社長の右腕人材にフォーカスをあて、彼らが乗り越えてきた過去の体験やビジネススタンス、ボスマネジメントで意識していることなど、財産とも言えるノウハウをお伺いし、記事にまとめていく企画「社長の右腕」。
今回は、「挑戦者(ばか)が日本を元気にする」を理念に掲げ、エグゼクティブサーチ事業を中心に展開しているBNGパートナーズの取締役 岡本さんにインタビュー。
岡本さんは、入社して2年目でトップセールスを叩き出し、以降、会社を牽引する存在として活躍され、2020年に取締役に就任。
蔵元社長とは新卒入社から8年間にわたり苦楽をともにしてきており、本記事では、そんな岡本さんが蔵元社長の右腕として考えていることや、役割分担、組織マネジメントで意識していることなど、お伺いしていきます。
目次
BNGに出会ったきっかけは「新橋のおっちゃん」を元気づけたい想いから
ー本日はよろしくお願いします。まずは岡本さんの役割と担当領域についてお伺いさせてください。
岡本さん:現在は、ベンチャー企業の幹部採用を支援するエグゼクティブサーチ事業部を管掌しています。ここは創業当初からある部署で、全社の売上の柱を担っています。
そこに加えて、セールス、マーケティングや広報、営業サポート、営業推進、部門HRチームも私の方で管掌しております。メンバーとしては、50人弱を見ている感じですね。
ー管掌領域が多岐にわたりますね。
岡本さん:そうですね。メンバーのおかげでなんとかがんばっています(笑)。
ー岡本さんがBNGパートナーズに入社したきっかけは何だったのですか?
岡本さん:「経営者を支援する仕事に携わってみたい」という想いからですね。
昔から経営には興味があって、実は大学のときに新橋で居酒屋の経営をやっていたことがあるんです。
ただの居酒屋ではなくて、「新橋のおっちゃんに元気になってもらおう」と、夢を思い出してもらうために「夢ノート」をつくって、来店の度に夢を書いてもらうコンセプトでやっていました。
来店したら「夢の続きを書いてくれ」って、暑い居酒屋でしたね(笑)。
ー私だったら何を書くか考えてました(笑)。学生時代から経営に携わっていたのですね。
岡本さん:高校生あたりから徐々に経営者に対する憧れが強くなってきて、居酒屋の経営をするに至ったんです。
もともと小さい頃からいろんな挑戦をしてきておりまして、私の名前が「勇一」なのですが、「勇気を持って一歩踏み出す人になる」という想いで両親に名付けられました。
以来、そういう人間になるようにと、刷り込み教育をされてきたんです(笑)。
岡本家には家訓が3つあるのですが、「嘘をつくな」「お母さんを大事にしろ」「勇気をもって一歩踏み出せ」です。今までに親から言われたのはこれだけでして、おかげさまで行動力だけは人一倍あると思います。
でもこの居酒屋の経営は、結論からいうと志半ばでした。
岡本さん:来店する度に夢を書いていただくものの、「このやり方だけだと力不足だ」と痛感しました。
「じゃあ彼らをもっと元気にするためにはどんなアプローチが良いのか」と考えたときに、経営者だったんです。経営者にアプローチしていく必要があると。
そこから、経営コンサルや人材企業など、経営者と携われる仕事を探しはじめたんです。
その中である求人が目に飛び込んできて、それがBNGパートナーズでした。まだ当時は社員数5名くらいで、新卒採用なのに「経営者募集」と書いてあったんです。
「挑戦者(ばか)日本を元気にする」という理念にも興味を持って、まずは話を聞きにいこうと、応募したんです。
ー蔵元社長とはじめてお会いしたときのことは覚えてますか?
岡本さん:「日本を元気にするぞ」「志を持つ人で日本を埋めつくすぞ」、これしか言ってなくて、すごく暑い人だなと思いました(笑)。でも、本気度はかなり伝わりました。
その想いに共感して、最終選考で、「いつからこれるんだ?」と言われて、内定をもらったのかどうかもわからないまま、大学4年生のGWが明けたタイミングから、月〜金の週5でインターンがはじまったんです。
で、気づいたらいつの間にか入社していました(笑)。
社長との関係性で大事なことは、常に対等な立ち位置になれているか
ー実際に蔵元社長の近くで働かれてみて、どのような印象をお持ちですか?
岡本さん:当初の蔵元の印象は生粋のCOOタイプでした。オペレーションにすごくこだわっていて、緻密に進めていくタイプです。
「マネジメントノート」という、会社の守るべきルールが書いてある100ページ以上の分厚いノートが全社員に配られていたのですが、蔵元が全部自分で考えて書いておりました。
それぐらい、オペレーションやサービス、組織をつくることに対する想いが強くて、本当に几帳面だなと感じましたね。
ー掲げている理念を見ると、ビジョナリーな方かと思っていたのですが、違うのですね。
岡本さん:少なくとも本人は、カリスマ社長ではないと自ら公言しております。私もですが、間違いなく凡人です。
どちらかというと、当たり前のことをやるだけの、愚直に真面目に一歩一歩進むタイプなので、目立ちはしないです。
ただ、現在の蔵元の役割は少し変わってきたと思います。
権限移譲で徐々に私に責任を任せてくれ、生粋のCOOからビジョンに寄りそって3年後以降の未来をつくることを考える立場を担っています。
ー蔵元社長と岡本さんの間ではどのような役割分担になっているのでしょうか?
岡本さん:蔵元が3年より先のBNGの未来を考える仕事をメインにしていて、私は今から直近3年後の未来を実現させていく、そのような役割分担になります。
メンバーの配置から事業計画まで全て私が決めているのですが、「任せているから口出しはしない」といって蔵元から一任されているんです。
その中で一つだけ言われることがあります。「意思決定に強い意図を持て」ということです。
たとえば、社員の給料を上げたところ、「昇給の意図はなにか」と細かく聞かれることがあります。
「これはこういう意図で上げてます」と伝えると、「ああそうなんだ。頑張ってるんだね」みたいな。そんなやりとりが多いですね。
ー蔵元さんとのコミュニケーションや関わり方で意識されてることはありますか?
岡本さん:これも変わってきましたね。
私は新卒入社なので、昔は絶対的な主従関係の中にいました。蔵元の顔を見て働くタイプでしたね。
でも、今の立場でそれをやってしまうと組織がうまく機能しなくなるので、対等であろうと意識し続けた結果、コミュニケーションは変わってきていると思います。
新卒プロパーだと、社長と対等な立ち位置で話すには、かなり葛藤がありましたけどね。
自己変革と自己破壊みたいな感じで、過去の自分だったら「蔵元さん」なのですが、今はどちらかというと「蔵元」という感じで、横の立ち位置にいることを常に意識しています。
正直、最初はちょっと怖かったですけどね(笑)。
ー蔵元社長とのコミュニケーション頻度はどのくらいなのでしょうか?
岡本さん:週2ペースでミーティングをしています。それ以外にも、何かあったらいつでも電話、メール、チャットでやりとりをしています。
特徴的なものをあげると、木曜日の朝に「何も決めないミーティング」をやっていますね。
ー何も決めないミーティングですか?
岡本さん:BNGの未来をつくるうえで、気になったトピックや変えたいと思うことなど、意思決定はしないで何でも話すというミーティングをおこなっています。
「海外のHRの事業ではこういうのが盛り上がってるよ」とか、「デジタル庁が発足して、採用関連でこういう動きがあるらしいよ」とか。
目の前の事業に集中しすぎて視野が狭くならないように、いろんな観点から話をしています。
岡本さんが右腕として意識していること
ー経営者の右腕というポジションにおいて、岡本さんが意識してることはありますか?
岡本さん:社長が目指したい3年後の世界があるわけじゃないですか。その実現に向けて動くのが私の役目ですが、自分が描きたいイメージを持って取り組みたいので、計画は意図をこめて非常にこだわってつくります。
また、先ほども言った通り、主従関係ではなく対等なパートナーとして、「ここまでは私が責任を持って見ます」「ここから先は蔵元さんの出番なんでよろしくお願いします」と、戦うフィールドを明確に分けるようにしていますね。
ー役割を明確に分けることは大事ですね。組織マネジメントをおこなう上で大事にしているポイントはありますか?
岡本さん:私が「どの顔で話すか」は、大事にしています。
私は取締役であり、事業部長であり、ときにはリーダーの役目も兼務しており、立場によって異なる顔を持っています。
そこに対して、「どの顔で話をしているか」を伝えないと、勘違いされて伝わることがあるんですよね。
岡本さん:たとえば、「事業の売り上げ伸ばしたい」という部門最適を考えている事業部長の顔があります。
それを取締役の顔だと勘違いされると「取締役の岡本さんがこの事業に集中しろと言っている」と、他部署をないがしろにしているように感じるじゃないですか。
ですので、「事業部長の岡本としてはここを伸ばしていきたいと言うものの、取締役の岡本としては全社を考えてこう進めていくから、両部署とも大事に育てていこうと考えてる」とちゃんと言わないと、「岡本さんがそう言っていたから」って、思ってないことが広まってしまうんです。
間違った伝わり方をすると、その軌道修正に多大な労力を使うので、このあたりのコミュニケーションは日頃からすごく気をつけて発信はしています。
「今は取締役として話してます」「事業部長の岡本として伝えます」「チームリーダーの目線で話してるよ」とか、よく言ってますね。
30人、50人、70人の組織の壁、すべてを経験してきたから言えること
ーこれまでに岡本さんが組織を率いてきて苦労したことはありますか?
岡本さん:私はこの会社が5人のときから、70名程度の規模感まで見てきているのですが、30人の壁、50人の壁、現在の70人の壁、うちはこれに全部ぶちあたってきてるんですよね。
ーなるほど…。こちら、一つずつ伺ってもよろしいでしょうか。
30人の壁
岡本さん:30人のときは、価値観の統一が薄れる壁がありました。
このときは、代表に蔵元がいてそれに忠誠を誓ったメンバーが29人いるわけです。それでワンチームだったのですが、ここから新卒・中途採用を積極的にやったんですね。
20人くらい採用したと思うのですが、ほぼ全員辞めました。
ーなぜ辞めてしまったのでしょうか?
岡本さん:30人までは、蔵元が発信するメッセージについて、詳細まで伝えずともみんな理解できるんです。でも、途中から入ってきたメンバーからすると、その価値観が伝わりきらないんです。
私の中では価値観も統一されているし、BNGの目指す方向も明確だと思っていたのですが、中途入社者からすると、ずっと培ってきた何年ものコミュニケーションの蓄積がないので言っていることがわからないんです。
そこではじめてBNGが大事にしたい価値観を詳細まで落とし込む必要があると痛感しました。かなり詳しく理念やビジョンを落とし込んでいきました。
50人の壁
岡本さん:さきほどの20人が定着してくると、50人規模になるわけです。
そうすると徐々に組織に階層ができてきます。その時に何が起きたか。価値観の統一はできているのですが、サービスの品質が下がってしまったのです。
あるマネージャーやリーダーが「その品質じゃなくても大丈夫」と妥協しはじめた結果、サービス品質が悪くなっていくんです。
エグゼクティブが対象の事業なのに、よくわからないうちにミドルも対象になっていたり、うまく回っていかないことがありました。
ここでやったのが、教育の仕組みを最初から作り直したことです。サービスの定義や品質について、「ここを基準にしてください」という動画を30本撮って、「入社したら全員これを見てレポート書いて出してください」と。
これを徹底してオンボーディングの段階でやりはじめてから、やっと落ち着いてきた感じですね。
70人の壁
岡本さん:そこから今が70人規模になっているのですが、また価値観の壁が来たんですよ。びっくりしました。
30人の壁を突破するときにみんなで考えて作った価値観が、このタイミングで入社してくる方に「全然浸透していない」と言われるんですよ。
私は浸透していると思っていて、説明も書いてあるし「もうむちゃくちゃわかりやすいじゃん」と思うのですが、「いや、全然浸透してない」「みんなの共感値が低いです」って言うんですよ。
なぜかというと、これはシンプルで彼らがこの価値観をつくったわけではなく、「何か降ってきたもの」なんですよね。
ですので、ちょうど我々が大事にしている行動指針があるのですが、これをリブランディングしようと思っています。
推薦制にして集まったメンバーで、我々が大事にする価値観をもう1回つくり直そうと動きはじめたところです。
それでまた良い方向に変わるのではないかと思っているのですが、おそらく150人ぐらいになってもまた同じような壁が起き続けるんだろうなと感じています。
私は、これまでの組織の変化を全て見てきているので、過去の出来事をメンバーに伝えていくことがプロパーの役割だと思い、言い続けていくようにしています。
ー岡本さんは、30代前半という若さで取締役に就任されていて、壁に当たることも多いと思うのですが、どうやって乗り越えていったのですか?
岡本さん:当時からプライドも何もない人間だったので、わからないことがあれば誰にでも聞きますし、できる人のことを徹底的に真似するスタンスでした。
それに加えて、今まで私はエグゼクティブ採用に携わってきているので、候補者の方がメンターになってくれるんですよ。
上場企業の役員からベンチャー企業の部長の方など、1,000名を超えるプロフェッショナルと関わりがあるので、誰かに何かを聞けば教えてくれるんです。
ーそれはすごく羨ましい環境ですね。
岡本さん:ちなみに、私は取締役になるまでに3回の降格を経験してるんですよ。
最初は、入社して2年経ったときにリーダーに昇格させてもらったのですが、結果が出ずに半年でメンバーに降格。
そこからしばらくしてリーダーに復帰し、結果を出して事業部長になったのですが、5人ときのチームマネジメントと20人のチームマネジメントでは変数が桁違いに多くて、これも1年も経たずにリーダーに降格しました。。
それで、降格する度にいろんな人に相談をしていたんです。
その中である人相談したところ「全然ちっちゃい、視座が低い」とお叱り受けて…。「お前は何がしたいんだ」って、何かいろいろ言われましたね(笑)。
「もっと高い視点で考えろ」と、「お前がこの事業を率いるんだったらどうするかぐらいまで考えて戦え」みたいなことを言われたんです。
そこから視座をあげて行動に移した結果、また事業部長に返り咲いて、さらに1年で執行役員を任せてもらえたんですよ。
ここまで足かけ6年ぐらいですかね。でも執行役員になっても、また降格することになるんですよ。
岡本さん:このタイミングで苦労したのが、PLを見ることです。
今までは売上予算しか見ていなかったのですが、コストコントロールもしていくことになります。
前任が作成したPLを引き継いだタイミングだったのですが、人員計画が前年と変わらずで、売り上げが1.5倍になっていたんです。
自分の計画ですら戦わせてもらえず、着任した瞬間に負けてました。
そこからは、予算計画が決まる前の段階から携わらせてもらうなど、そのような交渉から入っていくようにしました。
でも、このような経験があってPL脳を養うことができ、半年前から勝てる計画をつくってやりきって信頼を勝ち取って、ついに取締役に就任したんです。
で、そこからは単年だけでなく、3ヶ年計画の権利をもらうように蔵元に交渉しました。
というのも、1年だけの計画で「1年後に1.2倍ぐらいの売り上げをやるぞ」と言われても、みんなわくわくしないんですよ。単年だとできることは限られてしまうので。
3年かけて実現したいビジョンを伝えることで、みんな「いくぞ!」というモチベーションになると思っています。
このように入社から7年をかけて、ようやく現場のすべてを任せてもらえるようになった感じですね。
上司を変えるより、自分が変わるほうがはるかに健全である
ー最後に、ボスマネジメントについて同じような立場の方や、若手社員に向けて一言アドバイスをいただけないでしょうか。
岡本さん:まず、経営に近いポジションであるほど、主従関係になってはダメだと思います。
言われたことそのままやる関係から脱却して、会社のために世の中のために戦えることが、大前提として大事なことだと思います。
そのうえで、ボスマネジメントについて話をすると、みなさん「あの人は変わらない」「あの人はわかってくれない」とか言うじゃないですか。
でも、根本的に人はすぐに変わりません。すぐに変えられるのは自分の考え方や行動だけなんです。
ですので、「上司をどう変えてやろうか」というボスマネジメントをするより、自分をうまく変えて上司を納得させる力を持つほうが早いし、精神衛生的にも良いと思います。
よく「上司が全然理解してくれない」って聞きます。でも、それを言い続けても一生変わりません。
だったら、わからせるためのスキルを磨いて、わかってもらう機会をつくるほうが健全じゃないですか。それをずっと言っていて、一番伝えたいことですね。
ボスマネジメントはあくまでも手段です。
ボスを変えようとするのではなく、ボスの状況を理解した上で、成果を出すために自分が足りないものを身につけて、ボスと一緒に戦える、そういう関係性がつくれると良いと思います。