前稿では、日本人の約3割が抱えていると言われる「頭痛」対策についてお伝えしました。今回は、日本では1,200万人以上と言われるドライアイ患者や、紫外線対策と眼精疲労についてお伝えします。
近年の日本の夏は猛烈な暑さになっています。実は、紫外線の影響を受けるのは肌だけではなく、眼も多くの紫外線を浴びています。日頃から大切な眼をいたわることは、眼疾患予防だけでなく仕事の生産性向上の観点からも大切なのです。
吉田 健一 | 株式会社フェアワーク代表
株式会社フェアワーク代表。日本医師会認定産業医・精神科専門医・精神保健指定医。1999年千葉大学医学部卒業。千葉県がんセンターと千葉県精神科医療センターの医長を経て医療法人社団惟心会理事長。参議院・国土交通省ほか上場起業など50以上の団体で産業医を経験後、衆参両院や中央省庁にて法定ストレスチェックを受託。2019年株式会社フェアワークを起業。健康経営にフォーカスした組織サーベイ「FairWork survey」を開発し、2021年に経産省後援の「HRテクノロジー大賞」にて注目スタートアップ賞を受賞した。現在はオンライン社内診療所サービスに注力している。
目次
1. 水晶体や網膜を傷つける紫外線と目の病気
紫外線が目に与える影響には、急性と慢性の障害があります。
急性障害の代表例として「結膜充血」が挙げられます。山や海でのレジャーで目が充血すると、ほこりの影響と誤解されがちですが、実際には紫外線が主因となっている場合が多いのです。
これは目の日焼けのようなもので、通常は一晩で回復します。しかし、炎症がひどいと角膜の表面が剥がれ、強い痛みと涙を伴う「紫外線角膜炎(雪眼炎)」になることもあります。
スキー場や夏の海では、太陽光の反射で通常より多くの紫外線を目に浴びることがあるため、紫外線対策が不十分だとこのような障害が起こりやすくなります。
強い紫外線を浴びると、充血や痛み、ゴロゴロとした違和感、涙、まぶしさなどの急性の反応が現れます。これは大量の紫外線や青や紫の短波長可視光線を浴びると、水晶体や網膜に強いダメージが生じるためです。
このダメージが蓄積すると、目の疲れだけでなく、白内障や加齢黄斑変性といった深刻なリスクへとつながることもあります。普段からPC作業などで目の疲れを感じているビジネスパーソンにとって、急性障害を繰り返すことは慢性障害に移行する原因となります。
参照:サワイ健康推進課
慢性障害で最も多いのは、「瞼裂斑(けんれつはん)」と呼ばれる、白目の一部がシミのように黄色く濁って盛り上がる状態です。
これがひどくなると「翼状片(よくじょうへん)」となり、白目が黒目の中まで侵入します。翼状片は視力に影響し、手術が必要になることもあります。
◎急性のもの
・結膜充血
・紫外線角膜炎(雪眼炎)
◎慢性のもの
・瞼烈斑(けんれつはん 白目の一部がシミのように黄色く濁って盛り上がる)
・翼状片(よくじょうへん 結膜が増殖し、角膜を覆うようにのびる)
・白内障(水晶体が濁って視力が低下する)
・加齢黄斑変性症(歪んで見える、視野欠損、色覚異常、視力低下など)
「老眼(老視)」や「白内障」にも紫外線が関係していることがわかっています。目の中のレンズである水晶体が硬くなってピント調節がしづらい状態になるのが老眼で、白内障は水晶体が白く濁った状態です。
強い紫外線を長期間浴びると、水晶体のたんぱく質が変性し、早いうちに老眼や白内障になりやすいことが報告されています。
2. 紫外線対策のための眼鏡・コンタクトの選び方。屋外ではサングラスと併用することで、より高い効果が得られる。
これから、社員の皆さんも夏のレジャーが楽しみになってくる季節です。週末には家族と一緒に屋外へ出かけることもあるかと思います。あらかじめ、社内で紫外線対策の重要性を周知することが大切です。
特に効果的なのは、目に隙間なく密着するUVカット機能付きのソフトコンタクトレンズです。製品によってUVカット機能の有無やカット率が異なるため、よく調べて選ぶことが重要です。さらに、サングラスや帽子と併用することで、より高い効果が得られるでしょう。
サングラスやメガネは単独でも有効ですが、側面の隙間から紫外線が入り込むことは避けられません。そのため、できるだけツルが太く、レンズが大きいものや、ゴーグルに近い顔にフィットした形のものを選び、帽子も併用するのが望ましいでしょう。
レンズの色が濃いものは、視野が暗くなり瞳孔が開き、却って紫外線が目の奥に届いてしまいます。サングラスを選ぶ際には、薄い色のレンズで紫外線透過率が低いものを選ぶと良いでしょう。また、紫外線は乱反射して隙間があれば入り込んでくるので、なるべく顔にフィットしたグラスを選ぶと良いでしょう。
なお、日傘は暑さ対策には有効ですが、目に浴びる紫外線をカットする効果は期待できません。また、目薬は充血を和らげることはできますが、根本的な対策や予防にはならないため、あくまで対症療法として活用しましょう。
3. 社員一人一人のセルフケアが大切
紫外線からの影響や眼精疲労を予防するためには目を酷使しないことが一番です。そのため、社員一人一人が「目を大切にするセルフケア」に取り組むことが重要です。
例えば、パソコンやタブレットの使用時には適度な休憩を取ることが必要です。ディスプレイの位置は目から40センチ以上離し、少し見下ろす程度の高さに配置すると良いでしょう。
また、十分な睡眠を取り、ビタミンAやビタミンB群、ビタミンEが豊富な食品(レバー、うなぎ、豚肉など)を積極的に摂取しましょう。ブルーベリーなどの抗酸化作用がある食品もバランスよく摂り入れましょう。
コンタクトレンズを使用している場合、ドライアイが気になるなら眼鏡に切り替えることも検討してください。その他、目の潤いを保つための点眼や室内の加湿、意識的なまばたきの増加、目の体操、マッサージなども有効です。
目が乾燥したり重く感じたりしたときに市販の目薬を使う人も多いでしょうが、多種多様な目薬から適したものを選ぶのは難しいものです。パッケージの文言に従って選ぶのが一般的ですが、成分や濃度を正確に判断するのは難しいですし、自分の症状に合ったものを選ぶのは簡単ではありません。
また、目を温めるか冷やすかについても悩むことがあるかもしれませんが、どちらも血管を収縮させるために有効です。ただし、炎症がある場合は温めない方が良いのでご注意ください。
現代人は仕事で一日中パソコンを使い、通勤時にスマホ、帰宅後はテレビや動画を見るなど、目を酷使しています。一晩寝ても疲れ目の症状が残っているなら、健康な目の状態とは言えません。目の健康のために、生活全体を見直してみましょう。
4. デスクワーク中でも簡単にできるマッサージ・ツボ押し
パソコンやスマホ画面を長時間見た場合は、20秒間、20フィート(6メートル)以上離れたものを見て、眼を休息させたり、窓の外を見るようにするとよいでしょう。
集中すると時間を忘れてしまう社員も多いでしょう。その場合は、アラーム機能を使うのもおすすめです。
また、後頭部のマッサージも効果的です。首の後ろ、うなじあたりをもみほぐすと眼精疲労の改善に役立ちます。ツボ押しもリラックス効果があり、気分転換にもなるのでお勧めします。
「睛明」ツボの押し方
「睛明(せいめい)」は、目頭と鼻の付け根の間にあるくぼみの部分です。視力回復、かすみ目、充血、目の痛み、頭痛、鼻水、鼻づまりの改善に効果が期待できます。ツボの押し方は次の通りです。
①まぶたを閉じて親指と人差し指で鼻根をつまむようにする。
②眼球を押さないように、鼻の骨に向かって押す。
③息を吐きながら5秒かけてゆっくり押して、息を吸いながら5秒かけてゆっくりゆるめる×5セットおこなう。
まぶたを閉じて、指の腹でゆっくりと小さく円を描くように10秒程度押しても効果的です。
「魚腰」ツボの押し方
「魚腰(ぎょよう)」は、黒目の真上で眉毛の真ん中あたりにあるくぼみです。長くパソコンやスマホを見ているとジンジンしやすい場所で、目につながる神経が表皮近くまで来ているところです。ドライアイ、まぶたのひきつり、腫れ、目の充血、頭痛の改善に効果が期待できます。
①まぶたを閉じて、指の腹を眉の少し下から上の方に向けてツボに当てる。
②息を吐きながら5秒かけてゆっくり押して、息を吸いながら5秒かけてゆっくりゆるめる×5セットおこなう。
眉をほぐすように小さな円を描くイメージで10秒押すのも良いでしょう。また、眉頭や眉尻の方にもツボがあるので、眉毛をつまんで全体をほぐすのも効果的です。
参照:https://www.meganeichiba.jp/special/feature/article120.html
5. 最後に
疲労対策も紫外線対策も一時的では効果も半減です。常に使う目だからこそ、日々ケアをしている状態が理想です。
疲労がたまり、慢性症状になる前に、生活習慣を見直しましょう。日常的にケアを行えるオフィスづくり、意識改善に期待しています。