オンライン辞書『Weblio』を運営するGRASグループ株式会社は、2021年3月にウェブリオ株式会社から社名変更をし、毎期150%成長に向けて新たなスタートを切りました。
毎期150%成長を達成するためには、「新規事業の立ち上げ」と「既存事業の維持とさらなる成長」が必要不可欠です。
採用部門では、「人の選択肢を広げる」というミッションを達成するために、ともにチャレンジできるメンバーの採用に取り組んでいます。
創業から17年目の発展途上にある会社でありながらも、欲しい人材の採用を順調に進めることができているのだそうです。
今回は、人事責任者であるコーポレート推進部部長の石黒さんに、採用方法とそのポイントについてお話を伺いました。
【人物紹介】石黒 紀之|GRASグループ コーポレート推進部 部長
GRASグループ(旧:ウェブリオ株式会社)に人事部長として入社後、人事・総務・広報・インフラの統括と、新領域の事業立上げ責任者を兼務。経営に合わせた人事戦略や企業ブランディングの強化で、組織の成長を加速。16歳でNPOの設立、個人事業などを経て就職。人材ベンチャーのマネージャー、美容メーカー(東証)の人事企画責任者、商業施設・医療法人の立上げに携わった後、現職。
目次
1.GRASグループへの社名変更と事業領域の拡大
GRASグループでは、「テクノロジーを通じて、人の可能性を広げる」という企業理念のもと、オンライン辞書事業をはじめ、オンライン英会話事業、その他複数の新規事業を展開しています。
【GRASグループの事業領域】
①Webラーニング…インターネットを通じて誰もが学べる環境を提供します。
②学校ICTソリューション…学びと成長のサイクルを回す課題解決方法を、デジタルの力でよりよく、より簡単に提供します。
③その他新規事業…領域にこだわらず多くの人の選択肢を広げるために、業界の枠を越えた事業化や事業提携を行っています。
弊社のミッションは、生まれ育ちによらず誰もが自分の意志で何をすべきか選び行動できる社会を目指し、一人ひとりの後天的な努力を支援し、意志を可能性に変えるためのサービスを提供することです。
オンライン辞書事業は、創業から多くのユーザーの皆様から愛していただいており、弊社の基盤事業として運営しています。
当初は、まずNo.1シェアやブランディングの確立を狙うため、社会環境や市場の変化にも強く堅実な辞書事業を中心に投資を行いました。
そこから発展して、2016年に教育機関向けの事業を立ち上げ、ウェブリオという社名・ブランドのもとオンライン辞書などの教育事業を中心に展開してきました。
そのため、世間の認知も「辞書の会社」「教育関連の会社」だったかと思います。
しかし、経営基盤を固めた現在は、新規事業領域への注力と投資、そして一段階上の企業ステージへの成長フェーズに入りました。
これからはより幅広い領域で価値提供していくので、社名を変更することしました。事業領域拡大を推し進める中では、自然な流れだったと思います。
<参考> オンライン辞書Weblioを運営するウェブリオ株式会社は、2021年3月1日に「GRASグループ株式会社」へと社名を変更いたしました。 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000022962.html
ただし、社名が変化したからといって、事業方針は今までと変わりません。多くの人がそれぞれの可能性を高め、より多くの選択肢を手にするきっかけとなるようなサービスを展開していきたいと考えています。
2.GRASグループの採用における「これだけは外せない」ポイント
第二成長期を迎えるGRASグループでは、理念に共感し、一緒に猛スピードで走ってくれる方を積極的に採用しています。
採用する際に外せない条件は「価値観が弊社の企業理念にマッチしているか」です。実は社名の「GRAS」は、弊社が特に大事にしている理念の頭文字を取ったものになっています。
<GRASグループの行動理念>
- 「GREAT」…「偉大な企業」を目指すというビジョン
- 「RESULT ORIENTED」…「実利」結果を出すことに集中する
- 「ACTION DRIVEN」…「実践」自ら手を挙げ行動する
- 「SINCERITY」…「実直」ひたむきに努力を続ける
選考の際には、弊社のミッション・ビジョン・バリューに対してフィットするかどうかを見極めることを大事にしています。
この考え方は新卒・中途に問わず共通して大事にしている根っこの部分であり、ここがずれている方は、どんなに経歴が優秀であろうと採用はしていません。
そして、これに加えて、新卒・中途それぞれの採用判断基準がある形です。
新卒採用では「成長角度」を見極める
ー新卒採用の採用判断基準について教えてください。
まず、新卒・第二新卒に関しては「NEXT LEADERS」という採用テーマを打ち出し、「会社を引っ張っていく存在になれるかどうか」「その覚悟はあるか」を採用基準のポイントとして見ています。
今この時点でリーダーになれるかどうかではなく、グループや事業をまとめ牽引する存在になりたいという意欲があるかを特に重視しています。
「次世代リーダー」「経営人材」を採用したいと考える企業は多いと思いますが、その採用方法は企業によってバラバラです。
もちろん、今まで所属した組織やコミュニティでリーダー経験や代表経験のある人を採用するといった方法も誤りではないと思います。
しかし、弊社では過去の経験よりも「この人に各事業部の経営を任せられるか」という視点で判断し、過去の経験に囚われずに採用するようにしています。
過去の経験と今を比較して、今後の成長の伸びしろが1番ありそうな人を見極めて採用しています。
ー学生の成長の伸びしろをどのように見極めているのでしょうか。
たとえば、Lv.100の学生が3年間の大学生活でLv.130になった経験と、Lv.50の学生が同じ期間でLv.100になった経験だと、どちらが最終到達点が高いと思いますか?
面接の時点での能力を判断するのですから、話し方もPRも上手いし、経験も豊富にあるであろう前者のほうを、多くの企業は採用したがりますよね。ただ、その見方が既に「点」でしかない。
私の場合は、期待するタイミングで期待する水準に到達してくれるかどうか、すなわち「成長角度を測っている」んです。
もちろん、そのタイミングや水準は業界や企業によるでしょう。10年で役職につくことが会社の期待なら、10年後の到達点で比較すればいいとおもいます。
弊社では、3年程度で「NEXT LEADERS」となることを期待しています。
ですから、1年で130%成長するLv.100の方と、200%成長するLv.30の方がいたとした場合、2人とも将来起業を目指しているなら前者を選びますし、企業で働くことを望んでいるなら後者を選びます。
この成長角度を見極めるために、初回の面接で宿題を出し、限られた時間の中でどの程度整理してくるか確認することがあります。
この宿題に対する答えが完璧かどうかが問題なのではありません。
与えられた期間でどこまで努力をして、整理をしてくるかを見ています。こうして成長角度を見極めているのです。
中途採用では「自身の成長意欲」と「後進の育成視点」を見極める
ー中途採用の採用判断基準についても教えてください。
中途の方は、収入、プライベートとのバランス、役職、仕事のやりがいなど、個人によって重視するものが決まっています。それを無理に変えることは難しいですよね。
私が重要視しているのは、「自らが上を目指して成長を続けているか」そして同時に「その熱量を後進の育成にどれだけ向けてくれるか」の2つです。上が成長できる会社は必ず下も成長します。
「こんな視点もあるよ」「こんな引き出しもあるよ」といったように、若手を育成する側として仕事のスタンスやスキルを伝え続けられる人を採用するようにしています。
ー「価値観が自社の理念とマッチしているか」は中途採用においても同様だとおっしゃっていました。その点は、どのように確かめているのでしょうか?
候補者の理念共感を確認するために、あらかじめ採用フローをしっかりと組み立てることが重要だと考えています。
弊社では面接を3回ほど実施していますが、人事面接は「組織・カルチャーへのフィット感の確認」としており、あらかじめ明確な役割を決めた上で実施するようにしています。
この段階で理念に100%共感していなくても大丈夫ですが、どこまで組織カルチャーに合っているのか、自分の考えをストレートに、変に着飾らず伝えられているかは必ずチェックしています。
「どんな時でも自分の考えを正直に伝えられるか」は、GRASグループのS=実直という言葉にも関連しています。
嘘をつかない、裏切らない、どこまでいっても自分自身の言葉で話す人かどうかをしっかり見極めるようにしています。
ただ、面接では談笑や思い出話のような会話しかしないので、採用したメンバーからはよく「あれって面接だったんですか?」と聞かれます(笑)。
責任者や部課長クラスのメンバーに聞いても、「あれは1回も質問されなかったから面接じゃないですよね」といった感想をもらうこともあります。
エンジニアや営業としてのスキルは応募書類で確認したりしますが、スキルや実績を測っていることがわかる質問は、1次面接で絶対におこなわないように徹底しています。
ーGRASの“S(実直さ)”の見極め方についてのお話がありましたが、“A(実践)”についてはどのように見極めているのでしょうか。
中途採用においては一定レベルの実践経験を求めますが、単純に「すごい商品を売っていました」「何十名の組織で何十億円の予算を持っていました」といった話は求めているのではありません。
それよりも「苦境に立たされた時にどこまでアクションできたか?」について聞くようにしていますね。例えば、会社が不調になったときにどのような行動をしたのか、本人がどう粘って戦ったのかをなるべく知りたいと思っています。
そして、このような候補者側の本音を聞き出すために、「私は前職でこんな失敗をした」「私と会社の方針が合わないから転職した」といったように、まず私から先に自分のネガティブな要素をお伝えするようにしています。
先に自己開示をすることで、応募者側も本音を出しやすくなると思っているので、そこで話してくれた本音から見極めをしていくようにしています。
3.自社に合うターゲットを絞り込む「母集団形成」の方法
ー次世代の経営者候補となりうる優秀な学生の母集団はどのように形成していますか?
母集団形成では、ターゲットを絞り込むことを意識しています。
学生の集め方は至って普通で、自社HPやスカウトサービス、SNSなどを活用しています。
その中でターゲットを明確にすることは特に気を付けています。例えば、「~をやってきた経験のある人」といった表現は避け、考え方や社風に関する情報を丁寧に書く、等ですね。これだけでも、ある程度ターゲットは絞られていると思います。
そこからさらに、会社説明会にて判断材料をなるべく多く提示して、学生側に「GRASグループが自分の価値観と合うか」を判断してもらうことで選考応募への数を絞り込みます。
例えば、学生からよく上がる質問の一つである「求める人物像」を聞かれる前に説明しちゃうんです。抽象的にならないよう丁寧に言語化することで、自分が当てはまるかを判断できるようにします。
後は、ネガティブなことも取り繕わずにお話します。そうすることでGRASグループに合う人と合わない人を明確化させ、お互いに「こんなはずじゃなかった」といったギャップを生まないようにしています。
会社説明会からの応募率はとても低く、おおよそ25%前後で推移しています。
母数は一気に少なくなるのですが、その分私たちが求めている人たちの母集団ができるので良いのです。1人1人の学生に対してしっかりと対応することも出来ますからね。
ー会社説明会やその後の面接の中でおこなっている交通整理の仕方について、具体的に教えてください。
会社説明会では、あいまいな表現は極力避けて、具体的に話すことを意識しています。「こんなタイプの人にとっては楽しいと思うが、こんなタイプの人には向かない会社だから避けたほうがいい」と断言をしてしまう場合もよくあります。
そのおかげか、説明会の満足度は5なのに、志望度が1みたいな結果になることも多くありました。
説明会そのものは、「どんな人材を求めているのか明確に分かった」と良い印象を持ったけれど、自分とは合わないから選考に進まないと考えた、ということでしょう。
学生さんには、自身が良いと思う会社との出逢いに時間を使って欲しいですし、弊社としても工数を最低限にしたいですから。
結果的に選考への応募率は低くなるため、当社に新卒採用専任組織がなくても十分回るんです。
22卒については、私と同じ見極めが出来る新卒1年目が、中途・パート採用や広報を兼務しながら1人で回していました。面接においても、部門のリーダーやエースを駆り出したりもなく部門長のみで対応できてしまうんです(笑)。
1次面接については、面接というよりもエージェントのキャリアアドバイザーに近いスタンスで、応募者に対するフィードバックをおこなうようにしています。
合格でもそうでない場合でも、大切な時間を割いていただいているので、何かしら気付き、成長できる機会になればいいなと思っています。
4. GRASグループのこれから
社名変更後の現在の方が応募総数は増えていますし、圧倒的に優秀な人材層をかなり低コストで採用出来ています。
社名変更により採用活動にはネガティブな認知度リセット(「GRASグループってなに?」という反応)も予測していましたが、広報が併走してリブランディングを強化したことで、むしろベンチャーや成長企業のイメージをフラットに浸透できた部分もあると思います。
ウェブリオ時代は「英語が好き、教育に関わりたい」といった方からの応募も多かったのですが、現在は経営志向の強い応募者が増えてきています。
元経営者や大企業の若手管理職、或いは一流企業を退職し起業を予定していたハイクラスの技術者、起業か弊社で働くかで迷った結果入社を決めてくれた新卒など、どの企業でも高い採用コストを掛けているであろう層が自然に集まり、GRASグループの未来に賭けてくださっています。本当に感謝しかありません。
これからも引き続き次世代リーダーの採用にフォーカスしていきたいと思います。
ー最後に、今後の意気込みをお願いします。
これからは、採用した若手メンバーが期待通りのリーダーとなり、次の世代に教える側に成長できているかどうかが重要ポイントだと考えています。
それは私たち現在の経営層も同様で、同じポジションに3年も5年も留まっていてはいけないと思っています。自らのポジションを継ぐ人材を育成し、私たちより更に優秀な次世代を生み出していかなければ、会社の成長を維持できないですから。
採用はどこまでいってもあるべき論でしかないと思います。
それぞれの会社に理念やビジョンがあり、どこの会社のビジョンが1番素晴らしいなど優劣をつけるものではないでしょう。
大切なのは、それぞれのビジョンをきちんと因数分解して、自社の理念・ビジョンにマッチする人材はこういう人だ、とクリアに言語化していくことだと考えています。
弊社でも、自分たちで定義づけた採用ターゲットにしっかりと届くように、丁寧に施策を進めていく、ただそれだけだと考えています。
「この企業の採用手法が良さそうだから取り入れよう」「この理念が良いから真似しよう」ではなくて、自分たちの会社の理念と求める人物像の因数分解・要件定義の解像度をどこまであげられるかが重要です。
他社の事例などに引っ張られすぎず、まずは自社の理念やビジョンに向き合って、丁寧に紐解くこと。そうすることで、自然とターゲットが絞られて自社にマッチした人材の採用が出来るはずです。