時代の流れとともに注目が集まりつつある「ダイバーシティ」ですが、正確な意味を知っている人事担当者は意外と少ないのではないでしょうか。
本記事では、ダイバーシティに関する基礎的な情報について、その他の似ている言語の意味との違いや企業がダイバーシティの推進を図る方法などを解説します。
目次
1.注目を集めるダイバーシティ
近年注目を集めるダイバーシティ。その意味や注目を集める背景を解説します。
1-1 ダイバーシティとは
ダイバーシティとは、直訳すると多様性や相違点と訳され、人種や年齢、性別にこだわることなく多種多様な人材が集まった状態のことをいいます。
1-2 ダイバーシティとインクルージョンの違い
インクルージョンとは、直訳すると包括・包含と訳され、企業で働く従業員がそれぞれの経験や能力、価値観を認め合いながら働いている状態のことをいいます。
近年では、ダイバーシティとインクルージョンの2つを合わせた意味の「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉も注目を集めています。
1-3 ダイバーシティ経営とは
経済産業省では、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。
参考文献:ダイバーシティ経営の推進│経済産業省
2.政府が「ダイバーシティ2.0」の推進を提唱する背景
ダイバーシティ2.0とは、経済産業省が提唱した「多様な属性の違いを活かし、個々の人材の能力を最大限引き出すことにより、付加価値を生み出し続ける企業を目指し、全社的かつ継続的に進めていく経営上の取り組み」のことです。
経済産業省は実践のための7つのアクションである行動ガイドラインを定義しています。
- 経営戦略への組み込み
- 推進体制の構築
- ガバナンスの改革
- 全社的な環境
- 管理職の行動・意識改革
- 従業員の行動・意識改革
- 労働市場・資本市場への情報開示と対話
詳細はこちら:ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ│経済産業省
このように政府としても企業のダイバーシティ推進に向けて様々な取り組みや発信を行っていることがわかりますが、ダイバーシティが注目を集める背景についてまとめると、以下の4点があります。
- 少子高齢化などの労働人口の減少
- 働き方・価値観の多様化
- ビジネスのグローバル化
- 消費の多様化
2-1 少子高齢化などの労働人口の減少
引用:2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について│経済産業省
このグラフからみて分かる通り、今後は少子高齢化が進むにつれて、労働人口が減少し、生産年齢人口比率も下がっていきます。
労働者不足によって、企業は経営難に陥ります。そのため、性別や人種などの違いにとらわれないダイバーシティが重要視されているのです。
2-2 働き方・価値観の多様化
終身雇用制度が崩壊した現在、やりたい仕事やキャリアアップを考えて転職をする人も珍しくありません。
また、女性の社会進出に伴い、男性でも育休を取得したいと考える人が増えています。
そのため、企業な多様な人材や価値観を受け入れ採用していく必要があるのです。
2-3 ビジネスのグローバル化
近年、日本企業の海外進出や海外企業の日本進出が盛んに行われるようになりました。
海外への事業拡大に伴い、外国人材の採用や活用が必要になりました。今後もよりビジネスのグローバル化は進むとされています。
2-4 消費の多様化
「モノ」での差別化が難しくなっている現在では、「モノ」が溢れ、個人の消費行動は多様化しています。
これに伴い、各企業で柔軟な意思決定や自由な発想によるイノベーションの創出が求められています。
3.ダイバーシティ推進によるメリット
ダイバーシティ推進によるメリットは以下の3点があります。
- 人材の確保につながる
- イノベーションの創出
- 企業評価が上がる
3-1 人材の確保につながる
経営者に対する調査によると、ダイバーシティ推進によって得られた恩恵として「人材の獲得」が最も多く選ばれています。このように、人材の多様性を受け入れることにより、多種多様な人材の獲得ができるのです。
ダイバーシティを推進してる企業と認知されることにより、多様な働き方を望む求職者からの応募は多くなるでしょう。
3-2 イノベーションの創出
ダイバーシティを推進することにより、多種多様な人材が集まるため、異なる視点からの新しいアイデアが生まれる可能性があり、イノベーションの創出が見込まれるでしょう。イノベーションの創出により、業績の向上につながる可能性もあります。
3-3 企業評価が上がる
ダイバーシティを推進することにより、社員にとっては働きやすい環境になります。そのため、離職率の低下や定着率の向上が見込まれ、求職者や取引先に対する企業のイメージアップになるでしょう。企業評価が上がると、優秀な人材の応募数増加や取引先の増加も期待できます。
4.ダイバーシティを推進するためには
本章では、ダイバーシティを推進するための具体的な施策やポイントなどを解説します。
4-1 ダイバーシティを推進するための施策
ダイバーシティを推進するための施策として主に以下の3点があります。
- 柔軟なワークスタイル
- 社内にダイバーシティの理解を広める
- コミュニケーションの場を設ける
柔軟なワークスタイル
ダイバーシティを推進するためには様々な価値観を受け入れなければいけません。男性の育休取得率は今後伸びていくと考えられますし、小さなお子さんがいる方の中には夕方までしか働けない人もいるでしょう。そんな人のために柔軟な働き方やワークスタイルを構築する必要があります。
社内にダイバーシティの理解を広める
ダイバーシティを全社で推進していくためには、経営層のみならず一般社員に対しても理解を広める必要があります。ダイバーシティ経営を進めていくために、多様な働き方との向き合い方や多様な人材との相互理解などを認識しておく必要があります。
コミュニケーションの場を設ける
ダイバーシティの推進により生じる課題もあります。異文化の人が働きにくい環境になっていたり、キャリアに関して悩む社員も多いでしょう。そこで、定期的な上司との面談などコミュニケーションをとる機会を設けることにより、マイノリティの人たちが孤立しない環境を構築することができるのです。
4-2 ダイバーシティ推進の際に気を付けるポイント
ダイバーシティを推進する際のポイントは以下の3点があります。
- ひとりひとりの意見を尊重する
- 公平な評価を心がける
- 一体感を持たせる
ひとりひとりの意見を尊重する
ダイバーシティを推進するにあたり、様々な意見を取り入れていく必要があります。
しかし、少数派の意見を持つ人はなかなか意見を言うことは難しいです。そこで、みんなが意見を平等に言えるような環境を構築し、尊重していくことが必要です。
気軽な意見を言いやすい社内チャットの導入や相談窓口の設置がおすすめです。
公平な評価を心がける
ダイバーシティ経営では多様な働き方の構築が望まれます。そのため、出勤して業務をおこなう人だけでなく、リモートで業務をおこなう人もいます。
どちらも公平に評価されることにより、多様な人が働きやすい環境を整えることができるでしょう。
公平な評価を行うため、明確な評価基準を設けたり、制度化をすることがおすすめです。
一体感を持たせる
ダイバーシティ経営において、従業員の多様性を認めるだけでは組織としてうまく機能することは難しいでしょう。従業員同士が多様性を認め、目指す目的を一致させることが重要です。
自社の理念やミッション、ビジョンなどを明確に定義し、従業員に浸透させることにより、一体感を持ったダイバーシティ経営につながるでしょう。
5.ダイバーシティの推進に取り組む企業事例
ダイバーシティの推進に取り組む3つの企業を紹介します。
5-1 P&G
「文化」「制度」「スキル」を3本柱に、25年以上にわたって、女性活躍推進、ダイバーシティ&インクルージョンの推進、多様な社員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる組織づくりに取り組んでいます。
具体的な施策
- 勤務時間を月単位で管理する「フレックス・ワーク・アワー」の導入
- オフィスに限らず、自宅やそれ以外の場所でも勤務可能な「ワーク・フローム・ホーム」の実施
- 1日の中で会社と自宅の両方で働くことができる「コンバインド・ワーク」の導入
- リモートワークに対応したインフラの整備
- 管理職や全従業員を対象にしたセミナーや研修の実施
これにより、多様なアイデアやイノベーションの創出、全社的な生産性の向上など様々な場面で効果がありました。
5-2 キリンホールディングス株式会社
キリンホールディングスでは、新規市場開拓のために「主婦・働く女性」をターゲットにした商品開発を試みました。
それにあたり、女性視点での意見が求められるようになり、女性社員が活き活きと活躍する組織風土の実現に向けて早くから取り組みがなされてきました。
具体的な施策
- 新規採用の約半数が女性となるような公平選考
- ライフイベントとキャリアの両立を考える「キャリアワークショップ」
- 次世代育成を目的とした選抜型研修「キリン・ウィメンズ・カレッジ」の開催
- 今後のキャリアを考える研修「Future Female Leader Training」の実施
これにより、女性の管理職比率が約2%上昇したり、係長クラスの女性リーダーの比率も約3%伸びるという効果が得られています。
5-3 パナソニック
パナソニックは、「挑戦する人と組織の成功」の実現のために、ダイバーシティを推進し、「多様な人材がそれぞれの力を最大限発揮できる最も働きがいのある会社」になることを目指しています。
具体的な施策
- 短時間勤務、半日勤務など、育児や介護との両立を図るための「ワーク&ライフサポート勤務」の導入
- 女性社員を対象としたマネジメント実践スキルの向上を図る研修「キャリアストレッチセミナー」の実施
- 障がい者雇用の推進
- 再雇用を希望する全60歳以降の従業員に就業機会を確保
これにより、女性管理職の増加やお客様への対応が早くなったというような効果が得られています。
働き方の面では、今後さらに効率的に仕事が行える環境を整備していく予定だそうです。
6.まとめ
これからの企業にとっては、多種多様な人材がいるだけでなく、互いを認め合い、作用し合いながら経営をおこなっていくことが重要になります。
また、ダイバーシティ経営を推進していくと、どうしても多数派・少数派の方が生じていきます。このような場合に、少数派の方も働きやすいような環境の構築が必要になるでしょう。
今回の記事が、これからの時代を生き抜くうえで大事な「ダイバーシティ」を推進するきっかけになっていただけたら幸いです。