会社の基盤を支えるコーポレート部門は重要だと分かっているものの、コーポレート部門の目標やミッションをうまく設定できず悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
今回は、株式会社ベーシックのCAOの角田さんに、強いコーポレートチームのつくり方についてインタビュー。
新規事業担当として入社した角田さんがコーポレート部門に関わるようになった背景や、コーポレートのミッション、評価制度のこだわりなど、強いコーポレートチームのつくり方について伺いました。
【人物紹介】角田 剛史|株式会社ベーシック 執行役員CAO コーポレート部門長
大学卒業後、ソニーにて法人営業や経営企画を経て、アメリカ現地法人の管理部門責任者としてアメリカに赴任し、赤字事業の立て直しを実行。その後、ディー・エヌ・エーに入社し、新規事業責任者として海外向けWebメディアサービスを立ち上げ。スタートアップの創業期メンバーとして家具のサブスクリプション事業の立ち上げを行った後、ベーシックに2018年に入社。経営企画部を新設し経営企画機能をゼロから立ち上げる。現在は執行役員CAOとして、経営企画を含め、人事、広報、総務、経理、財務、法務等、全てのコーポレート部門の全てを管掌。700人以上のメンバーが参加している経営企画コミュニティーの管理人でもある。
twitter:https://twitter.com/takeshisumida_
目次
ベーシックのコーポレート部門の現在
ー本日はよろしくお願いします。まずは、角田さんがコーポレート部門を管掌するようになった経緯や、コーポレートに求められている役割について教えてください。
角田さん:当社は、世の中の問題を「マーケティングとテクノロジーの力」で解決し、人々や企業が、それぞれの強みに集中できる世界を創造することをミッションに掲げている会社です。
BtoB企業がWebマーケティングを推進する上で直面する“知識・環境・人”の不足という問題を解決するために、BtoBマーケティングのお困りごとをまるっと解決するサービス「ferret One」、フォーム作成管理ツール「formrun」、日程調整ツール「bookrun」、Webマーケティングメディア「ferret」を展開しています。
角田さん:2023年現在、従業員は200名弱。ここ数年で複数おこなった資金調達や事業売却を元手に、上場も視野に入れ、事業成長を目指すフェーズとなりました。
確実に成長していくために、守るべきところはしっかりと守った上で、事業の推進スピードや成長角度を最大化するための支援がコーポレートに求められています。
私がベーシックに入社した2018年当時は、従業員数が約100名で、新規事業の立ち上げを担当する傍ら経営企画にも携わっていました。
もともと新規事業の立ち上げを目的に入社したため、仕事の配分としては「新規事業:経営企画=8:2」ほど。この頃はまだコーポレート部門が存在しておらず、異なる管掌役員のもとでそれぞれが業務をおこない、横の連携が取り切れていない点が課題でした。
入社から3ヶ月程かけて社内の状況を整理していくと、新たに事業を立ち上げるよりも、コーポレート基盤を整えて既存事業の拡大に注力したほうが良いと感じました。
そこで社長と協議し、あらためて経営企画部の立ち上げと統括を担うことになったのです。
その後、法務、総務、経理、広報など徐々に範囲が広がっていき、2020年には全てのコーポレート機能を私が管掌することになりました。
ーそこから、現在ではコーポレート部門はどのような体制になっているのでしょうか?
角田さん:コーポレートの組織は「財務IR部」「経営企画部」「人事広報部」「経理部」の4つに分けられます。非正規雇用も入れると、全従業員のうち1割弱がコーポレートのメンバーという規模感です。
角田さん:あくまで個人的な意見ではあるのですが、企業が複数の事業を展開し100名を越えるような規模の組織に成長したタイミングでは、経営企画の機能が必要になると考えています。
経営企画のような予実管理を徹底したり、部門同士を横に連携する機能がないと、経営陣のリソースが細かいことに無駄に多く取られてしまい、スムーズな事業推進が難しくなるためです。当時のベーシックはこの規模感に当てはまるものの、経営企画は存在していない状態でした。
なお、経営企画の立ち上げタイミングについては、次のコラムでもより詳細にまとめているのでよろしければ参考にしてみてください。
経営企画を立ち上げた後、財務体質強化のために財務IR部を立ち上げ、採用広報の推し進めるために人事部と広報部を合併しました。会社の状況に応じた最適化を繰り返した結果、現在の4つの部の形に行き着きました。
正しくて強い組織をつくるために軸となる「ミッションツリー」
ーコーポレート部門ではそれぞれの役割が異なってくると思いますが、どのようにミッションを設定しているのでしょうか?
角田さん:代表の秋山はよく、「正しくて強い組織になろう」と社内に発信しています。これはコーポレートに限らず全社に共通する思想です。
一般的に、コーポレートは内部統制の観点を軸に「正しいことをおこなう」ことに重きを置きがちですが、そのような“守り”のスタンスと同時に、“攻め”の観点も、組織を強くするためには重要だと考えます。
「強くなる」とは、言い換えると「事業の推進を最大化すること。予算の達成を後押しすること」だと考えています。
しかし、「事業推進の最大化」という言葉は抽象的です。そこで、「ミッションツリー」を設けて、コーポレートが半期ごとに取り組むべきことをブレークダウンし、「いつまでに何をやりきるか」を明確に定義しています。
後ほどお話する個人の目標設計や評価も、基本的にはこのミッションツリーが軸になっています。
角田さん:各メンバーや各部のみならず、当社のように、コーポレート全体のミッションをこのようにブレークダウンする形で掲げているのはもしかしたら珍しいかもしれません。
個人のミッションは一応あるけれど、コーポレートの各機能としてやるべきことはあまり明確になっていない企業の方が、実は多いのではないでしょうか。
このようにコーポレートでもミッションを重視している背景としては、「強い組織・強いコーポレート」をつくる上で、次の3つが重要だと考えているからです。
角田さん:そもそも、ベンチャー企業のコーポレートは各自の業務範囲が広く、常に忙しいわりに評価されにくいため、社員が疲弊して離職しやすい傾向にあると思います。
コーポレートの社員が度々辞めてしまうと、組織が安定せず、成長が鈍化します。
一時的な対処法で、1on1ミーティングなどでフォローすることも可能ですが、本質的に強い組織をつくるならば、コーポレートの業務効率化をはかり、属人性を排除、そして前述のミッションも掲げながら仕組みとして整えていくことが大切です。
コーポレートの社員が疲弊する1つの理由に、何でも内製化で乗り切ろうと考えがちな点が挙げられると考えています。
「ベンチャーなんだからなんでもやらないと」という考えはもちろん根底にありつつも、正直なところ、事業推進の速度を最大化することを意識しながら、100%内製で乗り切るのは難しいはずです。
そのためにも、自分たちでおこなうべき業務と、外部のプロに委託すべき業務を切り分け、外部もチームの一員と考えたコーポレート体制をつくるべきだと思います。
ベーシックではその検討をする上でも、コア業務とノンコア業務を明確に切り分けるようにしています。
必ずしもノンコア業務だけを外部に委託するわけではありません。コア業務を任せるためハイスキルな人材を採用したとしても、社内にそのような人材を管理できる社員がおらず、マネジメントがうまく機能しないケースも考えられます。
そういうときは思い切って、知見の吸収のためにもしばらくの外部のプロ人材にコア業務を委託したほうがスムーズな場面は意外と多いと思います。
以上のように、
- 属人化の排除と業務効率化
- 適切なアウトソーシング
- ミッションを掲げて適切な評価設計
の3つをあわせて取り組むことが、強いコーポレートの実現のための肝だと考えています。
ーコーポレートのミッションや目標をここまで詳細に定義しているのですね…!
角田さん:はい。もちろん評価のためという側面もありますが、あくまで「組織と個人の成長を最大化させるため」に目標設定が重要になります。
ベーシックのように未上場であり、特にコーポレート機能の立ち上げや整備をおこなっているフェーズにある会社では、「事業部ほどやることが明確ではない」「事業部と違って定量化できる目標が少ない」ということは、ほぼあり得ないと思います。
「コーポレート部門の目標設定は無理」と思い込んでいたり、「忙しいから後回しにしよう」とするのではなく、コーポレートも、他部門と同じような目標設定や評価が必要だと考えています。
当社の目標設定では、先ほどお話したミッションツリーに基づいて、細分化したミッションを各個人に割り振っています。
コーポレートや各部署が目指すべき大きな目標と、それを実現するために個人が目指すべき目標を連動させている点がポイントです。
角田さん:このミッションツリーは半期ごとに作成しています。個人のミッションは少なくとも3つ以上設けて、評価を加重平均するために、それぞれの比率(重み)を「◯◯%」と設定しています。
その上で、個人のミッション設定では、ミッションを与えるだけでなく“達成基準”もあわせて明確にしています。具体的には、ミッションに対する達成度を5段階に分けていて、3が通常の達成のレベルとなります。
ー3のレベルを基準にして、比率(重み)とかけ合わせて評価していくのですね。ちなみに、どのような目標設定にしていくのかも重要なポイントだと思いますが、どのように決めていくのでしょうか?
角田さん:定量化することにはこだわっています。先ほど申し上げたように、コーポレートだとしても業務の定量化ができない職種はないと考えています。
「期限」「予算」「数量」などの軸で整理していけば、必ず目標は何かしらの形で定量化できるはずです。
具体的には以下のように定量化をして数値で目標設定ができれば、「目標達成できた・できなかった」を明確にジャッジできます。そうすることで、結果的には評価の曖昧さも解消できます。
- 期限基準:達成度合いはその早さ
(例) 12月末までに予実管理のためのフォーマットを再整備する - 工数基準: 達成度合いはその削減幅
(例) 見込みPL作成にかかっている時間を2割短縮する - 日数基準:達成度合いはその短縮幅
(例)月次決算の締め日を1営業日短縮する - 金額基準: 達成度合いはその削減幅
(例)弁護士事務所に委託している法務費用を1割削減する - 数量基準: 達成度合いはその数
(例)採用応募が月間100人来る仕組みをつくる、そのために新規エージェントと5社以上契約する
角田さん:特に「期限」については、見落とされがちですが、最も汎用的に使える定量基準です。コーポレート業務で期限が切れない、期限を決めなくてもいいものは存在しないはずだからです。
コーポレートのミッションでよくある“業務効率化”や“改善”といった漠然としたミッションも、期限を設ければ評価基準として成り立ちます。
このような定量基準を入れ込みながら、会社として最低限守るべき水準(=3)を明確にした上で、5段階で達成段階を設けます。
「成長と成果の最大化ゾーン」を探して目標設定・評価基準を設ける
角田さん:そのような達成基準を作る上でも、ベーシックの社内では以下のような概念図で“適切な目標”の水準を社員に説明しています。
角田さん:縦軸を「目標の難易度」、横軸を「組織・個人の能力」と定義しており、能力に対して目標の難易度が高すぎると、「不安や諦め」が組織に蔓延すると考えられます。
一方、能力に対して目標の難易度が低すぎると、「退屈や成長感のなさ」をメンバーが感じてしまいます。
目標設定をする際は、いかに「成長と成果を最大化ゾーン」を探り、適切な基準を3に設定できるか。また、届きそうで届かないハイ達成の基準を4や5として設定できるかが重要であり、マネージャーとしての腕の見せ所となります。
とはいえ、難易度の設定をマネージャーに任せきりにすると、どうしても個人差が出てしまいます。
そこで、コーポレートの役職者 + 人事にて「ミッション設定会議」をおこない、各自のミッションや達成基準の設定が適切かどうか対話しながら決めていきます。
ミッション設定会議をおこなうことで、仕組みとして属人的な難易度設定を回避し、「成長と成果の最大化」を実現させていくのです。
卓越した力を持つ専門家集団を目指すための「期待役割グレード制度」とは?
ーベーシックの評価制度について、もう少し詳しく伺ってもよろしいでしょうか。
角田さん:大前提として、ベーシックではコーポレート部門に限らず、全社として「期待役割グレード制度」と呼ばれる人事評価制度を導入しています。
ベーシックでは「卓越」というキーワードを掲げ、会社が成長していく上で、社員各自に対して継続的に成長していくことを求めています。
成長は、社員それぞれの心掛けはもちろんですが、会社が成長を支える仕組みを用意することも合わせて必要です。
具体的には、会社としては「成長機会の提供」と「適正な処遇と評価」が重要と考えおり、それを実現する仕組みとして「期待役割グレード制度」を設けています。
角田さん:期待役割グレード制度とは、いわゆる旧来の職能型のグレードではなく、あくまで担う役割(職責)に対してグレードを設定するものです。
グレード決定段階ではまだ能力が足りない可能性があったとしても、期待して役割を渡すなら報酬は上がるという考え方です。これにより、挑戦や抜擢の機会を多く創出できると考えています。
グレードは、ビジネス職の場合は「難易度」「組織影響度」「裁量度」「対人関係スキル」の4軸で評価され、総合点に基づき決定されます(※エンジニア職は異なった運用方法となる)。
そして、このグレードのレベルに応じて、先ほどの“ミッション”が設定される流れです。
角田さん:評価の種類は大別すると2つあります。
1つはミッションに対する評価であり、達成インセンティブの対象となります。もう1つは上記グレードそのものの評価であり、直接的に月給に影響するものです。
言い換えると、前者は設定された「課題(ミッション)」に対しての達成・未達成を評価するもの、後者は課題を解決するにあたっての「期待役割」をどこまで大きくかけられるかを評価するものです。一定の相関はありますが、ミッションを達成したら必ずグレードが上がるものではありません。
評価の頻度としては半期ごとですが、少なくとも月に一度は上長とメンバーが進捗を確認します。
一番避けたいのは、評価面談のときに「今期の目標は何だったっけ?」となることです。目標が把握できていないのに、正しい評価ができるわけがありませんし、そんな状態で成長速度が最大化されるわけないからです。
1on1を、ミッション達成の最大化と、フィードバックを通じた各個人の成長の最大化に繋がる大事なプロセスと捉えて取り組んでいます。
コーポレートだからこそ、組織横断の視点と行動規範を大事にする
ーコーポレートの組織づくりで、他に意識している点はありますか。
角田さん:コーポレートの組織づくりにおいて、ミッションや人事評価以外にも、次の2つを大切にしています。
①組織を横串で見ること
②行動規範に沿って動くこと
①組織を横串で見ること
角田さん:①ですが、べンチャー企業は常にリソースの問題が付きまとうため、個別最適であったり非効率的な動きを排除するためにも、組織横断の連携が重要だと考えます。
ミッションツリーでその期においてコーポレートとして強化すべきことを部署ごとに明確化し、外部にアウトソースすべき業務を切り分けながら、どの部署のどのミッションに最もリソースを投下すべきかを決めることが大切です。
また、コーポレートの部署間連携をすることで、成果が最大化される業務は多数存在します。
例えば、ベンチャーでは採用広報が重要だとは言われているものの、そのケイパビリティの違いから、広報と採用は部署として分かれている会社も多いはずです。
また予実管理には、経営企画と経理の連携が欠かせませんが、両者が対立関係となっている会社もあります。
これらの部署は、部長やマネージャーレイヤーで担当が分かれていたとしても、統括する人材は集約したほうが、よりスムーズな横連携が可能になりますし、結果成果も最大化されます。
②行動規範に沿って動くこと
角田さん:②の行動規範については、当社ではミッションに加えて、次の行動規範も大切にしています。
角田さん:ベンチャー企業は、常に目指すべき方向に最短・最速で向かい続けなければ、会社の存続が危ぶまれるため、常に「目的思考」を持つことがとても重要です。前例に囚われたり、ヒトに向かって仕事をしている暇はありません。
また同じく会社の成長を考えると、同じ失敗を繰り返している暇はなく、どんどん挑戦しつつも、その失敗を糧にして次の挑戦に向けて改善できる力が求められます。
また、コーポレート職は「専門性を高めたい」と考える方も多いですが、自分の職務やキャリアに関係する仕事だけを選りすぐるタイプは、ベンチャー企業で成果が出せないと考えています。
部署ごとの縦の括りではなく、全社最適の視点をもちながら、率先して仕事を巻き取っていくマインドが重要です。
ベーシックの場合はこの3つの行動規範(コンピテンシー)がコーポレートに限らず全社としての考え方であり、その浸透に力を入れています。
ーありがとうございます。最後にメッセージをいただけますでしょうか。
角田さん:ベーシックは今、会社を大きく成長させなくてはならないフェーズです。ただ守るだけでなく、「強い組織」を目指すためにも、強いコーポレートチームをつくらなくてはなりません。
今日お話した内容やコーポレートに対する考え方は、その実現に向けて、特にまだ基盤が整いきっていないベンチャー企業に当てはまる考え方の1つと捉えていただければと思います。
一方で、もう少し成熟してきた会社であれば、他の手法が適している場面も多々あると感じています。
コーポレートは業務の特性上、組織が整備されるに従ってミッション数(=課題の数)は減少傾向となり、先ほど説明した「達成度合い」の定義が難しくなります。
結果的に、達成基準を設けられず、ミスをした場合はマイナス評価となる、いわゆる“減点方式”のミッションにすり替わってしまうケースも多いです。
ベーシックも、一部職種で基盤整備が順調に進んだため、個別の評価制度を再設定しています。例えば、下の図、右上の「コア×オペレーション」が、それにあたります。
角田さん:経理や労務など、高い知識や専門性が要求されながらも、業務がオペレーティブなものは「コア×オペレーション」の職種に該当することが多いはずです。
整っていない段階では整備のために「企画」する要素が多数あるものの、整備が進に従って、徐々に「オペレーション」が主体になってきます。(※図で言うと、左上から右上へ移行していく形)
そのような職種については、やるべき業務をジョブディスクリプションなどで明確にしつつも、今回ご紹介した5段階でのミッション設定や達成度評価はおこなわず、専門性の高さに比重を置いたグレード評価を詳細に設定して運用すると良いと思います。
「成長と成果の最大化」に向け、組織フェーズに応じて、制度や体制を柔軟に変化させていくことが重要だと考えています。