HR NOTEの読者のみなさん、こんにちは。転職サービス「doda」編集長の大浦です。
2022年下期の採用計画にもとづき、精力的に採用活動をおこなっている企業も多いのではないでしょうか。
目標の達成に向け、まず企業が押さえておくべきは、刻一刻と変わる転職市場の最新動向です。最新の動向を把握した上で、採用手法や打ち出すべき自社の魅力などを検討する。これが、目標成功の鍵を握るといっても過言ではありません。
本稿では、転職サービス「doda」の転職求人倍率データを用いて、最新の転職市場の状況を紐解きます。
【寄稿者】大浦 征也 | パーソルキャリア株式会社 doda編集長
2002年、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。一貫して人材紹介事業に従事し、法人営業として企業の採用支援、人事コンサルティングなどを経験した後、キャリアアドバイザーに。これまでにキャリアカウンセリングや面接対策をおこなった転職希望者は10,000人を超える。その後、複数事業の営業本部長、マーケティング領域の総責任者、事業部長などを歴任。2017年より約3年間、doda編集長を務め、2019年10月には執行役員に。2022年7月、doda編集長に再就任。転職市場における、個人と企業の最新動向に精通しており、アスリートのセカンドキャリアの構築にも自ら携わる。
目次
1. 転職市場の最新動向:売り手市場がますます加速し、採用がより困難な状況に
2022年10月のdoda転職求人倍率は、前月から0.02ポイント上昇し2.13倍をマークしました。これは、doda会員登録者(転職希望者)1人に対して、中途採用の求人が約2件あることを意味しています。
求人数は、前月比103.2%、前年同月比147.2%。2020年9月から26カ月連続で増加し、コロナ前と比較して、過去最高クラスを記録しています。一方、転職希望者数は、前月比102.2%、前年同月比111.7%でした。
現在の転職市場は、転職希望者数以上に求人数が伸びているため、転職求人倍率が上昇傾向にあります。すなわち、転職したい人の数に対して、採用したい企業の数のほうが多い売り手市場であるといえます。
2. 業種別動向:インバウンドや観光需要の高まりを受け、外食関連企業の求人が増加
次に、業種別に前月から求人数が最も増えた業種と、最も転職求人倍率が高かった業種について解説します。
求人数が前月から最も増えたのは「レジャー・外食」で、前月比109.3%でした。特に、外食関連企業の求人が増加しました。
外食関連企業では、食材の原材料が高騰していることに加え、新型コロナの影響で店舗の営業時間縮小、もしくは休業を余儀なくされ人件費を削減していたことから、慢性的な人手不足に陥っています。
しかしながら、入国者数の上限撤廃や短期滞在のビザ免除、観光需要喚起策の実施などにより需要が高まっているため、採用を強化しているものと考えられます。
転職求人倍率が最も高かったのは「人材サービス」で、7.18倍でした。
「人材サービス」には、特定技術者派遣を含むアウトソーサーの「エンジニア(機械・電気)」「エンジニア(IT・通信)」が多く含まれています。
IT人材の不足を背景に、派遣会社をはじめとする「人材サービス」が、ITエンジニアの採用に力を入れていると考えられます。
3. 職種別動向①:IT人材不足が止まらない。「エンジニア(IT・通信)」の転職求人倍率は10倍越え
職種別ではどのような動きがあるのでしょうか。ここからは、前月から求人数が最も増えた職種と、最も転職求人倍率が高かった職種について解説します。
求人数が前月から最も増えたのは「事務・アシスタント」で、前月比106.8%でした。新型コロナ感染拡大を受け、「事務・アシスタント」の採用はほぼストップしました。
しかしここにきて、景気が上向き傾向に転じ、業績好調なIT、Web系企業が採用を再開させる動きが見られるようになってきました。
転職求人倍率が最も高かったのは「エンジニア(IT・通信)」で、10.07倍でした。
IT人材不足は今に始まったことではありませんが、10倍を超えた今、中途採用によるIT人材の獲得はさらに熾烈を極めており、採用が極めて困難な状況に陥っているといっても過言ではないでしょう。
IT人材不足に益々拍車がかかっている背景には新型コロナがあり、大きく分けて2つの理由があると考えられます。
- 1つ目は、新型コロナ感染拡大に伴うテレワークの普及などを受け、デジタル改革を推し進める企業の動きが顕著になり、IT人材のニーズがこれまでに以上に高まっている。
- 2つ目は、SIerに開発を受託してきた事業会社でも、コロナ禍で従来のビジネスモデルの変革が求められる中、自社内でDX推進やデータ利活用を行う動きがこれまで以上に活発化し、ハイスキルを有するIT人材の採用を強化している。
コロナ禍で、こうした動きはさらに加速傾向にあります。その結果、IT人材を採用する際の年収にも変化が表れ始めています。
4. 職種別動向②:年収帯を上げてもIT人材が採れない時代に
下記の図は、doda人材紹介サービスにおけるIT系職種新規求人の年収構成比の推移を示しています。
2018年度は、年収帯600万円未満の求人が半数以上を占めていたのに対し、2022年には年収帯600万円以上の求人が半数以上を占めるまでになりました。
これは、新型コロナにより、IT・通信業界では特に即戦力採用の流れが強くなったこと、事業会社ではDX担当のようなスキルレベルの高い求人が増加したことが要因であると考えられます。
IT人材が不足しているため、年収帯を上げないと採用ができない。しかしながら、年収帯を上げたところでIT人材自体が不足しているため、企業側が一方的に高いスキルを持った人材を求める構図となっている。これが今のIT人材採用の実態です。
5. まとめ:売り手市場で、採用を成功に導く3つのポイント
ここまで、dodaの転職求人倍率データを紐解きながら、最新の転職市場を解説してきました。ポイントは大きく分けて2つ。
1つ目は、売り手市場に拍車がかかっており、企業にとって採用が困難な状況となっているということ。
2つ目は、業界問わず、引く手あまたのIT人材の不足がますます深刻化しているということ。
この状況を踏まえ、企業ができること、すべきことは何か。ここからは、採用を成功に導く鍵となり得る、3つのポイントをお伝えしたいと思います。
①採用条件における「MUST」と「WANT」の切り分け
学歴や年齢、実務経験年数といった採用条件を見直してみましょう。
絶対に譲れない条件(MUST)は何か。あれば尚よい条件(WANT)は何か。「実務経験3年以上である理由は?」「2年と3年の違いは?」「そもそも実務経験年数に何を求めているの?」こういったことを自問しながら、今の転職市場の状況と照らし合わせて採用条件を設定することが重要です。
さらにいうと、採用は刻一刻と変わる「生もの」であるため、最新の転職市場の動向を常日頃からウォッチし、条件をアップデートし続けていく必要があります。
②未経験&ポテンシャル人材の採用と育成
職種問わず人手不足が深刻な職種においては、未経験・ポテンシャル人材の採用と育成を検討しましょう。
特に検討すべきはエンジニアとDX人材で、未経験やポテンシャル採用にまで幅を広げ、人材育成していくというマインドに切り替えない限り、企業は人材を確保できないといっても過言ではない状況です。
自社内で育成が難しい場合には、外部の育成会社に頼るのも手です。社員をスクールに通わせるのもよいでしょう。
IT人材を必要とする企業1社1社のこうした取り組みが、IT人材不足という課題解決のための糸口になり得るともいます。
③正社員採用に拘り過ぎない
正社員採用以外にも目を向け、副業やフリーランス人材の受け入れ、社員の学び直し、ないしは外部企業とのパートナーシップや業務委託など、正社員採用に絞らない人材獲得を検討してみましょう。
真の採用の目的は、正社員獲得ではないはずです。会社が掲げる目標を達成させるために、それができる人材を採用する。これが目的であるならば、正社員である必要はないかもしれません。
さらにいうと、最近では、副業人材が最終的に正社員として転職してくるケースも見受けられるようになってきました。
副業人材は、その企業のことを理解した上で転職してくるため、ミスマッチが起こりづらいという利点もあります。外部人材の受け入れを通じ、正社員採用を試みるのも1つの手かもしれません。
求人数は今後も、経済活動の活性化に伴い転職希望者数以上に増加していくでしょう。
言い換えると、企業の人手不足はますます深刻化していきます。最新の転職市場の動向を常日頃からウォッチすること、そして採用を成功に導く鍵となり得る3つのポイントを忘れず、採用活動を進めていただけたらと思います。