昇格試験とは、職能資格制度を導入している企業で、昇格の可否を判断するために実施される試験のことです。
昇格試験の内容や判断基準は会社によって異なります。そのため「試験内容は何にすれば良いのか?」、「具体的な判断基準が知りたい」と悩む人も多いでしょう。
本記事では、昇格試験の実施目的や試験内容、昇格の判断基準となるポイントを解説します。
最後まで読むと昇格試験の必要性や実際の試験内容、試験を実施する際の判断基準を把握できるでしょう。
人事評価制度は、健全な組織体制を作り上げるうえで必要不可欠なものです。
制度を適切に運用することで、従業員のモチベーションや生産性が向上するため、最終的には企業全体の成長にもつながります。
しかし、「しっかりとした人事評価制度を作りたいが、やり方が分からない…」という方もいらっしゃるでしょう。そのような企業のご担当者にご覧いただきたいのが、「人事評価の手引き」です。
本資料では、制度の種類や導入手順、注意点まで詳しくご紹介しています。
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目次
1. 昇格試験とは
昇格試験とは、職能資格制度を取り入れている企業において、昇格の可否を判断するために実施される試験のことです。
1年に複数回おこなわれるため、1度不合格になった人でも再挑戦することが多いでしょう。しかし、受験回数に制限を設けている会社もあります。
また、昇格試験の種類はさまざまで会社によっても異なります。いくつかの試験を通して合否が決定するケースが一般的です。
1-1. 職能資格制度とは
職能資格制度とは、従業員のスキルや経験に応じて等級を決める仕組みのことです。等級が上がることを昇格と呼び、基本的にはスキルを習得したり、経験を積んだりすると等級が上がります。等級が上がることで、より大きな仕事を担当できるようになり、基本給が上がるケースも多いでしょう。
勤続年数が長くなることで等級が上がるケースも多く、年功序列を前提とするような安定して働ける職場環境を構築できます。ただし、昇格の基準が曖昧であったり勤続年数のみで判断したりすると、従業員の納得感を得られず、モチベーションが低下する可能性もあるでしょう。
1-2. 多くの企業で昇格試験が実施されている理由
日本における多くの企業では、職能資格制度を前提とした昇格試験が実施されています。終身雇用や年功序列といった安定的な雇用体制と、職能資格制度がマッチしているからです。
職能資格制度においては、昇格試験に合格して等級が上がれば基本給が上がっていき、等級が下がることは基本的にありません。従業員としては長く安心して働けるため、日本の文化に適した制度として多くの企業において採用されてきました。ただ、若手の従業員が不満を感じるケースもあるため、別の制度を導入する企業も増えてきています。
2. 昇格試験と昇進試験の違い
昇格試験と昇進試験は、以下のようにそれぞれ試験を実施する目的が異なります。
昇格試験 |
職能資格制度を導入している企業で、従業員の等級が上がる際に実施される試験 |
昇進試験 |
「課長から部長」のように、社内で職位が上がる際に実施される試験 |
昇格試験に合格すると必ず昇進できるわけではなく、会社の状況や判断によって決定されます。
昇格試験や昇進試験は人事評価制度の一部です。昇格試験の対象者はどのような評価の従業員とするか、ベースとなる従来の評価はどのような基準で設けるかなど、昇格の制度を決めるためには、その前段階として決めなければならない項目があります。
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3. 昇格試験を実施する目的
昇格試験を実施する目的は、以下の通りです。
- 従業員の適性を見極めるため
- 評価の公平性を保つため
- 従業員のスキルアップを促すため
それぞれの目的について簡単に確認しておきましょう。
3-1. 従業員の適性を見極めるため
従業員の適性を見極めることは、昇格試験を実施する大きな目的です。昇格する人には、成果を上げる力以外にもマネジメント力やリーダーシップ力が必要になります。
たとえば、安定して成果を出していても、信頼関係を築き周囲を率いる力がなければ、昇格後に部下の育成を担当させられません。
そのため、昇格後に必要な能力も備わっているか、昇格に値する人物か試験を通して適性を見極めることが重要でしょう。
3-2. 評価の公平性を保つため
評価の公平性を保つことも昇格試験を実施する目的のひとつです。普段は直属の上司によって仕事を評価されることが多いのですが、直属の上司だけでは評価が偏ることもあり得ます。
そのため、従業員が公平に評価される意味でも、客観的な基準に沿って評価できる昇格試験の実施が必要です。
3-3. 従業員のスキルアップを促すため
昇格試験を実施することで、従業員のスキルアップを促せます。従業員が昇格試験を意識するようになれば、1つ上の等級を目指すために積極的に仕事に取り組んだり、新しいスキルを習得したりするでしょう。
また、それぞれの等級に上がるための基準を明確にしておけば、どのような努力が必要なのか、会社はどのような能力を求めているかを把握でき、努力する方向性がわかりやすくなります。従業員を効率よく育成するため、職能資格制度や昇格試験を導入している企業も多いでしょう。
4. 昇格試験の内容
昇格試験は1つだけではなく、いくつかの種類があります。
基本的な試験は小論文・適性検査・面接の3つですが、以下のように語学試験やプレゼンテーションが実施されることもあります。
- 小論文
- 適性検査
- 面接
- 語学試験
- プレゼンテーション
- アセスメントセンター
それぞれの試験の詳細は以下の通りです。
4-1. 小論文
小論文では、知識や説明能力の有無、論理的思考力などを持っているかを判断します。小論文のテーマは企業によって幅広いですが、主なテーマは以下の通りです。
- マネジメントについての課題
- リーダーシップに関わること
- 職場の課題やコンプライアンスについて
- コミュニケーションの活発化に関わること
- ワークライフバランスについて
各テーマに沿って、自分がするべき行動などを書かせるケースが一般的です。普段から問題解決のためにどのような行動をとるか考えている人は、試験当日もスムーズに文章を書けるでしょう。
4-2. 適性検査
適性検査では思考力や性格をチェックし、昇格に適した人材か否か判断します。
主な適性検査は以下の2つです。
- 能力適性検査
- 性格適性検査
能力適性検査では学力や思考力、言語力などが求められる問題が出題されるため、受験者は事前対策が可能です。
性格適性検査では人柄や個性を見ることにより、リーダーシップの有無や仕事への適性を判断します。能力適性検査とは異なり、受験者は事前対策ができない点が特徴です。
4-3. 面接
多くの企業は、昇格試験の1つに面接を実施します。
面接では以下のような質問をし、意欲や熱意、昇格に必要な能力が備わっているかなどをチェックすることが多いです。
- リーダーシップをどのように発揮するのか
- 仕事をするときに重要視していることは何か
- 所属する部署の課題と解決方法はあるか
- マネジメントに必要なことは何か
- コミュニケーションのとり方はどうしているか
面接では、わかりやすく説明する力も見る必要があります。部下に指示する際に簡潔に伝える力がなければ、認識の齟齬が生じることになりかねません。
そのため、質問の受け答えのほかに説明の仕方にも注目しましょう。
4-4. 語学試験
企業によっては、昇格可否を判断する試験のひとつとして語学試験を導入しているケースがあります。
近年外国人の雇用が増えていることを踏まえ、管理する側にとっても必要なスキルになりつつあることは明らかです。なかには英語だけでなく、中国語などの語学力が必要な場合もあります。
4-5. プレゼンテーション
昇格試験のひとつとして、プレゼンテーションを取り入れている企業もあります。昇格試験の対象者には、テーマに沿って資料を作成してもらい、試験当日に内容を発表してもらいます。プレゼンテーションを通して、説明力や資料作成スキル、問題解決能力などをチェックできるでしょう。
4-6. アセスメントセンター
アセスメントセンターとは、従業員の能力をさまざまな視点から評価するための試験です。主に、リーダーや管理職の候補者に対する試験として実施されます。
具体的には、特定の職務場面を想定したシミュレーションをおこない、対象者の行動や言動、考え方をチェックします。実際に起こりうるトラブルや課題を想定することで、筆記試験などでは把握できない対象者の対応力を評価することが大きな特徴です。
5. 昇格試験における判断基準
昇格試験における合否の判断基準は企業が求める人材によっても異なりますが、主な基準は以下の通りです。
試験内容 |
判断基準 |
小論文 |
・論理的思考力 |
適性検査 |
・決断力や行動力の有無 |
面接 |
・コミュニケーション力があるか ・成長意欲があるか |
5-1. 小論文の判断基準
小論文での合否の判断基準は、以下の通りです。
- 論理的思考力
- 表現力
まず論理的思考力を基準に判断しましょう。論理的思考力がなければトラブルが起きた際に解決できず、認識の違いも起きやすくなります。そのため仮説を立て、自ら解決に導ける思考力を持てるか判断すると良いでしょう。
次に表現力があるかどうかも判断基準になります。表現力がなければ相手に自分の考えをわかりやすく伝えられません。社内会議や商談など、さまざまな場面で必要な能力のため、受験者に備わっているかチェックしましょう。
5-2. 適性検査の判断基準
適性検査の判断基準は以下の通りです。
- 決断が早く、思いついたことをすぐ行動に移す人
- 自分の意見を持ちながらもほかの人の意見を聞ける人
- 常に身の回りの整理整頓ができている人
5-2-1. 決断が早く、思いついたことをすぐ行動に移す人
決断が早く、思いついたことをすぐ行動に移せる人かどうかが判断基準となります。とくに、トラブルなど不測の事態が起きた際には、素早く決断する力がなければいけません。
部署で意見がまとまらなかった際など、話し合いのなかで決断力のある人がいれば、円滑に話が進みます。
5-2-2. 自分の意見を持ちながらもほかの人の意見を聞ける人
自分の意見を持ちながらも、ほかの人の意見を聞けるかどうかも判断基準の一つです。
普段から仕事について問題解決の意識がなければ、自分なりの考えを持てません。そのため自分の意見を持っている人は、問題解決能力も備わっている可能性が高いです。
他人の意見も素直に受け入れ、ときには聞き役になれる人が昇格に適しているでしょう。
5-2-3. 常に身の回りの整理整頓ができている人
常に身の回りの整理整頓ができるかを基準に判断しましょう。仕事環境が整理されているかは本人の作業効率に影響します。
たとえばデスクの上が散らかっていたり、PCのデータを整理していなかったりすると効率の良い仕事ができません。一方できちんと環境が整っている場合は、必要なものや情報を管理できており、仕事効率が高いです。
探したい書類やデータがあれば、素早く見つけられる状態にしているかチェックしましょう。
5-3. 面接の判断基準
面接の判断基準は、以下の通りです。
- 積極的にコミュニケーションし、自ら情報を取りにいく姿勢を持っている人
- 常に向上心があり、成長しようとする姿勢を持っている人
- 限られた時間で仕事ができるように、効率の良さを重視している人
5-3-1. 積極的にコミュニケーションし、自ら情報を取りにいく姿勢を持っている人
積極的にコミュニケーションし、自ら情報を取りにいく姿勢を持っているかを基準にして判断しましょう。
部署内でも会話がなければ、信頼関係を築きにくく仕事を円滑に進められません。業務上の報告だけではなく、気さくに雑談ができるコミュニケーション力を備えていると良いです。
5-3-2. 常に向上心があり、成長しようとする姿勢を持っている人
次に常に向上心があり、成長しようとする姿勢を持っているかが判断基準となります。具体的には、仕事をするうえで学ぶべきことはあるか考え、悩みがあれば解決しようと模索できているか見ると良いでしょう。
成長意欲のある人が近くにいることで、ほかの人のモチベーションも上がる可能性があります。
5-3-3. 限られた時間で仕事ができるように、効率の良さを重視している人
限られた時間で仕事ができるように、効率の良さを重視しているかどうかを基準として判断しましょう。効率的に仕事を進められる人でなければ、短時間で終わらせられる仕事に多くの時間を費やす可能性があります。
積極的に新しい方法を取り入れ、効率の悪い方法を改められる人を選ぶと良いでしょう。
6. 昇格試験を実施する際のポイント
昇格試験を実施する際のポイントは、以下の通りです。
- 主観的にならず、さまざまな観点から評価する
- 評価プロセスの透明性を確保する
- 昇格試験の結果を受験者にフィードバックする
それぞれのポイントについて順番に見ていきましょう。
6-1. 主観的にならず、さまざまな観点から評価する
昇格試験を実施するときは、主観的にならず、さまざまな観点から評価することが大切です。主観的に評価すると適性のある従業員を昇格させられない可能性があります。また、従業員が評価結果に納得できない可能性もあります。
昇格試験では小論文などさまざまな試験を実施するため、試験を通して幅広い観点から評価することが大切でしょう。
6-2. 評価プロセスの透明性を確保する
評価プロセスの透明性を確保することも重要です。従業員に対して、どのような基準で評価されるのかを伝えておけば、普段から昇格に向けて適切な努力をすることができます。
また、評価プロセスが不透明な場合、昇格試験の結果に納得できず、従業員から不満の声が出る可能性もあるでしょう。とくに評価基準については従業員へ周知しておき、不満の発生やモチベーションの低下を防止することが大切です。
6-3. 昇格試験の結果を受験者にフィードバックする
昇格試験の結果は、受験者にフィードバックしましょう。とくに不合格者にフィードバックしなければ、意欲の低下を引き起こす可能性もあります。
今後も従業員が成長していけるように、結果だけではなく、なぜ不合格だったのかを丁寧に伝えましょう。
7. 昇格試験を通して従業員のスキルアップを促そう!
今回は、昇格試験の目的や具体的な方法を紹介しました。昇格試験の方法としては、小論文・面接・適性検査などが挙げられます。企業によっては、プレゼンテーションや語学検査などを実施するケースもあるでしょう。どの試験をおこなうべきかは職種や業種によって異なるため、自社に適切な試験方法を選ぶことが大切です。
また、昇格試験を実施するときは、客観的な評価を心がけ、試験結果を従業員へフィードバックしましょう。丁寧なフィードバックにより、従業員のモチベーションアップやスキルアップを促すことが重要です。
人事評価制度は、健全な組織体制を作り上げるうえで必要不可欠なものです。
制度を適切に運用することで、従業員のモチベーションや生産性が向上するため、最終的には企業全体の成長にもつながります。
しかし、「しっかりとした人事評価制度を作りたいが、やり方が分からない…」という方もいらっしゃるでしょう。そのような企業のご担当者にご覧いただきたいのが、「人事評価の手引き」です。
本資料では、制度の種類や導入手順、注意点まで詳しくご紹介しています。
組織マネジメントに課題感をお持ちの方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご確認ください。