テレワークを実施する場合、通勤手当はどのように取り扱うべきなのでしょうか。この記事では、とくに在宅勤務でテレワークをおこなうケースを中心に考えます。そして多くの企業では、100%在宅ということは実際には少なく、在宅勤務もあればオフィス出社もあるということがほとんどでしょう。それを前提に通勤手当の取り扱いについて、注意すべき点をまとめました。
目次
テレワーク実施による通勤手当変更の必要性と支給方法への影響
前述のように、100%テレワークという会社は少ないでしょう。とはいえ、従来のオフィス勤務と同様に、毎日オフィスに出社することが前提で、通勤定期代を通勤手当として支給することは、業務の実態と異なったものになります。そのため、実態を踏まえて、ふさわしい定め方をする必要があります。
1. 現在の通勤手当の規定をチェックしておく
まずは、現在の就業規則などでの通勤手当の定め方をチェックしましょう。たとえば、現在の定め方が「通勤手当については、経費精算で実費を支給する」といった内容ならば、そのまま利用しても構わないでしょう。
しかし、現在の定め方が「公共交通機関を利用して通勤する場合、月額〇万円を上限に、会社の定める最短経路での定期代相当額を給与支給日に支給する」などとなっていれば、在宅勤務が増えた場合には、通勤手当が実際の必要額よりも多くなってしまうことも起こりえます。このような規定をそのままにすることは望ましくないでしょう。
2. 厚生労働省の定め方を参考にする
ここで厚生労働省のテレワークモデル就業規則の定め方を参考にしましょう。[注1]
この手引きのなかでは、まず原則として、在宅勤務者だからといって合理的な理由もないのに諸手当を減額することはできないとされています。
しかし、終日在宅勤務をおこなった日については、会社に出社する必要がないので、それに見合った通勤手当の額をふさわしい水準にすることは問題ありません。たとえば、公共交通機関の通勤定期券相当額と実際に通勤したときの交通費の実費を比較して低額となる方を支給する(すなわち実費精算する)といったやり方です。
就業規則の定め方としては、次のようにすることが考えられます。
前項の規定にかかわらず、在宅勤務(在宅勤務を終日おこなった場合に限る)が週4日以上の場合の通勤手当については、毎月定額の通勤手当は支給せず、実際に通勤に要する往復旅費の実費を、給与支給日に支給する。
テレワーク実施による通勤手当と税金との関係
テレワークの実施により、通勤手当は税務上ではどのように扱われるのでしょうか。まず、国税庁の取り扱いの原則を確認し、次いで実際の取り扱いを考えましょう。
1. 原則、通勤手当は一定の範囲までは非課税となる
通勤手当についての国税庁の定めは次の通りとなっています。[注2]役員や使用人(一般社員)に通常の給与に加算して支給する通勤手当や通勤定期券などは、一定の限度額まで非課税です。
電車やバスだけを利用している場合
非課税となる限度額は、通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして、最も経済的かつ合理的な経路及び方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額です。電車やバスなどのほかにマイカーや自転車なども使って通勤している場合
次の(1)(2)の合計額までが非課税です。(1)電車やバスなどの交通機関を利用する場合の1カ月の通勤定期券などの金額
(2)マイカーや自転車などを使って通勤する片道の距離で決まっている1カ月当たりの非課税となる限度額この非課税限度額については、電車やバスなどだけ利用している人なら、1カ月当たりの合理的な運賃等の額(最高限度150,000円)とされています。
2. 実際の取り扱いはどう考えるべきか
在宅勤務と出社(オフィス勤務)が併存している場合の勤務形態が実際には一番多いと思われます。一定の合理性を持って、通勤手当が定められているのであれば、実際の出社日数以下を問わず、前述した月15万円の限度以下のケースであれば非課税と考えられます。
非課税になるかは、合理的な決め方であるかどうかで判断されるのであり、実際の出社状況で判断されるものではありません。
次に、在宅勤務を原則とする場合は会社への通勤はおこなわないはずであり、仮に通勤手当を支給していても非課税にはならないでしょう。とはいえ、原則が在宅勤務であれば、通勤手当を支給することは通常は考えられないでしょう。
このような場合は、仮に出社が必要なときだけ必要な交通費実費を実費精算して支給することが考えられます。先に示したテレワークモデル就業規則の定め方であれば、このような場合も通勤手当の計算の仕方として「実際に通勤に要する往復旅費の実費」としており、通勤手当として取り扱えるので、混乱することがないと思います。
テレワーク実施による通勤手当と社会保険との関係
社会保険料や労働保険料などの算定基礎となる「報酬及び賞与(以下、報酬等」や「賃金」は、健康保険法、厚生年金保険法及び労働保険徴収法では、賃金、給料、手当、賞与そのほかいかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受ける全てのものとされています。
これにより、標準報酬月額を算定する事になります。テレワーク対象者が一時的に出社する際に要する交通費(実費)については、次のような取り扱いが定められています。[注3]
1. 当該労働日における労働契約上の労務の提供地が自宅の場合
労働契約上で、当該労働日の労務提供地が自宅とされている場合です。業務命令により企業等に一時的に出社が命じられたが、交通費等の実費を企業が負担する場合には、この費用は原則として「実費弁償」と認められます。
すなわち労働の対償ではありません。従って、社会保険料や労働保険料等の算定基礎となる報酬等・賃金には含まれません。
2. 当該労働日における労働契約上の労務の提供地が企業とされている場合
当該労働日は企業のオフィスで勤務する事となっています。自宅からオフィスに出社するための交通費については、原則として「通勤手当」として報酬等・賃金に含まれるので、社会保険料・労働保険料等の算定基礎に含まれます。この部分が税務上の取り扱いとは異なることになります。
テレワーク中の労務管理について、こちらの記事でも詳しく解説をしています。
テレワーク実施前に通勤手当についてよく検討しよう
テレワークについては、各社とも、今後、拡大するかどうか、対象者をどうするか、週に何日程度が妥当なのかなど、さまざまな試行錯誤を続けていることと思います。各種の手当のなかでも、通勤手当はテレワークの進捗の具合によりある意味では真っ先に影響が出る問題です。
本稿では、今後の臨機応変な対応に備えた就業規則の定め方をベースに、通勤手当の基本的な取り扱いをまとめて紹介しました。なお、在宅勤務とサテライトオフィス勤務を組み合わせるといったさまざまな働き方も実際に出てきています。
それぞれの会社の実態に合わせて、柔軟な働き方に対応できるように、通勤手当をはじめ、諸手当の取り扱いを整理しておく必要があるでしょう。
[注1]テレワークモデル就業規則~作成の手引き〜|厚生労働省
[注2]タックスアンサー(よくある税の質問)|国税庁
[注3]テレワークを導入した際の交通費や在宅勤務手当は社会保険料・労働保険料等の算定基礎に含めるべきでしょうか?|テレワーク総合ポータルサイト