今回、「後任を採用すること」をテーマに、事業会社で採用担当として人事業務を歴任してきた、株式会社juice upの森さんと、株式会社HERPの庄田さんの対談内容をご紹介。
後任採用の面接で特に意識すべきことは何か、後任採用のメリット・デメリットとはどのようなものか。
お二人の経験に基づいた後任採用ノウハウやその想いを記事にまとめています。
【人物紹介】庄田 一郎 | 株式会社HERP 代表取締役CEO
【人物紹介】森 尚樹 | 株式会社juice up ビジネスオフィサー
目次
「後任採用」ということを隠さずに、背景をしっかり伝えること
ー後任を採用する際、面接で意識すべきことはありますか?
前任者も面接に入ったほうがいいと思うのですが、その想いが強すぎるといけないと思います。
僕の場合は、自分の業務に対してゼロからつくりあげてきたという強い思い入れがあったので、これまでやってきたことをマイナスにしてはいけないと思ってました。
でも、それを意識し過ぎると、選考ハードルを過度にあげてしまいがちになります。「そんなことは私にはできません」と、候補者の方が困惑してしまうような話をしてしまったり。
後任の方が自分らしさを持って取り組めるようにすることも意識しないといけないと思います。思い切って任せるという視点を持った上で面接に臨んだ方がいいですね。
また、前任者が採用においてどこまで関与するのか、最終的に意思決定するのは誰かを、社内ですりあわせておく必要があります。
前任者だけで一次面接をやると、「自分の後に入った人のほうがいいなんて言われたくない」「俺のやってきたことをこの人に任せられるか」と、変な主観が入ってしまいますよね。
ブラックボックス化しがちになるのが面接です。そういったときは、後任者の上長となる方も一緒に面接に出て、「実際どうだった?」みたいなことをすり合わせしながら進めていったほうがいいですね。
ー客観的に見る人が必要ということですね。
あと、みなさん、前任者が退職や異動をした理由を隠したがる傾向があるように感じています。
前任者が辞める理由をすごくオブラートに言い過ぎると、逆に不安を与えてしまうこともあります。
ある程度言い方は気をつけますが、「会社の規模感が大きくなり、入社時よりも任される役割が細分化していったことを理由に辞めました」「前任者のやりたいことが●●に変化し、それができる会社に転職しました」など、しっかりと伝えたほうが、納得感が深まると思います。
辞めた理由があくまで個々人の価値感に紐付いているものであれば、それを伝えることでネガティブな印象を与えるとも限らないですからね。
どこまで伝えるかは、前任者が退職するのか、異動するのかでも全然違うと思いますが、後任の採用だからといって特に前任の人に気をつかう必要はないですよね。
また、採用する後任者の部下になる方や、一緒に働くことになるまわりの方の意見もヒアリングしておいたほうがいいですね。
結構、無視されがちなのが「部下となる方はどういう人に上司できてほしいか」という部分です。ここが置き去りにされて上だけの話で決まることもあります。
一緒に働く同僚や部下の方々を巻き込んで、面接に同席してもらう、入社前に顔合わせをするだけでも全然違うと思います。
最終面接のときに、ちょっとオフィスを案内して、挨拶をするとか。
「この人たち一緒にやります」ってことをあらかじめ知っておくのは、非常に大事だと思いますね。
自分がいなくなった後に入社してもらって、部署のメンバーとのフィッティングが合わないと、絶対うまくいかないですからね。
後任採用のメリットは「ペルソナが明確」であること
ー後任採用特有のメリットやデメリットはありますか?
後任採用のメリットとしては、どのような人材を求めているかという、ペルソナを明確化しやすいことですね。
これは、組織力強化による増員募集と、後任採用のような欠員募集とで違いがあります。
増員募集は、「こんな営業がいたらもっとこのサービスは拡大していくよね」という、理想像とのせめぎ合いだと思います。
欠員募集であれば、ベンチマークする人材が少なくとも存在します。後任採用で言うと、前任者という明確なバーがあります。
その前任者とほぼイコール、もしくは超える経験・スキルといった観点で採用をしていくと、非常に明確でやりやすいというメリットがあるかなと思います。
「新規ポジションではない」という部分はデメリットになるかもしれませんね。「新しいポジションを任せます」だとアトラクトにつながりやすいですが、前任者がある程度つくりあげた既存のポジションなので、魅力づけがしにくいかもしれませんね。
あとデメリットだと、前任者がイケててすごく信頼を得ていた場合ですね。
後任者が入社したあとで、「前任者のときはこうだったのに、ああだったのに」と言われてしまうと、さすがに辛くなると思います。
前任のことがよくわからないまま後任募集として入社して、「入ったけどおまえ使えないじゃないか」と、周囲から信頼を全然得られずに、短期間で退職してしまうケースは割りとよくあります。
前任者が何をしてきたのか、何を意識して周りと付き合ってきたのか。それが良くわからないまま入社して失敗してしまうという話は非常に多く、もったいないですよね。
その人の市場価値が下がることになってしまいます。
逆に後任者側として、今のは重要な入社する際のポイントですね。
後任として入るときは、前任のことを良く知りなさい、前任の人づきあいのやり方に注意しなさいみたいな。
後任採用が間に合わなくても、カバーできる組織体制も考えておくべき
ー後任が決まらないまま、前任者の最終出社を迎えてしまうこともありますよね?
よくありますね。
僕の経験だと、主に上長が兼務で対応するケースが多いですね。下の人間が無理してやるよりは上長がやるほうがいいとは思いますが、だいたいキャパオーバーになってしまい、メンバー一人ひとりを見る余裕がなくなり、不満がたまっていきます。
部署異動で社内にいる際は、多少は対応してもらえますが、そうはいっても兼任ではありません。異動先の仕事もある中で対応するボリュームが多いと、ボランティアになってしまいますからね。
そうならないために、もっとお互いの仕事を理解しておくことも重要ですよね。
次世代リーダーを育成することを目的とした「サクセッションプラン」がありますが、自分の後任を育てるのもマネージャーの仕事だと思います。
大きな組織であれば、組織全体の組織力を向上させる意味でジョブローテーションをおこなったり、特別なマネージャー研修をしたり、人が抜けたときに穴があかないようにするための工夫をしています。
個人がやりたいことをある程度尊重しつつ、全体の組織力を下げないための仕組みを設計することが大事だと思います。
さまざまな業務を棚卸しして、新しい仕事の機会を与えたり、お互いが何をしているのか、何が良くて何が課題なのか、相互理解を深めるために、何かしらの取り組みをつくることも必要だと思います。
とはいえ、そこまでの仕組みができている企業は多くありません。
現実的な問題としては、早く採用するに尽きます。実際は、何とか採用しつつ、それまでは、誰かが兼務して頑張るという感じですね。
退職・異動を伝えるタイミングが遅いことも、後任が決まらないまま前任者がいなくなってしまう要因としてはありますよね。
普通の転職活動でいうと、退職交渉に入るのが2ヶ月前だとまだ良いほうです。実際に2ヶ月で新規採用が決まるのかというと、決まらないことのほうが多いですけどね(笑)。
会社や前任者のストーリーを紡いでくれる後任を採用したい
ーお二人が考える、理想的な後任採用はどのようなものでしょうか?
まずは、あらためて、ストーリーを語ることが大前提として重要だと思います。
後任ということは、前任の人の歴史や物語が存在するということです。それは包み隠さずお伝えするべきです。
そういったストーリーをもっとジョブディスクリプションに落とし込んでオープンにして、世の中に出していったほうがいいと思うんですよね。ブログやWantedlyで書くのもいいと思います。
ビデオなんかで撮影して、前任者やその部署の雰囲気も一緒に伝えていくも効果的だと思いますし。これは後任採用に限らず、あってもいいと考えています。
それが伝わった上で応募してくれる候補者の方は、会社のことを理解して応募してくれているはずですし、マッチング率も高まります。
候補者にセルフスクリーニングをしてもらうという意味でも、歴史をしっかりと語る、伝える仕掛けがあったほうが、効率もいいし良い採用になると思います。
たとえば、ベンチャーが大きくなっていくというストーリーがある中で、「この期間ですごく活躍してくれたのは●●さんだったよ」って、そういった話ができるような採用をしていきたいですね。
「このタイミングで△△さんは抜けたけれども、次にうまく◯◯さんが入社してくれて、この会社の採用はより加速した」「■■さんのおかげで新規事業が生まれた」。
そういう会社としてのストーリーの中で、語られるような人材を採用できたら一番いいなと思います。
それまでのストーリーをお互いが話せていない状態で採用することは、重要なポジションであればあるほど、うまくいくはずはないのではないかと考えています。
会社や前任者のストーリーにフォーカスをして、その上でストーリーを紡いでくれる後任の採用ができたら最高ですね。
最後に宣伝になってしまい恐縮ですが、僕が先日立ち上げた『後任さん』というメディアは、まさに前任者のストーリーを軸に採用につなげるメディアです。