※本記事は、グロービス経営大学院の「グロービス知見録」より、語句などを一部修正したものを転載しております。
コロナ禍で働き方が変わった2020年、リモートワーク下でリーダーの悩みの質も変化した。2021年よりよいチームビルディングのためのリーダーの在り方とは。
新村 正樹|グロービス経営大学院 教員/グロービス・コーポレート・エデュケーション ディレクター
株式会社ジャパンエナジー(現ENEOS株式会社)にて法務、販売に従事した後、2000年グロービスに入社。スクール部門、ファカルティ・コンテンツ部門を経て、現在はコーポレート・ソリューション部門のディレクターとして企業の人材育成、組織開発に携わるほか、人・組織、変革領域に関するコンテンツ開発、グロービス経営大学院の教員、企業研修の講師も務める。上智大学法学部国際関係法学科卒業、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院EDP(Executive Development Program)修了。共著書に『新版グロービスMBAリーダーシップ』『グロービスMBAマネジメントブックⅡ』(以上ダイヤモンド社)、『「変革型人事」入門』(労務行政)がある。
目次
リモートワークでのリーダーの悩み
2020年はコロナ禍もあり、急激に働き方が変わった。そんな中、ミドルの方を中心に、メンバーやチームとの向き合い方が難しいという相談を多く受けた。例えばこういう状況だ。
- メンバーへの仕事の任せ方が難しい。リモート勤務なので任せないと仕事が進まない が、どこまで任せて良いのか。評価やフィードバックはどうすれば良いのか。
- オンラインでの会議でどうしても自分が一方通行で話してしまう。メンバーの反応もわかりにくい。
- チームの一体感が損なわれている気がする。異動者や新人のケアも不十分になっている。
- メンバーに仕事を任せたのだが、期待していたアウトプットと異なる。何が悪かったんだろうか
こうした難しさの原因の1つはオンライン特有の事情による。オンライン会議でつながっている間しか相手の状況がわからない。オンライン会議でも同時に複数の人が話せず、自由闊達な議論になりにくい。話も一方通行感があり、メンバーの反応が見えにくい。チームの雰囲気もつかみづらい。ただ、原因はそれだけではない。
もう1つは、そもそもベースとなるリーダーとしてのスキルや行動が不十分なことだ。オフィスで仕事をしているときは、指示が不明確でも、メンバーの様子を見ながら、あるいは相談をされながら、フォローできていたが、そうしたことを感覚的にやってしまっていた人はリモート環境で苦労している。
要は、リーダーとしてのスキルや行動がリモート環境であっていない、十分に発揮できていないのだ。ではどうしたらよいのだろうか?解決していくために今回は3つの方向性を紹介したい。
1.影響力の武器(社会心理学のTips)を活用する
社会心理学の分野で『影響力の武器』(ロバート・B・チャルディーニ著)という書籍がある。人間の無意識部分に働きかけていく6つの原理として、①好意、②社会的証明、③返報性、④希少性、⑤権威、⑥コミットメントと一貫性をあげている。
1.「好意」
その中で「好意」(好感を持つ相手のいうことは聞きやすい、という原理)がリモート環境でも重要になってくる。
好意の醸成ではメラビアンの法則が参考になる。印象形成には視覚(55%)や聴覚(38%)の影響が大きい。オンライン上でも見た目を意識することが重要だ。
例えば、zoomのカメラ設定を変更して自分の顔を明るく見せる、卓上ライトを用いてカメラ映えをよくする、カメラに自分の顔を向けしっかり見つめるようにするなどだ。服装も、カジュアルすぎたりしないように、TPOに合わせ、リーダーにふさわしい服装を心がけたい。
2.「単純接触回数」
「単純接触回数」を増やすことで好意を獲得することもできる。メンバーと週1回30分のオンラインミーティングよりも、1日5分でもいいから電話やオンライン上でミーティングをする。
日々のちょっとした会話を積み重ねることで親近感を持ってもらうことできる。
3.「運動模倣」
また、オンライン会議では、笑顔でいることも重要だ。「運動模倣」という概念がダニエル・ゴールマンの『EQ~こころの知能指数』で紹介されている。
これは、食事の際に、相手がスープを口に運んだら自分も同じようにすると動きと気持ちがシンクロしてくる、というテクニックでも有名だ。こちらから意図的にでも笑顔を作ると、相手も無意識のうちに笑顔になり、笑顔になることで気分も前向きなものになってくるというもの。
メンバーやチームとのオンライン会議でも、正面を見て笑顔を作ることはとても大事なことだし、これはちょっとした心がけでできるものだ。
4.「社会的証明」
影響力の武器でもう1つ、紹介したい原理が「社会的証明」だ。複数の人が行っている行動があると、それを指針として真似る人が増えるというものだ。オンライン会議ではギャラリービューにして、議論する時はみんなの顔が見えるようにしておきたい。
そして、自ら笑顔を作り、周囲に伝播させていく(できれば誰か一緒にやってもらえるように事前にお願いしておきたい)。メンバーの話にもやや大げさに頷きたい。そうすることで、話しやすく、前向きな雰囲気をオンライン会議でも醸成していくことができる。
好意や社会的証明など、影響力の武器は有効だ。ただ、小手先のテクニックだけではなく、やはりリーダーとしてやるべきことはしっかりやっておきたい。そこで大事になって来るのが、どういう言動・行動をするかだ。
2.リーダーとしての言動・行動をする(伝える、共感する、問いかける、引き出す、巻き込む)
オンラインでも、オフラインでも、リーダーがどういう人なのかということは、結局はリーダーの言動・行動を通してしかわからない。
リモート環境では、オフィスでできていたちょっとしたメンバーのフォローが難しくなる。そこで、チームやメンバーとのコミュニケーションの取り方や、それを通じたメンバー把握や動機づけのあり方が重要になって来る。
メンバーの目標設定では、その納得感の醸成ができれば動機づけにつながる。相手の状況や理解度・習熟度を理解すれば適切な業務アサインができる。メンバーの仕事のフォローやフィードバックのあり方で承認したり、成長実感を感じてもらうことができる。メンバーと仕事をしていくときに、どう伝え、問いかけるか、具体的なスキルが重要になる。
オンライン会議でも、限られた時間の中で議論を深め、結論を出したい。そのためには、ゴールやアジェンダを設定し、そこでの論点を踏まえながら意見を引き出し、議論を深め、合意を導くことが重要になる。
リアルでの会議も含め、会議の進め方を学んだ経験があるという方は意外に少ない。オンラインでもオフラインでも、仕事や会議の進め方の基本は変わらない。事前にどう進めるべきか思考投入し、準備して臨みたい。
リモート環境でもリーダーとしてすべきことを率先することは大事。ただ、これをリーダーがひとりで頑張ろうとしても、なかなか組織に定着しない。そこで大事になってくるのが、次に紹介する共通する「思考の型」だ。
3.チームやメンバーと「思考の型」を共有する
チームとして課題やプロジェクトに取り組む時、考え方、仕事の進め方が共有されていると、仕事も進めやすい。
例えば、問題解決のステップとして、何が問題で(What)、どこが悪くて(Where)、その原因は何で(Why)、解決するにはどうするのか(How)が共有されていると、議論がしやすいし、役割分担もフォローもしやすい。
仕事の進め方も、ゴールを設定し、計画を立案し、実行時のフォローやサポートを行い、最後の振り返りをするといったプロセスが共有できていると、メンバーに任せることも、関与もしやすい。
思考や業務の型が共通言語として浸透していると、たとえリモートで仕事を行っていても、進め方がぶれにくくなる。
これを浸透させていくには、リーダーがどういう思考様式を持っているか、その言動や行動で実践し、それをメンバーに伝播させていくとよい。まずは自分自身、どう課題や仕事に取り組むのか、その考え方や行動をメンバーに示していくことが大事だ。
ごまかしの効かないリモートワークでリーダーとして成長する
最後に。オンラインでも、オフラインでも、やるべきことをしっかりやっている人が成果をあげている。特にリモート環境になって、ごまかしが効かなくなった、ということだろう。大事なことは、この変化に対応すべく、リーダーとして成長していくことだ。
そのためには、まずは何をすべきなのか。必要になりそうなことをしっかり学ぶこと。そして、自身の置かれた環境に引き寄せ、学びを実践すること。そしてその実践を振り返り、新たに取り組んでいくこと。
やるべきことはそれほど難しいことではない。このサイクルをしっかり回していった人が、いつの時代もリーダーとして活躍できるのだ。