テレワークでは、社員が自宅など離れた場所で仕事をしています。直接社員に対面する機会が減るため、社員の健康管理にも注意が必要です。 なお、テレワークには「在宅勤務」「サテライトオフィス勤務」「モバイル勤務」の3種類があります。 とくに注意すべきは、在宅勤務です。 私生活の場で業務をおこなうだけに、通常のオフィス勤務と異なる配慮が必要になるからです。 この記事では在宅勤務を中心に説明します。
目次
テレワーク環境下でこそ社員の健康管理が重要な3つの理由
テレワーク勤務、とりわけ在宅勤務の下でこそ、会社は社員の健康管理に十分な注意を払う必要があります。その理由は次の通りです。
1. 労働基準関係法令はすべて適用される
在宅勤務で家庭が就業の場所となっても、就業の場所である以上、労働基準関係法令はすべて適用されます。労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などです。たとえば「労働時間の適正把握義務」は在宅勤務であっても、管理者の当然の義務です。
在宅勤務中に業務に起因する傷病が発生すれば、会社は安全配慮義務違反を問われることになります。さらに、労働災害に該当するならば労基署に届出をし、社員が労災補償給付を受けられるように対応しなければなりません。
2. 家庭に作業環境が整っていない可能性が高い
在宅勤務の場となる家庭は私生活の場所です。業務にふさわしい環境が整っていることの方が少ないでしょう。
作業環境整備が整っていないまま在宅勤務を進めた場合、社員の健康を損ねてしまう可能性があります。厚生労働省などがまとめた、次の図解を確認のうえ、作業環境整備に配慮することが大切です。[注1]
3. 社員の心身の健康悪化に会社が気付きにくくなる
テレワークでは、社員の心身の健康に問題が生ずることがあります。ところが、オフィスと離れた場所で仕事をしているため、上司や同僚などが本人の不調になかなか気がつかないことがあります。そのため、通常のオフィス勤務以上に、社員の健康状態への注意が必要になります。
テレワーク環境下で陥りがちな社員の健康状態の悪化
テレワークは、オフィスから離れた場所での就業形態です。オンオフが難しい環境や、孤独での業務、評価への不安、不摂生の増長などから心身の悪化を招く人もいます。以下で代表的な例をいくつか紹介します。
1. 体の不調
まず、考えられるのは体調不良です。長時間、PC端末などを操作することによる、腰痛、肩こり、眼精疲労、腱鞘炎などの直接的な問題だけではありません。運動不足、不規則な食事、酒・たばこなどの摂取量の増加などによる生活習慣病などの問題、すなわち肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病なども考えられるでしょう。
また、労働時間管理が行き届かないまま長時間労働に陥ると、睡眠不足や不規則な生活につながり、体調の不良をもたらしかねません。
2. こころの不調
続いて、こころの不調も考えられます。仲間と離れて、孤立感を募らせていくと、不眠や不安、食欲不振、ストレスを感じるといった社員が出てくるかもしれません。これまでのように、上司や同僚と意見交換などをしながら協働して仕事するのでなく、1人で自律的に働く必要に迫られ、大変なプレッシャーを感じるという人もいるでしょう。
また、職場環境の悪化(ハラスメント)の問題も注意が必要です。最近では「リモートハラスメント」という新しい問題が注目されています。画面の向こうの社員への不用意な一言がセクハラ、パワハラなどに該当したり、過度な監視が社員のプレッシャーになったりします。これらさまざまな問題からテレワークに起因するうつ病(テレワークうつ)が引き起こされることもあります。
3. 労働災害もさまざまなかたちで生じ得る
テレワークといえど、労働災害もさまざまなかたちで生じえます。体の怪我や病気のみならず、精神疾患などのこころの病気も起こりうるのです。代表的な労働災害を例に紹介をしましょう。
怪我
たとえば、自宅でのテレワーク中、トイレに立ったあと作業場所の椅子に座ろうとして転倒して怪我を負ったとします。この場合、労災にあたるのでしょうか。答えは、労災になります。なぜなら、業務中に通常必要な行為によって怪我をしたからです。このようなことも踏まえ、企業には、在宅勤務中の労災事故防止のための十分な配慮が求められます。[注2]
精神疾患
テレワークが長期化するなかで「やる気が出ない」「気持ちが休まらない」「上司の評価が気になる」といった気持ちが募っていくことがあります。これは「オン・オフの切り替えが難しい」というテレワークならではの働く環境や「誰も助けてくれない」という従業員同士の距離感など、さまざまな要因が考えられます。
また、新型コロナウイルス関連のネガティブなニュースにもさらされ、こころの不調が深刻化していきくことさえあります。たとえば、気分が晴れない、不安や心配がつきまとう、仕事への意欲や集中力が低下する、よく眠れないなどが、こころの不調から現れる症状です。
これらの症状が業務に起因すると判断されれば、労働災害と認定される可能性もあります。軽症の場合、周りの人がこころの不調に気づきにくいこともあり、重症になってから会社に報告が入るということも少なくありません。
社員の健康管理を目的とした労働安全衛生法とは
社員の健康管理を目的とした、労働安全衛生法の「安全配慮義務」について紹介します。労働安全衛生法は、労働災害の防止の体制整備や、労働者の安全と健康の確保、快適な職場環境形成を目的とする法律です。[注3]テレワークを導入する場合にも注意しておきたい箇所がありますので、以下で詳しく解説します。
1. 安全配慮義務には社員の健康配慮義務・職場環境配慮義務なども含まれる
労働安全衛生法第3条1項では、安全配慮義務が明文で定められています。
(事業者等の責務)
第三条 事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。
会社として、社員が怪我をしたり、病気になったりしないように注意しているだけでは足りません。快適な職場環境を実現し、労働条件の改善を図るため、会社として最善の努力をしなければならないという義務です。
すなわち、安全配慮義務には社員の健康に配慮しなければいけないという「健康配慮義務」と、さらに「ハラスメントなどで職場環境が害されないようにする」という「職場環境配慮義務」も含まる、と考えられています。
2. 安全配慮義務はテレワークのなかでとりわけ重視しなければならない
前項で示したようにテレワークでは、社員の心身の健康状態の悪化が起こる可能性があります。また、ハラスメントにより心身に不調をきたすこともあり得ます。健康配慮義務、職場環境配慮義務など、テレワークの場でこそ、会社として十分な配慮を求められます。
テレワークの健康管理で企業がおこなうべきケア
テレワーク環境下での健康管理として、企業はおこなうべきケアとしては、厚生労働省の示している「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」や「こころの耳」の活用が挙げられます。また、社員のコンディションを管理・解析できるマネジメントツールの活用も効果的です。以下で3つの項目に分けて紹介します。
1. まずは、厚生労働省のチェックリストを活用しよう
厚生労働省では、新型コロナウイルス感染拡大のもとでテレワークが急進展してきたことから、2021年3月にテレワークについてのガイドラインを改定しています。[注4]
そのなかで、事業者向け及び労働者向けの安全衛生確保のためのチェックリストも示しています。主な項目は次の通りです。
少なくとも、このようなチェックリストは、管理者や社員に示して活用すべきです。
- 社員の健康相談体制を整備する
- 社員への安全衛生教育を徹底する
- 自宅などの作業環境を整える
- 健康診断を確実に実施する
- メンタルヘルスの対策をおこなう
- コミュニケーションの活性化を図る
2. 厚生労働省「こころの耳」を活用しよう
心の不調に関しては、厚生労働省が「こころの耳」というポータルサイトで役に立つ情報やツールをまとめています。[注5]
職場のメンタルヘルス対策や職場の快適度チェック、こころの耳相談窓口などが紹介されているので、社員にも紹介し、活用してください。
3. アプリの活用も考えよう
社員が自分の状態をリアルタイムで簡単にチェックでき、組織全体の状況も簡単に把握できるアプリも開発されています。このような利用しやすいアプリは、離れた場所にいる社員についても心身の健康状態を定点観測し、社員の状況、会社としての注意点をタイムリーに見つけるためにぜひ活用すべきものです。
テレワーク下の社員の健康管理は会社全体の働きやすさをもたらす
テレワーク下での社員の健康管理は、オフィス勤務の社員より難しいものです。しかし、会社の安全配慮義務として必ずやらなければなりません。
離れた場所の社員の健康管理を適切におこなえる体制を構築することは、会社の健康管理の体制の問題点を浮き彫りにし、全社的な改善の一歩となるでしょう。
さらには、管理職の部下管理能力の育成にも大きな効果が期待できます。テレワーク下の社員の健康管理を貴重な機会として、大切に生かす会社こそ新型コロナウイルスのなかでも未来を築いていくことができるのです。
[注1]自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備|厚生労働省
[注2]テレワーク導入ための労務管理等Q&A集|厚生労働省
[注3]労働安全衛生法|e-Gov法令検索
[注4]テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン|厚生労働省
[注5]こころの耳|厚生労働省