職務等級制度とは、職務ごとに求められる仕事内容や成果、能力などをまとめた等級表に当てはめ、社員を評価する方法です。
導入時は社内のすべての職務の成果基準や必要な能力、権限、危険性などを把握する必要があり、人事部門の負担が大きい点に注意が必要です。 本記事では職務等級制度とは何か、メリット・デメリット、導入方法、注意点を解説します。
人事評価制度は、健全な組織体制を作り上げるうえで必要不可欠なものです。
制度を適切に運用することで、従業員のモチベーションや生産性が向上するため、最終的には企業全体の成長にもつながります。
しかし、「しっかりとした人事評価制度を作りたいが、やり方が分からない…」という方もいらっしゃるでしょう。そのような企業のご担当者にご覧いただきたいのが、「人事評価の手引き」です。
本資料では、制度の種類や導入手順、注意点まで詳しくご紹介しています。
組織マネジメントに課題感をお持ちの方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
目次
1. 職務等級制度とは?
職務等級制度とは、社員を職歴や年齢ではなく、あらかじめ設定した職務等級に当てはめて評価する方法です。ジョブグレード制度とも呼ばれています。
この制度では、あらかじめ職務ごとの責任や難易度により職務価値(ジョブサイズ)を決め、等級表に分けておきます。社員を等級に当てはめて評価するため、同一労働同一賃金が達成しやすい方法といえるでしょう。
職務等級制度では、勤続年数による昇給や昇格はありません。ポストに離職があったときにその等級を全うできる能力のある人材を当てはめるため、成果主義的な人材管理が達成できる方法でもあります。
1-1. 職務等級制度と職能資格制度の違い
職務等級制度は業務内容そのものを重視するのに対し、職能資格制度では職務を遂行するのに必要な能力を重視します。職能資格制度は、従業員の勤続年数が長くなるにつれ職務遂行能力が上がるといった、年功序列や終身雇用を前提にした制度との親和性が高いです。
1-2. 職務等級制度と役割等級制度の違い
役割等級制度は、組織内での従業員の役割を階層化し、ランク付けする制度です。ミッショングレード制度とも呼ばれます。
役割等級制度では、従業員の役割や貢献度、組織内での位置付けが重視されますが、近年導入が進んでいる制度であるため、明確な定義はまだありません。職務等級制度への注目は、現代の労働環境の変化に対応する必要性から生じています。
1-3. 職務等級制度に注目が集まっている背景
同一労働同一賃金の推進に加えて、転職やリモートワークが一般的になるにつれて、柔軟性や能力重視の観点から職務等級制度が注目されています。また従来の年功序列型組織において、勤続年数が長い従業員の給与コストの高騰や従業員のモチベーション低下といった懸念が発生していたため、会社側のメリットが大きいことも注目が集まる大きな理由のひとつです。
2. 職務等級制度のメリット
職務等級制度では、社員個人ではなく達成した仕事により評価するため、人件費を適切に配分できます。また、評価の透明性が高く、採用時のミスマッチを防止できる点もメリットです。
以下、それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
2-1. 人件費を管理し無駄を削減できる
年功序列型の人事評価制度では社員の勤続年数が上がれば、能力にかかわらず賃金も上げなくてはいけません。
職務等級制度では、社員の属性ではなく等級に当てはめ評価するため、人件費を適切に分配し、管理もしやすくなります。
2-2. 専門性の高い人材を確保・育成できる
職務等級制度では、各等級に求められる職務内容や責任の範囲が明確となり、採用時のミスマッチ防止にも役立ちます。社員の定着率向上が期待でき、採用コストの削減にもつながるでしょう。
また、各職務で求められるスキルや能力がわかれば、スペシャリストを育成しやすくなります。
2-3. 評価の透明性を確保できる
職務等級制度では、事前に職務の詳細を明記した職務記述書を作成します。このため、社員がおこなった仕事内容やその成果は社員自身も職務価値に当てはめて確認できます。
評価の透明性や公平性を保てるだけでなく、管理職は人事評価がしやすい点もメリットです。
このように、何を主軸として評価をおこなうか人事評価制度の方針次第で、組織に与える影響は異なってきます。自社の現状にとって適切な人事評価制度を構築する必要があるのです。
しかし、人事評価制度を構築するといっても何から手をつければ良いかわからずお困りのもいらっしゃるかと思います。そのような方へ向けて、本サイトでは「人事評価の手引き」を無料で配布しています。自社にとって適切な人事評価制度を検討するためにまずは人事評価制度について網羅的に理解したいという方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
3. 職務等級制度のデメリット
職務等級制度は勤続年数が考慮されないため、年功序列型など従来の評価方法から変更するときは反発が大きいでしょう。また、専門性が高まる一方で、仕事への柔軟性は失われやすくなります。
各デメリットの詳細は以下の通りです。
3-1. 勤続年数の長い社員から反発されやすい
年功序列型から職務等級制度に変更するときは、勤続年数の長い社員からの反発が大きいと予想されます。また、長年務めても職務自体が変更になれば賃金が下がる可能性もあり、社員の離職が増える恐れも否めません。
3-2. 人事部門の負担が大きい
職務等級制度の導入時は、職務分析、職務記述書の作成、職務の数値化、職務等級・職務給の決定など、膨大な作業が必要です。
とくにすべての職務について、内容や成果、危険度、責任の重さ、必要なスキルなどをまとめるのは途方もない作業です。
職務記述書は、評価基準が変われば随時変更が必要なため、従来以上に人事部門の負担は大きくなるでしょう。
3-3. 業務への柔軟性が失われる
職務等級制度では、スペシャリストを育成できる反面、社内のどのような業務にも精通するゼネラリストは育ちません。
また、職務内容が明確に定義されれば仕事は個人のものとなり、企業全体でおこなっているという意識も低下し、組織の柔軟性が失われやすい点もデメリットです。
4. 職務等級制度の導入手順
職務等級制度を導入するときは、社内にある職務の収集と分析、職務の評価、等級・給与の決定などをおこないましょう。具体的には、以下のステップで進めます。
- 職務分析をおこなう
- 職務記述書を作成する
- 職務ごとに等級・定義・仕事内容を決める
- 職務別に評価を実施する
- 社内の職務等級・職務給を決定する
4-1. 職務分析をおこなう
まずは企業内のすべての職務について、職務の具体的な内容と作業上の特性を分析します。
職務の具体的な内容とは、職務行動や成果基準の明確化、職責の重さなどが当たります。作業上の特性とは、その職務に必要な知識とスキル、裁量、危険性、労働時間などです。
4-2. 職務記述書を作成する
職務記述書(ジョブディスクリプション)とは、ポストごとの職務内容、必要なスキル、期待される成果、責任や権限の範囲などをまとめた書類です。
職務記述書をまとめることで、人材採用時の不一致を防ぎ、人事評価時の透明性を担保できるでしょう。職務記述書を見れば、職務上どのような行動が必要かすぐに理解できるようにすることが大切です。
4-3. 職務ごとに等級・定義・仕事内容を決める
職務記述書の作成が終わったら、それぞれの職務ごとに等級数・定義・仕事内容を決定しましょう。
たとえば、人事部門の一般職のなかでも、仕事で求められるレベルに応じS1~S3などの等級を設定します。次に、それぞれの等級の具体的な定義と仕事内容を決定します。
4-4. 職務別に評価を実施する
職務評価とは、それぞれの職務が企業にとってどの程度重要か、大きさを数値化する方法です。
まずは、それぞれの職務に人材代替性や専門性などの評価項目を設定します。次に、その項目が会社にとってどの程度重要かを「ウエイト」で数値化し、その項目のレベルを「スケール」で表しましょう。たとえば、代替しやすい場合は1、代替が難しい場合は5などとなります。
以上の設定が終わり、ウエイト×スケールで算出されたポイントが、それぞれの職務の点数となります。
参考: 「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」|厚生労働省
4-5. 社内の職務等級と職務給を決定する
職務評価で算出した職務別のポイントを基に、社内で職務の階級とその階級に合った職務給を設定します。これにより、それぞれの職務の社内での階級と、職務内での階級が決まり、適切な評価と賃金を決定できます。
5. 職務等級制度が適している企業の特徴
さまざまなメリットがある職務等級制度ですが、すべての企業に適しているわけではありません。職務等級制度は以下のような企業に適しているでしょう。
- 公平性を確保したい
- 能力を重視して報酬を与えたい
- スペシャリストを育成したい
職務等級制度では業務内容や責任に基づいて評価をおこなうため、社員間の公平性が確保されます。勤続歴を問わず、社員の能力に対して適切な報酬を与えたいと考える企業にとっては、職務等級制度が適しているといえるでしょう。
また、特定分野のスペシャリストを育成したい企業にとっても、職務等級制度は従業員のスキルや専門知識を評価し、適切なキャリアパスを提供するための枠組みとなりえます。
6. 職務等級制度を運用するときの注意点
職務等級制度では従来の日本企業のように、複数の部署を経験した人材を確保しづらくなります。組織全体の統括に必要な多角的視点を持った社員は育てづらいでしょう。
職務等級制度を導入するときは、以下のような点に注意が必要です。
6-1. 自社に適した制度か確認する
職務等級制度では職務間の移動がないため、ゼネラリストが育ちません。また、新卒一括採用をおこなっている会社では、本当にその新入社員がその部署に合っているかどうかの判断も難しいでしょう。
業務上、多角的な視点や部署を限定しない豊かな経験が求められる会社や、新卒採用の多い会社では、ジョブローテーションを頻繁におこなう人事制度のほうが適している可能性があります。
6-2. 部署間の風通しがよくなる仕組みを作る
職務が固定されれば他部署との交流が減る点にも注意が必要です。各部門間でのコミュニケーションが取りづらく、連携がうまくいかなければ業務上支障をきたすこともあります。社内報やレクリエーションなどにより、社内全体の交流が活性化する仕組みを導入しましょう。
7. 職務等級制度は人事評価基準を明確化しやすい!
職務等級制度においては、社員を勤続年数ではなく職務等級に当てはめて人事評価をおこなうため、評価の透明性を確保することが可能です。仕事に見合った賃金を支給でき、人件費をコントロールしやすいなどのメリットもあります。
しかし、日本企業の強みでもあったゼネラリストの育成やチームビルディングが難しい点に注意が必要です。導入するときは自社に適した方法か見極めましょう。
人事評価制度は、健全な組織体制を作り上げるうえで必要不可欠なものです。
制度を適切に運用することで、従業員のモチベーションや生産性が向上するため、最終的には企業全体の成長にもつながります。
しかし、「しっかりとした人事評価制度を作りたいが、やり方が分からない…」という方もいらっしゃるでしょう。そのような企業のご担当者にご覧いただきたいのが、「人事評価の手引き」です。
本資料では、制度の種類や導入手順、注意点まで詳しくご紹介しています。
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