採用活動をする中で、「SNSの活用に力を入れたい」と考える採用担当者の方は多いと思います。
しかし、「運用するノウハウやスキルが無い」「時間に余裕が無い」「上司や経営陣の理解が得られない」といった理由で、なかなか取り組めていない状態である方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、20年以上に渡るHR領域での経験を持ち、ソーシャルリクルーティングの運用のスペシャリストである株式会社アースメディアCEO松本さんに、ソーシャルリクルーティングの最前線、そして採用シーンにおけるSNSの活用方法について寄稿いただきました。
【人物紹介】松本 淳|株式会社アースメディア 代表取締役CEO
https://www.linkedin.com/in/jnmatsumoto/
目次
1. 採用にSNSを“使わなければならない”時代に
いま、自社の採用業務に関して、SNSの活用は十分にやれていると言える状況でしょうか?
いろいろな会社の状況を見るに、「SNSを採用に最大限に活用できている」と胸を張って答えられる会社は、実のところ、まだまだ少数派ではないかと思います。
多くの会社は、SNSの重要性や必要性を感じながらも、なかなか有効な手立てを打てない状況のままです。
その理由や障壁は様々かと思いますが、採用活動においてSNSの活用を考えなければならない時代に突入しつつあることは間違いないでしょう。
SNS活用に対する企業・人事側の意識の変化
リクルートが直近で実施した、中途採用に関する企業人事1,000人へのアンケートがあります。
その中で、「2021年度の中途採用に関する取り組み」という設問について、「新しい採用ブランディング施策の実施」という回答が上位に来ました。
そして、新しく取り組みたい具体的な手法としては、「SNSを通じた人材募集」がやはり上位にランクインするという結果となっています。
大手企業も含む多くの会社が、SNSの採用業務への活用、そして、SNSをベースとした採用ブランディングの再構築ということを、まさに真剣に検討する状況です。
これまで、採用ブランディングや採用のチャネルについては既存の採用媒体やエージェント活用がメインで、SNSはあくまでサブだと位置づけていた企業も多いかもしれません。
しかし、その「常識」が根底から変わりつつある兆しが見えてきています。
なぜ企業人事はSNSを活用しなければならないと感じているのか?
企業人事がSNSの活用について考えている背景には、求職者側の意識変化があります。
インターネットが社会の情報インフラとして定着するにつれ、利用者の意識や行動様式も確実に変わりつつあります。
特に、若い世代では「公式発表よりも、身近な友人・知人からのクチコミ情報に信頼を置く」という傾向が顕著に見られます。
何か情報を検索したり、欲しい物を探すとき、Web検索をして公式の情報にあたるよりも、「まずはSNSで調べてみる」という行動が定着しつつあり、「情報検索=Google」という常識がもはや通用しなくなってきています。
この動きは、就職活動や転職活動においても同様です。
そもそも、採用情報は、どうしても「キラキラし過ぎる」、さらに踏み込んで言うと、どうしても「嘘くさく」なってしまうものですので、仕事を探す人は、やはり「本当のところ」の情報を知りたくなるものです。
多くの求職者が、企業からの公式の情報や採用ブランディングだけではなく、もっと「生の声」を欲するのはあたり前の流れだともいえるでしょう。
SNSであれば、もっと自分が知りたい「本当の姿」を確認できるのではないか。そういう期待を持って、SNSの中で意中の企業に関する発信や情報をチェックするのです。
2. 採用活動にSNSを活用するメリット
既存メディア上での自社の「公式発表」だけでは、求職者に十分に納得してもらうことが難しいという時代に突入しつつあります。
SNSを駆使し、求職者が本当に求める情報やコミュニケーションを積極的に提供していく企業姿勢が、今まさに求められているということだと思います。
そのような観点で、人材採用にSNSを活用することのメリットを順に見ていきます。
①企業の魅力を発信できる
まずは、より「ダイレクトに」「リアルに」候補者(SNSユーザー)とつながり、企業側の魅力を発信することができます。
発信の姿勢や方法にもよりますが、お固い公式発表ではなく、ひとりひとりのユーザーに語りかけるような、人間味のある情報発信が可能になるということです。
SNS上では、単に広報という、一方的な情報の発信だけにとどまらず、企業とユーザー双方のやり取りを通じて、相互の深いコミュニケーションが可能になります。
会社の評判が良い場合、ユーザー同士の交流によって、会社のプラスイメージを盛り上げてくれるということも多々あります。
自社が一方的に良いところをまくし立てるのではなく、ユーザからのポジティブな評価を増やし、信頼のおけるブランディングを構築することが、SNSマーケティング(そしてソーシャルリクルーティング)の真髄だと言えるでしょう。
②コストをかけずに人材を採用できる
「コスト」も、既存の採用サービスや商品を使う手法に比べると大きなメリットです。やろうと思えば、金銭的なコストは完全に0でもSNSを通じて人材採用は可能です。
現実に、Twitterやリンクトイン(LinkedIn)で、一切コストをかけることなく理想的な採用を成功させている事例も増えてきています。
一人を採用するために、採用媒体に何十万円、エージェントに何百万円を支払うことを考えれば、まさに画期的なことだと言えるでしょう。
しかし、金銭的なコストがかからない分、SNS運用には基礎的なノウハウが必須であったり、何よりも、運用担当者によるある一定の「時間の投下」が重要になるという側面があります。
ここについては、外部のコンサルティングサービスや運用代行サービスも増えてきていますので、工数と費用、そして効果のバランスの良いやり方を探っていけば良いでしょう。
SNSの運用には、「投資対効果」の見極めが非常に重要です。
③運用担当者の今後のキャリアに活きる
そして、これは意識している人が少ないですが、採用でSNSを駆使することは、運用担当者の「自分自身のキャリア」にとても強く効いてくるという事実があります。
まず、SNSを運用する中でSNSを「うまく使いこなす」ためのスキルが身につくことは言うまでもありません。
今後、採用の領域以外(たとえば営業やマーケティングなど)でも、ビジネスシーンにおいてSNS運用のスキルはさらに重要になってくるはずです。
しかし、より大事なのは、スキル面だけではなく、「自分の個人アカウント」を運用すること自体が、これからの自分のキャリアとして重要な意味を持つということです。
3. 企業は「個人アカウント」をいかに活用できるか
SNSの運用方針は企業によりますが、トレンドは「公式アカウント」を運用するだけでなく、担当者による「個人アカウント」をそれぞれ伸ばしていく方法です。
近年、企業内の多数のメンバーで同時にSNS個人アカウントを運用し、全体として企業ブランディングを向上させている成功例が増えてきました。
たとえば、特にTwitterでは、企業の公式アカウントに人気を集めて伸ばしていくことは非常に難しいという現実があります。
なぜなら、公式アカウントではどうしても「人間味」を出しにくいからです。
それよりも、複数の担当者が、それぞれの個人アカウントを運用して発信していく方が、圧倒的に効果の高いSNS採用を実現できることができます。
また、個人アカウントは、会社を移ったとしても通常は個人の所有のままであるため、新しい会社でも、その個人アカウント(アカウント名などは変えつつ)を運用することになります。
その際、「もともとフォロワーやつながりの多い」個人アカウントは、会社にとっても非常に貴重な戦力になります。
実際、SNSで有名だった採用担当者が新しい会社に転職した後、転職先の採用ブランドが一気に向上した、という事例も出始めおり、「SNSのフォロワーが多い担当者が欲しい」という経営者の声も増えてきました。
このように、個人SNSアカウントのパワーを上げることが、自分のキャリアや価値向上に直結する時代になっています。
SNS運用により、今の会社の採用に貢献しつつ、自分自身のキャリアも確実にレベルアップさせるといったポジティブな相乗効果を狙うことが、結果として企業のSNS活用の成功につながると言えるでしょう。
4. 採用活動に活用しやすいSNSとは?
SNSといっても多様な種類があるので、どのSNSに注力すべきか、どのように組み合わせるべきかという「SNSポートフォリオ」の考え方は、極めて重要です。
最近では、YoutubeやTikTokなどの動画SNS、もしくは様々な画像系、音声系のSNSも採用活動に積極的に使われ始めています。
採用ターゲットに親和性があったり、自社リソースが動画や画像、音声制作に向いているということであれば、これらのSNSの活用を検討しても良いでしょう。
しかしながら、やはり採用活動においての主軸はテキスト系のSNSです。今回は、その中で、Facebook、Twitter、リンクトイン(LinkedIn)の3つに注目し、特徴や活用法について開設します。
Facebookは、長く日本でビジネス用途・プライベート用途の両方で使われてきたSNSです。ユーザは30代〜50代がメインで、やや高めになりつつあることに注意が必要です。
元々、ハーバードの学生寮の友人たちをつなぐために作られたという経緯のため、カルチャー的に「リアルの知り合い」であることを重視するところがあります。
そのため、リファラル採用との組み合わせに相乗効果が出しやすいという特長があります。
ちなみにある外資IT企業では、中途入社するとFacebookのアカウントをチェックされ、「つながっている人を積極的に会社に誘いなさい」という指示が出るそうです。
一方で、Facebookのアルゴリズムは、知らない人とどんどんつながったり投稿が拡散されるものではないので、「広がり」はあまり期待できません。
このため一般的な公募や、「採用広報」にはあまり向かないSNSであるとも言えるでしょう。
Twitterは、日本国内において非常にユーザが多いSNSで、多くの人が手軽に運用できるというメリットがあります。
アルゴリズム的にも「外へ拡散」するように設計されているので、知らない人ともつながりやすく、採用広報に向いているSNSだと言えます。
実際、ベンチャー企業などではTwitter上で積極的に採用広報を展開する会社が増えており、「Twitter採用」という言葉も多く聞かれるようになりました。
現在は、その実際的な可能性を各社が鋭意模索している最中です。
Twitterは「匿名文化」ということがネックになり、アカウントを運用しているのが本当はどういう人かを正確に知ることが難しいという課題があります。経歴を極端に盛っている「ファンタジーなアカウント」も増えており、ノイズも少なくないといえるでしょう。
「Twitter採用」においては、面接などを簡略化した“指名的な採用”の実績も出てきていますが、ツイッター上での評判を信じすぎて失敗した、という事例も実際に多く発生していますので、Twitter上で優秀に見える人が、本当に優秀かどうか見極めることが非常に重要でしょう。
また、もう一点留意すべきは、Twitterには、どうしても炎上リスクが発生するということです。
ビジネスで普通に活用しようとしているだけなのに、思わぬところで炎上に巻き込まれてしまうこともあります。
実際、ある会社の新卒採用責任者が、学生への挑発的なコメントをしたインタビューが非難され、大きく炎上して会社のブランドを毀損してしまったというケースもありました。
リンクトイン(LinkedIn)
リンクトインは、歴史的に日本では普及が遅れてきたものの、現在、国内でも急速に盛り上がりつつある注目のSNSです。
グローバルではユーザ数が7億5600万人を数え、「ビジネスSNS」として事実上のスタンダードになっています。
Facebookのような「実名文化」と、Twitterの「拡散性」の両方の利点を持つ、ビジネスをするに当たって「良いとこ取り」とも言える特性を持ち、経歴のはっきりとした優秀なビジネスパーソンと、ツイッターのような気軽さで多くつながっていくことができます。
元々が「転職」や「キャリア」を主眼とするサービスだったため、リンクトイン上で採用活動を展開することはごくあたり前のことだと見なされます。
FacebookやTwitterであまりに採用やビジネス色を出しすぎると嫌がられることがありますが、そのような心配がありません。
リンクトインでは詳細な職歴情報を入力することができるため、自社が求める人材を探しやすく、また、非常に優秀なビジネスパーソンの比率が多いです(最近は、優秀層学生の利用も増えています)。
また、どのようなユーザが自分の投稿を見ているかということを知ることもできます(下図参照)。
リンクトインはこれからの国内ユーザ増加が見込まれるため、採用ブランディングを展開していくことも非常に有効だと考えられます。
また、採用企業用のオプションとして、スカウトDMなど送信できる機能も用意されています。今後、採用活動には欠かせない存在になりそうです。
※リンクトインの活用については、アースメディアのWebサイトにもまとめております
https://earthmediacorp.com/
5. 採用×SNS、活用のこれから
SNSは種類も多いので、戦略的に、どのSNSにどれくらいの時間とリソースを投資し、どれくらいの成果を得られるかという見極めが非常に重要です。
一方で、全体として、採用活動におけるSNSの存在感は今後も高まる一方であることは間違いないでしょう。
SNSを、正しい戦略で、正しく活用することができると、自社の採用ブランディング、および候補者や学生へのアプローチ効率性を一気に高めることができるはずです。
引き続き、SNSの動向を詳細にチェックし、その活用法を日々工夫していくことは極めて重要だと思います。
https://www.linkedin.com/in/jnmatsumoto/