採用の担当者が頭を悩ませることの一つに「選考・内定の辞退」があるのではないでしょうか。
私自身も前職のゲーム会社の頃から現在の株式会社シニアジョブでもずっと、いかに辞退を減らすかが課題でした。特にシニアジョブは私の入社時、辞退率が高く、早急な低減が必要でした。
そこで私が注力したものが、選考時に候補者に対して行う「会社の魅力付け」です。特段知名度が高いわけでもないベンチャー企業が、どのようにして候補者に選んでもらえるような魅力付けを行うことができたのか、実践例をご紹介します。
執筆者関岡 央真氏株式会社シニアジョブ 戦略人事本部長 / シニア就業促進研究所 所長
大学卒業後、テレビ局系列の制作会社に入社。報道・情報番組の制作に携わる。2017年から株式会社モバイルファクトリーに採用担当として入社。新卒を中心に採用活動を行うほか採用広報も兼務。「モバファク 新卒ドラフト」などのユニークな採用を行うなど、営業職からエンジニア職まで幅広い職種の採用を経験。2023年9月より現職。
目次
1. 採用でもっとも注力するのは魅力付け
私が採用に携わってから、約8年の月日が流れました。しかし、何年経っても、内定者から辞退の連絡が届き、それまでかけてきた時間が水の泡になる瞬間はつらいものです。私が採用の中でもっとも注力し、そしてもっとも苦労しているものは、候補者に対する「会社の魅力付け」に他なりません。
必死にイベントやスカウトで優秀な人材と接触しても、内定後に辞退の連絡があるのはもはや日常茶飯事と言っても過言ではありません。前職のゲーム会社でも内定辞退の軽減と魅力付けには苦労をしていましたが、シニアジョブに転職してより難しさを感じるようになりました。
シニアジョブは決して有名ではないベンチャー企業であるため、私が入社した直後は選考途中での辞退が思った以上に多く、書類選考の書類も出してくれない状況がありました。今は少しずつ改善してきており、途中で辞退する数は減り、オファー直後からすぐに承諾をしてくれる候補者も少なくありません。
今回の記事では、私が半年間、シニアジョブで採用担当としてもがいてみた経験や、前職のゲーム会社での経験も含めて、見えてきた面接での会社の魅力付けの方法についてお伝えしていきます。
2. 魅力付けはなぜ難しいのか?
実際に面接で行っている会社の魅力付けを紹介する前に、まずは魅力付けが難しい理由を考えてみましょう。なぜ、魅力付けを頑張ってもうまくいきにくいのでしょうか?
冒頭でも述べたように、私が約8年間、採用に関わった中でも、思うように魅力付けに至らなかった失敗が何度もありました。例えば、採用イベントで会い「御社が一番魅力的です!」と言ってくれた候補者が選考途中で辞退したり、毎週のように一緒にご飯を食べに行くくらい関係値を高めた内定者に辞退されたりといったこともありました。
このように時間をかけたコミュニケーションによって、高い関係値に至ったと思っていた候補者・内定者までもが辞退してしまう理由を私の過去の経験からまとめると、次の5つが挙げられます。
②相手の将来像に寄り添えていない
③業界の魅力が訴求しきれていない
④競合他社との差別化ができていない
➄働くにあたっての不安が払拭できていない
3. 候補者・内定者が辞退する理由5選
具体的にうまくいかない時のパターンをそれぞれ詳しく見ていきましょう。
①そもそも魅力付けが難しい相手にアプローチしている
どんなに頑張っても自社の魅力を伝えるのが難しい候補者や、魅力を伝えても入社の決断に至らない候補者は、残念ながらいます。
お魚が嫌いで一口も食べられない人に「マグロは美味しいので食べてみてください!」と伝えているようなもので、相当な時間をかけて、口説ける可能性が数パーセントあればいいところ。それでも目の前にダイヤの原石が現れたらを追いかけたくなるもので、何度も失敗しました。
②相手の将来像に寄り添えていない
候補者には転職や就職で解決したいことや、得たいことが必ずあります。候補者が求めている情報とずれた魅力を訴求してしまったなら、どんな魅力でも入社の動機になり得ません。
何度も語ることが多いだけに会社の魅力は鉄板トークになりがちですが、それで相手のニーズをおざなりにしてしまうのは非常にもったいないこと。自分たちの魅力やトークを過信せず、候補者のニーズを傾聴し、掘り下げ、それに合った自社の魅力を訴求しましょう。
③業界の魅力が訴求しきれていない
その業界、領域に入ることでどんな経験やメリットが得られるのかを明確に説明できていないと、会社どころか自分たちの業界自体が応募対象にならない、あるいは永遠に第一志望にならないままです。
業界の成長性や市場の状況については具体的に言語化しておきましょう。
④競合他社との差別化ができていない
このコラムをご覧の人事・採用担当の方は、「候補者が自社を選ぶ理由」を言語化できているでしょうか?
私もそうでしたが、面接では候補者に「弊社を選んだ理由は?」とよく聞くにも関わらず、面接官が「自社が選ばれる理由」を整理できていないことがよくあります。
競合他社ではなく自社が選ばれる明確な理由や、推しポイントが整理されていないならば、候補者に会社の魅力を訴求できるわけがありません。
➄働くにあたっての不安が払拭できていない
ベンチャー企業にいると、候補者からも社外の知人からも「働く時間が長そう」「幅広い領域を対応しないといけなさそう」といった言葉をよく聞きます。
そうしたベンチャー企業も確かにあるかもしれませんが、そうではない会社も多いもの。なんとなくのイメージで「ベンチャー企業」=「怖い」というレッテルを付けられてしまうのはもったいないですよね。
具体的にどういう働き方をしていて、社員がどう感じているのかを伝えないと、勝手に悪いイメージを付けられてしまいますし、そうなってしまったら、どんなに魅力を語ったところで効果は大きく削がれてしまいます。
4. 私が入社直後に見た4つの採用課題
それでは辞退の理由を整理したところで、現在、私が戦略人事本部長を務めるシニアジョブが、私が入社した2023年9月時点でどのような課題を持っていたかを紹介します。
そもそもの応募数が少なかった
辞退を低減する以前に、応募数自体が少ない情況でした。エージェントからの紹介はもちろん、スカウトをどれだけ送っても返ってこず、スカウト返信率は0.3〜0.5%程度というありさま。これもまた、業界の魅力・弊社の魅力が伝わっていないことの明らかな証左でした。
選考の途中辞退が多発
面接後の辞退が多発し、一次面接通過となっても次の選考に進んでくれない状況がありました。私が疑ったのは、一次面接時点で会社の魅力や得られるスキルが伝わり切っていなかった可能性です。
確かに選考時の候補者からの質問の質が決して高いものではなかったので、面接時点で魅力付けが全くできていなかった可能性が高くありました。
内定辞退が多い
私が入社した当時のシニアジョブの内定承諾率は、25%と低空飛行でした。会社としても魅力を感じて評価し、内定を出した候補者が、最終的に他社を選ぶ事態が多発していました。
これもまた、競合他社との違いの訴求や差別化ができていなかった可能性が考えられます。つまり、シニアジョブを選ぶ明確な理由を提示できていなかったのです。
入社理由No.1が「受かったのがシニアジョブだったから」
社員全員と1on1を行って入社理由を聞いてみると、多くの社員に明確な理由がなく、「受かったから」と答えました。
既存社員だけではなく、実際に序盤で採用した社員の最終的な入社決定理由を探ると、魅力が伝わったというよりタイミングが合った人が入社してる状況でした。これではラッキーなだけで、競合への優位性はありません。
5. 実践した魅力付けと採用の改善ポイントとは?
ここからは具体的に、シニアジョブの選考で私が魅力付けのために行っていることを紹介していきます。先に挙げた入社時点で見えたシニアジョブの課題をどのように改善してきたのか、半年の軌跡ですが、課題と対比しながらご覧ください。
魅力付けが可能な人材かを見極める
面接や面談の早期の段階で、能力だけでなく、魅力付けが有効な人材か否かを見極めることを意識しました。
具体的には、まずその候補者が求める条件や就活の軸が、会社が提供できる環境にマッチするのかを考えます。会社の説明でチェック用に定めた話題に興味を持ってくれるかで判断をしています。
そこで軸がずれていたり、反応が薄かったりした場合には、たとえ能力があっても、それ以上のアプローチをしないようにしました。
候補者が自社を選ぶ理由を言語化する
自分がもし候補者だったとしら、他の人材会社ではなくシニアジョブを選ぶ理由は何だろうかと考え、言語化しました。具体的には、「市場性」とそこでの「ポジショニング」に基づき、次の2点を挙げました。
まず「市場性」は、今後もシニアの人口が増え続けることからマーケットの拡大に優位性があります。次に「ポジショニング」ですが、シニア市場の中で多数の職種の人材紹介や求人サイト運営を積極的に展開する企業がわずかであることから、ブルーオーシャンであると考えています。選考の中では、これを必ず伝えるようにしました。
圧倒的な内定までのスピード感
魅力付けだけではなく、タイミングで選ばれる場合についても対応強化を行いました。
特に中途採用の場合はスピード感も重要です。たとえ魅力付けに成功し、興味を持っていてくれた場合でも、退職日や承諾期限の都合から他社で決まってしまうことがあります。
選考結果は当日中に伝える、次の選考の日程調整を面接中に行う、そして最終選考から最短2〜3日で内定を出すといったスピード向上で、スピードが遅いことで他社に負けることを防ぎました。
選考スピードはタイミングだけでなく、「高い評価の現れ」として魅力の一つにもなり、候補者の志望度を高めることにも貢献しています。
様々な社員に会わせる
ベンチャー企業の弱点であり強みの一つは「社員数が少ないこと」です。
少ない人数であれば、選考の段階に応じて社員全員と会わせることも可能。もちろん、入社してもらえる可能性のある候補者にしかやりませんが、本気で採用したいと思った場合は、何十回と面談を設定し、その都度社員に会ってもらいます。様々な社員と直接会うことで、会社の雰囲気や上司への解像度を高めてもらうことができています。
こうした施策によって、人間関係に関して不安が全くない会社という、差別化ポイントが作れているのではないでしょうか。
敢えて会社の悪口を伝える
もし、逆に候補者が面接官に「会社のイメージ」などを質問するシーンがあったとしても、おしなべてプラスの話ばかりをして、会社の悪口を言うことはほとんどないでしょう。そこで、シニアジョブでは私自身だけでなく、同席してもらう社員にも、敢えて会社の悪いところも伝えてもらうようにしています。
今後の解決策をセットにしたとしても、悪いところを伝えると辞退が増えてしまうと考える人事・採用担当者は多いのではないでしょうか。しかし、実際の結果は逆で、「悪口をここまではっきりと言える会社はいい会社!」と、真摯な姿勢と受け取ってもらうことや印象に残すことに成功しています。
さらに、隠したまま入社してもらったことで入社後に「思っていたのと違う」といったミスマッチが生じることも防ぐことができています。社内の改善スピードが上回ったことで、「聞いていたよりも社内がすごく良かった」という入社メンバーまでいました。
友人を紹介してもらう
どれだけ会社の魅力付けを行っても、最終的に選ばれないことももちろんあります。しかし、それまでに行った魅力付けは決して無駄にはなりません。
真摯に対応したものの辞退となった時に「もし誰か弊社が合いそうな友達がいれば…」と紹介を依頼すると、辞退した候補者も感謝の気持ちから協力してくれることも少なくありません。友人や自分が参加しているコミュニティーをつないでくれたり、2〜3年後に再度応募してくれたりする人もいました。
6. 魅力付けとは魅力のあと付けにあらず
候補者に対する「会社の魅力付け」の方法というと、もしかすると多くの人は「会社の魅力の見つけ方」や「会社の魅力をプラスする方法」、あるいは「会社より魅力的に語るプレゼン」などを想像したかもしれませんね。
しかし、お読みいただいてわかるように、私が実践し成果を上げ始めている「会社の魅力付け」は、あくまでも候補者一人ひとりと真摯に誠意を持って向き合い、コミュニケーションを深めることです。言語化できていない魅力を明確にすることは行いますが、無理に魅力を発掘したり、魅力を感じてもらえる表現にこだわるわけではありません。
もちろん、今回ご紹介したのは、あくまで私が試して効果があった内容であり、会社のフェーズや事業によって、また、時代やその人の背景によっても変化するため、別の魅力付けが効果的な場合もあるでしょう。私自身も常にトライアンドエラーの繰り返しです。
今回ご紹介した「会社の魅力付け」が一例として、多くの人事・採用担当の方の参考になれば嬉しいですが、ぜひ、永久不変のものだとは思わず、会社や担当の方、そして候補者に合った方法を常に探求してみてください。