HRテックとは何か、その定義から普及背景、主要領域、導入方法までを解説します。DX時代の人事部門におけるHRテックの活用法と将来展望、人事業務のデジタル化と効率化を目指すDX担当者必見の内容です。
1.HRテックとは
HRテックは、人事業務のデジタル化と効率化を目指す重要な手段の一つです。この分野は、近年のテクノロジーの進化とともに急速に発展しています。
ここでは、HRテックの定義や範囲、HRテックが普及し始めた背景について詳しく紹介します。
1-1.HRテックの定義と範囲
HRテック(HR Tech)とは、HR(Human Resources)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、人事関連業務をデジタル技術で支援するシステムやツールの総称のことです。
HRテックの目的は、人事領域に活かせるデジタル技術・サービスを導入し、人事業務を効率化したり、従業員のエンゲージメントを向上させたりして、組織全体のパフォーマンスアップを目指すことです。HRテックを上手く活用すれば、従業員情報の管理や採用プロセス、パフォーマンス評価の最適化を図ることができます。
HRテックの範囲は人材育成や労務管理、採用管理といった幅広い領域が含まれます。勤怠管理や給与計算、健康管理もHRテックの範囲内です。人や組織が関連している分野であれば、HRテックの領域・範囲に含めて問題ないでしょう。
1-2.HRテックの普及背景
HRテックが普及し始めた背景には、デジタル技術の発展や働き方の多様化によるビジネス市場の急激な変化が挙げられます。
近年では「AI」「ビッグデータ」「クラウド」「IoT」「ブロックチェーン」といったIT技術の進歩が目覚ましいです。
これにより「AI技術を利用して人事業務を効率化する」「クラウドサービスを導入して人事データを一元管理する」など、HRテックを活用する企業が増えています。
また、少子高齢化による労働人口の減少や働き方ニーズの多様化に対応するため、2019年4月に「働き方改革関連法」が施行され、時短勤務やテレワークといった多様な働き方が推進されるようになりました。働く人のニーズに応え、企業が成長していくには、人事戦略に基づく人材配置や人材育成をおこなうことが大切です。
戦略人事を実現するために活用できるのが「HRテック」です。HRテックを利用すれば、人材データの収集・分析・活用を効率化でき、最適な人事戦略を策定・実行することができます。
このように、IT技術の発展や働き方の変化により、HRテックの需要が高まったことで普及し始めるようになりました。
2.HRテックの主要領域
HRテックは、人事業務の多くの領域に影響を与えています。ここでは、HRテックと採用管理・タレントマネジメント・勤怠管理それぞれの関係について詳しく紹介します。
2-1.採用管理とHRテック
労働人口の減少やオンライン面談の導入に伴い、採用市場は変化しています。自社のニーズにあった人材を効率よく確保するためには、適切な採用管理が必要です。採用管理の分野では、下記のようなHRテックが役立ちます。
- 採用管理システム(ATS)
- オンライン評価ツール
これらのツールを活用することで、採用プロセスを最適化し、自社の求める人材に効率よくアプローチすることができます。
2-2.タレントマネジメントとHRテック
少子高齢化の影響で人材確保に課題を抱えており、少ない人材で事業に取り組まなければならない場合もあるかもしれません。また、グローバル化やダイバーシティ&インクルージョンの進行により、価値観・考え方の異なる人材をどのように育成して活かすかが今後の企業の成長の鍵を握っています。このような背景から、タレントマネジメントが注目されています。効果的なタレントマネジメントを実現するために、下記のHRテックが役立ちます。
- 人事評価システム
- 目標管理システム
- タレントマネジメントシステム
- 学習管理システム(LMS)
このようなHRテックを活用すれば、人材育成や人材配置の最適化が期待できます。目的にあったタレントマネジメントを実現することで、組織のパフォーマンスを向上させることができます。
2-3.勤怠管理とHRテック
2019年4月に改正労働安全衛生法が施行され、すべての使用者に対して社員の労働時間を客観的に把握することが法律により義務化されました。適切に勤怠管理をおこなわなければ、罰則につながる恐れがあります。効率よく正確な勤怠管理を実現するためには、下記のHRテックの導入がおすすめです。
- 勤怠管理システム
- 有給管理ソフト
- ログ監視ツール
- 給与計算システム
このようなHRテックを導入すれば、従業員一人ひとりの労働時間をリアルタイムで可視化することができます。また、勤怠管理システムと給与計算システムを連携させれば、データ入力の手間が削減され、業務の効率化につながります。
3.HRテックのメリット
ここでは、HRテックを活用することでどのようなメリットが得られるかについて詳しく紹介します。
3-1.業務の効率化
採用管理や勤怠管理、労務管理、給与計算、組織開発など、人事業務は多岐に渡ります。HRテックを活用すれば、定型業務を自動化することが可能です。また、システムやサービスに仕事を任せることで、人的ミスが減り、業務の効率化につながります。
3-2.コストの削減
紙ベースで仕事をしている場合、申請・承認などの手続きに手間や時間がかかります。残業や休日出勤による人件費の高騰に悩みを抱えている企業もあるかもしれません。
HRテックを利用すれば、紙書類を電子化して、システム上で手続きをおこなうことができるようになります。また、RPAツールなどを活用して、業務の一部を自動化することも可能です。このようにHRテックを導入することで、生産性が向上し、コスト削減が期待できます。
3-3.従業員エンゲージメントの向上
人事関連業務の一つとして、人事評価があります。適切な人事評価がおこなわれていない場合、従業員の不満につながり、定着率・離職率に悪影響を及ぼす恐れがあります。
HRテックを活用すれば、自社のニーズにあった評価制度を構築することが可能です。これにより、従業員と組織の目標を適切に設定したうえで、客観的に評価をおこなうことができます。公平な評価が実現され、従業員のエンゲージメントを高めることが可能です。結果として、組織全体のパフォーマンスの向上にもつながります。
3-4.採用活動の質の向上
近年ではAIを活用した採用管理をおこなえるHRテックが注目されています。応募者が提出したエントリーシートをAI機能で分析することで、自社とマッチング度の高い人材を選出することが可能です。これにより、ミスマッチを減らし、採用活動の質を向上させることができます。
3-5.データ活用による正確な意思決定の実現
HRテックを活用すれば、人事業務と関連したさまざまなデータを収集し、一元管理することができます。また、データ分析機能を利用することで、蓄積されたデータを分析し、今後の戦略に活かすことが可能です。このように、HRテックを導入すれば、データに基づき客観的な意思決定を実現することができます。
4.HRテックの導入方法
HRテックの導入は、組織のニーズに合わせた慎重な計画と実行が必要です。ここでは、HRテックの導入手順・流れについて詳しく紹介します。
4-1.ニーズ分析と目標設定
HRテック導入の第一歩は、組織の現状のニーズと課題を分析し、具体的な目標を設定することです。目標を曖昧にしたまま、HRテックの導入を進めてしまうと、適切なシステムやサービスを選定できていなかったり、想定しているような効果を得られなかったりする恐れがあります。
たとえば「採用プロセスの効率化」「従業員エンゲージメントの向上」「パフォーマンス管理の改善」などが目標になり得ます。また、目標に対して具体的なロードマップを策定することで、どのような行動をおこなえばよいかが明確になります。
4-2.ツール選定と評価
市場には多種多様なHRテックツールがあります。組織のニーズに最適なツールを選定するためには、機能性、使いやすさ、統合性、コストなどを総合的に評価することが重要です。また、無料トライアル期間(お試し期間)を利用して、HRテックの使用感を確かめてからツールの選定をおこなうのもおすすめです。
4-3.実装と従業員トレーニング
選定したHRテックツールの実装には、技術的な準備と従業員へのトレーニングが伴います。
導入体制がきちんと構築されていないと、トラブルが発生し、実際に運用するまでに時間や手間がかかるケースもあります。そのため、人員をきちんと確保し、適切な導入体制を整備することが大切です。導入に不安を感じている場合、充実したサポート体制のあるHRテックを選ぶのも一つの手です。
また、従業員が新しいシステムをストレスなく利用できるよう、適切なトレーニングとサポートを提供することも重要です。たとえば、HRテックの操作マニュアルを用意したり、研修・セミナーを通じて使い方を教えたりするのが推奨されます。
このように、導入・運用するための準備を整えることで、スムーズにHRテックを社内に定着させることができます。
4-5.効果測定とフィードバック
HRテック導入後は、設定した目標に対する効果を定期的に測定し、必要に応じて改善策を講じます。従業員からのフィードバックを取り入れることで、システムの利用効率と効果を高めることができます。
5.HRテックのツール紹介
HRテックのツールは、人事部門の日常業務を根本から変革し、従業員と組織に新たな価値をもたらす可能性を秘めています。しかし、HRテックにはさまざまなツールがあります。自社の課題や目的にあわせて必要なHRテックツールを選定することが大切です。
ここでは、代表的なHRテックについて紹介します。
5-1.採用管理システム
採用管理システムとは、採用に関係する業務を一元管理し、効率よく管理するためのHRテックです。採用管理システムを活用すれば、求人広告の掲載から応募者の追跡、面接スケジューリング、候補者評価までのプロセスを最適化することができます。これにより、人事担当者は応募者データの管理を効率化し、適切な候補者を迅速に特定できます。また、AIを活用したスクリーニング機能により、応募者のスキルと求人要件のマッチングを自動化することも可能です。
5-2.パフォーマンス管理ツール
パフォーマンス管理ツールとは、測定可能な方法でパフォーマンスを追跡し、従業員のモチベーションを高め、組織の生産性向上を目指すためのHRテックです。パフォーマンス管理ツールを導入すれば、従業員の目標設定、進捗追跡、評価プロセスをデータ化して可視化することができます。また、プラットフォーム上で、目標設定や進捗確認、フィードバックをおこなうことが可能です。これにより、透明性の高いパフォーマンス評価が可能となり、従業員のモチベーション向上と個人の成長を促進します。結果として、組織のパフォーマンス向上につなげることができます。
5-3.従業員エンゲージメントツール
従業員エンゲージメントツールは、従業員の満足度やモチベーション、組織へのコミットメントを測定するためのアンケートやフィードバックシステムを提供しているHRテックです。従業員エンゲージメントツールを活用すれば、リアルタイムでのフィードバック収集や分析により、組織内の問題点を早期に特定し、改善策を講じることができます。また、従業員の声を直接聞くことで、組織文化の改善や従業員のエンゲージメント向上につながります。
6.HRテックの今後の展望
HRテックは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により、さらに進化し続けています。ここでは、DXとHRテックの関係、HRテックの今後の展望について詳しく紹介します。
6-1.DXとHRテック
DXとは、HRテックなどのデジタル技術を活用して業務プロセスを改善するだけでなく、組織や企業文化・風土、ビジネスモデルに変革を起こし、競争優位性を獲得することです。
近年では「2025年の崖」問題により、DX推進の重要性が社会全体として認識されつつあります。ただし、DXの定義に基づくと、HRテックを導入して業務効率化を目指すだけでは、DXを実現したことになりません。「オンプレミス型からクラウド型のサービスに移行して多様な働き方を推進する」「HRテックにより人事データを分析して戦略人事を実現する」など、業務効率化の先にある目標を設定することで、DX実現につなげることができます。
6-2.HRテックの今後の展望
経済団体連合会(経団連)は、多様な人材の活躍を推進するために、通年採用や経験者採用の導入・拡大していくことを会員企業に求めています。(※1)そのため、今後は新卒一括採用だけでなく、通年採用や経験者採用に対応できるような採用体制を構築する必要があります。複雑化した採用管理に適応するため、HRテックの需要は高まっていくと考えられます。
また、人事・労務における定型業務を自動化するため、RPAツールも注目されています。労働時間の集計や給与の計算、社会保険の手続きといった業務を自動化できれば、人事・労務担当者はコア業務に集中して取り組めるようになり、企業の生産性を高めることができます。今後はRPAツールのように、業務を自動化できるHRテックの導入も進んでいくことが予想されます。
(※1)2024(令和6)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請事項|経済団体連合会
HRテックを活用して人事業務の効率化を目指そう
HRテックは、人事部門が組織の成長と発展に貢献するための強力なツールです。効果的なツールの選定と導入、従業員への適切なトレーニングとサポートを通じて、人事業務の効率化と従業員のエンゲージメント向上を目指しましょう。