2019年9月30日におこなわれた人事担当者向けイベント「採用から変革を。これからのHRに必要なマーケティングの観点とは」。
近年変化が激しいHRの世界において、「戦略人事」や「採用ブランディング 」「 採用広報」 「スクラム採用」といったワードが次々と出てくる中で、「リクルートメント・マーケティング」というワードも注目を集めています。
「リクルートメント・マーケティング」がテーマの本イベントでは、ウォンテッドリー株式会社の小池弾さんと、スローガン株式会社の西川ジョニー雄介さんが登壇。
「優秀な潜在層に対するブランディングの効能と影響」「リクルートメント・マーケティングが与える採用や組織への影響」についてプレゼン。後半は、イベントに参加した人事担当者の方々を巻き込んで組織の課題について考える「パネルディスカッション」がおこなわれました。
本記事では、その内容をご紹介します。「転職市場のトレンドを知りたい」「会社の認知度を上げたい」「応募数を増やしたい」といった課題をお持ちの方の参考となれば幸いです。
変わりゆく転職市場。これからは採用にマーケティングが必要になる
【人物紹介】小池 弾 | ウォンテッドリー株式会社 Recruitment Marketing Evangelist / Business Hiring Manager
小池さん:私からは、「リクルートメント・マーケティングが与える採用や組織への影響」をテーマにお話させていただきます。「そもそもリクルートメント・マーケティングってなんだ?」といった基礎知識が知りたい方は、弊社が公開している資料や、今日取材に来ていただいているHR NOTEさんの記事などを参考にしていただければと思います。
小池さん:これまでの採用は、エントリーから入社に至るまでの短期的なプロセスでした。しかし、これからの採用は長期的なプロセスとして捉える必要があります。リクルートメント・マーケティングは長期的なプロセスとして整理し、採用を成功させるためのフレームワークの1つです。
ですので、「リクルートメント・マーケティングが与える採用や組織への影響」の本質的な意味合いは「長期的な採用のプロセスが必要な時代に、転職市場の変化が及ぼす採用や組織への影響」と解釈していただければと思います。
まず、「転職市場の変化」についてよく言われるのは、応募が集まりにくい状況に変化しているということです。背景には、少子高齢化による労働人口の減少があります。
そのため、「ターゲットを絞って採用しましょう」「ダイレクトリクルーティングで攻めの採用をしましょう」といった話が出やすくなってきています。
これまでは、1つの企業に属し続けることが当たり前な風潮がありました。つまり、転職自体がイレギュラーな非日常の行為として多くの人は認識していたのです。そのような市場においては、転職の情報収集は、「転職活動」を始めるタイミングでおこなうのが一般的だったと思います。
小池さん:しかし現在は、転職行動を開始する前段階から転職に関する情報収集をおこなうことが当たり前になりつつあります。実際にデロイト・トーマツ・グループが2016年に出したサーベイでは、「選択肢がある場合、どのくらいの期間で新しい組織に所属する、または別の道に進みますか?」という問いに対して、ミレニアル世代の4人に3人は「10年以内には今の会社をやめる」意志を示す結果が出ています。
こういったデータから、「組織に永続的に帰属する意識」は失われつつあることがわかります。
転職を前提に将来のキャリアを考えるミレニアル世代にとっては、転職に関する情報収集は、すでに日常生活の一部となっているのはないかと思います。
- これまでは転職活動を始めるタイミングで、転職に関する情報収集をおこなっていたた
- これからは、情報収拾のタイミングが早まるため、長期的な観点で採用活動をおこなう必要がある
小池さん:転職市場の変化が採用に与える影響についてまとめると、これまでは転職顕在層に対して、求人サイトや人材紹介サービスを活用し、いかに効率良くエントリーしてもらうかが重要視されていました。
これからは、転職潜在層の興味をひく情報を適切なチャネルで提供し、認知を獲得し、彼らが転職活動を始めるタイミングで、第一想起されるような会社となることが大切になるのかなと思います。
小池さん:転職に関する行動の変化が、組織に与える影響についてですが、転職することが当たり前になった今、条件や制度面の充実だけでは会社に帰属し続ける理由にはならなくなりました。そのため、「組織に属する目的」を社員に正しく理解させる高次な目的意識を組織が掲げることが必要になってきます。
- 労働条件の良さだけでは社員を定着させることは難しくなった
- 社員に「目的意識」を持たせることが、組織への定着には必要
小池さん:以上が転職市場の変化が及ぼす採用や組織への影響に関するお話でした。より長期的にファンを形成していくことが求められる時代において、どうやってリクルートメント・マーケティングを組み立て実践していけばいいのか。これについては、スローガンのジョニーさんからお話いただきます。
リクルートメント・マーケティングを成功させるためにはブランドターゲットを巻き込め
【人物紹介】西川 ジョニー 雄介 | FastGrow事業部 部門長 兼 編集長
ジョニーさん:みなさんこんばんは。FastGrowの責任者兼編集長をしていますジョニーと申します。私は、前職でWebマーケティングの仕事をしており、広告の運用やA/Bテスト、LP(ランディングページ)の改善などをおこなっていました。
FastGrowは、未来社会を良くするためのチャレンジをしていきたい、と考える20−30代社会人の成長を支援するコミュニティを目指しています。
FastGrow
ジョニーさん:僕らは、転職エージェントを使わない方々に対してもリーチしていきたいと考え、ビジネスメディアを通じて人材の流動性を高めたり、今頑張って働いている方に対してノウハウを提供することをミッションに、読者である若手経営人材に「事業成功に必要な知識」と「メンターや仲間との出会い」を提供しています。
同時に、FastGrowを通じてクライアント企業の採用ブランディングや社外とのコミュニケーション作りを一緒におこなっています。
小池さんから「これからは採用マーケティングだ」という話がありましたが、私も採用に関わる方ほどマーケティング思考、マーケティング視点が重要な時代になってきたと考えています。
というのも、FastGrowを運営する中で、採用が変化してきていることを感じているためです。
先ほど小池さんがおっしゃっていたとおり、企業と人が接触するタイミングはどんどん早期化しています。エージェントや転職媒体を通して転職者とマッチングする従来の採用から、企業が自ら人にアプローチする採用に変化してきたのだと思います。
実際にクライアントである企業から「自社をどうやって知ってもらえばいいのか」といった声があります。
このように、日常の中で転職・就職を考える前のタイミングで接点を持っておかないと、いざ人が「転職したいから会社探そう」と思ったときに、選択肢にすら入らないという状況が多く起こるようになっています。
つまり、人がどこかの会社にエントリーする前に接触・接点を持つことが大事になるわけですが、これはまさにマーケティングにおける「認知獲得の段階」が採用の鍵を握るということになります。
リクルートメント・マーケティングという言葉が使われるようになってきたのも、採用にマーケティングの手法を取り入れなければいけなくなったためなんです。
ジョニーさん:では「どのような情報を発信していけばターゲットとなる人材に情報を届けられるのか」ですが、重要なのは「発信する情報の内容」です。
この疑問に対する私たちの答えは、「本屋さんに行く」ことです。
本屋に行くとわかるのですが、売れてるビジネス書籍には「うちの会社はすごい」といった内容が書かれていません。企業が求める優秀な若手の方々は、とにかく成長を求めているんです。
あとは、広め方のコツですね。どんどん情報発信しても、自分たちが本当に伝えたい人に届かない状況になる可能性があります。その際にブランドターゲットを巻き込むことが重要になります。
- 採用ターゲット…採用したい人材
- ブランドターゲット…情報を届けたい人が信じている人。ときには広告塔にもなる
ジョニーさん:ブランドターゲットは、たとえば「Aさんが使っているから私も使う」という意見のうち「Aさん」にあたる人です。若手女性に商品をアピールしたい化粧品会社が、若者に人気のある女優をCMに起用するのと同じ構造ですね。
自社の採用ターゲットとなる人が「この人が選考を受けたなら私も受けよう」と思えるように、ブランドターゲットを分析して情報発信に巻き込み、接点を作りにいくことは採用マーケティングの有効な手段のひとつです。
分析して接点を持つというのは、たとえば、面接の際に「Twitterでフォローしている人」や「最近興味のある人」を聞いて、その人を意識的に巻き込んだコンテンツを作ることです。
「就活に関連していて、求職者が参考にしている人」を巻き込んで、その人にSNS上で情報拡散してもらうことができれば、自社の力だけでは届けられないターゲットの方々に、コンテンツを届けることができると思っています。
ジョニーさん:ブランドターゲットを巻き込んでコンテンツを発信していくことを繰り返して、自社が求める人材(採用ターゲット)に、「自社名=〇〇」というイメージを持ってもらうとリクルートメント・マーケティングが成功したといえるでしょう。
私たちも、記事の効果測定にはPV数ではなく「いいね」数や「シェア」数を指標にして追っています。目先のPV数を追うよりも、「共感をされるコンテンツであるか」を意識するといいかと思います。
たとえば、とあるベンチャー企業は、新卒の就活市場において「難関ベンチャー」としてしっかりとブランドが作れていて、多くの学生からエントリーされるそうです。
何をやっているのかというと、誰もが知っている外資系企業のインターンに受かった人を、自社のインターンに意図的に参加してもらう仕掛けをつくっているんです。
そうすると、学生の間で「この企業を受けたほうがいいよ!あの外資系企業に受かったAさんがインターンに参加していたから」といった口コミが広がっていきます。
そして、気になってエントリーする学生が増えていき、学生の間で「あの難関外資系企業と併願で受けられている企業」というブランドを2~3年で定着させることに成功しました。
この企業は、新卒採用のエントリー数を増やすために、外資系の投資銀行やメーカーに受かるような学生を巻き込んでいます。まさに、リクルートメント・マーケティングの成功事例ですね。
イベント来場者を交えたパネルディスカッション
お二人のトークセッションが終わると、イベントの来場者も参加して人事が抱える課題について議論するパネルディスカッションがおこなわれました。イベントに来場した人事担当者の方々で4人のグループを作り、社内の人には言いづらい組織、採用に関する課題を出し合い、共有していました。
写真人事担当者の方々が4人のグループを作ってお互いが持つ課題を出し合う様子
本記事では、パネルディスカッションで取り上げられた、人事担当者が持つ2つの課題と、小池さんとジョニーさんからの意見・アドバイスをご紹介します。
課題1:採用広報に力を入れようとなった際に、何から始めればいいのか
今まで「採用広報」に力を入れていなかったが、やはり最近になってきてエージェントを利用するだけでの採用では応募者の集まりが悪くなってきた。そこでまずは、一部の事業部に限定して採用広報に注力しようとしているが、そもそも何から始めたらいいのかわからないという。
小池さん:色々な意見があると思いますが、採用広報を始める上で、「目的」を明確にすることが大切だと思ってます。
ウォンテッドリーを例に出してお話しすると、もともとうちの採用は、ダイレクトリクルーティングやリファラルをメインとし、採用広報として個別個別での記事発信(※Feed発信)は現場に任せていました。
そのため、当時は弊社の認知をしており、Wantedlyを活用いただいているファン層へのアプローチには強みを持っていながらも、中長期的にファン層を作り出す取り組みをしないとターゲットが枯渇するリスクも抱えていました。
Wantedlyの認知がない人や認知はあるが興味を持っていないor正しく組織を認知していないという人たちをターゲットにおき、採用広報に力を入れはじめました。
まずはじめに取り組んだのは、Wantedlyのサービス内のブログ機能を使った記事コンテンツの配信です。
Wantedly Blog
小池さん:社内にメディアを編集する専任者をつけて、転職先としてウォンテッドリーに興味がない人でも読むようなコンテンツを更新するということを続けました。
もちろん、自社認知獲得のためには「誰」が「どこ」で「何」をみたいと思っているかを意識した設計が結局大事なので、運用することが全てにならない様に、当たり前ですが、「コンテンツ」と「露出場所」をユーザー起点で考えるのが大切だと考えています。
課題2:「自社はどういった会社か?」という質問に回答できない社員が多い中、組織として最初に取り組むべきことはなにか
選考の中で、現場の社員が面接官として面接をおこなう企業も多い。しかし、面接中に志願者から「どんな会社なんですか?」と聞かれた際に上手く説明できず、志願者が誤った印象を抱いてしまうことがあるという。
小池さん:ご質問いただいたケースは大きく2つに分かれるのかな、と思っており、それぞれ工夫できることがあると考えています。
1つ目は、「そもそも自社に対しての理解がない」パターンです。このパターンの社員に対しては、「企業としてどういう姿にして行きたいか」「どのような会社を目指しているか」を彼らに正しく伝えていく必要があります。
2つ目は「自社について理解はしていても、伝え方がわからない」パターンの社員です。こういった社員には企業の要素をどう伝えるべきかを整理し、面談のトレーニングや面談用資料などで彼らに共有をおこなうこと。
結構細かい共有はおこなわれていないことが多く、そのアクションをするだけでも面談にきていただく方に伝わる印象もだいぶ変わると思います。
まとめ
イベントに参加して、「これまでの採用とこれからの採用との違い」「リクルートメント・マーケティングという言葉が生まれた背景」「企業が働く人と接点を持つためにできること」を知ることができました。
たしかに、日々多くの情報に触れる中で自社の名前や事業を知ってもらうことは難しくなってくることかと思います。
これからは、マーケティングの考え方をベースとして採用戦略を練り、いかに「ターゲットに刺さるコンテンツ」を「確実に届ける」かが鍵となるでしょう。
リクルートメント・マーケティングについて詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事を参考にしてください。