社会保険の被保険者である従業員の標準報酬月額に著しい高低が生じる場合、事業主は月額変更届を管轄の年金事務所に提出しなければなりません。
では、月額変更届を出し忘れてしまった場合、どのようなリスクがあるのでしょうか?
今回は、月額変更届の本来の提出期限は必要な書類、提出を忘れた場合の対応、月額変更届を出さないリスクについて説明します。
社会保険の更新・改定マニュアル完全解説版
年度更新や定時決定、随時改定と、労務担当者は給与の改定と並行して、年間業務として保険料の更新に関わる業務を行う必要があります。
一方でこのような手続きは、実際に従業員の給与から控除する社会保険料の金額にダイレクトに紐づくため、書類の記入内容や提出はミスなく確実に処理しなければなりません。しかし、書類の記入欄は項目が多く複雑で、さらに申請書や届出にはそれぞれ期限があり、提出が遅れた場合にはペナルティが課せられるケースもあります。
当サイトでは社会保険の手続きをミスなく確実に完了させたい方に向け、「各種保険料の更新・改定業務のマニュアル」を無料配布しております。
ガイドブックでは、年度更新の申請書から定時決定における算定基礎届、随時改定時の月額変更届、さらには賞与を支給した場合の支払報告書の書き方から、記入例、提出方法までまでを網羅的にわかりやすくまとめているため、「社会保険の更新・改定業務のマニュアルがほしい」という方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
1. 本来の提出期限や必要な書類
月額変更届は、以下3つのすべての要件を満たした場合に提出することが義務づけられています。(※注1)
- 昇給または降給によって固定的賃金に変動があった
- 変動月からの3ヶ月間に支給された報酬の平均月額に該当する標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
- 3ヶ月とも支払い基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である
これらの条件を満たす従業員がいる場合は、速やかに管轄する年金事務所に月額変更届を提出しなければなりません。
「速やか」について明確な定義は設けられていませんが、標準報酬月額の随時改定は、変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4ヶ月目の標準報酬月額から適用される決まりになっています。(※注1)
たとえば4月の昇給によって標準報酬月額に変動がある場合、4ヶ月目の7月から改定が適用されます。
それまでには月額変更届を提出しなければなりませんので、変更があるとわかった時点でなるべく早めに届出を提出するようにしましょう。
なお、月額変更届の提出を忘れると、本来納めるべき保険料と実際に支払っている保険料の間に差が生じる可能性があります。
月額変更届を提出を忘れた場合のリスクについて、詳しくは後述しますが、期限が設けられていないからと言って提出を先送りにするのは避けましょう。
1-1. 月額変更届に必要な書類
月額変更届では、「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」に必要な事項を記入して提出します。(※注1)
ただし、年間報酬の平均で標準報酬月額を算定することを申し立てる場合は、月額変更届に加えて以下の添付書類が必要になります。
- (様式1)年間報酬の平均で算定することの申立書(随時改定用)
- (様式2)健康保険厚生年金保険被保険者報酬月額変更届・保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意書(随時改定用)
1では、年間報酬の平均で算定する理由と、事業所所在地、名称、事業主氏名、連絡先などを記載します。
一方の2では、昇給月又は降給月以後の継続した3ヶ月の間に受けた固定的賃金および非固定的賃金についての情報や、標準報酬月額の比較欄、被保険者の同意欄(被保険者氏名)などを記載する必要があります。
いずれも日本年金機構のホームページからダウンロードできますので、必要に応じてプリントアウトして使用しましょう。
2. 月額変更届を提出を忘れたときの対応
月額変更届の出し忘れに気付いた場合は、管轄の年金事務所に連絡し、その旨を通達した上で月額変更届を速やかに提出しましょう。
2-1. 従業員への対応
月額変更届の出し忘れによって、本来徴収される保険料と実際に支払った保険料との間に差が生じた場合、差額分に対する処理を行う必要があります。
当該従業員への対応は、報酬の変更によって等級が上がったのか、下がったのかによって異なります。
等級が上がった場合、従前の標準報酬月額に比べて納付すべき保険料も上がっているので、不足分を追徴しなければなりません。
ただ、従業員の報酬をもとに標準月額報酬を計算し、必要に応じて月額変更届を提出するのは事業主の義務です。
保険料の追徴が発生したのも事業主の責任ですので、当該従業員に対して経緯をきちんと説明するのはもちろん、追徴の方法については当人と相談し、なるべく従業員に負担のかからない方法を模索することが大切です。
特に出し忘れの期間が長期に亘った場合、追徴額が多額になる可能性がありますので、毎月分割で徴収する、ボーナス時にまとめて徴収するなどの方法を提案し、従業員の方の意向を踏まえて話し合いましょう。
一方、降給によって等級が下がった場合は、本来納めるべき保険料よりも多い金額を支払っていたことになります。
その場合の対応方法は年金事務所からの指示や会社の判断によって異なりますが、一般的には払いすぎた保険料を翌月以降の保険料に充当する形になります。
年金事務所に連絡して事情を伝え、必要な手続きを行えば、当該従業員の翌月以降の保険料を調整してもらうことが可能です。
なお、月額変更届を長らく出し忘れており、6ヶ月分以上の超過が発生している場合は還付手続きを行い、差額を当該従業員に返還することになります。
月額変更届の出し忘れによる社会保険料の未収・過払いがあった場合は、その額によっては所得税も変わってきます。その場合、変更・修正の手続きは、より煩雑になります。
昇給や降給など標準報酬月額に影響を及ぼす事由が発生した場合は、速やかに月額変更届の提出が必要かどうか、しっかり確認しましょう。
3. 月額変更届を出さずにいるとどうなる?
標準報酬月額の等級が変更される事由があったにもかかわらず、月額変更届を出さずにいると、前述の通り、社会保険料の未収・過払いが発生します。
過払いの場合、本来払わなくても良い社会保険料を負担していたことになり、当該従業員に大きな負担をかけることになります。
一方、未収が発生した場合は、健康保険法第48条に定められた報酬月額に関する事項を保険者等に届け出る義務に違反したとみなされます。(※注2)
健康保険法第48条に違反すると、同法第208条の規定により、6月以下の懲役または50万円以下の罰金に処される可能性があります。
また、厚生年金保険法第100条では、必要に応じて年金事務所の職員が事業所に立ち入り調査することを認めています。(※注3)
故意に月額変更届を提出しなかったと判断された場合、立ち入り調査が行われ、未収分を最大2年間遡って徴収される場合があります。
たとえ故意ではなくても、長期にわたって月額変更届を提出していなかった場合、事業主の義務違反とみなされて処分の対象となる可能性がありますので、月額変更届は忘れずに提出しましょう。
このように月額変更届をはじめとする社会保険料関連の手続きは多岐にわたりますが、従業員への賃金や、企業の信頼に関わる重要な業務であるためミスは許されません。 とはいえ、社会保険料は把握すべき事項が多く、計算方法も複雑であり、正しい方法を把握できているか不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向けて、当サイトでは社会保険料をミスなく計算できる方法がわかる資料を無料で配布しています。 「社会保険料に関連する業務をミスなくおこないたい」「社会保険料の計算方法を総おさらいしたい」という方は、是非こちらから資料をダウンロードし、業務にお役立てください。
※注2:健康保険法 | e-Gov法令検索
※注3:厚生年金保険法 | e-Gov法令検索
4. 報酬に変更があった場合は月額変更届の提出が必要かどうかチェックしよう
昇降給によって従業員に支給する報酬に変更があった場合、社会保険料を計算するときのベースになる標準報酬月額に変更が生じる可能性があります。
その場合、事業主は月額変更届を作成し、速やかに管轄の年金事務所に提出しなければなりません。
月額変更届を出し忘れると、社会保険料の未収や過払いが発生し、場合によっては年金事務所の立ち入り調査が入ることがあります。
また、社会保険料の未収や過払いは従業員の所得税の計算にも影響を及ぼすことがあり、従業員自身の負担にもつながりかねません。
報酬に変更があった場合は、月額変更届の提出が必要かどうかきちんと確認し、必要がある場合は速やかな提出を心がけましょう。
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