なぜ「データ・AI人材採用」は失敗するのか?― 人事が陥りやすい“人材定義の落とし穴” |HR NOTE

なぜ「データ・AI人材採用」は失敗するのか?― 人事が陥りやすい“人材定義の落とし穴” |HR NOTE

なぜ「データ・AI人材採用」は失敗するのか?― 人事が陥りやすい“人材定義の落とし穴”

  • 採用
  • エンジニア採用手法

※本記事は、クリーク・アンド・リバー社より寄稿いただいた記事を掲載しております。

データ・AI活用が企業経営の前提となった今、「データ人材を採用したい」と考える企業は年々増えています。 一方で、候補者が集まらない、採用できても期待した成果が出ない、 あるいは入社後に期待とのズレが生じるケースも少なくありません。

その原因は、本当に候補者側のスキル不足なのでしょうか。実は多くのケースで問題になっているのは、企業側が「どんな人を採るべきか」を定義しきれていないことです。

  • とりあえずデータサイエンティストを採ろう
  • AIができる人なら何とかなるはず

そんな曖昧な前提のまま採用を進めてしまうことで、入社後のミスマッチが起きています。

本記事では、なぜ今データ・AI人材が求められているのかを改めて整理したうえで、企業の採用担当者が見直すべき「人材像の前提」について人事・採用担当者の視点から整理していきます。

執筆者西廣 奈緒株式会社クリーク·アンド·リバー社 コンピュータサイエンス·セクション キャリアエージェント

新卒で飲食業に従事した後、IT系人材会社へ転職。新卒採用領域のキャリア支援に携わる。その後クリーク・アンド・リバー社に入社し、現在は両面型の転職エージェントとして、データサイエンス・AI領域の人材紹介を担当。年間約1,000人と面談を行いながら、技術者と企業双方に向き合っている。

データ・AI人材が求められている理由

近年、「データ・AI人材が必要だ」という言葉は、もはや特別なものではなくなりました。多くの企業が、AI活用やデータドリブン経営の重要性を理解し、実際に採用へと動き始めています。

その背景にあるのは、明確な構造変化です。

日本では労働人口の減少が避けられず、従来と同じ人数・同じやり方のままでは、事業成長を維持することが難しくなりつつあります。個々の生産性をいかに高めるかが企業経営の前提条件となった今、データやAIの活用は「挑戦」ではなく「必須要件」となりました。

さらに、これまで経験や勘に依存してきた意思決定を、再現可能な形で残していく必要性も高まっています。事業承継、属人化の解消、組織拡大――こうした課題に対して、暗黙知を数値化し、組織内で共有できる点は、データ活用が持つ大きな価値だと言えるでしょう。

データ・AI人材の定義

かつてデータ・AI人材は、高度な専門技術を持つ限られた存在であり、「AIとは何か」「どのように活用するのか」を説明できること自体が価値とされていた時代でした。

しかし現在は、AIの民主化が進み、業務の中でデータやAIを使うことは特別な行為ではなくなってきています。この変化に伴い、データ・AI人材に求められる役割も大きく変わっています。

「使える」から「価値を生み出す」へ

AI活用が一般化した今、「分析できる」「可視化できる」といったスキルは、それだけでは差別化要因になりにくくなりました。重要視されるのは、データを事業課題と結びつけ、意思決定や価値創出につなげられるかどうかです。

分析結果を示すだけでは、事業は前に進みません。データに詳しくない関係者にも理解できる言葉に置き換え、「なぜこの示唆が重要なのか」「次に何を判断し、どの行動につなげるのか」まで示せて初めて、データは事業価値を持ちます。

こうした解釈力や翻訳力、そして事業理解こそが、「データを使える人」と「データで価値を生み出せる人」を分ける決定的な違いであり、現在のデータ・AI人材を定義する中核になっています。

定義が変わった今、データ・AI人材は「工程」で捉える必要がある

データ・AI人材の定義が変化したことで、「データサイエンティストとデータエンジニアの違いが分からない」「どこまでを一人に任せるべきか判断できない」と感じている採用担当者も少なくありません。

これは個々の職種理解の問題というよりも、データ・AI活用が単一の役割では完結しなくなったことに起因しています。

そのため、データ・AI人材は職種名で捉えるのではなく、「課題設定から意思決定、実行に至るまでのどの工程を担う人材なのか」という視点で整理すると、自社に必要な役割が見えやすくなります。

企業が抱えるデータ・AI人材の採用課題

データ・AI人材の定義が変化する一方で、「AIを導入すれば成果が出る」「データサイエンティストを採用すればデータドリブンになる」といった期待先行の採用が、現場で機能していないケースは少なくありません。

実際には、データ基盤が整っていない企業の方が多く、何から手をつけるべきか分からないまま採用に踏み切ってしまう例も見受けられます。

①ペルソナが描けないまま、採用が始まってしまう

多くの企業は、「データを活用する必要がある」「一人目のデータ・AI人材が必要だ」という問題意識までは持っています。

しかし、実際の採用要件を見ると、 データアナリストなのか、サイエンティストなのか、DX推進を担う人材なのかといった具体的なペルソナを定めないまま選考を進めてしまうケースが多く見受けられます。

その結果、面接を重ねる中で「この人で本当に正解なのか」という迷いが生じ、判断軸がぶれてしまいます。本来ペルソナ設計は人事だけで完結するものではなく、現場・経営・人事が共通認識を持ち、「何の課題を解く人材か」を事前に言語化しておくことが不可欠です。

②職種理解不足が、判断の曖昧さを生む

ペルソナが定まらない背景には、データ・AI関連職種への理解不足もあります。人事担当者は複数職種を横断して担当することが多く、アナリスト、サイエンティスト、エンジニアの違いを十分に把握しないまま採用を進めてしまうこともあります。

その場合は、データ活用の全体フローを整理し、自社の課題を当てはめたうえで、今どの工程に人材が必要なのかを見極めることが有効です。

たとえば、課題整理ができていない段階であればPMやアナリスト型の人材、やりたいことが明確であれば専門性の高いサイエンティストなど、課題起点で人材像を定義する視点が重要になります。

③「内向きな人材」はミスマッチを起こしやすい

採用側の課題に加え、候補者とのミスマッチも起こりがちです。

特に注意したいのが、関心が自身のスキルや技術に強く向いている人材です。「最新技術を学び続けたい」「分析スキルを尖らせたい」という志向自体は否定されるものではありませんが、事業会社では「その分析で、何が変わるのか」「誰の意思決定を助けるのか」という視点が欠かせません。

ビジネスへの関心が薄いままだと、社内で存在意義を発揮しきれず、孤立してしまうリスクもあります。一定の経験を積んだ人材ほど、データサイエンスを目的ではなく手段として捉えられているかが、重要な判断ポイントになります。

このように、データ・AI人材採用の難しさはスキル不足ではなく、「何の課題を解く人材なのか」を定義できていないことに起因しているケースが大半です。

今、企業に求められているのは「データ・AI人材を採ること」そのものではなく、自社のフェーズや課題に照らして、必要な人材像を定義し直すことだということが改めておわかりになるでしょうか。

企業が本当に採るべきデータ・AI人材とは

市場ニーズと、最初に採るべきデータ・AI人材

企業のフェーズによって前提は異なりますが、市場で求められる人材は、大きく「ビジネス寄り」「技術寄り」の二つに整理できます。近年特にニーズが高いのが、ビジネスとデータをつなぐ役割を担える人材です。

分析結果を示すだけでなく、事業文脈の中で意味づけを行い、「次に何を判断すべきか」「どの行動につなげるのか」まで示せるかどうかが重視されています。課題がまだ曖昧な段階では、こうした課題設定力を持つ人材の価値は特に高まります。

一方で、分析やモデル構築、データ基盤などに強みを持つ技術寄りの人材も、内製化が進むフェーズでは欠かせません。特定領域に尖った専門性を持つ人材は、明確な役割が定まった段階で大きな力を発揮します。

こうした市場動向を踏まえると、企業が最初に採るべきデータ・AI人材像も明確になります。一人目に求めるべきなのは、高度な分析スキルを持つ人ではなく、課題設定から実行までをやり切れる人材です。BIツールやAIの進化により、分析そのものは後から補えますが、「何を課題と捉えるか」「どこから着手すべきか」を定義できる力は代替がききません。

企業のデータ活用が進み、やりたいことが明確になってきた段階でこそ、専門性の高い技術人材を採用する意味が生まれます。重要なのは、「とりあえずデータサイエンティストを採用する」のではなく、今の課題に照らして、どの工程を担う人材が必要なのかを先に定義することです。

長期視点で考える、ジュニアクラスのデータ人材採用と育成

今後、企業活動において「データを扱わない」という選択肢は、ほぼなくなっていきます。労働人口の減少が進む中で、データ活用は競争力そのものになっていくのです。

そのため、短期的な即戦力採用だけでなく、戦略的な育成を前提としたジュニアクラスのデータ人材採用も欠かせません。

データサイエンティストとして採用した人材が、将来的にエンジニアや社内SE、バックオフィス領域へと役割を広げていくことも、企業にとっては十分に価値があります。

「データに明るい人が社内に複数いる」状態そのものが、企業の武器になる。そうした視点で、データ人材の採用と育成を捉え直すことが求められています。

良いデータ人材に選ばれる企業になるためには

データ人材に選ばれる企業かどうかは、技術力やツールの充実度よりも、自社の課題をどれだけ本気で語れているかに表れます。「どんなデータを扱っているか」もそうですが、「何に悩み、何を変えようとしているのか」。その姿勢こそが、候補者に見られています。

① 経営層がデータ課題を理解しているか

良いデータ人材に選ばれる企業は、「今どれだけデータドリブンか」よりも、自社のデータ課題を正しく理解し、言語化できています。特に重要なのは、その認識が現場だけでなく、経営層自身が言葉にできる企業です。

最終面接などの重要な場面で、経営層自身が「なぜ今データ人材が必要なのか」「どんな課題を一緒に解いてほしいのか」を語れる企業は、それだけで候補者に強い信頼感を与えます。たとえ現時点で成熟したデータ活用ができていなくても、課題を正しく認識していること自体が、十分な評価ポイントになります。

② 面接で“課題”を語れているか

多くの企業が「データドリブンな会社です」と掲げていますが、求職者がそれを実感できる場面は限られています。だからこそ重要なのが、面接の場でデータを以て解決したい具体的な課題を率直に共有できているかです。

それが経営課題であっても、プロダクトの課題であっても構いません。何に向き合おうとしているのかが伝われば、データ人材は「自分の提案に耳を傾けてもらえそうだ」「取り組むべきテーマが明確だ」と感じやすくなります。

③ 「採用すれば解決する」という発想になっていないか

「データサイエンティストを採用すれば、自然とデータドリブンになる」という発想は、うまくいかないケースがほとんど。本来は、課題が先にあり、その解決のために人材を採用するという順序であるべきです。

もちろん、入社後にプロの視点で課題を洗い出してもらうこと自体は有意義です。ただしその前提として、企業側が「自分たちは何に困っているのか」を考え抜いているかどうかが、採用の成否を大きく左右します。

④ 成長の道筋が描けているか

データ人材にとって魅力的な企業かどうかは、入社後の成長イメージを持てるかにも表れます。グレードごとに求められる役割やスキル、期待される貢献が整理され、「どこまで到達すれば次のステップに進めるのか」が見える状態かどうか。こうした道筋が明確な企業ほど、安心してチャレンジしやすくなります。

⑤ キャリアの選択肢が一つに固定されていないか

データ人材のキャリアは、必ずしもスペシャリスト一択である必要はありません。技術を深める道に加えて、プロジェクトマネジメントや事業側に近い役割など、複数の成長方向が示されているかも重要です。柔軟なキャリア設計が可能な企業は、結果としてデータ人材にとって「長く価値を発揮できる場所」として選ばれやすくなります。

まとめ

データ・AI人材採用におけるミスマッチの多くは、「スキルの見極め」に失敗しているからではありません。自社が今、どの工程で、何につまずいていて、その解決にどんな役割が必要なのかを整理しきれないまま、「データ人材を採ること」自体が目的化してしまう ことが原因です。

採用で最も重要なのは、「誰を採るか」ではなく、「何を任せたいのか」を先に定義すること。課題を言語化し、期待役割を共有し、成長の道筋を示せる企業ほど、結果として市場から選ばれ、データ・AI人材の力を事業価値へとつなげていきます。

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※1 出所:独立行政法人情報処理推進機構「DX白書2023」 Copyright 2023 IPA ※2 出所:独立行政法人労働政策研究・研究機構「人への投資と企業戦略に関するパネル調査]2023年10月Copyrigh […]

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