仕事と介護の両立と人的資本経営②|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント♯15 |HR NOTE

仕事と介護の両立と人的資本経営②|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント♯15 |HR NOTE

仕事と介護の両立と人的資本経営②|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント♯15

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※本記事は、株式会社日本総合研究所様より寄稿いただいたものになります。

ここまで経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」に基づき、各社の事例の紹介やその解説を行ってきました。

そして前回は、仕事と介護の両立の取り組みを人的資本経営の一環としてどのように位置付ければよいのか、そして健康経営やDEIといった考え方とはどのように関連しているのか説明を行いました。

本稿では、特に上場企業の視点に立って、人的資本経営の文脈で実施する仕事と介護の両立に関する取り組みをいかにして情報開示すればよいのか、またこれに関連するESG投資やKPIの設定内容について説明を行います。

寄稿者石田 遥太郎株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー

シンクタンクに勤務した後、2012年より医療福祉関連ベンチャーのスタートアップメンバーとして参画し、医療介護施設の開設及び運営のコンサルティングに従事。また管理部門の責任者として、経営管理全般(経営企画、財務、人事、システム等)を担当。2019年日本総合研究所に入社。リサーチ・コンサルティング部門にて、健康分野、医療介護分野における政策提言、調査研究、民間企業向けのコンサルティングに従事。

寄稿者小島 明子株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト

1976年生まれ。民間金融機関を経て、2001年に株式会社日本総合研究所に入社。多様な働き方に関する調査研究に従事。東京都公益認定等審議会委員。主な著書に、『「わたし」のための金融リテラシー』(共著・金融財政事情研究会)、『中高年男性の働き方の未来』(金融財政事情研究会)、『女性と定年』(金融財政事情研究会)、『協同労働入門』(共著・経営書院)。

寄稿者石山 大志株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー

日系コンサルティングファームを経て現職。入社後一貫して人事組織コンサルティングに従事し、近年は人的資本経営の推進、プロアクティブ人材の育成に向けた取り組み推進に注力。近時の執筆記事等として、「仕事と介護の両立を実現するビジネスケアラー支援」(共著、『労政時報』2024年/労務行政)「エクイティがダイバーシティ施策のカギ-〜人的資本経営とDE&I」(共著、「Power of Work-2023年/アデコ)等がある。

1. 人的資本経営における情報開示

欧州委員会は、「非財務情報開示指令(NFRD)」を2014年に公表し、大企業に対して、従業員の労働環境や人権、取締役会の多様性などを含む情報開示を義務付けてきました。

2021年4月には、既存のNFRDから対象企業を拡大した「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)案」を公表され、2023年1月にCSRDが発効されました。米証券取引委員会(SEC)では、2020年8月に、「社員や取締役の多様性」を含む人的資本の情報開示を上場企業に対し義務付けることを発表しました。

海外の動きを受けて、国内では、2020 年1月から「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」(経済産業省)が開催されました。この会議では、経営環境が著しく変化をするなか、中長期的な観点から企業価値を向上させるため、人材戦略に関する経営層や投資家などの役割や、投資家との対話の在り方、関係者の行動に変化を促すための施策の検討を目的としています。

研究会のなかでは、人材の「材」は「財」であるという認識の下、持続的な企業価値の向上と「人的資本(Human Capital)」について議論を行い、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(以下、「人材版伊藤レポート」)」と題した報告書が公表されました。

さらに、2021年7月からは、「人的資本経営の実現に向けた検討会」が設置され、「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 人材版伊藤レポート2.0」が公表されました。

また、2021年6月にはコーポレートガバナンス・コード が改訂され、人的資本に関する記載が盛り込まれました。上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示することなどが求められています。

今後も上場企業をはじめ、多くの企業において、仕事と介護の両立支援含めた人的資本経営に関わる情報開示に関する取組みが求められているといえます。

2. 仕事と介護の両立とESG投資

人的資本経営に関わる情報開示は、ESG投資という視点からも重要です。

ESG投資とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の取組みを重視した投資手法です。ESGを推進する企業では、企業を取り巻くステークホルダーとの関係性において、マルチステークホルダーへの配慮が求められます。

また、投資家だけではなく、従業員、地域社会、環境、顧客、サプライヤーとの良好な関係づくりが求められます。Social(社会)の視点においては、従業員との良好な関係づくりに向けて、女性、高齢者、障がい者等多様な人材の活躍や、仕事と介護の両立をはじめとした働きやすい職場環境づくりが必要とされ、まさに人的資本経営の取組みに該当します。

世界全体では30兆3,000億ドル(※1) が、日本では537兆5,908億1,700万円(※2)がサステナブルな資産に投資されており、年々増加傾向です。人的資本経営に取り組む企業は、将来的には、優秀な人材の確保やイノベーションの創出等、長期的には、企業価値の向上につながるという仮説のもと、ESG投資家にとっても魅力ある投資先となる可能性があります。

そのことは同様に、仕事と介護の両立支援を進めることは、従業員の介護離職の防止や生産性低下の抑制にとどまらず、その取り組みや実績を開示することで、ESG投資家へのアピールにつながるといえるのではないでしょうか。

3. 仕事と介護の両立を進めるうえで推奨されるKPI

では仕事と介護の両立支援を進めるためには具体的にどのような指標をKPIとして定め、情報発信やモニタリング等に活用すると良いのでしょうか。着目するべき観点としては制度の認知・利用」「組織風土の2点です。

3-1. 制度の認知・利用

制度の利用に関して重要なのは、介護休業や休暇の利用率そのものをKPIとして設定しないことです。

仕事と介護を両立する上で大切なのは、いかにして仕事を継続しながら安定して家族の介護を行うことができるかという点です。そのため、介護休暇や休業をその他の休暇と同じように「たくさん取る方が良い」と捉えられることは避けるべきです。

もちろん、個人や家族の状況に応じて本人の希望に沿って取得できることが大前提ですが、休暇日数をKPIとして設定すると、「たくさん取る方が良い」という誤解を招く恐れがあります。

一方で、仕事と介護の両立支援のための具体的な支援制度の認知度を適宜モニタリングすることは重要です。

例えば、介護休暇制度をはじめ、仕事と介護の両立に関わるセミナーや相談窓口、その他の自社が展開する支援施策の認知度は、介護に直面した際の制度の利用率に直結します。介護はいつ始まるか予測が難しいからこそ、事前に制度を知っておくことが重要になります。

さらに、各種制度の利用満足度を把握することも大切です。仕事と介護の両立に関わる支援サービスは現在、数多く存在しています。利用するサービスを適時見直すことで、より自社の考え方に合った相談窓口の在り方や、居住している地域に適した介護サービスの紹介を受けられる可能性もあります。

3-2. 組織風土

加えて重要な視点は「組織風土」です。具体的なKPIとしては、管理職の認識介護に関する社内コミュニケーションの頻度仕事と介護を両立して働くことができると思うか」「相談できる雰囲気があるかといった項目があげられます。

「管理職の認識」

特に、組織全体の受け入れ風土を作る管理職が家族の介護をしながら働くことについて前向きな意識を持つことは、従業員が安心して介護に対応できる環境を整える上で極めて重要です。管理職が両立支援に対して高い意識を持ち、積極的に取り組む姿勢を示すことで、従業員は上司からの理解と支援を感じ、安心して仕事と介護の両立に向けた準備等に取り組むことができるようになります。

「介護に関する社内コミュニケーションの頻度」

次に、介護に関する社内コミュニケーションの頻度も重要なKPIです。定期的な情報共有や相談の機会を設けることで、従業員が適切なタイミングで必要な情報を会社に対して伝えることができるようになります。これによって、従業員は家族の介護に関する不安や疑問を解消しやすくなり、必要に応じて適切なサポートを受けやすくなります。

「仕事と介護を両立して働くことができると思うか」「相談できる雰囲気があるか」

さらに、「仕事と介護を両立して働くことができる」と感じる従業員の割合も重要な指標です。従業員がこのように感じるためには、上述の制度の認知率や管理職の意識など幅広い要素が関係するため、アウトカムに最も近いKPIとしてはこのような内容が適切であると言えます。

このように、介護休業や休暇の利用率を直接のKPIとするのではなく、支援制度の認知度や利用満足度、組織風土に関する事項を重視することで、従業員が仕事を続けながら安心して介護に向き合える環境を整えるための取り組みの状況を把握することができます。また、支援制度の認知度向上に向けたセミナーや情報提供の頻度をKPIとして設定し、従業員が必要な情報を適切なタイミングで得られるようにすることも大切でしょう。

介護に直面したときにスムーズに支援を受けられるよう、「適切なタイミングで支援制度の内容を周知徹底」するともに、すぐに相談できる風土を作ることが、仕事と介護の両立をサポートする上での鍵となります。

※1:https://www.gsi-alliance.org/wp-content/uploads/2023/12/GSIA-Report-2022.pdf
※2:https://japansif.com/2023survey-jp.pdf

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