現在、労働人口が不足している日本で、政府と企業が「人的資本への投資」方針を加速させています。
政府は「人的資本への投資方針」「人材版伊藤レポート2.0」の公開、そして、2022年の8月末には「人的資本の可視化指針」を公表しました。また、企業側では、「デジタル人材採用への投資」「エンゲージメント強化」「 ダイバーシティ、リスキング教育の強化」に重点が置かれるようになりました。
そして、技術系の職種の有効求人倍率は7.84倍、経産省の調査によると2030年にはIT・DX人材が45万人不足と事態は深刻になるといったことも予測される中で、これからの企業における採用は「人(社員・採用候補者)に選ばれないと勝てない」時代になっているのです。
このような中で、一般的に投資家に向けて行われる「人的資本の開示」を、採用における求職者にも行うべきだとする考えが広まりつつあります。
本記事では、「人的資本経営×新卒採用」をテーマに、株式会社ワンキャリアの寺口氏、株式会社PR Tableの久保氏が登壇したイベントをレポート記事としてご紹介。
採用活動において人的資本開示が必要になってきた背景や、人的資本の開示を実施している企業の実例を踏まえながら、どのように採用活動における人的資本の開示を行えば良いのか具体的に解説していきます。ぜひ今後の採用活動にお役立てください。
登壇者紹介
寺口 浩大 |株式会社ワンキャリア Evangelist
1988年兵庫県生まれ。京都大学工学部卒業。就職活動中にリーマンショックを経験。メガバンクで企業再生やM&A関連䛾業務に従事したあと、IT広告、組織人事のコンサルティングなどを経験を経てワンキャリアに入社。現在は仕事選びの透明化と採用のDXを推進。「ONE CAREER PLUS」リリース後、キャリアの地図をつくるプロジェクトを推進。専門はパブリック・リレーションズ。
twitterアカウント:@telinekd
久保 圭太|株式会社PR Table PR室マネージャー / Evangelist
北海道札幌出身。二児の父。 PRSJ認定PRプランナー。IT系ベンチャー企業にて営業/人事戦略/広報の責任者を経て、2018年よりPR Tableへ。 カンファレンスやオウンドメディアの企画・運営を行うPR Table Communityを統括。またPRコンサルタントとして100社以上の企業ブランディングやコンテンツ企画・活用支援に従事。 2021年よりPR室を立ち上げてマネージャーに就任。エバンジェリストとしてイベント登壇、ラジオパーソナリティ、記事寄稿など多方面で活動中。
twitterアカウント:@keiterpan2
目次
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。
1. 採用活動に「人的資本の開示」が求められる理由
まず、新卒採用における人的資本の開示を考える上で、「人材版伊藤レポート2.0」内で採用活動について記載されている内容から抜粋すると、企業が採用活動を進めるうえで有効な3つの工夫として、以下の3点が挙げられています。
- 学生が自らの意思を表明できる仕組みを整え、主体的なキャリア選択を促す
- 通年採用の導入や、多様な入社月の設定を行う
- 自社に共感する学生を少しでも多く獲得する観点から、人的資本経営の方針や、その中で重視している施策を学生へと発信する
出展:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~」
「学生が自らの意思を表明できる仕組みを整え、主体的なキャリア選択を促す」という項目の背景には、「学生の価値観が変化してきていること」があると考えています。
転職を視野に入れてキャリアを考える学生が増えており、転職後どのようなキャリアの選択肢を取ることができるのか質問をいただくケースも多くあります。
2022年2月「就活生のホンネ調査」の結果によると、約6割の学生が転職を視野に入れて就職活動をしていることがわかっており、入社後、企業に言われた通りのキャリアパスを歩もうとする学生は減ってきているので、経済産業省が出している本レポートは間違っていないと思います。
人的資本の開示は、優秀な人材の獲得につながる
実態とずれておらず、適切な表現だということですね。では、この「人材版伊藤レポート2.0」を実践に移すための方法について考えていきたいと思います。
こちらが「人的資本の情報開示」のフレームワーク例になりますが、整理してみると、世界規模でこれだけ多くのものが公開されています。
その中で、パーソル総合研究所が調査したデータでは、人的資本の情報開示に対して重視する要素として上場企業の役員層・人事部長が最も関心が高かった点は、「優秀人材の採用実績の増加(80.3%)」でした。
上記のデータから、役員層や人事担当者にとって人的資本の情報開示は、人材獲得につながるのではないかと興味を持っていることがわかります。
現在の買い手市場となる中では、そもそも情報を開示しないと選択肢を持つ“選べる人(優秀人材)”を採用することはできません。
学生が入社に至る最後の決め手は「企業の”実態”が見えるか」です。見えにくい企業ほど辞退されている傾向があり、これはアンケート結果からみても如実に数値として出てきています。
“選べる学生”は「働くこと」に対する価値観が変化
では、現在の学生(求職者)は、どのような価値観をもって就職活動をしているでしょうか。まずは、Z世代の価値観についてまとめてみました。
近年特に変化した項目は、この「仕事の探し方・選び方」「キャリア観」「メディアへの接し方」「大学生活・友人関係」です。これらは、コロナによる生活環境の変化も大きく影響しているかと思います。
また、「仕事探しは“ソーシャル”、仕事選びは“評判”」で意思決定をしていることもデータからわかっています。
そして、採用候補者が「魅力に感じる」情報は、「人的魅力」に関するものであることも、様々な調査結果からわかっています。企業は「商品の魅力」を高めることはもちろん、「人」が決め手となって選ばれていることを意識しなければなりません。
ワンキャリアからも、学生のキャリア観の変化について分かるデータをご紹介します。
2年ほど前まで、転職を前提に就職活動をしている人はおよそ38%でした(※1)が、現在は約60%まで上昇しています。
徐々に転職することを声に出せる環境になっていると感じており、学生も「先輩たちが転職しているから、自分たちも転職するだろう」と捉えられるようになっているのです。
学生が重視するポイントが「成長できる環境/企業の将来性」から「職種」に
また、ワンキャリアでは学生の卒業年度ごとに、「就職先を選ぶ上で重要視していることが何か」というアンケート調査を毎年定点観測で行っています。
23卒までは「成長できる環境」「企業の将来性」といったような回答が目立ちましたが、24卒からは「職種」という回答がダントツで1位(※2)となりました。
背景には「自分のキャリアの手綱は、自分で握らないと生きていけない」「堅実な思考で、専門性を磨きたい」と考える学生が増えたことにあると考えています。
また、人気の業界としては「コンサルティングファーム」が高い順位となっており、分かりやすくポータブルスキルが身につくこと、どんなキャリアパスか開示されていることが多いこと、などが理由だと考えられるでしょう。
これら2つを考慮すると、学生には見えない「不安」や「ストレス」が強くかかっていることがわかります。23卒から24卒の間には、この大きな転換点があったと言えるのではないでしょうか。
※2 ワンキャリア登録会員向けアンケート結果
2. 「自ら出す」ことこそが、会社の信頼につながる
このように繰り返しになりますが、優秀な人材を獲得する上では「企業の”実態”が見えるか」が大事です。求職者に「何か隠している」と思われると、辞退が増える要因になります。自社の打ち出し方を決める際は、「Good」「Bad」をセルフジャッジして発信する内容を決めない方が良いでしょう。
ただ、「応募数が減ってしまうのではないか」という懸念があり、出すことをためらう情報もあると思います。しかし求職者にとっては、そういった情報を開示している事こそ会社への信頼に繋がります。
情報開示の本質は、”企業価値を高める”こと
伊藤レポートを作成された伊藤先生が、「人的資本の開示の根本にあるのは“開示すること”でなく“実態が見えること”で、他者からフィードバックをもらい実態を改善するポジティブなループが続くことが本質だ」とおっしゃっていました。
実際に、弊社ワンキャリアのクチコミを利用して、昨年度の自社の採用活動を内省し、次年度の改善をしている企業様も多くいらっしゃいます。自社のアンケートでは本音を書いてもらいづらく、「クチコミを通して学生から本音のフィードバックがもらえることが嬉しい」とお伺いしています。
ここ5年でネガティブなクチコミをフィードバックと捉えているという企業様が増えており、時代の変化を感じます。
クチコミで開示し改善することが大事で、隠してもポジティブな変化は生まれません。このように、情報開示している企業は採用も上手くいっていますね。
既に情報開示している「サイバーエージェント」「ソニーグループ」
ここで、実際に開示をしている企業の事例をご紹介します。まずは、サイバーエージェントさんです。
「従業員データ」と「カルチャー」の発信を積極的におこなっています。
そうですね。
このテーマをやるべきだと思ったのは、人事責任者の曽山さんがTwitterで「コーポレートサイトの採用ページの求職者の方が見えやすい場所に人的資本の開示をしました」というツイートを見たからです。
投資家だけでなく、求職者という投資家にも開示するのはベストな振る舞いだと思いました。
人的資本の開示が話題になる前から取り組み始めている会社なので、フィードバックサイクルが既に回ってきていますね。
次は、ソニーグループさんの事例です。
人的資本の話の中にもカテゴリが多くありますが、特に求職者向けに行う場合、どういう仕事をして、どんな経験を得られて、どんなキャリアパスがあるのかということに関して、ワンセットで情報を出した方が良いでしょう。
ソニーグループは、職種が多いので説明を作成することが大変だったそうですが、やる価値があったと話していらっしゃいました。
弊社の情報から見ると、ここ数年求職者からのソニーグループへの関心が高まっているため、このように情報開示すると市場から選ばれる企業になると考えています。
多くの企業事例が出始めていますよね。伊藤レポート2.0の方でも情報開示事例が紹介されていますが、寺口さんはどんな観点でご覧になりましたか。
採用サイトと合わせて事例を見ました。
レポートに記載されているのは全体的な人的資本開示なので、採用の観点で「人に選ばれるために何をやっているのか」は別途見る必要があります。
3. 新卒採用戦略で考慮すべき人的資本の開示とは
最後に、どんな情報を新卒採用において開示をしていくべきなのか整理します。
2022年6月末に公開された人的資本開示指針案にて、情報開示が望ましい項目が記載されています。
今回、それらを新卒採用に当てはめてフレームワークを作成し、新卒採用にて開示すべき情報として「5W1H」で整理しました。
「When(いつ)」「What(どこで)」「Who(誰と)」「What(何を)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」の項目に対して、左側に「学生がどんな内容を知りたいか」「どのような開示が必要か」「関連する開示指針項目(政府が出しているもの)」をまとめています。
具体的な「事例」「ファクト」「データ」を開示することが”カギ”
ここで、1つご質問をいただいているものに回答します。
<質問>
キャリアパスの開示に関して、「キャリアパスが豊富」「自分で選べる」といった打ち出し方をしている企業が多いように感じます。この打ち出し方と「キャリアパスはこれ!」と明確な打ち出し方、どちらの方が有効的なのでしょうか。
これに回答すると、圧倒的に後者の方が有効的です。大学生にとって「多様な」「色々な」「様々な」といった言葉は不明瞭で、分かりづらいとよく聞きます。つまり、「色々な人が活躍しています」「多様な個性」といった表現は、何も言っていないことと同じです。
対して、社内のリアルな情報が外部に出ている企業はイメージしやすいです。具体例をあげることで、その事例に学生が引っ張られてしまう懸念もありますが、そういった場合は10個に場合分けといったことを行えば、理解されやすくなると思います。
具体的な事例やファクト、データを開示している企業は次第に増えているので、大学生も出している企業と出していない企業の間に差を感じやすくなっています。
この他にも、採用広報ツールで社員の方々に「なぜ働いているのか」といった自社で働く理由を自分の言葉で書いてもらうことは、情報のリアリティを増すことのできる1つの方法です。また、大学生の方から「社員が運用しているTwitterアカウントで見ている点は、“ツイート”ではなく“社員同士のリプライ”だ」という話も聞いたことがあります。今は、社員同士の関係性までわかることも重要ですね。
「年次が異なる人」「男女間」「同期」といった社員同士の関係性に興味がある学生が増えているため、たとえば座談会などで、10年目と3年目の人が登壇し、3年目の人が積極的に話すようにすることで、「10年目の人の前でも、3年目がしっかり話せる職場なんだ」という演出もできるかもしれません。
「リアル」を伝える3つの開示ポイント&チェックリスト
ここで、改めて5W1Hの整理として、「リアル」を伝える3つの開示ポイント&チェックリストに整理しました。
- ジョブ:職種、業務内容、得られるやりがい、身につく専門性などが開示できているか
- キャリア:どんなキャリアを歩めるのか、育成/研修制度はどうか、どこから入社し、どこへ転職した人が多いか
- カルチャー:社員同士の関係性、働き方のスタイル・職場環境、なぜ社員たちはここで働くのか(個人のWhy)
この3つがポイントとなるので、実際に開示できているか確認するためのチェックリストとして活用頂けたらと思います。
ちなみに、ワンキャリアさんのデータだと、キャリアに関して「次のキャリアが明確かどうか」が学生の内定承諾の分け目になっているということだそうですね。
学生も、今後のキャリアが明確になっていないものに対して、自分の働く時間を投資しづらくなっているのでしょう。
「今日よりも明日の方が良い」といった前提ではなくなっているので、現時点で見えるものから判断し投資することになるのは、時代背景的にも当然だと感じます。
その企業に自分が入社することで、「自分という資本の価値がどれだけ上がり、最大化されるのか」を見えるようにすることで、学生側の判断は当然変わります。自分という資本を投資する企業を決める際に、その後のキャリアが明確であることは確実に決め手になりますね。
過去は、会社に対して忠誠心をもって働くことが一般的な風潮でしたが、徐々に価値観が多様化し、「自分主体で働く」という価値観が浸透し始めています。
既に学生時代からキャリアを築いてきた学生から、「就職のために、これまでのキャリアを捨てるべきか」という相談をされることもあります。
このような学生を採用したいと考える場合は、「副業を禁止しない」といった方が選ばれる企業になると思います。
実際に現場で働く「社員」がコンテンツ
カルチャーという軸を学生にオープンにする際には、ワンキャリアライブのような「動画コンテンツ」も1つの手法ですよね。
「社員同士のやり取りも含めて見てもらうことができる」という意味で、お二方で出ているケースが凄く増えたと思っており、社員同士の関係性を上手く伝える場になっていると感じます。
また、社風・キャリアを見る機会という意味では、「インターンシップ」も該当するかと思います。
インターンシップのアンケートを見ても、現場社員の方々が出ているコンテンツは、満足度が著しく高く、横の関係性を見れたり、どのようなフィードバックをするカルチャーなのか、といった点も見られています。
このように、イベントコンテンツ以上に、現場社員の方々もコンテンツであって、学生に強い影響力を与えていると感じます。人事のオーガナイズする方は、カルチャー部分の項目である「どんな人が、どんな理由で、どんな関係性で働いているのか」をインターンの中でどう魅せていくか戦略的に考えた方が良いでしょう。
オンラインのインターンシップでも、このカルチャーを魅せることは必ずできます。弊社は、オンラインもオフラインも両方開催したことがありますが、全ては工夫次第で、オンラインかオフラインかは関係ありません。
4. 5W1Hで整理し、3つの開示ポイントで「リアル」を伝える
ここまで、ありがとうございました。
最後にまとめとなりますが、3つの開示ポイントである「ジョブ」「キャリア」「カルチャー」の全ての項目について、誰が・どこで・どんな関係性で・何のためにがわかる「働くリアル」を、動画やテキストを通じて発信していくことが有効的です。
新卒採用における情報開示項目は、学生が求めている5W1Hで整理し、その上で3つの開示ポイントに注意しながら、会社の「リアル」を伝えるようにしましょう。まだ開示できていないことがあれば、ぜひチェックリストとして活用して頂ければと思います。
「ジョブ」「キャリアパス」「カルチャー」について、少なくともこの3点を進めている企業とそうでない企業では、差が出てきているように感じます。一歩ずつで良いので、可視化を進めてみては良いのではないかと思っています。まだ、今は情報を出すだけでも評価される時代ですので、社会的に皆さんの目が肥える前に早く出せると良いですね。
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「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。