多面評価とは、被評価者の上司・同僚・部下など、複数の関係者から評価を受ける方法です。上司からの一方的な評価ではなく、立場の異なる関係者から評価を受けることで客観性を高めることが可能です。
なお、導入時は多面評価を取り入れる目的を明確にする、被評価者の行動を評価する評価項目を設定するなどのポイントがあります。
この記事では、多面評価とは何か、メリット・デメリット、導入するときのポイントなどを解説しますのでぜひ参考にしてください。
人事評価制度は、健全な組織体制を作り上げるうえで必要不可欠なものです。
制度を適切に運用することで、従業員のモチベーションや生産性が向上するため、最終的には企業全体の成長にもつながります。
しかし、「しっかりとした人事評価制度を作りたいが、やり方が分からない…」という方もいらっしゃるでしょう。そのような企業のご担当者にご覧いただきたいのが、「人事評価の手引き」です。
本資料では、制度の種類や導入手順、注意点まで詳しくご紹介しています。
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目次
1. 多面評価とは?
多面評価(360度評価)とは、直属の上司や人事部門だけでなく、同僚や部下など、多方面から評価する方法です。
社員と関係のあるさまざまな立場の関係者が評価することで、より的確に社員の行動特性や能力を評価でき、公平性を保つうえでも役立ちます。
なお、多面評価はもともと、能力開発の方法として誕生しました。そのため、人事評価・人材育成、どちらのシーンでも利用できますが、人材育成に活用するときはフィードバックをおこなうことで社員の成長を促します。
2. 多面評価に注目が集まっている背景
多面評価を取り入れる企業が増えている背景には、人事評価や働き方、企業を取り巻く環境の変化などが挙げられます。
2-1. 成果主義の人事評価
近年、企業は年功序列制度から、社員の業績や成果を重視する成果主義へと評価制度を移行しています。長く勤めているだけで成果を残していない社員を優遇することは、若く有能な社員のモチベーション低下につながってしまいます。
そのような事態を防ぐために求められているのが、社員一人ひとりの能力や成果を客観的に評価できる方法です。多面評価は、その適切な手段として重要視されています。
2-2. リモートワークの増加
コロナ禍以降のリモートワーク普及によって、社員の働き方は大きく変化しています。このような環境下において、社員の業績や能力を把握することが従来より難しくなっていることは否めません。
そのため、上司のみならず同僚や部下からの多面的な評価を通したほうが、社員の成果や努力などを適切に把握できると考えられています。
2-3. 人材の多様化とニーズの変化
企業を取り巻く環境は常に変化しているため、人材の多様化や個々のニーズをキャッチし続け、柔軟に対応する必要があります。多面評価では社員のスキルや成果のみならず、日頃のコミュニケーションや周囲に与える影響といった、複数人の視点によるさまざまな側面からの評価が可能です。
評価を通して組織における重要な要素が浮き彫りになるため、上層部は、現場で何が求められているのかを把握しやすくなるでしょう。
3. 多面評価のメリット
多面評価のメリットとして、評価の公平性を保てること、社員が客観的に自分を理解できることなどが挙げられます。それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
3-1. 評価の公平性を保てる
多面評価は、従来のように上司からの一方的な評価ではなく、関係者から多角的に評価されるため、人事評価の公平性や客観性を高めるうえで役立ちます。また、会社としても、上司だけでは気が付かない社員の特性を理解できるため、人事異動の資料として役立てることも可能です。
3-2. 社員の自己理解が深まる
社員はさまざまな立場の人から評価されることで、自己理解を深められます。「自分の行動は常に誰かに見られている」と自覚すれば、自発的に日頃の行動や仕事に対する態度を改善する社員も増えるでしょう。
4. 多面評価のデメリット
さまざまなメリットがある一方で、評価者により評価差が生じやすく、関係者との談合により高評価を得ようとする社員が発生する恐れがあるため注意が必要です。
4-1. 評価のバラつきが出やすい
多面評価では、それまで他者の評価をしたことがない部下や同僚も評価者となります。事前に評価方法の研修や指導をおこなわないと、評価に主観が入りバラつきが出やすい点がデメリットです。
また、同僚など、立場によっては遠慮して正しい評価ができない恐れもあります。
4-2. 談合により高評価を得ようとする社員が出てくる
多面評価を昇給や昇進と結びつけると、社員同士でよい評価を付け合うように談合する、低い評価を付けた社員に嫌がらせをするなどの事態に発展するかもしれません。これらの対策を講じたうえでの導入が必要です。
評価制度にはさまざまな種類があり、上記に記載した通りそれぞれメリットとデメリットが存在します。自社の状況や抱えている課題から求める人物像を逆算し、その人物像を育成していくためにはどの評価制度が合っているのか特徴を見極める必要があります。また、取り入れる評価制度を決めるだけでなく、どのような基準で昇格や昇給をするかといった運用ルールも設けなければなりません。
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5. 多面評価の導入手順
多面評価の導入手順は以下の通りです。なお、多面評価では評価者が複数人になり管理が複雑化するため、事前に対応する人事管理システムを導入しておくとよいでしょう。
- 導入目的の明確化
- 運用スケジュールの決定
- 運用ルールの決定
- 評価者と被評価者の決定
- 評価項目の決定
- 社員への周知
- 運用・フィードバック
5-1. 導入目的の明確化
多面評価は、人事評価・人材育成のどちらにも活用できます。しかし、人事評価を目的とする場合、制度の悪用や人間関係の悪化が起こらないようにするなど、運用ルールの設定方法にも違いが生じます。
まずは、どのような目的で導入するか明確にしましょう。
5-2. 運用スケジュールの決定
多面評価の導入が決まったら、いつまでに何をするか、運用スケジュールを決定しましょう。とくに、社員への周知や、評価方法の研修などではトラブルも想定されるため、ゆとりのあるスケジュールを組むことが大切です。
多面評価の設計がある程度完了したら、人事部門でトライアル運用を実施すると、問題点を事前に把握できるでしょう。
5-3. 運用ルールの決定
多面評価は匿名式と記名式の2つの方法があります。匿名式は正確な評価を得やすい一方、評価ではなく個人への批判になる恐れがあります。
記名式は社員のコミュニケーションを活性化できますが、評価に遠慮が入る恐れがあります。これらの特徴も理解し、デメリットを克服するような運用ルールを設定しましょう。
なお、多面評価は管理職や特定の部署のみに適用するなど、範囲を限定した運用方法もあります。
5-4. 評価者と被評価者の決定
ひとりの被評価者に対し、評価者は2~10名程度選出します。立場も上司・同僚・部下など、職種によっては取引先などに評価を依頼しても問題ありません。
評価者には評価方法の研修もおこない、評価に偏りが出ないようにします。また、匿名評価の場合は、被評価者に伝わらないような方法を取らなければいけません。
5-5. 評価項目の決定
評価項目は人事評価か人材育成か、また、一般社員か管理職かによっても異なります。さらに、評価者によるバラつきを避けるよう、客観性を保てることも必要です。
5-6. 社員への周知
社員への周知では、多面評価を導入する目的、評価結果の活用方法、導入のメリット・デメリット、他者の評価方法などを伝えましょう。実際の運用まで時間があるときは、今後の導入スケジュールを共有すると社員の安心感につながります。
とはいえ、全体周知をおこなっても、社員のなかには多面評価に対する疑問や不安が残る恐れもあります。メールや電話で個別の問い合わせに対応できる環境を整えるとよいでしょう。
5-7. 運用・フィードバック
多面評価を実際に開始し評価者の評価が集まった後は、被評価者に対してフィードバックをおこないます。なお、フィードバックの方法もさまざまなものがあり、評価の平均値を共有する、評価者と被評価者が集まりミーティングをするなどが考えられます。
どのような方法でも、被評価者が長所・短所どちらも認め、今後の成長やモチベーションの向上につながることが大切です。
6. 多面評価における評価項目の例
多面評価における評価項目としては、主体性や業務遂行力、コミュニケーション能力の高さなどが挙げられます。各項目の詳細は以下の通りです。
6-1. 主体性
主体性とは、社員が自ら考え、行動し、責任を持って業務に取り組む能力です。社員には、与えられた仕事に対して能動的に取り組み、積極的に問題解決していくことが求められます。
上司からの指示を待っているだけでは、成長は期待できません。課題や変化に対して柔軟に対応していく姿勢は、目標達成に不可欠であり、評価に値するといえるでしょう。
6-2. 実行力
実行力は、計画や目標を立て、具体的な行動をもって業務を押し進める能力です。仮に優れた計画を立てることができても、実行できなければ意味がありません。
目標を明確にし、効果的な行動計画を立て、障害や困難に直面しても解決に向かって行動し続けることが重要です。
6-3. 協調性
協調性は、チームや組織内で円滑なコミュニケーションや協力関係を築く能力です。他の社員との関係を大切にし、チーム全体が成長できるように働きかけたり、困っている社員がいれば助けたりといった姿勢を指しています。
コミュニケーションの活発化はチームによい影響を与え、目標に向かって一致団結できる環境を作り出します。
7. 多面評価を導入するときのポイント
多面評価では、複数の関係者が評価するため運用に時間がかかり、管理が複雑になりがちです。また、評価項目が多すぎると評価の目的がわかりづらくなるため、30問程度に絞り込むのがポイントです。
7-1. 多面評価が適した部門か確認する
多面評価はひとりの上司に対し部下の人数が多いなど、上司ひとりでは適切な評価が難しい部門に適しています。また、チームワークが必要など、さまざまな部門と協力して仕事を進める部門の評価にもよいでしょう。
導入前に、多面評価を導入して本当に効果があるか検討しましょう。
7-2. 評価項目は必要なものだけに絞り込む
多面評価の評価項目は、30問前後・15分程度で答え終わるのが理想です。設問数があまりにも多いと、いい加減に答える社員が増え適切な評価につながらない恐れがあります。
「コミュニケーション」など、いくつかの大カテゴリと複数の小カテゴリを組み合わせ、評価したいポイントのみに絞って設定しましょう。
8. 多面評価を導入するときの注意点
多面評価を導入するときは、以下のようなポイントに注意しましょう。
8-1. 人格を否定するような設問は避ける
多面評価では、被評価者の人格や能力を評価するような設問は避ける必要があります。あくまでも「他者とコミュニケーションを積極的に取っているか」など、行動を問う設問にしなければいけません。
「コミュニケーション能力はあるか」などとすれば、被評価者の能力否定につながり、フィードバックをおこなってもストレスとなってしまう恐れがあります。
8-2. 必要に応じて匿名性を確保する
多面評価では、誰が誰をどのように評価したかが公表されると、人間関係に悪影響を及ぼす場合があります。とくに、昇進やチーム内におけるキャリアパスを考えた部下が、直属の上司を評価しにくくなることは言うまでもありません。
忖度のない素直な意見を集めたい場合は、評価者の匿名性を担保するほうがよいでしょう。
9. 多面評価は人事管理システムを導入して効率化しよう
多面評価は、上司だけでなく被評価者の同僚や部下など、複数の関係者から評価を受けるため、客観性が増し、評価の納得感を高める効果も期待できます。
とはいえ、評価人数が多ければ多いほど、評価シートの管理や運用が煩雑化します。多面評価を導入するときは人事管理システムのように、評価を一元管理できる仕組みも合わせて導入するとよいでしょう。
人事評価制度は、健全な組織体制を作り上げるうえで必要不可欠なものです。
制度を適切に運用することで、従業員のモチベーションや生産性が向上するため、最終的には企業全体の成長にもつながります。
しかし、「しっかりとした人事評価制度を作りたいが、やり方が分からない…」という方もいらっしゃるでしょう。そのような企業のご担当者にご覧いただきたいのが、「人事評価の手引き」です。
本資料では、制度の種類や導入手順、注意点まで詳しくご紹介しています。
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