日本の労働人口が減少していく中で、人手不足は多くの企業に共通する社会課題です。企業を成長させるためには、この社会課題に対してしっかり向き合い、各社ならではの対策を進める必要があります。
HRNOTEでは、2023年10月10日に、「DX Action Summit 2023 ~人手不足解消の未来予測会議~ 」を開催し、講演①では経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課にて「デジタル人材育成プラットフォーム」の制度設計をおこなう金杉氏を迎えて企業が現状の社会課題を正しく把握し、正しく対策を立てるために必要となるスタンスについてお話いただきました。
この記事では、金杉さんにお話頂いた講演①をイベントレポートとして紹介します。
※本イベントはアーカイブ動画を配信しています。実際の講演をご覧になりたい方は、こちらからアーカイブ動画をご視聴ください。
目次
金杉祥平氏 | 経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長補佐2006年に経済産業省に入省。過去には、再生可能エネルギーの推進、家電製品の安全基準の整備、電気事業制度のルール整備、福島第一原子力発電所の廃炉推進に従事し、2021年5月から現職。
情報技術利用促進課では、地域企業・産業のDXの実現に向けて、デジタル人材の育成を推進するため、デジタル知識・能力を身につけるための実践的な学びの場を提供する「デジタル人材育成プラットフォーム」の制度設計を担当。
経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 で課長補佐をしています。金杉と申します。
情報技術利用促進課がどんな仕事をしているかというと、企業や産業のDXを進めるために、企業のDX推進策、デジタル人材育成の促進という2本を柱に施策を進めており、私はそのうちのデジタル人材の育成について携わってます。
今日はそれぞれの施策説明の中で、ぜひ皆様の経営課題に沿うような施策があればご活用いただければと思います。
日本企業が抱える人手不足の問題
まずはじめに人材分野の構造的な課題ですが、皆様ご承知のとおり、生産年齢の人口は1995年をピークに減少傾向で、近年女性や高齢者などの労働参加率の向上により雇用者数は増えてはいるものの、自然体ではこれ以上の労働投入の維持増加は期待できません。
2023年、2050年と進むごとにだんだん労働力は低下していき、いわゆる人材不足というのは避けては通れないものと言えます。
それに加えて、日本企業の人的投資は他国の先進国に比べ劣っているという状況も同時に発生しています。国民全体の生産性の向上に向けて、人的投資等を踏まえた人材の質の向上は不可欠なところです。
では、個人が自律的に学んでいるかというと、なかなかそういう状況でもないというのが現状の課題です。
社外学習自己啓発をおこなっていない人の割合は、海外と比べると高く46%にも上っています。
自己啓発をおこなう上での問題点は何かという質問に対しては、日本では「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」「家事育児が忙しくて、そんな余裕がない」といった声が聞かれます。
このような、人への投資、学習状況の遅れも相まって日本のデジタル競争力は低下しているというのが現状です。
国全体のデジタル投資が長期的に低迷していて、海外と比較してもその差は歴然であり、日本における成長の鍵はデジタル投資の活性化だと言えると思います。
そうした中、毎年公開される世界デジタル競争ランキングの2022年のデータにおいて、日本は63カ国中29位と低迷しており、年々順位を落としています。特に人材デジタル技術スキルという項目が62位と低く、これが全体を引き下げる要因となっています。
今回のイベントのテーマである「人材不足」に対しては、
1つ目としては人材確保の施策、2つ目は省人化、その両面の対応が求められると思います。
例えば人材を確保するために賃金を上げたり、または設備投資して省人化を進めるなど対応方法は様々です。
企業においても、DXを進めることで、業務の効率化や自動化が実現できます。人手不足には様々な解決策があろうかと思いますが、本日はその中の一つとして考えられるDXについて考えていきたいと思います。
企業の人材不足への対応策
具体的にDXを実現している事例としてはどんな取り組みがあるのか、3つほどご紹介します。
【例①】窓口業務のデジタル化
これは地方銀行の事例ですが、銀行ではいわゆる人が窓口となり、お客様がその申込用紙に鉛筆で書いてその書いた内容を行員の方がデータ入力して、その入力した内容が間違いないかチェックした上で、システムに登録する流れが一般的でした。
そこで、タブレットを導入することによって、さきほどの窓口業務が全て効率化され、その結果、業務負担を大幅に軽減することができました。
また、窓口業務の行員を現状より省人化することに繋がり、省人化して余剰になった人員を、今度は銀行のDX推進業務に配置したことで、銀行の利益をさらに進めることになったという事例であります。
【例②】属人化業務の自動化
あるスーパーでは通常職員の方がその季節であったり、イベントであったり、天気などを加味しながら商品発注業務というのを長年の経験と勘でおこなっていました。
それを、人の代わりにAIを活用して発注業務自体を自動化することが成功した事例です。
属人上の業務が軽減しただけでなく、人がおこなうよりAIをおこなった方が生産性向上と食品ロス削減を実現することができたというもので、さらに今まで発注業務に携わっていた職員の方は営業の方に力を入れるようになりました。
【例③】人材とロボットの業務分担
あるレストランではこれまで人がおこなっていた配膳作業について配膳ロボットを導入することによって、ランチピーク時の回転率が75%アップ、片付け完了時間は35%削減といった効果が実現しています。
ロボットに任せられるところはロボットに任せて、それ以外人がやるべきところは人が対応するといった業務分担がうまくいった事例となっています。
企業のDXを実現するためには、DXを進めるとともにデジタル人材の育成を両輪で推進していくことが重要になっていきます。
経済産業省のDX推進施策に関して
企業のDXを推進するにあたって経済産業省では様々な取組を実践しています。
まずはじめに、今バズワードとなっている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」について、改めてその定義を確認しておきましょう。
DXとは、企業がビジネス環境の激しい変化に対応して、デジタルとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを元に、製品やサービスビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織プロセス企業、文化風土を変革し、競争上の優位性を確立することと定義されます。
企業にとってのDXは、パソコンを導入したり、システムを導入したといったことではなくて、経営のやり方や製品・サービスのあり方をデジタル前提で抜本的に見直し、顧客目線で新たな価値を創出することであるといえます。DX推進で、ビジネスモデル、企業文化等の変革に全社として取り組むことが重要になってきます。
DX推進にあたって、まず経営者が考えるべきことの1つ目は、「何のために会社があるのか、存在意義をきちんと定める」ということです。3年、5年、10年後、どんな会社でありたいかのかといったビジョンを、会社として明確に定めることが重要です。
ビジョンがあると、理想と現状の差分が何であって、どのように解消すべきかといった道筋が見えてきます。
また、DXを進めながら顧客目線での価値創出のためにデータ技術をどう活用していくかという視点に立つと更にDXが進んでいくと思います。
次に、DXが進まない失敗のパターンとしてよくある例も紹介します。
1つ目がどんな価値を創出するかではなくて、技術を使って何かできないかという発想になってしまっていることです。
たとえば「巷ではAIが便利と言われているからAIで何かやるぞ」と、AIを使って何かができないかという思考になり、ベンダーに丸投げしてしまうパターンです。
AIを使って「何をするか」ではなくて、そもそも企業として「何が経営課題であるのか」を特定し、その経営課題を解消する手段の一つがAIであるという順序でAIの導入を進めて行かなければゴールが見えずに改革が頓挫してしまいます。
そのために、まずは経営課題が何であるかっていうのをしっかり定めることが重要といえます。
もう1つはトップダウンで号令はかかるものの、DXを実現するための形として仕組みの構築が伴っていないというものです。DXは社長が「明日からDXだ」と言ったからといって勝手に進むものではありません。
まず、組織の体制や、企業文化、社内の人材育成等経営の仕組み上見直しを進めないとDXは進まないと言えます。
これからDXをやろうという段階であったり、今現在DXの施策を既に検討し進めているという段階だったり、企業によって状況は様々あるかと思います。
経済産業省ではそのような企業のDXの取り組みの状況や、DXレベルに合わせた施策を様々提供しています。
こちらの画像のように階層化しているので順番に見ていきましょう。
初級:DX推進指標
まず、これからDXに取り組む事業者の方には「DX推進指標」を確認してみることをおすすめします。
こちらは、自社が今、どういう立ち位置にあって、これから何をすべきなのかといったような、経営やITの両面でDXの取り組み状況をいわば健康診断のように基準と照らし合わせながらチェックすることができます。
IPAに診断結果を提出することで、全国そして業界内の位置づけをDX先行企業との比較で確認できるベンチマークも提供しています。
実際の企業と比較することで、自社の立ち位置や、今後進むべき方向を明確化していただけると思います。
中級:DX認定
DX認定は、DX推進指標やデジタルガバナンス・コードに沿ってある程度DXが進められる組織体制や人材育成が進んだ企業を事業を経済産業大臣が認定する制度です。
経済産業省ではDXに取り組んでいる企業を「DX認定企業」としています。IPAに申請いただき経済産業大臣から「DX認定」を受けることで、対外的にもDXを実践している企業であるというふうにPRすることができます。2023年10月時点では約822社の企業を認定していますので、ご関心あればこちらも是非ご活用ください。
また、jinjer社が提供している「DXAction宣言」をまず宣言頂いた上で、次のステップとしてこちらのDX認定も活用いただけるとスムーズだと思っています。
中~上級:DX銘柄・DXセレクション
経営者目線でDXの進め方について定めたものがデジタルガバナンス・コードです。
こちらは、DX時代の経営の要諦集として、経営者がDXによる企業価値向上の推進のために実践すべき実施事項をまとめたものです。企業の経営者として全社のDXをどのように進めればいいのかといった戦略の立案に使っていただけると思います。
例えば、ビジョンや戦略など経営者としてデジタルを前提としたビジネスモデルのあり方や、戦略をどう進めればいいのかといった方向性について定めています。
先ほどご紹介したDX推進指標やDX認定制度においても「デジタルガバナンス・コード2.0」の考えを基本として政策を進めています。
先進的なDXの企業を参考にすることで、自社のDXのお手本になる企業を見つけていただけるかと思うので、2点ほどこちらの手引きに乗っている事例を紹介します。
取組例①|有限会社ゑびや / 株式会社EBILAB
創業150年の老舗飲食店が、事業承継を機に1台のPCに手作業で天気や売り上げなどのデータを入力するところから、地道にデータ活用の取り組みを開始。
まずはエクセルへの入力を開始し、そこから7年かけて徐々にデータやAIを活用し来客数予想ツールの開発等に取り組む。
結果、世界一IT化された食堂として生まれ変わり、客数客単価で3.5倍、売上は5倍、利益は50倍に増加した。
ゑびやのDXで得られたノウハウと開発ツールを活用して他の事業者のDX支援をおこなう株式会社EBILABも設立。
取組例②|株式会社ヒサノ
自動車の配送事業をおこなっている会社。運送の配車や、人員の配置の管理をこれまで紙でおこなっていたため、属人化・ブラックボックス化していた。
デジタル化を導入する中で、社長自身がなかなかベンダーが説明する横文字が理解できなかったため、ITコーディネーターを活用しながらデジタル化について5年後のビジョンを明確にして業務変革に着手。
配車や人員配置について、クラウドを利用してデジタル化することで、倉庫の管理システムと連携し、より効率的な運営が実現した。
【参考】DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制
また、経済産業省ではDX推進に取り組んでいる企業を対象に、DX投資促進税制をおこなっています。こちらは現在、令和6年度までの適用期限となっています。
具体的な認定要件には、デジタル要件と企業変革要件の2つがあり、それぞれの要件に取り組み状況が合致するとデジタル投資の一定割合について税制優遇が得られるというものですので、こちらも活用いただければと思います。
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デジタル人材育成について
ここからは、DXを推進する上で両輪となって必要なデジタル人材育成について説明していきたいと思います。
こちらのデータをご覧ください。DX人材と呼ばれる人達は量・質ともに大変不足しており、DXを推進する人材の「人数」が大幅に不足と回答する企業は、30.6%から49.6%に昔より更に増加しているという状況です。
また、DXを推進する人材の「質」についても大幅に不足しているという企業も今時点で51,7%となっています。
現在、企業においてDX推進人材は、人数においても質においても不足感が増えているという状況で、人材ニーズの増加に対して供給が追いついていない状況と言えます。
こうした状況もあり、岸田内閣総理大臣は所信演説において、続々と開発される新しいデジタル技術を学ぶためにも、リスキリングによって能力向上について支援していくというふうに言っています。
当省ではデジタル人材育成についての施策もおこなっていて、それぞれの施策を体系的に整理したものがこちらの図になります。「デジタル人材育成といっても何から手を付けていいか分からない」といった方向けにはまず、スキルの可視化ということで、デジタルスキル標準という形で策定・公表をしています。
次に、スキルの可視化をした上で、何を学べばいいかわからないといった方向けにデジタルに関する学習コンテンツの提供をおこなっています。最後に学習能力の保障であったり、効果を測定したいといったニーズに応えるため、IPAでは情報処理技術者試験をおこなっています。
その中でも例えば「ITパスポート」という試験は皆さまもご存知の方が多いかと思います。こちらは元々IT部門の登竜門として位置づけられた試験制度でしたが、最近の傾向では、非IT系の企業の受講率も大変多くなっています。DXについてこれから学んでいく方は、その能力の実力診断としてITパスポート試験を活用いただくことも有効かと思います。
ここからは先述の「デジタルスキル標準」と「学習コンテンツ」について、更に詳しくご紹介していきたいと思います。
①デジタルスキル標準
まず、「デジタルスキル標準」についてです。
大きく分けて経営層を含む全てのビジネスパーソンが学ぶべきスキルや技術をまとめた「DXリテラシー標準」と、DXを推進する専門人材に求められるスキル技術をまとめた「DX推進スキル標準」という2種類を策定しています。
それぞれの人材育成において、学びの指針として活用いただければと思います。
まず1つ目の「DXリテラシー標準」の構造をご紹介します。
まず土台を「マインドスタンス」としてDXを進める上で、どういったマインドやスタンスが必要かという意識・姿勢・行動を定義しています。
その上で、3本柱として下記の3つの要素で整理しています。
- Why:DXの背景
- What:DXで活用されていた技術がどんなものがあるか
- How:データ技術の量をどのように活用できるか
各項目を見ながら、足りない知識はどこかというのを照らし合わせながらそれに対応するスキルを学ぶことを推奨しています。
さらに、専門人材の定義した「DX推進スキル標準」については、5つの人材類型について定めています。
こちらはいわゆる企業のIT化ではなくて、DX推進に必要な人材を類型的に整理したものです。
デジタルに関しては、いわゆるエンジニアであったり、サイバーセキュリティやデータサイエンティストはイメージしやすいかと思いますが、
DXを推進する為には「ビジネスアーキテクト」と呼ばれる自社のビジネス課題とデジタル知識を結び付けて課題解決する専門家であったり、「デザイナー」と呼ばれる人材がビジネス視点や顧客ユーザーの視点等を総合的に捉えながら、製品サービスの方針や開発プロセスを策定する必要があります。
それぞれ5分類を更に細分化した「ロール」に分けて、その企業のニーズや状況に合わせてその人材育成の指針として定めたものを公表していますので、是非そちらもご参照ください。
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では、このデジタルスキル標準をどのように活用すればいいかというステップを確認しましょう。
まず、デジタルスキル標準を活用することで、自社に必要となる人材を定義をしたり、現場の可視化をおこなうことにより、的確な教育の実施まで計画的な人材育成開発が可能となります。
ステップ1 自社のDX戦略を踏まえてDX推進に必要な人材を分類定義する
まず、DX戦略を企業として描いた上で、その中でその戦略に必要なDX人材像を検討します。その上で、自社のDX推進にその人材を定義しましょう。
ステップ2として社内人材の保有スキルや、スキルレベルの可視化をおこなう
人材定義を元に自社の社員がどのようなスキルをどの程度持っているかをアセスメントし、現状の見える化を実施します。
ステップ3 人材育成計画に基づいた教育の実施
ステップ2で実現した可視化を踏まえた上で人材確保を考えたり、育成計画を策定することが重要になってきます。
その計画に基づいて教育カリキュラムを作成し、その教育が終わったら、自社のDXに向けて取り組んでいただくことが重要であるといえます。
②経済産業省が提供するDX人材育成のための教育プログラム
経済産業省では、DX人材の育成に関する実践的な教育プログラムを提供しています。
大きく3つのコンテンツが階層的に存在します。
1. マナビDX
1つ目はオンライン教育サイトの『マナビDX(デラックス)』です。こちらは、民間や大学が提供するさまざまなデジタルスキルが学べる教育コンテンツを提供しています。
サイトにアクセスいただければいつでもどこでも誰でもデジタル好きには学べる環境となっています。
現在約500講座が掲載されていて、学習コンテンツとしてはAI、DX、データ活用等について学べる基礎的なものから、デザイナー、ビジネスアーティスト、エンジニア、セキュリティー等専門的な知識を学ぶものがあります。
こちらは現在、無償のものが約100講座あります。また、有償講座の中でも「Reスキル講座」という形で印が付いているものについては、厚生労働省の支援が受けられるものとなっています。
支援としては2種類、企業に対しては、「人材開発支援助成金」が支給されまして、対象の講座であれば、中小企業は経費助成が75%、大企業であれば60%、賃金助成については中小企業においては1時間あたり960円、大企業においては480円が助成されます。
個人に対する支援としては「専門実践教育訓練給付金」というものがあり、条件として在職者であったり、離職後1年以内といった方を対象に、訓練費用の一部について受講費用の50%が支給されます。さらに、受講終了後、1年以内に雇用保険の適用された場合は、追加で受講費用も20%上乗せされるというものであるので、ぜひこういった支援制度も活用いただければと思います。
2. ケーススタディ教育プログラム(マナビDXクエスト)
先述のマナビDXなどで、いわゆる座学レベルはクリアされた上で、DXを推進する為に必要な実践的な学びを提供する場として、「ケーススタディ教育プログラム」と「地域企業協働プログラム」を合わせた実践的な教育プログラムである「マナビDXクエスト」を提供しています。
ケーススタディ教育プログラムでは、データ付きのケーススタディー教材を用いながら企業が抱える実際の課題を2ヵ月程度かけて解くことで、受講生がデジタル技術の導入について一気通貫で疑似体験できるオンライン学習プログラムです。
今年は2800名程度の方が受講いただいており、それぞれのケーススタディ教材について、講師ではなく、コミュニティの中で受講生同士がお互い教え合い、学び合いながら課題解決に取り組んでいます。
教材タイプとしては主に2種類で、AIの実装について学べるプログラム、そしてデータ駆動としてデータサイエンスを活用しながら変革推進が学べるプログラムとなっています。
今年度は既に募集が終わってしまったのですが、来年度も継続して実施していきたいと思っています。
3. 地域企業協働プログラム(マナビDXクエスト)
そして、これらのプログラムをクリアされた方が、地域企業協働プログラムに参加が可能です。地域協働プログラムは、中小企業と協働して、その企業が抱える課題についてチームで2個月間取り組むプログラムとなっています。
例えば、スーパーにおいて、発注の課題に対して人の代わりにAIを活用して野菜など様々な食品の仕入れ予測をし、受発注をおこなったという解決事例がありました。昨年度は約88社の企業と約400名の受講生に参加いただきました。
受講生については全国大で募集していますが、関東地方の方が約半分と多い傾向があります。また、20代から40代の方が8割強で、特に30代の方が3割となっています。各参加比率では男性の方が8割弱、社会人の方が9割、業種としては製造業の方が多く、その次にサービス業金融といった方が多い状況です。
Q&A
講演内で出た質問について金杉さんよりご回答いただきました。
Q.日本経済全体を見て数年前と比べてDXの事例は増えてきているのでしょうか。
そうですね、事例は結構増えているというのが実感です。皆様が分かりやすい例で言うと、例えば美容室の予約では、昔は電話で予約していたような時代もあったと思うのですが、それが今ではHPで24時間予約できる、さらには事前に電子決済も可能になったというのは皆さまも経験があるのではないでしょうか。
このように、デジタル化によって便利になってきた事例も多数と思います。
Q.人材開発支援を既に利用している企業はどのくらいありますか?
例えば、デジタルスキル標準は昨年の12月に公表したところ、それを活用いただける企業の方も増えてきています。
具体的には、イオンや、味の素など、そういった今現在既にDXについて取り組んでいる企業にも活用いただいています。
こうしたデジタルスキル標準を活用する企業が徐々に増えている印象を受けます。
Q. 施策を実施するにあたって社内で理解を得られないことが多く、どのように進めるのが良いでしょうか?
いきなりDXのために人材やお金を投じるのはなかなか不安があろうかと思います。
なので、まず小さな成功から積み重ねていくことが重要だと思います。
まずは今、巷にあるデジタルツールを活用しながらどういったことができるのかを体験していただくのが良いと思います。最近で言うと、生成AIがバズワードになっていますが、そうしたツールをまず触ってみて日常の業務にどう応用できるかなというのを考えるということが非常に重要な一歩じゃないかなと思います。
Q. 中小企業の方がDXの難易度は高いのでしょうか?
現状の課題として中小企業の方ではDXに割ける予算が少ないという点や、人員の確保で相当苦労されているというふうに聞いています。
他方で中小企業の方がデジタル技術を推進するという意思決定のプロセスにおいては、中小企業では社長や決裁者の一存で決められるといったように、進めやすい企業も多いと思いますので、中小企業の事例も先ほど紹介した『中堅中小企業向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引きバージョン2.0』中にたくさん載せていますので、そちらもご参照いただければと思っています。
Q. 金杉さんの視点で企業として何から実施するべきか改めてお伺いしたいです。
そうですね。まず、デジタルがどんな便利なものかというのをある程度知っていただくだけでも第一歩としては十分かと思いますが、その上でデジタルを活用する企業戦略を作ることが重要だと思います。
それがないと、部分的なDXに終わってしまって、ツールを導入して終わってしまったといった残念な結果になってしまいがちなので、そうしたことに注意いただければと思います。DXの手法だけではなく、どういったところを目指していくのか、何が必要なのか、何ができるのかっていうところですね。これは先ほど紹介したマナビDXクエストで学んでいただくことが可能です。
Q. 経営層だけでなく、現場の社員にDXの重要性を伝えていくにはどうすれば良いでしょうか?
これも非常に難しい課題ですよね。現場からすると、これまでやってきたやり方が非常に馴染んでいるので、新しいツールを使えば、こういうことはできますよといったことを現場の方々に提案する際には反対される事例も多いと聞いています。
これに対して、いきなり上から目線で押しつけるのではなく、デジタルを使うとこういうことができるという小さな成功と理解から進めることが良いと思います。
「このツールを使えば、こういう風に便利になっていくんだ」という体験を現場の方々にも積み重ねてもらいながら、新しいやり方への理解を進めていくということが非常に重要だと思いますし、一度のみならず何度でも繰り返し伝えていくということも重要です。
すごく高度なシステムを急に入れることは結構大変だと思うので、例えば、資料が紙の状態だと、その紙を管理する担当者しか見られないという課題がありますが、OCRを使ってデジタル化することで、そのほかの方も簡単に見ることができるようにしたり、今度はその電子情報をデータとして活用していくというように可能性がどんどん広がると思います。
Q. デジタル人材育成プラットフォームの企業としての活用ステップを知りたい
まず、自社としてどういう人材が必要なのかというのを定義する必要があります。
デジタルスキル標準と自社の戦略をベースに、どういった人材像が必要なのかというのを定義していただき、そして、その人材を社内人材の育成、社外からの登用といった形で確保することが大切かと思います。
育成方法としては、民間が提供している教育プログラムもありますし、マナビDXに掲載している講座も多数あるので、そういったものも是非ご活用ください。
金杉さんより最後に一言
今日のまとめです。人材不足の解消を進めるにあたっては、DXを進めることも対策の一つであると考えています。そのDXを進めるためには、それを担うデジタル人材の確保も非常に重要です。
また、現在、日本企業においてはそのデジタル人材が不足している状況にも関わらず、学び直しに向けた取り組みがあまり進んでいないというのが現状です。
デジタル人材の育成確保を進めるためには、企業における経営戦略をきちんと策定した上で、企業文化を見直し、必要なスキル人材像の明確化、リキリング学習環境の整備などについて具体的に取り組むことが重要となってきます。DXを進めることで競争力の強化や新しいサービス・製品の創出を実現できる可能性が高まりますし、ぜひ企業の皆さまに、DXについて関心を持っていただきたいです。
経済産業省をはじめ他省庁が提供している様々な施策を上手に活用しながら、みなさんの社内のDXを進めていただければ幸いです。
※本イベントはアーカイブ動画を配信しています。実際の講演動画をご覧になりたい方は、こちらからアーカイブ動画をご視聴ください。