メンバーの意欲と能力をどう高めるか――矛盾に向き合うリーダーシップ 第2回 |HR NOTE

メンバーの意欲と能力をどう高めるか――矛盾に向き合うリーダーシップ 第2回 |HR NOTE

メンバーの意欲と能力をどう高めるか――矛盾に向き合うリーダーシップ 第2回

  • 組織
  • 人材育成・研修

※本記事は、グロービス経営大学院の「グロービス・ライブラリー」より、語句などを一部修正したものを転載しております。

みなさんは自身の組織メンバーの意欲と能力を高めることができていますか?

矛盾に向き合うリーダーシップ第1回でも述べたように、多くの企業へのコンサルティングに携わってきた経験から、成長する組織の重要要素は次の5つのポイントであると実感しています。

  1. 競争優位性のある戦略があり組織に浸透している
  2. 組織メンバー個々の能力と意欲が高い
  3. 組織内相互の関係性が良好である
  4. 素早く環境変化をとらえ対応できている(定期的な改善行動がとれている)
  5. 今の成長の柱だけでなく、次の成長の柱を仕込み続けている

第2回では要素2である、育成において組織メンバー個々の能力と意欲が高い状態をミドルがどうつくり上げていくか、そこに潜む矛盾とは何で、どう乗り越えていくのかを考えていきたいと思います。

池田 章人|グロービス コーポレート エデュケーション マネージャー

2006年よりグロービスに入社。コーポレート・ソリューション部門において、様々な企業に対して人・組織のコンサルティングに従事。 全社サクセッションプランの企画と実行支援/経営トップ直轄の組織開発の企画と実行支援/新規事業推進のための制度設計と事業提案へのアドバイス/研究所・営業部門などの機能別組織の強化 などのテーマに携わる。 自組織においてもマネージャーとして成果とモチベーションが両立する組織づくりを実践。 また、グロービスの人・組織の研究グループに所属し、講師としては主にリーダーシップなどのヒト系科目を中心に、思考系領域、経営戦略、個別企業のアクションラーニングなどを担当。

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本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。

1.能力と意欲を高めるには上司の支援が重要

有名な「ロミンガーの調査」では、人が育つ要素の7割は仕事の経験2割が上司などの薫陶1割がOFFJTなどの研修と言われています。つまり、育成には仕事の機会を多く与える事が最も重要なのです。

一方で、日本の多くの企業では(一部の成長産業を除いて)部下に多くの機会を与えることは容易ではありません。そんな貴重な機会を最大限活用するには、やはり適切な支援が必要です。ロミンガーの法則からは、一見上司による関わりの効果は薄いようにも思えますが、上司による支援はメンバーの成長に強い影響を与えるのです。

では、ここからはリーダーの役割として、具体的に機会を活かし人を育てる方法、すなわちメンバーの能力と意欲をそれぞれどう高めていくかを考えていきたいと思います。

2.能力を高めるために必要なこと

メンバーの能力を高めるには、メンバー本人が自分の現状の能力を超えた仕事に取り組み、成果を出すことが必要です。では、このような場面における上司の適切な支援とは、どのような行動なのでしょうか。

目標設定

まず能力を高める支援で一番大切なことは「目標設定」です。なぜならば人が仕事を行う上では、その仕事へ取り組む意義がわかること、そしてやるべきことの大きな方向性が理解できていることが大切だからです。例えば、本人の3年先のキャリアイメージを聴きつつ、会社の求める方向性を踏まえて目標設定を行うなどすると、意義ややるべきことが腹落ちしやすいでしょう。
裏を返すと、意義がわからず、方向性も見えない中で仕事へ取り組み始めると、失敗確率が高まり成果が出ません。

計画立案

次に大切な支援は「計画立案」です。自身の能力を超えた仕事であればこそ、メンバー本人は何をどのように進めるべきか、また誰を巻き込むべきかがわかりません。メンバーに任せる際に「目標設定」で大きな方向性を示すだけではなく、実際に進んでいくための支援を行うことが大切になります。

上司として中でも重要になるのは、メンバー本人が見えていないリスクの想定対処法へのアドバイス、さらにネットワークを広げて巻き込む相手を紹介することなどが挙げられるでしょう。

実行フォロー

続いて大切な支援は「実行段階でのフォローアップ」です。一般的には「計画立案」の後、成果が出るまでには長い期間が必要ですが、この期間にフォローアップを行うことで、成果創出の確率を高めることができるようになります。

ただし、「計画立案」や「実行段階でのフォローアップ」においては上司がすべて教えるのではなく、本人の能力を見極め、ヒントを出しつつ支援することが重要となります。自分で考え、自分で動くこと、その上で成果にたどり着く経験を支援していくことが望ましいのです。

3.メンバーの意欲を高めるために必要なこと

次に、メンバーの意欲を高めるポイントに移りたいと思います。意欲をモチベーションと言い換えると、そのヒントが見えてきます。

モチベーションを高めるためには大きく2つのポイントがあります。1つは対象のモチベーションの「内容・性質」に留意し働きかけること。もう1つは「順番・プロセス」に留意し働きかけることです。

モチベーションの内容・性質を考える

まず「内容・性質」について考えていきましょう。

モチベーションの「内容・性質」に関する理論は様々ありますが代表的な例としてハーズバーグの動機付け・衛生理論があります。

この理論によれば、モチベーションへの働きかけはマイナスを0に戻すものと、0をプラスにするものがあり、それぞれ異なります。

前者の「マイナスを0に戻す」ためには、厳しすぎる指導をやめることや悪条件の労働環境を改善することが挙げられ、後者の「0をプラスにするもの」としては承認することや本人が望む仕事を付与すること、責任範囲を拡大させることが挙げられます。

はたらきかけの順番・プロセスを考える

次に「順番・プロセス」について考えていきます。

モチベーションの「順番・プロセス」について考えるための参考として期待理論があります。

人間のモチベーションは、「努力が成果に結びつく期待」×「成果が報酬に結びつく期待」×「報酬が魅力的である期待」によって上がるという内容です。

ここから、モチベーション向上のためにどう働きかけるかというと、①まずは努力の結果、成果に結びつくであろう適切な支援を示しつつ、②成果が出た結果を報酬(評価)に結び付ける、そして③評価の結果、本人の望む魅力的な報酬を与えるという順番になります。

ここで「うちの会社はそんなに金銭的な報酬は与えられない」と考えるマネージャーも多いと思いますが、報酬は金銭的なものだけではありません。本人の望むこと、例えばやりたい仕事の付与であったり、一緒に働きたい人との協働の機会であったりと様々です。本人を理解し、望む報酬と紐づけてあげることが重要となります。

4.忙しさを解消する行動が、忙しくてできない

中間管理職であるマネージャーからはよく業務が多く、メンバー支援のための時間が取れないという声を聞きます。

しかし、それを言い訳に時間を取らずにいると、いつまで経ってもメンバーのパフォーマンスは上がらず、自分だけが難易度の高い業務に関わらなくてはならない状態が続き、忙しさが継続することになります。上司の忙しさを解消させるためにはメンバー育成が必要であり、それには上司の支援が必要だが、忙しいから支援できない結果、人が育たず忙しさが継続するという矛盾があるのです。

矛盾の解消法

ではこの矛盾をどう解消するか?ヒントは選択をすることです。

全てのメンバー/機会で支援行動をとるのは現実的ではありません。よって、次のリーダー候補など育成効果の高い人材に絞り、かつその人材があと一歩成長してほしい分野の仕事を選択し、成功体験を重ねる支援をしていくことが大切であると考えます。そして育ったメンバーが、自分にしてもらった経験を活かし、更なる後輩を育成していくようになれば、育成の好循環が生まれていくのです。

機会の少ない今だからこそ、まさにリーダーの意図した育成行動が必要となっているのです。

5. 強い組織のためのモチベーションケアが、弱い組織をつくる

みんなで協力する

ここまで、意欲を高めるには上司による支援が重要であることを解説してきました。しかし、支援をしすぎると依存的かつ他律的な人材が多くなる傾向があるのも事実です。すなわち、強い組織をつくろうとモチベーションケアをしすぎると、結果弱い組織になってしまうという矛盾が生じるのです。

私自身、最初に就いた「キャリアカウンセラー」という仕事で「傾聴」を徹底して行う訓練を受けたこともあり、その後のマネジメントで、率いる組織を一時期に依存的・他律的にしてしまった経験がありました。

矛盾の解消法

ではこの矛盾をどのように乗り越えると良いか。ヒントは行動規範です。

我々が働く組織は事業体として、永続的に成果、収益を上げることが目的となります。そのために、企業人として働くうえで守るべき行動規範はつきものです。モチベーションのケアを行いつつも、そもそもの行動規範を守ることを組織内に根付かせ、皆で確認し合うことができていれば、自律性ある組織の基盤は揺らぎません。これが依存的・他律的な状態に陥らないためのポイントになります。

6. 能力を高めようとすれば意欲が下がり、意欲を高めようとすれば能力が下がる

本人の能力を超えた業務や自律的な思考・行動は、能力を高めるためとはいえ、メンバーに負荷をかけるため意欲を落とすリスクがあります。特に成果が出なかったときなどは顕著です。しかし同時に、前述の通り意欲の向上に手をかけすぎると、弱い人材になりかねません。
すなわち、能力向上への支援は意欲を下げる可能性があり、意欲向上への支援は能力を下げる可能性があるという矛盾があるのです。

矛盾の解消法

ではこの大きな矛盾をどう乗り越えればよいのでしょうか。ヒントは順序です。

まず前提として、今の日本の(特に大企業の)組織では、一般的に若手・シニアともに意欲やモチベーションが高い状態にあるとは言えません。その状態で能力強化のためとはいえ、急に難易度の高い業務を付与し支援をし始めてもうまく回らないでしょう。

よって、まずは意欲・モチベーションを高めるための働きかけを行うことが先決です。そして業務への意欲が高まった結果、難易度の高い業務を付与し支援をするという順番が大切になります。

一方、時間が経過すると意欲が下がるため、再びそれを高めるための支援も必要です。大切なことは、状態を見ながら順序を立てて、意欲、能力と往復しながら支援していくことになります。この繰り返しこそがリーダー行動として求められるのです。

ともすると、リーダーは自分の癖や経験から「意欲を高める」か「能力を高める」かどちらかに行動が偏ることになります。これまで様々なリーダーを見てきた経験から、どちらかに偏ったリーダーは数年でマネジメントポジションから離れる傾向があり、両立しているリーダーは成長する組織を創れている傾向があります。

よって、まずはご自身がどちらに偏りがちなのかを把握すると同時に、状況/相手を見て適切な働きかけができるように行動を往復・修正する習慣を身に着けていきたいものです。

今回は、メンバーの能力と意欲の高め方とそこに孕む矛盾の乗り越え方を見てきました。皆さんのリーダー行動を見直すヒントになりましたでしょうか? 次回、第3回は組織信頼の高め方について、引き続き一緒に考えていきましょう。

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