在宅勤務を導入した際に在宅勤務手当を支給している企業もあるでしょう。在宅勤務手当は、支給の有無や業務で使用した実費を支払うのかで課税対象か非課税かが変わります。本記事では、在宅勤務手当は課税対象になるのかどうかを解説します。在宅勤務手当の支給を検討している方は導入前に確認しましょう。
目次
在宅勤務手当は課税対象になる
在宅勤務手当は実際にかかった金額にかかわらず、毎月一定額を支払い、使わなかった分の返還を求めない場合、課税対象となります。在宅勤務手当として一律の額を支払う場合は、給与に上乗せされて支給され、使用制限がないため、給与の一部としてみなされます。例えば、「在宅勤務手当」という名目で、在宅勤務をしている従業員に毎月5,000円支給する場合は課税対象です。
ただし、一律支給に加えて、業務に使用した部分の実費を支払う場合、一律支給の手当は課税対象ですが、業務に使用した部分の実費は課税対象にはなりません。
在宅勤務手当に一部非課税枠が設けられた
2021年1月に国税庁から、在宅勤務手当の一部に非課税枠を設ける指針が示されました。
以前は在宅勤務手当に関する税制があいまいでしたが、この指針発表を機に、在宅勤務手当を支給する際に一部非課税が適用されるようになりました。
具体的には、支給される在宅勤務手当のうち、通信費と電気代は一定の範囲内で非課税とされています。
非課税となる範囲に関しては、「3.経費や通信費・電気代などの実費にかかる費用の一部は非課税となる」で解説しています。
参照:在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)
そもそも在宅勤務手当を与えたほうが良い理由
在宅勤務を導入するにあたって、在宅勤務手当を支給するかどうか悩んでいる方は多いのではないでしょうか。在宅勤務手当の支給は義務ではありませんが、支給している企業が増えてきています。本章では、在宅勤務手当を与えたほうが良い理由を解説しているので、支給するかどうか迷っている方はチェックしてみてください。
従業員の労働環境整備のため
これまでオフィスで働いていた従業員は、必ずしも自宅に業務に適した労働環境があるとは限りません。
短時間であれば自宅のダイニングなどで対応できたとしても、長時間ダイニングで仕事をするのは集中できませんし、腰痛や肩こりなどを引き起こしてしまうこともあるでしょう。長期的に在宅勤務をして従業員が落ち着いた環境で業務に専念するためには、パソコン用のデスクや椅子を用意して、業務に最適な環境整備が必要です。
デスクや椅子は業務で使用するものですから、会社が在宅勤務手当を支給することで、従業員は自宅でも業務に専念できる労働環境を作ることができます。
インターネット環境整備のため
在宅勤務で必須となるのが、ネットワーク環境です。ネットワーク環境なしには、業務を進めることができません。在宅勤務手当がない場合、自宅に仕事ができるようなネット環境がない従業員は導入費用を負担することになります。
業務で使用するためにネットワーク環境を整えるのであれば、企業側が在宅勤務手当としてその費用を補填すべきです。
在宅勤務維持のため
長期的に在宅勤務をするのであれば維持費がかかります。今までよりも長く自宅にいることになるので、通信費や電気代が増えてしまうでしょう。コロナ禍の影響による短期間の在宅勤務であればそれほど負担は大きくありませんが、今後も在宅勤務を続けていくのであれば通信費や電気代の従業員負担は増え続けてしまいます。
通信費や電気代は私用で使っている部分もあるため、全額を補助する必要はありません。業務で使用している以上、一部を補填する形で在宅勤務手当を支給するのが望ましいです。
モチベーション向上のため
在宅勤務は自由な働き方ができ、満員電車などによる通勤のストレスもなくなるので、それだけでモチベーションが上がるという人もいます。
しかし、逆に、常に自宅で仕事をすることにストレスを感じてしまう人もいるでしょう。また、自宅にいる時間が長くなることによって、生活費が増えてしまい、経済的な不安を抱える人もいます。
多少であっても手当が出れば従業員のモチベーションは上がります。従業員のモチベーションが上がることは、会社の生産性向上にもつながるため、在宅勤務手当は支給することによるメリットがあります。
経費や通信費・電気代などの実費にかかる費用の一部は非課税となる
在宅勤務手当は課税対象ですが、「業務で使用する部分」は非課税です。在宅勤務では業務で使用する通信費や電気代が発生しますが、私用で使っている部分もあるため、どう算出するかに頭を悩ませている方もいるでしょう。
国税庁が在宅勤務で必要となる費用のうち、どこまでが課税範囲なのかを明確にするために「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」を発表しました。
この指針に沿って、業務で使用する部分の通信費と電気代の考え方と算出方法を解説します。
参照:在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)
「業務に使用した部分」の考え方
在宅勤務における業務に使用した部分には、業務で使用する事務用品や通信費、電気代などが含まれます。業務で使用する事務用品を在宅勤務の従業員が購入した場合は、その金額がすべて業務に使用した部分にあてはまります。
通信費や電気代も業務で使用した部分に該当しますが、在宅勤務の場合、通信費や電気代のなかには従業員が私用で使ったものも含まれます。業務以外で使用した部分に関して、どの範囲が業務に使用した部分とするのかが明確ではなく、実費で支払うとしても算定が難しいかもしれません。そのため、国税庁によって、業務で使用したとみなされる非課税となる通信費や交通費の計算方法が示されています。
詳しくは次節で解説します。
通信費
在宅勤務で発生する通信費の中には電話料金とインターネット料金があります。
電話料金の通話料は、通話明細書を見れば業務で使用した部分が明確にわかります。業務で使用した通話料を実費として支払うのであれば、その部分は非課税です。業務で使用した通話料が明確にわからない場合は、以下のような計算式で算出します。
通信にかかる従業員が支払った1ヵ月分の料金 × (1ヵ月の在宅勤務日数 ÷ 該当月の日数 )× ½
基本料金などがかかる場合やインターネットの料金も同様の方法で計算します。
電気代
電気代も従業員が支払った1ヵ月分の料金から、業務に使用した部分を算出し、その金額が非課税になります。ただし、電気代の場合は単純に在宅勤務日数と稼働時間で考えるのではなく、業務に使用した床面積もあわせて考慮し、算出しなければなりません。電気代の算出方法は以下のとおりです。
従業員が支払った1ヵ月の電気料金 ×(業務に使用した部屋の床面積÷自宅の床面積)×(1ヵ月の在宅勤務日数÷該当月の日数)× ½
在宅勤務手当が支給されている場合は、以上の方法で算出された非課税となる金額を差し引いた金額が課税対象となります。
レンタルオフィス費用も非課税になる
自宅での勤務が難しく、レンタルオフィスを使用して在宅勤務をする場合、会社がそれを認めて費用負担をすると決まっているのであれば、レンタルオフィスにかかった費用も非課税になります。立て替えた代金の領収書を従業員に提出してもらい、実費を支給します。
メリットを考慮して在宅勤務手当か実費支給にするかを決めましょう
一律で在宅勤務手当を支給すると課税対象ですが、かかった費用を実費で支給する場合なら非課税です。
課税と非課税の線引きをしっかりとおこない、給与計算をする際には注意しましょう。また、在宅勤務手当の支給方法によっては支給額の計算に手間がかかってしまいます。
事務用品の購入費用やレンタルオフィス費用といったわかりやすい費用であれば実費支給でも手間はかかりませんが、従業員が多数いる場合、通信費や電気代の実費分を毎回計算するのはかなり手間がかかってしまいます。
在宅勤務手当として支給するか実費分を支給するかは、実費計算にかかる手間や人的コストを考えて決めるようにしましょう。
【監修者】涌井好文(社会保険労務士)
涌井社会保険労務士事務所代表。就職氷河期に大学を卒業し、非正規を経験したことで、労働者を取り巻く雇用環境に興味を持ち、社会保険労務士の資格を取得。 その後、平成26年に社会保険労務士として開業登録し、現在は従来の社会保険労務士の業務だけでなく、インターネット上でも活発に活動を行っている。