イノベーションの源泉~革新的な組織はなぜ心理的安全性を重視するのか~

コーポレートミッションとして「感情報酬を社会基盤に」を掲げ、組織を変える行動を増やし組織課題を解決するHRテック事業「ピアボーナス®︎Unipos」を提供するUnipos株式会社。

今回は、2022年2月25日に同社が開催した『Unipos心理的安全性サミット2022』の内容をイベントレポートとしてお届けします。

本イベントは、2日間で累計1万人の申し込みがあった日本最大級の「心理的安全性」に特化したイベントです。現在変革の成功に欠かせない要素として注目をされている「心理的安全性」に焦点を当て、各界の専門家・実践企業が登壇し、心理的安全性を強化することで多くの経営課題をどう解決していくのか解説しています。

本記事では、チームワーク・リーダーシップが専門で、『恐れのない組織』の解説者である早稲田大学准教授の村瀬俊朗氏による「イノベーションを生み出す革新的な組織がなぜ心理的安全性を重視するのか」について解説されたセミナーをレポートでご紹介します。

村瀬 俊朗|早稲田大学商学部 准教授/『恐れのない組織』解説者

1997年の高校卒業後、渡米。2011年にUniversity of Central Floridaから産業組織心理学の博士号を取得。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)として就労後、シカゴにあるRoosevelt Universityで教鞭を執る。2017年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワーク研究。2019年から英治出版オンラインで「チームで新しい発想は生まれるか」を連載中。『恐れのない組織』(エイミー・C・エドモンドソン著、野津智子訳、2021年、英治出版)の解説者。

1. 新しいものを生み出すために必要な考え方

21世紀におけるビジネス環境や市場は、先が見えないことが大きな課題となります。

たとえば、2017年のアンケートで約半分の企業が「10年後を考えると、ビジネスモデルを今後大きく変化させないといけない」と考えており、どのようにこの「不確かさ」に対応していくべきなのか考えなければなりません。

Amazonの創業者であるジェフ・ベゾス氏も、新しい製品を開発するために「調整することを考えねばならない」と数年前に言っていました。

新しいものを作り続けることの難しさについて、どのようにすれば正しいのか、どのようなものが市場でウケるのか、正解がなく難しい市場環境であることがわかります。

また、ほとんどの企業が開発や挑戦をしようとした際に「失敗するかもしれない」という苦しみに耐えられず逃れてしまう傾向にあり、なかなか失敗を受け入れられないこともあるでしょう。

そこで、新しいものを作ったり、発想したりする上で重要なことは、「組み合わせを作る」ということです。色々な要素や情報を組み合わせ、その組み合わせ方が新しいと「新しい発想だね」と言われるようなものになります。

たとえば、組み合わせによって生まれたものとして「新幹線」が挙げられます。

1980年代まで、新幹線は鉄の塊の状態でかなりのスピードを出しながら街中を走っていたことで騒音が問題となっていました。そのため、当時の新幹線のエンジニアたちは「いかに騒音を削りながらスピードを出すか」を課題としていました。

そして、最終的に超高速で下降しても音を立てることないフクロウに着目し、羽の先端部分を応用して騒音を削る構造を作った結果、30%の騒音カットに成功しました。

このように、我々の周りにある情報をうまく使うことで、新しいものを生み出すことができる可能性があるのです。

2. 新しい発想から「メガヒット」を生み出すために

冒頭でもお伝えした通り、「挑戦はすべきだと思うが、失敗したくない」という思いを持ち合わせる方は多いかと思います。しかし、実は、組み合わせ方にも失敗しやすいものとそうでないものが存在しています。

このグラフの縦軸は「価値の実現力」を表しており、上に行けば行くほどメガヒット、下に行けば行くほど大失敗という事になります。また、横軸は「専門性の多様性」を表しており、左に行けば専門性と多様性が低い組織ということになります。

この表からわかることは、「専門性の多様性」が低い組織は、似たような考えや価値観や情報を持っている人たちの集まりとなり、アイデア会議をしても組み合わせる内容の傾向が似通ってしまい、また、似たような感性を持っているので「なんとなくそれいいよね」といった形で、新しい発想は生まれづらい結果になってしまいます

似たような考えや価値観を持った人が作業をやって、慣れ親しんだ情報をもとに組み合わせを模索していくと、大体80点は取れます。しかし、120点やそれ以上の価値を生み出すことはできません。そして、20~30点になる訳でもありません。

反対に、様々な人が所属する組織になればなるほど、色々な情報や要素を持った人が増えるため、組み合わせ方の幅がどんどん増えていき、よく知らない組み合わせを作ることができるようになります。

そのため、たとえ何が正解なのかよくわからない場合においても、組み合わせの幅を広げたことによる新しい挑戦であれば、「失敗をするな」といった不安を煽る管理方法はしてはいけません。それでは今までに見たことがあるような「失敗しない組み合わせ」の探索を促してしまうことになります。

3. メガヒットを作るための組織運営とは

そして、このメガヒットを生み出すために重要なことが、組織運営においてチームワークをうまく活用することです。

メンバーの持っている情報が多様であればあるほど、これまでの思い込みを壊し新しい発想を作ることができるため、組み合わせの幅も広がりやすくなります。

そして、メンバーの専門性が高まると、詳しい領域に該当するアイデアの「問題・課題・弱み」は容易に指摘できるため、メンバー内で失敗を未然に防ぐことができます。

専門性が高く、多様性があるチームは未然に大失敗を未然に防ぎやすく、ヒットのパターンを模索する力があるといえます。

業績に最も影響を与える「認知モデル」

こちらの図は、チームの業績をもたらす3つの要素を表したものになります。

「行動」「認知」「感情/モチベーション」がチームの業績にどの程度影響を及ぼすかというと、意外にも「認知」の部分が重要であることがわかっています。

人間の脳は、外部からの情報を一つひとつ頭の中で精査しながら活動しているわけではありません。膨大な情報があるからこそ、なるべく簡素化して考えないようにしており、脳内で私たちが生きる世界のミニチュアモデルを作成して、そのモデルに沿って行動しています。

たとえば、レストランで注文を取ってもらうまでの流れの中では複雑な作業が発生していますが、その一連に対してほとんどの人があまり考えないで行うことができるのではないでしょうか。これこそ、脳内のモデル通りに無意識的に行動している例であり、認知モデルと言います。

認知モデルは、対象物のコンセプト、存在意義、どのような目的を持っているか、どういう風に機能するのか、といった全ての情報から脳内に作られていきます。そして、認知モデルができることで、我々はこれからおこなう行動を予測することができるようになります。

情報はとても複雑であり、1つずつ精査しながら活動していくのは非常に大変であるため、我々の脳は予測しながら活動するようになっています。だからこそ、認知が業績に最も影響を与えているのです。

チームワークのメカニズムをうまく機能させるには

では、この認知モデルをチームワークに落とし込むためには、どのようにすれば良いのでしょうか。

チームで活動する際、私たちは脳内で「チームとはどんな機能や目的を持つのか」といったことを理解しながらチームについての脳内モデルを作成していきます。

具体的には、情報共有の内容や連絡する量・タイミング、業務担当の負担、得意・不得意、情報発信といったチームに関する内容です。

このモデルを他メンバーと共有すると、先ほどお伝えした予測が可能となり、先読みの連携をすることができます。

誰がどういう風に動いたら、自分がどう動くべきか、メンバー同士が同じモデルを共有することによって、他メンバーたちは共有されたモデルに沿って動くことができるので、コミュニケーションを取らなくても行動できるようになっていきます。

つまり、多様なメンバーがいるチームで、色々な考え方が生まれただけでは、十分ではありません。「チームをいかに機能させるか」という事を考えたときに、この認知モデルを作りこまないといけないのです。

イノベーションを起こすために必要なリーダーの存在

このようなことから考えると、新しい発想からイノベーションを起こせるかどうかは、チームの「リーダーの活動」の賜物であることがわかります。必ずしも、企業の組織的な支援から創出されるものではありません。

特に、チーム外に対するリーダーの活動が重要になってくるため、リーダーの方は主に次の4つの行動を意識する必要があります。

  • 外部からの情報取得
  • チーム外の関係強化
  • 政治的支持の取り付け
  • チームを守る

新しいことを始める場合、周囲からの協力や上層部からの支援が必要になります。そのため、リーダーがチーム内のことばかりやっていると、チームは組織内でうまく活動しきれずに終わってしまいます。

また、新しいことをやるときに、反発はつきものです。そのため、チームの作業を邪魔されないようにリーダーはチームを守る必要があります。

新しいチャレンジをすることはリーダーの使命であり、組織として簡単にやってくれるわけではないことを理解しましょう。

4. 多様性のある組織作りをおこなう上での注意点

ここで、多様性のある組織作りをおこなう上での注意点について2つご紹介します。

①誰が何を行っているのか把握する必要がある

とある開発チームを例に挙げます。

ある開発チームは「2つの物質を接着させたい」というタスクを持っていました。しかし、それらの物質を接着させることは非常に難しく、色々な方法を試してみましたが中々上手くいかなかったそうです。

多くの人たちの協力を得ながらある学会にたどり着き、そこの登壇者が話していた接着剤が非常に良さそうであったため、その登壇者のアポを取りチームメンバーみんなで接着剤についての話を聞きに行きました。

すると、話の最後に登壇者の人物から「○○さんの所属する企業であれば、この接着剤に詳しい▼▼さんがいるのでは?」というような話を受け、自社に帰って確認してみたところ開発チームと近いところで仕事をしていたそうです。

このように、多様なチームを構成する組織では、だれがどの情報を持っているかをしっかり理解しなければ、情報の探索がコスト高になり、逆にチームがうまく回らない結果になってしまいます

②多様な考えを持つからこそ、連携を取りづらい

長年同じ作業を続け、勝ちパターンを見つけることで、我々の考え方は固定されてしまいます。

人間の脳は、すべての情報を頭の中に貯めておける訳ではなく、関連性の高い情報がまとまって蓄積されています。そのため、特定の情報を思い浮かべたとき、関連のある情報が一緒に想起されるような構造になっています。

つまり、一人の人間が色々な発想をすることは難しく、脳の仕組みから考えても多様性のある組織をつくることが新たな組み合わせを生み出すには必要になります。

ただ、多様性のある組織体制に整えたからと言って、すぐに創造性やイノベーションに繋がるかというと、そういう訳ではありません。

私たちは、考えや価値観の異なる人と連携するのが苦手な生き物ですので、多様な人間がチームに在籍すればするほど、連携という面においてマイナスの効果が起きてしまいます。

そこで、チームや組織の中に多様な意見や発想が出てくるような雰囲気を作っていく必要があり、近年では「心理的安全性」が重要なのではないかという文脈が生まれたと考えています。

5. 新しいアイデアを他人に理解してもらう方法

2012年、Googleがイノベーティブな特徴を持ったチームはどういった要素を持っているのか調べるために「プロジェクト・アリストテレス」という調査を行いました。

色々なチームの特徴やリーダーの行動、メンバーの性格、チーム内の文化など様々なデータを集めたところ、ほとんどの要素は業績に影響なく、重要な要素は「心理的安全性があるかどうか」であることがわかっています。

バックグラウンドの異なる人と色々な組み合わせを考える必要がある中で、この組織の中では「色々言っても大丈夫だろう」と誰もが思えるような空間であることが重要になるのです。

とはいえ、心理的安全性があれば、色々な意見を全て会議の中で反映していくことができるかといえば、そうではありません。人は、情報の価値を前提となるコンテクストとセットで感じるため、この前提が欠けてしまうと価値は感じづらくなってしまいます。

そこで、私たちは「相手が価値を見出せるような伝え方をすること」が必要となります。

そもそも、新しいアイデアは、自分が持っている情報との関連性を見出しにくくなってしまうので、その情報を拒絶する傾向にあり、多くの人が知っているようなアイデアの方が世間に受け入れられやすいことが研究の結果わかっています。

また、我々は情報の内容を見て正確に判断しているのではなく、「見心地・聞き心地」から情報の価値判断や良し悪しを決めています。

私たちは、馴染みのないものに対しては中々価値判断が正しくできないような性質になっていますので、最後にイノベーションによって生まれた新しい製品が、世間に受け入れられた成功例を2つご紹介します。

スチームエンジンの例

ジェームズワットは、スチームエンジンがまだ世に出ていないときにビジネス化しました。どんな打ち出し方をすれば世間の人たちに理解され、心に刺さるのかを考え、そこで「馬力」という言葉を使ってスチームエンジンを売り出すことに決めたのです。当時、「馬力」を使って様々なことを行っていたことから、人々の中には便利というイメージがありました。それらを応用し、スチームエンジンは馬10馬分の力を発揮できるという打ち出し方をしたことで、人々からの理解を得ることに成功しました。

アメリカ軍の例

多くの部隊が存在するアメリカ軍では、情報分析官が戦局がどのような状態になっているのか理解し分析するために、戦地で活動する部隊が連携しあい、何をやるべきなのか考える上での情報を集める必要があります。しかし、現場の軍人は作業をこなすことがゴールであるため、現場にいない情報分析官に戦地の情報を提供することに疑問を持っており、情報分析官は戦場で起きていることを理解することが難しい状況にありました。そこで、元陸軍大将マッククリスタルは、アメリカ軍内でお互いの考え方を理解し、信頼しあえるような組織を構築する必要があると考え、2つの対策を行いました。

  • 重要な会議などになるべく色々な部隊を参加させ情報が蛸壺化することを防ぐ
  • お互いの組織からエース級の人たちを交互に移動させ、やっていることやゴール、チームメンバーの考え等の共有をする

正しく情報を伝えるためには、情報を集めた際どのような状況だったのか、それがどういう意味をもたらしているのかなど、前提部分を含めて伝える必要がありますが、この対策により、お互いの理解が促進されるような組織の構造を作ることができ、結果として組織の一体化および情報分析官への情報連携がうまくいくようになりました。

本来、新しいことをやることになった場合は、組織内で薄い情報だけを共有するのではなく、深い部分の情報まで出し合って、しっかり議論し、組み合わせを模索しなければなりません。

アメリカ軍の例において言えば、軍人たちが伝えることになっていた深い部分の情報とは、ネットの中に書かれているような形式的な情報ではなく「暗黙知にあたる情報」となります。

しかし、この深い部分の情報に当たる暗黙知は言語化するのが非常に難しい部分です。相手にどんな風に伝えたら伝わるのか考えるのは非常に難しく、伝える側に膨大なコストがかかってしまいます。

そこで、相手に対する「理解」と「信頼」を醸成することで、暗黙知の部分の共有をしっかりと行えることに繋がります。つまり、戦場で戦う軍人が情報共有することに理解があり、分析官たちを信頼できていれば、暗黙知に当たる戦場の情報を伝えることのコストを軽減することができるということです。

6. 「感情的信頼」を生み出し、イノベーションの起こせる組織を

ここで押さえておきたいのが、信頼は「認知的信頼」「感情的信頼」の2種類に分かれていることです。

「あの人、仕事できるよね」「あの人、能力高いよね」といったように、その人を本当に信頼しているわけではないけれど、恐らくこの人と仕事したら良いことが起こるだろうと思っている状態が、認知的信頼になります。

対して、「この人のために何かやろう」「暗黙知をあの人にわかりやすく伝えるために準備しよう」といったように、感情的な結びつきが生まれている状態が、感情的信頼です。

組織が認知的信頼だけで構築されている場合、心理的安全性はまだ低く、イノベーションを起こすことのできる組織とは言えないでしょう。

「この人」「あの人」といった部分が行動する上で重要な要素となり、自発的に周りを手助けする傾向が高まれば、より良い組織を作っていけるのではないでしょうか。

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