現在、世界中でLGBTを含む性的マイノリティの方々への対応が取り沙汰されているかと思います。
ようやく最近になって理解が進んできた部分も大きいように思いますが、それでもまだまだ理解が完全に進んだというわけではありません。
企業としてLGBTを含む性的マイノリティの方々に平等に接しなければならないとわかっているものの、さまざまな分野でLGBTに関する課題が残っています。
そこで本記事では、企業の事例を元に、職場内で起こりがちな課題に対してどのような取り組みがおこなわれているのか紹介します。
目次
1. LGBTとは?
まずは、そもそものLGBTの正しい意味や言葉の背景について紹介していきます。
1-1. LGBTの名前の由来
LGBTとは、性的少数者(セクシャル・マイノリティ)の総称の一つです。LGBTは、以下4つの言葉の頭文字をとっています。
- L:Lesbian(レズビアン)
心の性が女性で、女性を恋愛の対象とする人を指している。 - G:Gay(ゲイ)
心の性が男性で、男性を恋愛対象とする人を指している。 - B:Bisexual(バイセクシャル)
恋愛対象が男性にも女性にも向く人を指している。 - T:Transgender(トランスジェンダー)
身体の性と心の性が一致していない性同一性障害、あるいは性自認を意味している。
もちろん、性的指向はLGBTに代表される4種類に限定されるわけではありません。
1-2. LGBTQとは?
LGBTQは、LGBTにQを追加した、性的指向や性自認に関連する多様なアイデンティティを包括する用語です。
以前はLGBTという用語がよく使われていましたが、より性の多様化を表す用語が必要とされるようになり、”Q”が追加されました。
Qは「クィア」または「クエスチョニング」を意味しています。
- Queer(クィア):LGBTに当てはまらない性的指向や性自認を指している。
- Questioning(クエスチョニング):自身の性的指向や性自認が定まっていない、または定めていない人を指している。
クィアの定義は個人やコミュニティによって異なりますが、一般的には性的指向や性自認のラベルにとらわれない、自由で包括的なアイデンティティを表す言葉として使われています。
クィアはもともと同性愛者に対する侮蔑的な意味合いのある言葉でしたが、現代ではポジティブに再解釈され、広く受け入れられるようになりました。
1-3. LGBTQ+とは?
性の多様性を表す用語として、最近はLGBTQ+も使われるようになりました。
LGBTQは、それぞれレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア(クエスチョニング)を表していますが、”+”は、これらのアイデンティティに限定されない性的マイノリティやジェンダーの多様性を意味する記号となっています。
1-4. LGBTに注目が集まっている背景
LGBTという言葉は、北米・ヨーロッパが発祥といわれています。しかし近年、日本にも浸透してきました。
性的指向や性自認は多くの場合、思春期に認識することになります。そのため、その後の学校生活や社会生活で困難に直面する場面が増える傾向にあります。
本来であれば、LGBTをはじめとした性的マイノリティであっても同じ人間のため、差別的な扱いを受けることなく、平等にありのままに生きられる社会でなくてはなりません。
しかし、実際は差別的な問題から、通常であれば受けることのできるサービスを受けられない状況が多く存在しています。
1-5. 自分の言動が誰かを傷つけている可能性がある
「自分は差別をしていないから関係ない」と思う方もいると思いますが、LGBTの方々を知らないうちに傷つけている可能性もあるため、注意が必要です。
もちろん、もし相手から性的マイノリティであることを打ち明けられたら、驚いたり戸惑ったりすることもあるかと思います。
しかし、まずは相手の言葉や相談内容に耳を傾け、お互いに相手を尊重し理解し合うための行動や思いやりを大切にすることが大事です。
また、本人の許可なく第三者に性的マイノリティであることを打ち明けることは、人権侵害にもつながります。
悪気がなくおこなったことでも、相手にとっては心の傷になりかねませんので、常に相手に真摯に向き合うことが必要です。
2. LGBTQ以外の性の多様性
性的マイノリティは、必ずしもLGBTQのどれかに区分されるわけではありません。LGBTQ以外にどのような性自認や性的指向があるか、一部ですが例を見ていきましょう。
2-1. Xジェンダー
自身の性自認を男性または女性のいずれかに限定しない人々を指す言葉です。
彼らは伝統的な男性や女性の性別の枠組みにとらわれず、自身の性別におけるアイデンティティを他の方法で定義します。
2-2. Aロマンティック
恋愛的な関心や興味を抱かない人々を指す言葉です。
彼らは恋愛に対して無関心であり、異性・同性を問わず、他者と恋愛関係を持つことを望まない場合があります。
2-3. Aセクシュアル
他者に対する性的な興味や欲求を抱かない人々を指す言葉です。
彼らは性的な行為には魅力を感じませんが、恋愛自体には興味を抱く人もいれば、Aセクシャルの性質を併せ持った人もいます。
2-4. パンセクシュアル
性的指向が性別にとらわれない人々を指す言葉です。彼らは性別に関係なく、人々の個々の性格や魅力に基づいて性的な魅力を感じる傾向があります。
パンセクシュアルの人々は、男性、女性、トランスジェンダー、その他すべての性自認の人々に対して魅力を感じますが、似た言葉であるバイセクシュアルは、男性と女性の2つの性に対して恋愛感情を抱く人を表す言葉です。
3. 性に関するさまざまな定義
多様化が進む性の定義は、「法律上の区分」「性自認」「性的指向」「性表現」の4つの要素に分けて考えるのが代表的です。
3-1. 法律上の区分
法律上の区分は、役所に届けられる法的な性別です。出生証明書や身分証明書などの公式の文書に記載される性別がこれに該当します。
伝統的には男性または女性のいずれかとなりますが、現代では、その他の表現の採用が進んでいる国や地域もあります。
3-2. 性自認
性自認は、自身の性別が男性、女性、あるいはその他のジェンダーの何に属しているかについての自認を指します。
性自認は個人の内面的な感覚やアイデンティティであり、必ずしも体の性別と一致している必要はありません。
3-3. 性的指向
性的指向は、個人が感情的または性的に魅力を感じる相手の性別や性的アイデンティティの方向性を指します。
性的指向を表す言葉としては、異性愛、同性愛、Aロマンティック、Aセクシュアル、パンセクシュアルなどが知られています。
3-4. 性表現
性表現は、自身の性別を外部に示す方法や特徴を指す言葉です。
性別にとらわれず化粧をしたりスカートを履いたりする、自分らしい一人称を使用するといった、服装、髪型、話し方、身振りなどが性表現に含まれます。
4. 職場で起こりやすいLGBTに対するハラスメントや問題
ここでは、実際に職場で起こりやすいLGBTの方に対するハラスメントや問題を紹介します。
4-1. 採用面接における差別
仕事の場における一例としては、性的マイノリティであることを面接中に打ち明けたところ、就活の面接を打ち切られたというケース、内定を取り消されたというケースがあるようです。
企業側には、性による差別をしないような配慮が求められます。
4-2. 昇進・昇格における差別
昇格条件として結婚要件があったのにも関わらず、同性のパートナーは認められず昇格ができなかったという事例もあるようです。
既存の制度や考え方を変えていくのが難しいケースもありますが、企業には多様性を受け入れる姿勢が求められるでしょう。
4-3. 設備や制度に関する問題
他にも「トイレや更衣室などの施設利用上の配慮」「通勤時の服装や通称名の使用」「福利厚生など社内制度の利用」「上司や同僚からの性的指向などによるハラスメント」などが挙げられています。
LGBTなどの性的マイノリティは、人口の3〜8%と言われているので、職場内だけではなく、消費者・取引先・調達先・株主などにもいる可能性も高くなります。
「不便・不快な思いをせずに商品やサービスを利用できるだろうか」という目線でも、ステークホルダー全体を見直してみてください。
5. アライとは?LGBTを含むすべての人が働きやすい職場作りのためにできること
アライという言葉を聞いたことはあるでしょうか?
LGBTほど浸透はしていませんが、日本にも徐々に浸透してきました。
もともとallyは「仲間」や「同盟者」を表す単語で、そこから「LGBTの当事者たちに共感し寄り添いたいと思う人」を指すようになりました。
そして、これまではストレートの人がその支援や理解を表明するときに使われてきましたが、最近ではLGBTであってもアライになろうとする動きも広まってきています。
また、LGBTに限らず、障がい者や外国人などに対する支援を表明するときにアライという言葉を使うこともあります。
このアライは職場のLGBT施策に積極的に協力してくれ、アライがいる職場は差別的言動が少ない、人間関係が良い、相談しやすい、心理的安全性が高いと感じる、勤続意欲が高いという調査結果があります。
企業としては「誰もがアライとして振る舞うことができる」ための施策を進めるようにしていくことが大切です。
6. LGBTに関する日本の取り組み
ここまで、企業や個人としてLGBTへの向き合い方を解説してきました。それでは、国としてはどのような取り組みをしているのかについて、日本政府と各都道府県という観点から紹介していきます。
6-1. 日本政府の取り組み
日本は、同性婚をはじめとするジェンダー平等に関する決定的な法整備がされておらず、結婚に準ずるパートナーシップ法が成立している国も増えている世界の動きから見ると、大きな遅れがあります。
しかし、2003年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が成立したところから、LGBTに対するさまざまな取り組みもおこなわれており、とくに教育関係においては、2014年に文部科学省が学校における性同一性障害に係る対応に関する状況調査の公表を実施しました。
さらに、2015年には「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」を発出し、教育現場における取り組みの基準を設け、また、2016年には文部科学省が教職員向け手引を作成して公表するなど、学校にいるLGBTの子どもたちへの支援を徹底しています。
同時に、男女雇用機会均等法に基づく改正セクハラ指針の施行や、いじめ防止対策推進法に基づく基本方針が改定されているので、教育とあわせて仕事の場でも適用されるようになっています。
LGBTに関する課題を考える国会議員連盟の発足や自民党における「性的指向・性自認に関する特命委員会」の設置も対応の1つといえるでしょう。
より詳細に今の日本の施策を知りたい方は、参議院の”LGBTの現状と課題”を参考にしてください。
6-2. 各自治体の取り組み
それでは、各自治体はどのような動きを取っているのでしょうか。
東京都
東京都では、渋谷区や世田谷区をはじめとした12の区や市で同性パートナーシップ証明制度を導入していますが、2021年6月2日の都議会本会議で、小池都知事が東京都としての制度導入の検討を進めると表明しました。
また、2021年5月19日に、同性パートナーシップ証明制度を導入している12市区(*2)が情報交換や利便性向上を図るため、”東京都パートナーシップ制度導入自治体ネットワーク”を結成しました。
自治体間でのネットワークを活用し、情報交換や制度をもっと活用してもらえるように都や民間に対し働きかけをおこなっています。
*2 渋谷区・世田谷区・中野区・江戸川区・豊島区・港区・文京区・足立区・府中市・小金井市・国分寺市・国立市
参考:都内の同性パートナーシップ証明制度導入自治体が連携、都営住宅入居などを都に要請へ(PRIDE JAPAN)
大阪府
大阪市・堺市などで同性パートナーシップ制度が導入されていましたが、2020年1月22日に”大阪府として同性パートナーシップ証明制度導入”を始めました。都道府県としては茨城県に続いて2例目となっています。
大阪府パートナーシップ宣誓証明制度の対象となるのは、府内に住んでいる・移り住む予定のある「一方または双方が性的マイノリティーである成人のカップル」となっています。
参考:「大阪府パートナーシップ宣誓証明制度」について(大阪府)
京都府
京都府では、京都市・長岡京市・亀岡市の3自治体にて同性パートナーシップ証明制度が導入されていますが、亀岡市では本年度より創設した新婚世帯を対象として引っ越し代・家賃・住居購入などを補助する制度に、同性婚カップルなどへの適用について検討を進めています。
また、こちらの3自治体では、2021年8月より「パートナーシップ宣誓制度に係る都市間連携に関する協定」を締結しており、3市間内で転入・転出がある場合は簡単な手続きのみで転出先の市から宣誓書受領証などを発行できるようになりました。
参考:【広報資料】京都市,亀岡市及び長岡京市の連携による「パートナーシップ宣誓制度に係る都市間連携に関する協定」の締結式の開催について(京都市)
7. 企業事例から見るLGBTの方が働きやすい職場
ここまで国や自治体の動きについてまとめてきましたが、最後に、企業における事例を元にして、今からできることが何か解説していきます。
7-1. 野村證券
野村證券株式会社では、社員が自主的に運営する社内ネットワークの一つである「マルチカルチャー・バリュー」(MCV)にて、多様な文化やLGBTに関する取り組みを推進しています。
実際に、「アライになろう」を合言葉として、性的少数者に対する理解・支援のための活動をおこなっています。アライを増やすことで、LGBTの当事者がより自分らしく働きやすい環境を作ることが目的です。
7-2. 第一生命
第一生命株式会社では3つの事例を紹介します。
まずLGBTへの理解促進のための研修を全社員に向けて実施しており、情報提供が充実しています。
相談窓口を設置していることも大きな特徴です。LGBTに関する相談窓口を設置し、個別相談に応じる体制を充実させ、働きやすい環境作りをおこなっています。
3つ目の取り組みは、休暇制度と社宅貸与基準の拡大適用です。
結婚・出産時の休暇制度については、客観的資料をもとに、原則、同性パートナーを配偶者と同様に休暇取得の対象としています。また社宅貸与基社宅付与として客観的資料をもとに、原則、同性パートナーを家族として認定しています。
7-3. サントリーグループ
サントリーグループでの取り組みとしてLGBTに関する相談窓口の設置するほか、社内規定における配偶者の定義に「同性パートナー」を加えました。
また、LGBT・アライのためのハンドブック作成、全社員へのハラスメントに対するeラーニングの実施、性別問わず誰でも使えるように多目的トイレマークの表示に切り替える、などの活動をおこなっています。
8. LGBTを含むすべての人が働きやすい環境を構築しよう!
以上の事例にもあるように、まずはLGBTに関する知識を社員が共通理解する必要があります。社員に悪意がなかったとしても、LGBTの方に過度に意識して接するなどの誤解は生じやすいので、社内で研修会などをおこなって正しい共通理解をしましょう。
また、社内にアライが多いほどLGBTの方は働きやすくなりますので、自身がアライであることを表明できるようにアライバッジを身に付けるなど、環境を整えることも大事です。
そして、LGBT当事者の不満や不公平感を解消するための福利厚生なども整備することで、企業への定着率も高めていきましょう。
近年では、生命保険の受取人や携帯電話の通話割引など、家族向けのサービスを法的な家族以外にも対象を広げたり、広告の表現でも LGBTが出てくるように工夫している事例があります。
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