業務効率化や長時間労働に対する課題意識の高まりにより、「労働生産性をいかに向上するか」に注目が集まっています。
企業内で「働き方改革」を進めるにあたって、今までよりも労働生産性を意識する機会が増えたのではないでしょうか。
今回は、社員の労働生産性を向上するために何ができるか、そのポイントについてまとめました。
労働生産性とは
労働生産性とは、「従業員1人当たり、または1時間当たりに生み出す成果」を表した指標です。
そもそも「生産性」とは、投入資源と産出の比率を意味し、「投入した資源に対して産出が大きいほど生産性が高い」ということになります。
つまり、労働生産性とは「労働の成果(産出)」を「労働量(投入資源)」で割った値です。
従業員の成果を上げるためにかかった労働量を数値化した値になるので、従業員自身のスキルアップや業務の効率化、さらに経営効率の改善のための指標となります。
なお、労働生産性と同じような意味で使われている言葉に「業務効率化」がありますが、これは、業務の中から無理・無駄・ムラを取り除いて業務を効率的に進めていくという意味です。労働生産性とは違い、生産性を増やすことを目指すという意味の言葉ではありません。業務効率化は、生産労働性向上という目的を達成するための手段の1つと考えるとわかりやすいでしょう。
労働生産性の種類
労働生産性は、成果(産出)を何で表すかによって2つの種類に分かれます。
物理労働生産性
産出の対象を「生産量」や「販売金額」として置いた指標
付加価値労働生産性
産出の対象を「付加価値額(新たに生み出した金銭的な価値)」として置いた指標
国際比較における日本の労働生産性ランキング
国際的には、労働生産性は「付加価値労働生産性」で測られることが多くなっています。
この場合の付加価値とは「GDP(国内総生産)」のことであり、労働生産性は「GDP/就業者数(または就業者数×労働時間)」となります。
交易財団法人・日本生産性本部が発表している「労働生産性の国際比較2019」によると、アイルランド(1位)、ルクセンブルク(2位)が上位となっています。
日本の労働生産性が低い理由
日本の労働生産性が低い理由としては、以下のようなことが考えられます。
- 国際社会における労働生産性はで測られるため
- 長時間労働が当たり前になっているため
- 勤務時間が給与のベースになっているため
- デジタル化の遅れ
- 従業員のモチベーションが低下しているため
日本では、「仕事が終わらなければ、長時間働いて終わらせればいい」という考えが根強く残っています。長時間働くことで従業員のパフォーマンスは低下し、労働生産性も下がるという悪循環が続いてしまうのです。
労働生産性を下げる要因は複数あります。労働生産性を上げるためには、さまざまな角度から対策を講じなければならないことがおわかりいただけるでしょう。
労働生産性を上げるメリット
労働生産性を上げると、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
まずは、人材不足の解消につながります。すでにどの業界でも人材不足が問題になっており、今後ますます人材の確保が難しくなるでしょう。
このような状況下においても労働生産性の向上に取り組まなければ、企業の存続すら危うくなってしまうかもしれません。
また、労働生産性の向上は、労働力の削減につながります。削減した人件費は、新規事業への投資や従業員に対する報奨金など、より労働生産性を高めるための施策に使用することも可能です。
労働生産性の向上は、従業員にも恩恵があります。残業や休日出勤が減ってプライベートな時間が確保でき、仕事も私生活も充実させることができるでしょう。
労働生産性の計算式と事例
労働生産性の計算式をまとめると、次のようになります。
- 物理労働生産性
=生産量/労働力(1人当たり or 1時間当たり) - 付加価値労働生産性
=付加価値額/労働力(1人当たり or 1時間当たり)
※付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費(≒粗利益)
労働生産性を計算し正しく測定するためには、まず「生産量などの物的な要素を対象とするのか」「付加価値(≒粗利益)を対象とするのか」を決める必要があります。
次に「労働者1人当たりに対して測定するか」「労働時間に対して測定するか」も明確にする必要があります。
<ある工場で5人の従業員が8時間で100個の商品を製造したとする>
- 労働者1人あたりの物的労働生産性:20個
- 労働者1人1時間あたりの物的労働生産性:2.5個
<ある工場で5人の従業員が8時間で製造した商品の売上金額が300,000円、原材料費などの外部購入品が150,000円だった場合>
- 付加価値額:150,000円
- 労働者1人あたり付加価値労働生産性:30,000円
- 労働者1人1時間あたりの付加価値労働生産性:3,750円
業種別/企業規模別での労働生産性の違い
労働生産性は、業界や企業規模によっても違いがあります。
それぞれについて、実際に比較してみましょう。
「業種別」に労働生産性を比較
労働生産性の高い業界と低い業界を比較すると、「資本集約型」か「労働集約型」か、という点において大きな違いがあります
資本集約型産業においては労働生産性が高くなっており、反対に労働集約型産業においては労働生産性が低くなっています。
サービス業を中心とした労働集約型産業では、付加価値・設備投資が高い水準にあるものの、人的な労働力による業務の割合が大きくなるため、労働生産性が低くなってしまいます。
しかし、実際には無人コンビニといった業務の機械化により労働生産性が向上している例も出てきているため、今後は大幅な労働生産性向上が進むと予測されます。
「企業規模別」に労働生産性を比較
労働生産性は、企業規模、および製造業か非製造業かによっても異なります。
製造業 | 非製造業 | |
大企業 | 労働生産性が高い | 労働生産性が低い |
中小企業 | 労働生産性が低い | 労働生産性が高い |
製造業においては、大企業の方が中小企業と比較して労働生産性が高いものの、非製造業においては中小企業の方が労働生産性が高くなります。
中小企業で非製造業の企業の中には、設備投資を積極的におこなうことで労働集約型産業からの脱却を図っている様子が見受けられます。
労働生産性を上げるにはどうすればいい?
ここまで労働生産性の概要や業界・企業規模別での違いについて見てきました。それでは、実際に労働生産性を向上するためにできることはどのようなことでしょうか。
そのポイントについて、6つまとめて説明します。
<1>労働生産性の目安と現状を知る
まずは、現時点でのける自社の労働生産性を把握しましょう。算出方法は先ほど紹介した「労働生産性の計算式と事例」を参考にしてください。
なお、自社の労働生産性が高いか低いかを知るために、公益財団法人日本生産性本部が公表する「日本の労働生産性の動向 2021」から労働生産性の目安となる値を紹介します。
- 2022年度の日本の時間当たり名目労働生産性(就業1時間当たり付加価値額):5,110円
- 2022年度の日本の一人当たり名目労働生産性(就業者一人当たり付加価値額):836万円
<2>社員1人ひとりの業務を見える化
「業務が適切に振り分けられているか」「優先順位が低い業務をしていないか」「いつまでにその業務を終わらせるのか」といった状況が見えるようになることで、社員の業務の無駄を削減できます。
また、長時間労働の是正も期待できるため、労働投入量を抑えることも可能です。
社員1人ひとりの業務を適切に把握・管理することで、労働生産性は向上するでしょう。
<3>業務の標準化をおこなう
同じ業務をおこなうメンバーがいる場合、各自のやり方が異なれば、ミスが発生したり、品質にばらつきが出たりしてしまいます。
業務が属人化されたままだと、退職や異動で引継ぎの際にも混乱してしまうことでしょう。
マニュアルやルールを設定することで業務を標準化することで、製品やサービスの品質向上と効率化が同時に実現できます。
<4>積極的な技術利用
先ほど、日本の労働生産性が低い理由の1つに、デジタル化の遅れがあることを解説しました。
労働生産性を向上するために、IT技術を利用することで労働投入量を少なくすることも可能です。
RPA(Robotic Process Automation)のように、パソコンでおこなう定型業務をプログラム上のロボットに覚えさせ自動化することで、人の手で数時間かかっていた作業を一瞬で終わらせることもできます。
その空いた時間で、別のコア業務に集中することができるので、全体的な労働生産性の向上につながるでしょう。
また、従業員エンゲージメントを調査することも有効です。自社に対して愛着を持ち、貢献したいという気持ちを強く持つ従業員ほど、労働生産性が高くなる傾向にあります。エンゲージメントの計測をデジタル化することも、労働生産性を上げるための1つの手段となり得るでしょう。
<5>各個人のスキルアップ
各個人のスキルアップによる労働生産性向上も考えておくべきでしょう。
さまざまな業務が機械に置き換わる可能性がある現在ですが、人がやらなければできない業務もまだ数多くあります。
また、IT技術の利用に際しては費用が掛かってしまうことも多いため、社員教育などを通じて、各個人のスキルアップをおこなうことも必要になってきます。
個人のスキルが高くなれば、作業スピードも上がるため、大きなコストを掛けずに自然と労働生産性も高まります。
スキルアップのための社員教育は、一度教えたらそれきりというのではなく、習熟度に応じたフォローアップ研修や、勉強会などを定期的に実施するといいでしょう。
<6>さまざまなワークスタイルの許容
最近では、新型コロナウイルス感染症の影響により各企業でリモートワークといった働き方が急速に普及しました。
インターネット環境を整備することができれば、時間や場所を問わず、いつでもどこでも仕事をすることが可能になりつつあります。
現在では、法人用のコワーキングスペース、駅などに設置できるBOX型のワークスペースなど多様なサービスも登場しています。
今回のリモートワークやフレックスタイム制のように、ワークスタイルの自由度を高めることによって社員満足度を向上することが生産性向上につながるケースもあります。
企業にとって労働生産性の向上は避けられない喫緊の課題
労働生産性の概要や労働生産性を向上させるためのポイントについてご紹介しました。
先行きが不透明な状況が続き、経済、企業も大きく打撃を受けている中ではありますが、このような時こそ社員1人ひとりが自身の労働生産性を高め、成長していくことが必要不可欠になります。
労働生産性を向上できるように、各企業でもさまざまな施策をおこなってみてください。
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