあります。
こうして強制的に視座 を引き上げ、普段とは異なる立場から考えてもらうことで、「殻を破る挑戦をする」きっかけを創っています。
このように、人事が仕組みを設けて支援していくことで、「意欲」や「能力」を育むことができれば、「キャリアの壁」を乗り越えられる女性社員が増えてくるはずです。結婚・出産・育児などのライフイベントもあるため、入社後、できるだけ早い段階から計画していくことが大切でしょう。
今回は、「キャリアの壁(女性社員本人の壁)」を乗り越えるためのポイントをお伝えしました。次回は、女性社員の上司が「マネジメントの壁(管理職の壁)」を乗り越えるためのポイントと、人事の支援についてお話ししていきたいと思います。
- 01|女性活躍が注目される背景と「3つの壁」
- 02|「キャリアの壁(女性社員本人の壁)」を乗り越えるための意識変革
- 03|「マネジメントの壁(管理職の壁)」を乗り越えるための行動変革
- 04|「サポートの壁(全社の壁)」を乗り越えるための風土変革
- 05|女性活躍推進 実践事例