突然ですが、皆さんデザイナーの新卒採用を検討されたことはありますか?
総合職採用と比べるとデザイナーの新卒採用はまだ珍しく、あまり馴染みがありませんが、実は年々新卒採用を始める企業が増えています。
そこで、新卒デザイナー採用に特化したプラットフォーム「ReDesigner for Student」を運営する株式会社グッドパッチの田口さんに、そんな新卒デザイナー採用を始める企業が増えた理由と、新卒デザイナー採用を始める上で抑えておくべきポイントをご紹介いただきました。
田口 和磨 | 株式会社グッドパッチ ReDesigner for Student キャリアデザイナー
神戸大学卒業後、美術系大学の職員として学生募集、教務(学生サービス)、進路支援等の業務を経て株式会社グッドパッチ ReDesigner for Studentに参加。年間数百名の学生との面談・ポートフォリオフィードバック・進路選択支援を行うほか、大学や専門学校でのデザイン思考ワークショップやポートフォリオレクチャー、教職員向け研修等の講演も行う。
目次
1. 新卒デザイナー採用が注目され始めた、その理由。
新卒デザイナー採用に特化したプラットフォームを運営しているReDesigner for Studentで、キャリアデザイナーとして学生の就職支援を担当している田口です。
デザイナー採用というと、「ポートフォリオ選考」など馴染みのないプロセスがあり、どうやって始めればいいのかわからないと思っている人事担当者の方も多いかもしれません。本記事では、新卒デザイナー採用を始める上でのポイントについて解説していきたいと思います。
まずはじめにお伝えしたいのは、プロダクトやサービスのデジタル化が進む昨今、顧客接点となるデジタルデザインへ投資する企業が年々増加していることです。この背景から即戦力となるデザイナーの需要が高まり、中途採用においてデザイナーは売り手市場となっています。
グッドパッチでは、企業のデザイン投資やデザイナーの働き方のトレンドを可視化する年次調査「ReDesigner Design Data Book」を行っています。2022年度の結果によると、デザイナーを採用する企業のうち59%は採用母集団の形成に課題を感じています。
さらに、スキルだけでなく、カルチャーフィットする人材の採用となると、企業にとってデザイナーの採用難易度は高いと言わざるを得ません。
(※「ReDesigner Design Data Book 2022」より抜粋)
そのため、デザイナーを正社員として中途採用するだけでなく、副業・フリーランス採用や新卒採用など、他の選択肢を検討する企業が増えています。
また同調査では、新卒デザイナー採用をまだ始めていない企業の34%は「今後新卒デザイナーの採用を検討する」という回答結果もあり、これまで2019年より調査を行ってきた中で過去最高の結果となりました。
大手のWebサービス運営会社やメーカーはいち早く取り組み始めており、デジタルサービスやプロダクトの需要増加に比例し、新卒デザイナー採用は広まりをみせています。
(※「ReDesigner Design Data Book 2022」より抜粋)
新卒採用を実施する場合、入社後の社内教育を行う必要はあるものの、自社の組織や事業への共感性が高いデザイナーが育成できることや、中途採用と比較して人員計画が立てやすいといった点が、企業にとっての魅力となっています。
2. 新卒デザイナー採用ならではの特徴とは?
それでは、新卒デザイナー採用のポイントに話を進めていきましょう。
まず、前提としてお伝えしたいことは、新卒デザイナー採用は「学生のポテンシャルだけでなく、作品などといったアウトプットも見る」点にあります。このポイントが、総合職採用とデザイナー採用のさまざまな違いに現れています。
では、より具体的な違いを3つのポイントに分けてご紹介します。
①履歴書よりも重要な「ポートフォリオ」
新卒デザイナー採用では、「ポートフォリオ」の提出を義務化している企業が一般的です。
ポートフォリオとは、学校やインターンでの課題、さらには自主制作まで、自身で手掛けた作品を1つの冊子としてまとめたものです。学生は、ポートフォリオに掲載する作品を選ぶだけでなく、その構成や体裁なども自身で考え、まとめています。
そのため、ポートフォリオは学生のアウトプットと思考する過程を判断する材料として、選考においても重要視されており、とある大手企業では履歴書よりも「ポートフォリオ」を先に目を通すという人事担当者もいるほどです。
(※ReDesigner for Studentに記載されているポートフォリオ例)
ここからは、「ポートフォリオを見る側が意識するべきこと」にも触れていきましょう。
目を惹きつける作品のクオリティは評価をされるべきものですがそれと同時に、その背景にある着目点や制作意図といった、デザインに対する考え方も非常に大切な要素となります。
総合職採用の面接で、何かしらの活動を行った学生に対して、活動を始めた背景やそこで得た経験を聞くことに似ています。作品の制作意図を理解することで、より学生の内面を深く知ることができるようになります。ポートフォリオの存在によって、学生を理解するヒントがより多く得られるのです。
しかしながら、作品のクオリティやデザインスキルについては、デザイナーにしかわからないポイントがあるのも事実です。そのため、社内のデザイナーに協力を仰ぐ必要が出てきます。
昨今、デザイナーといったクリエイティブ職に留まらず、専門職採用において、人事と現場でチームを組んで採用活動に取り組む会社が増えています。わたしたちも、デザイナーの採用活動を行う際には、社内のデザイナーを巻き込むことを強くお勧めしています。
②8割の企業が実施する、インターンシップ
デザイナーは、「黙って良いものをつくる」職人と見られがちですが、実は違います。サービスやプロダクトの利用者となるユーザーの理解を深め、経営陣から現場まで様々なステークホルダーと調整し、サービスやプロダクトなどに反映する能力が必要な職種です。
この能力は、ポートフォリオだけでは見極めづらいため、すでに新卒デザイナー採用を実施する企業の約8割は、選考プロセスにインターンシップを導入しています。そして、実際に擬似的なプロジェクトなどに参加してもらう中で、学生の能力を把握しているのです。
プロジェクトでは社内のデザイナーが参加し、共に擬似サービスづくりを行います。インハウスデザイナーがアウトプットを作るまでの過程を目の当たりにし、直接フィードバックを得られる機会はそう多くはないため、インターンシップに参加することは学生にとってもメリットがあります。
また、学生は企業選びにおいて「働き方や自分の価値観とのマッチング」を重要視しているという結果があるように、学生が会社の雰囲気を直接知ることのできるインターンシップは、就職先を決定する際にも大きな指針となるでしょう。
(※「ReDesigner Design Data Book 2022」より抜粋)
インターンシップの実施内容は、企業ごとに工夫を凝らしています。多くはデザイナー志望学生のみでチームを作り、与えられたテーマに沿ってサービスを企画する形式です。
さらに発展させたケースでは、デザイナーだけでなくエンジニアや企画職の志望者も混合で実施する形式もあります。その他、実際にあるサービスの改善提案を個人で考え、社会人デザイナーからのフィードバックを受ける形式などさまざまです。
採用したいターゲットに合わせ、どのやり方が自社に合っているかを社内のデザイナーと決めておきましょう。
(※グッドパッチで行われたインターンシップの様子)
③多様な就活生に合わせた、通年採用化
少し話は変わりますが、どのような学生がデザイナーを目指すのでしょうか?
想像しやすいのは、美術系大学や芸術系大学の出身生(以下、美芸大生)ではないかと思います。しかしながら、最近では総合大学の出身生(以下、総合大生)が目指すケースも増えています。
これは、総合大学でもデザイン学科が設立されたり、そもそも日常的にデジタルプロダクトに触れていることなどが影響しています。また、SNSやクチコミサイトなどを通じて採用情報がオープンになってきており、デザイナーを目指しやすい環境が整いつつあることも一つの要因かもしれません。
その影響を受けてか、就職活動スケジュールも多様化してきています。
(※「ReDesigner Design Data Book 2022」より抜粋)
早期就活生は、大学3年生の就職ガイダンス開始までに就職活動を始めます。
総合大学出身者などポートフォリオに載せる作品を多く持たない学生は、この時期から作品やポートフォリオ作りに時間を費やしています。
その後、夏季インターンシップに参加し、社会人からの作品のフィードバックを受け、秋口にはポートフォリオをブラッシュアップし、本選考に進んでいきます。夏季インターンシップの経験を糧に、秋口以降に急成長する学生も多くいます。
一方で、大学の課題制作で手一杯な美芸大生の中には、3年生の3月以降に慌てて就職活動を始め、就職先が狭まってしまうケースも散見されます。学生と面接している中で、一つ一つの作品は、非常に良くできていても企業への応募のタイミングを逃してしまうのは、非常にもったいないと考えています。
このように、学生が就職活動を始める時期には個人差があるため、通年で採用を進める企業が増えています。「新卒でデザイナーを目指す学生」といっても一括りにはしづらく、採用ターゲットに沿ったスケジュールを引いていくことが大切です。
3. 最後に
本記事では、新卒デザイナー採用を始める企業が増えた理由と、新卒デザイナー採用を始める上で抑えておくべきポイントをご紹介させていただきました。
新卒デザイナー採用をまだ珍しいと感じる方が多いのではないかと思います。見方を変えると、「将来有望なデザイナーの原石にまだ一部の会社しかアプローチできていない」のが新卒デザイナーの採用環境です。
デザイナー採用にお困りの場合には、今後の採用戦略の一つとしてご参考いただければと思います。