企業経営や現場業務を円滑に進めるためには、バックオフィス業務の効率化も重要です。IT技術の発展や働き方改革、感染症の蔓延といった影響により、バックオフィスのDXに取り組む企業も増えています。 今回は、バックオフィスのDX推進が必要な理由・背景や、DX推進によるメリットや推進方法、成功事例をわかりやすく解説します。
目次
バックオフィスのDXとは?
バックオフィスのDXとは、ITツールを導入するなど、デジタル技術を活用して、バックオフィス組織や業務などに変革を起こし、競争優位性を強化することをいいます。
企業における仕事は、フロントオフィスとバックオフィスに大きく分類が可能です。フロントオフィスは営業やマーケティング、カスタマーサービスなど、企業の「顔」ともいうべき仕事を担う部門のことです。一方、バックオフィスは人事や総務、経理、法務など、直接顧客との接点がない部門を指します。
フロントオフィスのDXに注目がいきがちかもしれませんが、バックオフィスのDXを推進して、業務を効率化したり、コストを削減したりすることでも、他社よりビジネスを有利に進めることができます。
バックオフィスのDXが必要な理由と背景
バックオフィスのDX推進の重要性はどのようなところにあるのでしょうか。
なぜバックオフィスのDXが必要とされているのか、ここでは、その理由や背景について詳しく紹介します。
激しく変化する働き方に適応するため
バックオフィスのDXが注目されている理由の一つが、働き方改革や感染症の蔓延の影響による時短勤務やテレワークなどの多様な働き方への対応が挙げられます。
厚生労働省は、少子高齢化に伴う労働人口の減少や、仕事と育児・介護の両立などの働き方のニーズの変化に着目し、個々の事情に応じて多様な働き方を選べる社会を目指しています。(※1)そのため、リモートワークの推進など、働き方改革に取り組む企業も増えています。
しかし、バックオフィス部門では「押印が必要」「請求書や領収書などの紙の資料を扱う」といった理由で、会社に出社しなければ仕事ができず、多様な働き方を推進できていない企業もまだまだ少なくありません。
このように、バックオフィスのDXを進めて、激しく変化する働き方に柔軟に適応し、従業員のモチベーション向上や生産性の向上を目指すことが求められています。
「2025年の崖」の問題に対応するため
バックオフィスのDXが注目されている理由のもう一つが、「2025年の崖」の問題に対応することです。経済産業省の発表した「DXレポート」には、DXを推進しないことによる「2025年の崖」について記載されています。(※2)
2025年の崖とは、レガシーシステムの老朽化により、複雑化・ブラックボックス化したシステムを今後も使い続けた場合、2025年以降の経済損失が最大12兆円にのぼる可能性があることを指します。DXを推進しないと、ビジネスモデルの変化に柔軟に対応できず、競争に敗北し、事業の存続ができなくなる恐れもあります。
バックオフィス部門の業務のなかには、DX化を進めやすいルーチンワークと呼ばれる定型業務も多くあります。しかし、DXの重要性やバックオフィスDXの具体的な進め方が理解できておらず、DX推進の取り組みができていない実状もあります。そのため「2025年の崖」の問題などから、DXの意味・重要性を正しく理解したうえで、自社のバックオフィス業務におけるDXの必要性を検討し、施策の策定・実行することが大切です。
(※2)経済産業省:DXレポート
バックオフィスのDX推進で得られるメリット
バックオフィスのDXを推進することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。ここではバックオフィスのDXを進めるメリットを4つご紹介します。
1.バックオフィス業務の効率化
従来のアナログ方式によるバックオフィスは、一つひとつの作業はシンプルでありながら、多大な手間と時間がかかるところに大きな課題がありました。
バックオフィスのDX推進により、勤怠管理と給与計算を連動させたり、承認プロセスをオンライン化したりすれば、データの二重入力や承認書類の回覧・捺印にかかる手間と時間を丸ごとカットできるため、業務効率を大幅に改善できます。
2.コストの削減
アナログ方式のバックオフィスでは、1つの業務に多大な時間と労力を費やすため、日々の業務をこなすためにはそれなりの人材を配置する必要があります。
DXによってバックオフィスを自動化すれば、人の介入が必要な業務が減少するため、人件費の削減につながります。
また、勤怠管理をタイムカード方式からIDカードor生体認証方式に切り替えたり、紙の給与明細書をPDF化して電子交付したりすれば、備品代や印刷代などのコストも節約することができます。
3.ヒューマンエラーの防止
バックオフィスは企業経営に必要な業務が集中しているだけに、ささいなミスが大きなトラブルにつながるリスクが高い傾向にあります。
特に注意したいのは、勤怠管理や給与計算、資産管理といった数字を扱う業務で、数値の誤入力や計算ミスといったヒューマンエラーが発生すると、多大な損害を被る原因となることもあります。
データ入力や計算についてはコンピューターの方が正確かつ迅速にこなせますので、バックオフィスのDXによってRPA(事業プロセスの自動化)やAI(人工知能)の導入が進めば、ヒューマンエラーの防止に役立ちます。
4.多様な働き方の実現
新型コロナウイルスの影響によって急速に普及したテレワークですが、政府はコロナ禍になる前から、働き方改革の一環として多様な働き方の実現を目標としていました。
ただ、現実には業務に会社のコンピュータを使わなければならなかったり、申請・承認の書類に押印が必要だったりして、出社を余儀なくされるケースが少なくありませんでした。
クラウドサービスの活用などによってバックオフィスのDXが進めば、リモート環境から会社のシステムにアクセスしたり、押印不要の承認プロセスを確立したりすることが可能になるため、完全テレワークなど多様な働き方を実現しやすくなります。
バックオフィスのDX化を進める方法
バックオフィスのDXの進め方がわからず、重要性を理解していても行動に移せていない方もいるかもしれません。ここでは、バックオフィスにおけるDX化の進め方について順を追って解説します。
DX推進するための組織編成を実施する
DX化を進めるには、DXプロジェクトの策定・実施やITツールの導入・運用、DX人材の育成・確保など、コストや業務負荷がかかります。既存の業務と並行しながらDXに取り組むと、思っているようなDXを推進できない可能性があります。
そのため、情報システム部門を拡大したり、新しくDX専門の組織を用意したりするなど、DX推進組織を構築することが、DXをスムーズに推進するためには必要です。DXを進めるにあたり、どのような組織が自社にあうかを判断し、部署や部門を超えた協力体制を構築できるような組織を構築しましょう。
課題と目的を明確にして施策を策定する
バックオフィスのDXを実現する手法は複数あり、それぞれ課題や目的によって変わってきます。自社のニーズにマッチしていない方法でDXを推進しても、いたずらにコストを費やすだけですので、まずはバックオフィスの業務課題やDXを推進する目的を明確にし、どのようなDX施策が必要なのか洗い出すことから始めましょう。
具体的には、時間外労働の量から部門ごとの業務負担をチェックする、社員アンケートを採って問題点を浮き彫りにするといった方法が有効です。課題や目的が明確にできたら、それにあわせて、実際に実施するDX推進施策を策定しましょう。
自社のニーズにあわせてITツールを選定する
バックオフィスのDX推進には、ITツールの導入などのデジタル技術の活用が不可欠です。
たとえば、採用管理システムや請求書管理システム、会計ソフト、ワークフローシステムなどが挙げられます。これらのサービスには、業務課題や導入規模に応じてさまざまな種類があります。そのため、自社のニーズにあわないツールを導入すると、業務効率化やコスト削減といった課題解決につながらない恐れがあります。
先ほど説明したように、自社の課題・目的からどのような機能を搭載したITツールが必要か明確にしましょう。
また、複数のシステムを比較することで、自社にあったツールを見つけることができるかもしれません。コストの問題を気にする場合は、まず無料トライアル期間の用意されているシステムを導入してみるのもおすすめです。
施策を実施して定期的に見直しをおこなう
DX推進施策を策定し、自社にあったITツールを導入できたら、実際に施策を実施しましょう。ITツールを導入するだけで、バックオフィスのDXは完結するわけではありません。DXの定義にあるように「競合優位性」を得ることがDXの主な目的です。
そのため、あらかじめ定義した自社のDXの目的の観点から、施策の効果を検証し、定期的に見直しをおこなうことが大切です。バックオフィス業務担当者の声を聞いてみるなど、改善点があれば、再度施策の策定・実行をおこないましょう。
バックオフィスのDX推進を成功させるポイント
ここでは、バックオフィスのDX推進を成功させるためのポイントを詳しく紹介します。
1.従業員が使いやすいITツールを導入する
ITツールを選ぶ際に、従業員にとっての使いやすさを考慮せず、機能性のみを重視すると、システムが定着せずDXを上手く推進できない可能性があります。
経理や総務などのバックオフィス部門の従業員は、業務に関する専門的な知識があっても、デジタル技術に関して詳しくない場合も少なくありません。そのため、ITリテラシーの観点から、バックオフィス部門の従業員が使いやすいツールを導入することが大切です。また、サポートに強みのあるベンダーを選定すれば、安心してシステムを導入・運用することができます。
2.実現したいビジョンを明確化する
バックオフィスのDXを推進する際、ITツールの導入が目的になっているケースもあります。DXの目的は、ITシステムなどのデジタル技術を活用して、競合優位性を得ることです。そのため、ITツールの導入はあくまでも手段でしかありません。
DX化を進める前に「バックオフィス業務を効率化して工数を削減する」「テレワークを推進して従業員のエンゲージメントを向上させる」など、ITツールを導入してどのようなことを実現したいのか、ビジョンを明確化することが大切です。目的を意識して施策を策定・実施することで、方向性が明確になり、スムーズにDXを推進することができます。
関連記事:DX推進におけるロードマップの必要性や作り方のポイント
3.中長期的な時間軸で進めていく
バックオフィスのDX推進に限らず、既存のシステムを全く新しいシステムに置き換えるには、試行錯誤を繰り返す必要があります。
とくに大きな課題であるDX人材の確保・育成に関しては年単位の時間が必要になりますので、DX推進プロジェクトは中・長期的な時間軸で進めていくことが大切です。
具体的には、持続可能な予算の検討や、試験的にバックオフィスのDXを実現したパイロットチームの編成などを行い、少しずつ実績を積み重ねていくのが成功への近道となります。
バックオフィスDX化の成功事例
ここでは、バックオフィスのDX化に成功した事例を紹介します。成功事例を参考にして、ぜひ自社のバックオフィスのDX推進に役立てましょう。
ペーパーレス化の実現で多様な働き方を推進
紙の資料をデジタル化することで、バックオフィス部門のペーパーレス化を実現し、多様な働き方の推進に成功した事例があります。
紙媒体の資料を用いて業務をおこなっていると、押印や封入、郵送といった作業のためにわざわざ出社しなければならないこともあるかもしれません。また、担当者がいないために、申請・承認フローが滞り、意思決定に時間がかかることもあります。
電子契約システムや請求書管理システム、ワークフローシステムなどのITツールを導入し、紙の書類から電子データを活用したやり取りに切り替えることで、ペーパーレス化を実現し、テレワークなどの多様な働き方を推進することが可能です。
RPA導入により生産性向上
RPAツールを導入してバックオフィス部門の定型業務を自動化し、業務効率化やコスト削減といった生産性向上に成功した事例があります。
バックオフィス業務のなかには、データの入力・出力やメールの送信、報告書の作成・チェックといったルーチンワークも多くあります。人の手で一つひとつ作業していると、工数が積み重なり、大きなコストになります。
RPAツールを導入して定型的な業務を自動化すれば、労働時間や人的ミスの削減につながり、業務を効率化することができます。
契約書チェックツール導入でオープンイノベーションを実現
知財・法務のバックオフィス部門において、契約書チェックツールを導入することで、複雑化した業務を効率化し、オープンイノベーションの実現に成功した事例があります。
近年では、自社だけでなく、異業種や異分野の企業・組織と連携し、外部組織の技術やノウハウを活用して革新的なビジネスモデルの設計や商品・サービスの開発に取り組む会社も増えています。それに伴い、契約書関連の業務が増加した企業も少なくないでしょう。
AI機能の搭載された契約書チェックツールを導入すれば、検索・編集機能により業務の一部を自動化して人的ミスを減らし、業務効率を向上させることができます。これにより、業務負担を削減し、スピーディーにオープンイノベーションを実現できる組織の構築が可能です。
バックオフィスのDXを進めて企業の課題を解決しよう
バックオフィスは企業経営に直接関わる重要な業務ですので、ささいなミスやエラーも許されません。
しかし、日々生み出されるバックオフィスの業務量は甚大で、少子高齢化によって生産年齢人口が徐々に減少している現代日本では、1人あたりの社員にかかる負担が重くなっていることが問題視されています。
バックオフィスのDXを実現すれば、定型業務の自動化や、部署・部門間のシステム連携などにより、既存の業務を大幅に効率化することができます。
時間やコストを節約できるのはもちろん、誤入力や計算ミスといったヒューマンエラーも未然に防げるようになりますので、経営の根幹に関わる重要なバックオフィスだからこそ、DXの積極的な推進をおすすめします。