中小企業における仕事と介護の両立支援|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント♯16 |HR NOTE

中小企業における仕事と介護の両立支援|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント♯16 |HR NOTE

中小企業における仕事と介護の両立支援|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント♯16

  • 組織
  • ダイバーシティ&インクルージョン

※本記事は、株式会社日本総合研究所様より寄稿いただいたものになります。

これまで、経済産業省の「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」に基づき、先進的な取組をしている企業の事例とその解説を紹介してきました。

仕事と介護の両立支援を推進することで、従業員の生産性低下や介護離職を防ぐだけでなく、人的資本経営やDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)にもつながります。

大手企業はこの視点から両立支援を進めていますが、中小企業ではリソースが限られているため、これらの視点を加えつつ、異なるアプローチが必要です。

今回は、中小企業に求められる仕事と介護の両立支援における実態や求められる施策について説明します。

寄稿者石田 遥太郎株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー

シンクタンクに勤務した後、2012年より医療福祉関連ベンチャーのスタートアップメンバーとして参画し、医療介護施設の開設及び運営のコンサルティングに従事。また管理部門の責任者として、経営管理全般(経営企画、財務、人事、システム等)を担当。2019年日本総合研究所に入社。リサーチ・コンサルティング部門にて、健康分野、医療介護分野における政策提言、調査研究、民間企業向けのコンサルティングに従事。

寄稿者小島 明子株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト

1976年生まれ。民間金融機関を経て、2001年に株式会社日本総合研究所に入社。多様な働き方に関する調査研究に従事。東京都公益認定等審議会委員。主な著書に、『「わたし」のための金融リテラシー』(共著・金融財政事情研究会)、『中高年男性の働き方の未来』(金融財政事情研究会)、『女性と定年』(金融財政事情研究会)、『協同労働入門』(共著・経営書院)。

寄稿者石山 大志株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー

日系コンサルティングファームを経て現職。入社後一貫して人事組織コンサルティングに従事し、近年は人的資本経営の推進、プロアクティブ人材の育成に向けた取り組み推進に注力。近時の執筆記事等として、「仕事と介護の両立を実現するビジネスケアラー支援」(共著、『労政時報』2024年/労務行政)「エクイティがダイバーシティ施策のカギ-〜人的資本経営とDE&I」(共著、「Power of Work-2023年/アデコ)等がある。

中小企業における仕事と介護の両立の影響

第2回にてご紹介した通り、経済産業省の調査によれば、2030年には家族介護者の約4割が働きながら家族の介護を行うこととなり、仕事と介護の両立困難による離職や労働生産性の低下に伴う経済損失額は約9兆円に上ると試算されています。

その中で、仕事と介護の両立困難による影響は、中小企業において特に深刻なものになると考えています。

中小企業における両立困難による経済損失は、1社当たり年間773万円(2030年時点、製造業、従業員100人規模)に上ると推計されていますが、こうした経済損失によるインパクトに加えて、いわゆる「社長の右腕」のような替えの利かない人材が業務に集中できなくなることなどの「経済価値に換算しにくい影響」が、大企業と比較して顕著にみられるようになるためです。

特定の業種・企業規模における仕事と介護両立困難に関連した年間経済損失試算

例えば、多くの取引先と関係性を築いている営業部長、経理・人事・労務・法務、そして情報システムまでを支える管理部長、専門的な知識や巧みな技術を保有する技術者など、たった一人のキーパーソンの家族介護による生産性低下や離職によって、中小企業の事業の屋台骨が崩れてしまう可能性があります。

中小企業における仕事と介護の両立支援の実態

中小企業の両立支援の必要性は高いものの、取組の実態はどうでしょうか。

経済産業省は、中小規模の法人に対し、仕事と介護の両立支援の状況についてアンケートを取っています。

「いずれも特に行っていない」が3割程度であることが明らかとなっている一方で、取り組んでいる支援策として「介護との両立に関する社内制度・取り組みの周知徹底」が38.8%、「介護で利用できる法定以外の柔軟な勤務制度」が29.6%、「従業員が家族等の介護を抱えている事を定期的にヒアリング等で確認」が28.2%と上がっており、しっかりと対策を取っている企業も一定の割合で確認されます。

この結果から、両立支援への取り組みについては、中小企業の間での“格差”が広がっている可能性が示唆されます。

また取組においても両立に関する研修や介護について相談ができる窓口など、両立を後押しするような取組についても、大手企業と比較すると、実施できている中小企業は少ない状況です。

中小企業における仕事と介護の両立支援実施状況

中小企業の仕事と介護の両立支援に求められること

前述の通り、中小企業においては、仕事と介護の両立失敗は事業継続のリスクとなる可能性が高いものの、仕事と介護の両立におけるノウハウやリソース不足により、進められていない企業も一定数います。

今後、第8回で紹介した白川プロのように経営者が自ら宣言し、両立に関する情報発信や社内の両立における実態把握などを行っている企業を増やしていくことが求められます。

ここでは、特に中小企業に求められる取組について、説明したいと思います。

① 経営者が率先した介護をオープンにしやすい環境づくり

仕事と介護の両立支援が特に必要なのは、従業員100~300人規模の企業です。

小規模だと、関連する制度が社内に無い場合でも、経営層が従業員の家族事情まで把握し、個別のコミュニケーションにより、しっかりと対応できているケースがあるのですが、100人以上ではそう簡単にはいきません。

時間と労力がかかりますが、まずは従業員が開示しづらい家族の介護についても相談しやすい組織文化を作ること。また経営層が従業員一人ひとりの状況をしっかりと理解することから始めるのが、中小各社にとって重要です。

介護生活がどうなっていくかは、高齢者本人の状態によって一人ひとり異なるからこそ、働く家族介護者への対応策も、従業員に合わせ、なるべく多様に準備する必要があります。

② 専門的な内容は地域の専門家に頼ること

仕事と介護の両立において、具体的な支援はその専門性の高さから自社で対することが難しい点が課題です。

介護における基本的な情報は、公開されている厚生労働省等のパンフレットやガイドラインなどでカバーできるでしょう。

しかし、働く家族介護者の心身の負担を減らすためには、介護の知見を持った専門家による、高齢の親の状態を踏まえた助言が必要です。なぜならば、介護状態は、認知症を抱えた方、身体機能が衰えた方など、人により異なるからです。

昨今では、仕事と介護の両立支援をサポートする企業(ビジネス)も生まれてきています。また産業医のようにケアマネジャー資格を保有した方が、仕事と介護の両立に関する知識を得て、サポートする事例も増えてきています。

③ 中小企業に特化した仕事と介護の両立支援の推進に関する政策を

仕事と介護の両立に関するインパクトは、様々な福利厚生や比較的働き方改革等が進んでいる大手企業よりも、中小企業が大きいと考えます。人材不足に悩まされる中小企業においては、既存の社員の仕事と介護の両立による生産性低下や介護離職は大きな問題となります。

また前述の通り、いわゆる「社長の右腕」のような替えの利かない人材の生産性低下や介護離職は、事業継続にも大きな影響を与えます。しかし、現実問題として中小企業には仕事と介護の両立支援を推進していくノウハウもリソースも不足している傾向にあります。

そのため、中小企業間で仕事と介護の両立支援の仕組みをシェアするなど地域内で支える取組や、仕事と介護の両立支援における補助金などの政策を検討する必要があると考えます。

経済産業省では、地域という「面」で、複数の中小企業における仕事と介護両立支援を支える継続的な仕組みづくりを目指し「地域単位での共同支援を試みる」実証事業を2024年から展開しています。

具体的な内容としては、地域のハブとなる企業が、地域内の中小企業やその従業員に対して両立支援に関する情報提供を行うほか、窓口となって各企業・従業員の介護相談に乗るというものです。

実証は、熊本県・山口県・神奈川県において、それぞれ(株)くまもと健康支援研究所、(株)チェンジウェーブグループ、(株)ツクイの3社がハブとなり、10~12月の期間で実施されています。

地域における中小企業「介護両立支援ハブ」モデル実証事業

④既存の機能を掛け合わせた地域で支える仕組みづくり

かねてから、地域で中小企業の人材確保・定着を支援する仕組みはありました。中小企業庁が認定する中小企業経営革新等支援機関よろず支援拠点です。

これらの機関では経営、会計、税務、労務のスペシャリストが認定を受けて、地域内で連携しながら、中小企業の経営課題や人材不足問題、生産性向上などの支援を行っています。

中小企業の仕事と介護の両立支援の真の解決策は、「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」などに記載されている取組に加えて、彼らがかねてから支援している「属人的な業務の標準化」や「権限移譲の推進」などにより、組織の安定化とBCPを図ることです。

このような既存の機能に、仕事と介護の両立支援の要素を組み入れて、支援していく形が中小企業の仕事と介護の両立には求められるのではないでしょうか。

上記で述べたような仕事と介護の両立を支援するプレーヤーや自治体、地域包括支援センターなどと中小企業経営革新等支援機関などに所属する経営のプロフェッショナルとの連携を推進する政策が必要であると考えます。

そのためにも、今年度実施されている経済産業省の実証のように地域内で支え合う取り組みを広げていく必要があると思われます。

一例ではありますが、地域包括支援センターと経営支援機関が連携し、地域企業の支援窓口を担うというあり方などが考えられます。

日本の経済の根幹を支えているのは336万社を超える中小企業です。

中小企業の仕事と介護の両立支援は、超高齢社会の我が国において、官民両サイドで取り組むべきテーマであると思います。

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