近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が浸透しています。主に企業やビジネスの文脈で語られるDXですが、教育現場においてもDXの推進が求められます。この記事では、教育や学習におけるDXの必要性や、GIGAスクール構想の概要、EdTech(エドテック)やSTEAM教育の事例など、教育現場におけるDXについてわかりやすく紹介します。
目次
1. 教育DXの「DX」の読み方と概要
教育DXのDXとは、デジタルトランスフォーメーションの略語です。
DXとはデジタル技術を導入することで人々の生活を改善し、変革させることです。2004年にスウェーデンのウメオ大学で教授をしていたエリック・ストルターマン氏によって提唱されたのが、DXの始まりであると言われています。
日本でDXが浸透しはじめたきっかけは、2018年からおこなわれている経済産業省のDX推進です。経済産業省が取りまとめたDXレポートでは、ビジネス企業が2025年までに間にDXを実現しなければ年間12兆円の経済損失が発生する可能性があると呼びかけています。
参考:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~ (サマリー)
2. 文部科学省も推進している教育DXとは
オンライン会議やテレワークなどの普及によって生活様式が変化していくことを受け、文部科学省でもデジタル化推進プランとしてDXを推進しています。その目的は、変わりゆく日常に対応できる新たな成長基盤の構築と、国民一人ひとりが得られる幸福感の向上です。DXによってこれまでにない学びの可能性がもたらされることを期待されています。
具体的なDXの例としては、以下のような取り組みが挙げられます。
- 家庭学習カードのオンライン化
- 付箋操作のオンライン化
- 日程希望調査のオンライン化
- 職員会議のペーパーレス化
上記例のように日常的なDXだけでなく、教育システムを根本的に変革させる計画も検討および実施が進んでいます。
3. 教育DXが重視される背景
教育DXが必要な背景には、いくつかの要因があります。
3-1. リモート授業など学習者の多様性が求められる
学習者の多様性も教育DXが必要な背景です。コロナ禍によってオンライン学習が必要になったことで、より柔軟かつ効率的な教育が求められるようになりました。また、個々の学習者に合わせた教育が求められるようになっていることも要因の一つです。
学校に行くのが難しい児童や生徒が場所にとらわれずに学習できたり、レベルに合わせて必要な学習を効率的におこなうことができたりと学習者や保護者、指導者のいずれにもメリットがあります。
3-2. 学校教育改革の必要性
先述の通り、デジタル化が進む現代において、学校教育でITリテラシーを教える重要性や、教育現場の業務改善が必要性を文部科学省が指摘しています。
教育DXとは、単にタブレット等を用いた学習のデジタル化ではなく、IT技術を用いて教育現場を変革していくことです。教職員のアナログの業務をデジタル技術で効率化したり、ITツールを用いた教材でより良い学習環境を学習者に提供したり、時代の変化に合わせて教育現場を改革する必要性が高まっています。
4. 教育DX|GIGAスクール構想とは
2019年に政府が公表したGIGAスクール構想とは、デジタル技術が進化し続けるIT社会のなかで、すべての子どもたちが各々にとって最適な学びを得ることができる環境を整備する計画です。この構想を実現するために、ハード面、ソフト面、人材面の3方向から環境を見直しています。
ハード面では、児童生徒の1人1端末所持や高速通信ネットワークの用意が進められています。ソフト面でおこなっている施策には、デジタル教材の導入や新しい学習指導要領の実施などが挙げられます。人材面については「GIGA StuDX推進チーム」が結成され、研修動画や情報の配信などが実施されています。
これら3つの面が一体となって整備が推進されることで学びの充実化が促進され、生徒や教師の力を最大限に引き出すことが、GIGAスクール構想によって実現しようとしている目標です。
5. 教育DX|エドテック(EdTech)とは
エドテック(EdTech)とは、Education(教育)とTechnology(技術)を組み合わせた言葉で、IT技術によって教育分野を変革することをいいます。EdTechの例として、生徒一人ひとりが取り組める学習ソフトや、教師が生徒の学習進捗を確認できる管理システムが挙げられます。生徒一人ひとりに対する指導を最適化し、質の高い教育を受けられる環境を実現することが、EdTechの目標です。
経済産業省が提供しているEdTechライブラリーでは、GIGAスクール構想を視野に入れた取り組みである「未来の教室」の実証事業で使用されたEdTechの実例が掲載されています。2022年2月時点で12件の事例を確認することが可能です。
6. 教育DX|STEAM教育とは
STEAM教育とは、文系や理系といった教科の枠組みにとらわれない学習によって、課題を発見したり解決したりする能力を育成する教育方針です。STEAM教育のSTEAMは、以下の言葉の頭文字をとっています。
- Science(科学)
- Technology(技術)
- Engineering(工学)
- Art(芸術)
- Mathematics(数学)
STEM教育に芸術のAを加えることで、論理的な問題では育てるのが難しいアイディア力や感性の成長を促します。
経済産業省が提供している未来の教室ページのSTEAMライブラリーでは、90を超える多様なテーマの教材が配信されています。テーマごとに複数のレクチャーが含まれており、動画や資料をダウンロードして閲覧することも可能です。
7. 教育DXの事例①:プログラミング学習
学研プラスが提供する学習ソフト「Music Blocks」は、小学校に導入されているSTEAM教材の一つです。
Music Blocksはアメリカで生まれたソフトで、音楽と算数とプログラミングを同時に学習できます。音の高さや楽器の種類を表すブロックを組み合わせて音楽を作ることができます。ブロックの組み合わせ方でプログラミングに必要な論理的思考を、音の長さやスピードを数値によって指定することで分数などの算数的な要素を、それぞれ学ぶことが可能です。
苦手な分野があったとしても、ほかの要素で楽しみながら学べるでしょう。横浜市立梅林小学校などの学校や、岐阜県岐阜市の自治体などで導入されています。
8. Qubena
Qubenaは、アダプティブラーニング(個別最適化学習)を実現することができるAI教材です。アダプティブラーニング(個別最適化学習)とは、児童や生徒一人ひとりの得意・不得意、学習分野の習熟度などに応じて、個別に最適化された問題や教材、学習計画を提供することを指します。
Qubenaでは、AIが一人ひとりの計算過程や解答を分析し、つまずきの要因を明確にします。その原因に合わせて最適な問題を出題することで、学習効率を向上させることが可能です。
参考:Qubena(キュビナ)小中5教科 | 未来の教室 ~learning innovation~|経済産業省
9. 教育のDXはこれから注目の分野
ビジネスシーンや企業に比べて、教育業界はDXの導入事例がまだまだ少ないのが現状。しかし、GIGAスクール構想の実現が進み、導入の成功例が増えていけば、これからDXが加速していく可能性が高いでしょう。そのため、今後この分野が注目されると予想されます。生徒や教師のためにも、DXの推進をできるところから検討してみてください。