株式会社ドクタートラストが2022年11月26日、27日に産業医科大学で開催された、第19回日本ヘルスプロモーション学会・第11回日本産業看護学会 合同学術大会/集会で「新職業性ストレス簡易調査票(80設問)の各設問と健康リスクの関連について」を発表。日本産業看護学会学術集会長賞を受賞いたしました。
本発表では、ドクタートラスト社のストレスチェックを2021年度に受検したうち、およそ16万人のビッグデータをもとに、ストレスチェックの各設問と「健康リスク」の相関を導出、「上司のマネジメントスキル」と「職場の雰囲気」が、健康リスクに深く関与していることを明らかにするとともに、職場環境改善へのアクションを提言しています。
受賞タイトル
「新職業性ストレス簡易調査票(80設問)の各設問と健康リスクの関連について」
- 発表者:笹井裕介(ドクタートラスト社 精神保健福祉士・看護師・公認心理師)
- 共同研究者:山本ちえ美(ドクタートラスト社 精神保健福祉士)
発表内容のポイント
- ストレスチェックの設問のうち「上司のマネジメントスキル」「職場の雰囲気、対人関係の良好さ」に関する設問が、「健康リスク」に関連している
- 「部下に対して、きちんとしたフィードバックが行える上司」「同僚同士の相互理解、職場の良好な雰囲気づくり」が、健康リスクを下げるための職場環境改善策と示唆された。
発表内容
1.分析の背景
ストレスチェック制度は、従業員のメンタル不調の予防やその気付きを促すこと、また、ストレスが高い人の状況把握やケアを通して職場環境改善に取り組むことを目的として制定され、2015年12月以降、従業員数50名以上の事業場で年1回の実施が義務づけられています。
ストレスチェックの結果を部署や、事業場ごとに分析した集団分析では、集団の「健康リスク」が示されます。
健康リスクは、集団において健康問題が起きる可能性を示した数値であり、職場環境改善の指標として有用なものです。
具体的には、ストレスチェック設問のうち「仕事の量」「仕事のコントロール」「上司の支援」「同僚の支援」の4尺度に関する各3問から算出されます(表1)。
「健康リスク」を低減させるためには、その各尺度を良好な状態にする必要があります。しかし各設問は職場の端的な事象を表しているのみで、健康リスクを低減させるために、何に取り組めば良いのかが捉えづらいものです。
また、ストレスチェックは制度開始から年月が経過し、当初一般に使用されていた設問数57項目版(職業性ストレス簡易調査票)より、80項目版(新職業性ストレス簡易調査票※)を採用する企業が増え、多角的な視点で分析が可能になりました。
一方で、「健康リスク」を低減させるアクション、施策を検討するにあたって、新職業性ストレス簡易調査票の設問80項目のうち、どの項目に焦点を当て取り組めば効果的であるかの示唆はまだ得られていません。
※全設問内容は本ペーパー最後に掲載
2.分析の目的
本研究は、ストレスチェックの80項目それぞれについて、「健康リスク」との関連性を検討することで、健康リスクとの相関が強いものが見つかれば、多角的な視点で職場環境改善に取り組める可能性があると考え、受検した各人の回答結果から算出される健康リスクと各尺度の相関分析を実施し、健康リスクに関連する強度を解明することにしました。
また、健康リスクの高低によって各回答の結果を明らかにし、ストレスチェックのどの項目を改善すれば健康リスクの低減につながるかを考察しました。
3.分析方法
ドクタートラスト社で2021年4月1日~2022年3月31日に、「新職業性ストレス簡易調査票」を使用し、ストレスチェックを実施した159,583名(男性99,253名 女性60,330名)を対象者とし、各設問の回答結果と、健康リスクについて「相関係数の絶対値」を算出しました。
4.分析結果
各設問と健康リスクとの「相関係数の絶対値」は、表2のとおりです。
また、表3は、表2で算出された「相関係数の絶対値」を降順に並べた際の上位20項目です。
各設問と健康リスクとの「相関係数の絶対値」について、上位3位までは「上司の支援」、4位~6位までは「同僚の支援」、7位、10位、15位は「仕事のコントロール」に関する設問でした。
一方「仕事の量」に関する設問は数値が小さく、上位20位にはランクインしませんでした。
5.考察
表3の「健康リスク」と相関が強いと考えられる上位20項目のうち、健康リスクを算出するための項目を除いた11項目をカテゴライズすると、
- カテゴリー①「上司のマネジメントスキル」
- カテゴリー②「職場の雰囲気、対人関係の良好さ」
- カテゴリー③「自身の仕事に対する気持ちや評価」
に分類されました(表4)。
カテゴリー③「自身の仕事に対する気持ちや評価」は、企業で直接取り組むのが難しいものの、カテゴリー①「上司のマネジメントスキル」、カテゴリー②「職場の雰囲気、対人関係の良好さ」は企業で取り組むことが可能であり、これらへのアプローチが健康リスクを低減させるアクションにつながると示唆されました。
6.参考:企業で取り組めるアクション例
- 月に1~2回の時間を確保し、部下へのフィードバックの機会を持つ
- フィードバックでは、部下が何を頑張っているかに着目し、労をねぎらい称賛する
- できていない事項は、何を達成すれば解決が可能なのかを、ともに悩み考える
- 職場の雑談環境(オンライン、対面)を構築し、タテヨコのつながりを確保
- 業務内容を整理、分担し、同僚同士の協働のしやすさを確保
- チームビルディング研修やアサーショントレーニングの実施
笹井裕介(株式会社ドクタートラスト 精神保健福祉士・看護師・公認心理師)
中京大学心理学部心理学科を卒業後、精神保健福祉に興味を持ち大阪医専精神保健福祉学科へ入学、精神保健福祉士資格を取得。精神科クリニックでケースワーカーとして、患者さんの受理面接や心理相談、生活相談を実施。自身のスキルアップのため、医療について学びたいと思い、京都第二赤十字看護専門学校へ入学、看護師資格を取得後、病院で勤務。
さらに予防医学に興味を持ち、株式会社ドクタートラストに入職。ストレスチェックを実施する部署に配属になり、多くの一般企業や官公庁の実施者、実施事務従事者を担当。現在は、相談窓口の相談員としてハラスメントやメンタル、健康に関する相談を引き受けているほか、各種セミナーの講師や人事担当者への提案、企業コンサルティングも実施している。