コロナ禍により、採用や雇用のあり方に大きな変革が求められています。
これまで以上に即戦力採用や社員のエンゲージメント向上が必要になる中で注目されているのが、『リファラル採用』です。
リファラル採用には、転職潜在優秀層の獲得や採用ミスマッチの低減、採用コストの大幅削減といった多くのメリットがあります。
特に大手企業の場合は、社員の数だけ“つながり”も多くなるため、有効な採用手法といえるでしょう。
一方で、全社員を巻き込むことへの懸念や制度設計の難しさなど、大手企業ならではの障壁があることも事実です。
2021年1月20日、こうした状況を踏まえ、2018年度からDX人材採用に向けリファラル採用制度を本格導入している富士通株式会社の黒川氏に、「エンゲージメントの高い組織を創るリファラル採用」をテーマにお話いただきました。
3.3万人もの社員の信頼する“つながり”を活かして、どのようにリファラル採用を導入し、全社に浸透させていったのか、具体的な取り組み事例について伺います。
■ 登壇者紹介
黒川 和真|富士通株式会社 人事部 人材開発部 人材採用センター シニアマネージャー
目次
DX企業を目指す富士通。IT人材獲得競争は激化し、7社で1人を競い合う状況に
黒川さん:テクノロジーの進歩、モノからコトへの顧客ニーズの変化、新型コロナウイルス感染症拡大による生活や経済への影響など、世の中は急速に変化・複雑化しています。
そういった中、富士通では「DX企業」を掲げ、デジタル技術とデータを駆使して、いかに革新的なサービスやビジネスプロセスの変革をもたらすかに日々取り組んでいます。
この数年で、採用においても革新を続けていることも富士通の特徴です。
長らく新卒一括採用をメインとしてきた富士通ですが、2015年よりキャリア採用も強化。
キャリア採用ホームページのリニューアル、カムバック採用、ダイレクトリクルーティング、そしてリファラル採用を開始していきました。
当初の中途採用数はエージェントからの紹介をメインに100名規模でしたが、現在は新卒採用750名とキャリア採用300名規模にまで増加しています。
そんな中、直近の採用環境でいうと、2020年11月の求人倍率が全体で1.79倍に対し、特にIT・通信の技術系では7.29倍。
IT業界での人材獲得競争は、実に7社で1人の採用を競い合うような状況です。
以前は採用競合がIT業界の企業のみだったため、競合の中で富士通がある程度ステータスを保つことができていれば、良い人材を採用できました。
しかし現在は、コロナ禍でのDX推進の波もあり、「IT人材を社内で採用したい」という企業が増加しています。
ありとあらゆる業界がIT人材の採用に参入している中、IT人材を積極的に採用するため、リファラル採用の取り組みも強化しています。
富士通社員3.3万人の人脈を有効活用。 IT人材の9割ともいわれる転職潜在層にアプローチ
黒川さん:ここからは、富士通のリファラル採用施策についてお話をしていきます。
富士通の社員は3.3万人。その“つながり”を有効活用すべく、2018年よりリファラル採用を開始しました。
我々がリファラル採用において目指す姿としては、富士通で働く魅力が高まり、社内外の優秀な人材が自然と富士通に集まる状態です。
「リファラル採用を始める前に、まずエンゲージメント向上にしっかり取り組まなければうまくいかない」という話をよく聞きます。
しかしこれは、鶏が先か卵が先かではありませんが、両輪で回していくことが大事だと思います。
リファラル採用は、求職者にもメリットがあります。
たとえば、やはり企業の採用ホームページには、富士通の良いところばかりがたくさん紹介されています。
求職者にとっては、ホームページを見て「富士通っていいな」と思って入社してみたら、実際は良いところばかりではなかった、というミスマッチが起こり得るわけです。
その点、リファラル採用では社員の生の声を通して、良いところも悪いところも聞くことができるため、そうしたミスマッチを防ぐことができると思います。
一方、企業にとっても、マッチング精度の向上は入社後の活躍や離職率の低下にもつながる大きなメリットです。
また、ニッチで専門性の高い転職潜在層へのアプローチもできます。
やはりエンジニアの採用競争が激化している中では、“待ち”の姿勢では良い人材は来てくれません。
特にITエンジニアの9割ほどは転職活動をしていないのですが、声を掛けると転職してみたいという方は結構たくさんいます。
そういった転職潜在層の方へアプローチができることが、富士通がリファラル採用をおこなう大きな理由の一つです。
まずはスモールスタート。トライアルにあたっては、正式導入を見据えた制度設計を
黒川さん:このようにメリットがとても大きいリファラル採用ですが、一方で
- 「紹介ばかりするようになって、本来の仕事をしなくなるのではないか」
- 「不採用になった際、友人と気まずくなってしまわないか」
- 「トラブルが起こったらどうすれば良いのか」
といった懸念もあるでしょう。
そこでまず、富士通では限られた範囲でのトライアルを2017年度下期からスタートしました。
その後アンケートを取りましたが、もともと懸念していたようなネガティブなことは特に起こりませんでしたね。
トライアルのときから制度設計もおこなっていきました。
まずは、人事制度企画部門や労働組合といった関係部門との調整からスタート。リファラル採用の活動対象は、富士通の正社員+契約社員にしました。
これは、まったくの社外の人を含めてしまうと、職業紹介事業にあたってしまうからです。
また、引き抜きのような印象を与えかねないため、グループ会社や協力会社は応募対象外にしました。
そして、インセンティブの金額は他社の事例もふまえて10万円に設定し、インセンティブ規定も作成しました。
また、紹介ツールの選定もおこないましたが、MyReferに決めた理由は、このような導入における制度設計の部分からリファラル採用のノウハウ支援をいただけることと、スマートフォンで簡単に紹介できるからです。
そして労働組合と正式に協議の上、2018年4月より正式導入しました。
紹介者は推薦文を書いてもらいますが、リファラル採用の選考プロセスには入りません。
もし不合格になった時に人間関係への影響があるといけないので、合否には関与しないように配慮し、事前にしっかりと紹介者・被紹介者に明言をした上で選考を実施しています。
Q:リファラル採用が、社員の負担になったり、業務の妨げになったりすることはありませんでしたか?
黒川さん:今のところは、そのような声を聞いたことはありません。
MyReferでのリファラル採用は、相手にリンクを送って紹介文を書くだけなので、それほど負担は大きくありません。
紹介者が選考フェーズや合否に関与することもないため、紹介に対する心理的なハードルも高くないと思います。
また、リファラル採用をしている人へのアンケート調査では、友人の力になりたい、会社の成長に携わりたいという人が大半なので、お金のために紹介活動をしすぎて業務の妨げになるようなこともありません。
「GoToリファラルキャンペーン」で認知促進!?累計80名採用、1.2億円のコスト削減に
黒川さん:正式導入後、リファラル採用制度の認知促進については、あらゆる手を尽くしました。
はじめのうちは、管理職が集まる会議など、様々な会議体に出席させてもらい、そこで時間をいただいてリファラル採用についての説明をおこないました。
そして社内報では、リファラル採用で入社した人の事例を掲載。
ポスターの掲示や、社内ホームページへの掲載も実施しました。エレベーターモニターの表示は、意外と話題になりましたね。
また、新人研修での周知は効果的でした。
さらに、今回の講演もそうですが、社外に向けて富士通がリファラル採用に注力していることを積極的にアピールしています。
外部メディアに取り上げられることで、社員がリファラル採用に取り組む背景を理解してくれることも効果的ですし、社外の人から「富士通ってリファラル採用やっているんだね」と、富士通社員にコンタクトを取ることも期待できます。
キャンペーンも色々と実施しました。ひとつは、紹介してくれたら1万円のギフト券をプレゼントする「総額100万円キャンペーン」です。
リファラル採用制度を社員に認知してもらう意味で話題となり大きな効果がありました。
ここで紹介数も増えたので、今年は総額200万円として、「GoToリファラルキャンペーン」と銘打ってキャンペーンも実施しました。
初年度は1,000名に至らなかった登録者が、現在は5,000名近くにまで増えてきました。
その結果、リファラル採用経由での採用数は現在80名程度、退職者数は0名ですし、選考でのマッチング率は他の採用手法に比べて約10倍です。
採用コストは、人材紹介会社がメインの採用チャネルだった頃と比較すると、累計で1.2億円の削減となりました。
Q:リファラル採用で、実際にどのような人が採用できましたか?
黒川さん:社外勉強会のつながりで、インドの優秀なITエンジニアの採用ができました。
当社はインドにチャネルを持っていませんから、これはリファラル採用ならではの事例だと思います。
また、技術交流をしている教授から、「こういう技術を持っている人がいるよ」と最先端分野の技術者を紹介いただくなど、従来の採用手法では難易度の高い人材の採用が可能になったと思います。
リファラル採用が、会社との信頼関係構築や社員の自律性向上につながる
黒川さん:最後に、エンゲージメントの向上についてもお話しいたします。
富士通でエンゲージメントサーベイを実施したところ、リファラル採用でリクルーターをしている社員は、エンゲージメントが全体平均を上回ることが分かりました。
リファラル採用を通して「富士通においでよ」と社外に発信することで、魅力を再認識してエンゲージメントが高まる傾向があるのではないかと思います。
また、もともとエンゲージメントが高い人、富士通のことが好きで会社のために貢献したいという人が、積極的にリクルーターとして活動している、という側面もあると思います。
もともと新卒一括採用をしていたこともあり、会社の中では「採用は人事だけの仕事だ」という意識は未だ強いです。
しかし、働く仲間を自ら集めることで、自社の組織理解や当事者意識を高められますし、それがさらに会社との信頼関係の構築や、自律性の向上にもつながっていくと考えています。
富士通では、非財務指標のひとつにエンゲージメントを設定し、2022年度までにはグローバル企業水準といわれる75%を目指しています。
その目標に向けて社長と本部長によるセッションをおこない、今後の施策について議論を交わしました。
たとえば、1on1ミーティングを取り入れて、日々の業務の話だけではなく会社や組織のビジョンの話や、個人の自己実現や成長促進の話をする場を作っています。
そして、ニューノーマルにおける新しい働き方「Work Life Shift」を掲げ、生産性やイノベーション力の向上を推進しています。
このように、社員の自律性を高め、会社との“信頼関係”をつくるための施策を進めながら、今後もリファラル採用に取り組んでいきたいと思います。