こんにちは。ヒトテク研究所 所長の村山です。
「ヒト×テクノロジー」を軸にした最新情報をお届けする、ヒトテクノロジー研究所。『ブレインフィットネス』の仕掛け人、髙山 雅行氏のインタビュー第3回目の記事をご紹介。
今回は、脳のフィットネスで「生涯現役」を目指す、未来型アンチエイジングについてまとめています。脳の健康寿命が格段に延びて仕事の現役期間も延び、いわゆる「生涯現役」が実現していくのではないでしょうか?
高山 雅行(タカヤマ マサユキ) | 株式会社イノベイジ 代表取締役社長
70歳~80歳まで働くことが当たり前の時代がくる!?
高山氏:今後ニューロエンハンスメントの脳テクノロジーがいろいろ出てくると、ビジネス周りでまず飛びつくのは経営者などのエグゼクティブ層でしょうね。
村山:まず上からやらないと絶対下には浸透しないですもんね。経営層が始めてから、部長クラスが脳トレをコーチング的な感覚で始めるとか。
高山氏:そうですね。テクノロジーの進化で彼らの認知機能が維持されていくと、経営者としての寿命がどんどん延びていくんじゃないかと思っています。
もともと日本は、70代以上の社長が運営する会社の時価総額が高いという話もありますが、今後、80代90代ですごくパフォーマンスが高い経営者が出てくるのではないかと考えています。いいか悪いかは別として(笑)。
村山:リンダ・グラットンさんの「ライフシフト」ですね。
人生100年時代が来るにあたって、60~65歳の人たちが残された引退生活30年間をどう過ごすか。公だけで経済的に支えていくのも難しいし、何もしないで生きるのは面白くないという意味からも、やはり70歳~80歳まで、勉強も含めてキャリアチェンジしながら働き続けるのが当たり前の時代が来るだろうと。
でも、実際に脳をトレーニングすれば、高齢でも経験値を減らさずに新しいことを吸収することもできるようになるんですか?
高山氏:人間の知能には、新しいことを学んでいく「流動性知能」と、過去の経験が土台となった高次の判断や専門的な能力を指す「結晶性知能」の2種類があります。
「結晶性知能」は70代くらいまで伸ばせると言われていますが、「流動性知能」は20 代がピークで以後は低下していくものなのですよ。
残念ながら今科学的に証明された「流動性知能」の改善方法はありません。
ただ「流動性知能」を改善する方法として、計算や思考で必要とされる知能である「ワーキングメモリー」と呼ばれる脳の作業記憶分野を鍛えるトレーニングが有効だという説があって、これを鍛えるトレーニングにブレインフィットネスでも導入している「Nバック課題」があります。
「1+1=」「2+3=」といった計算問題が順番に表示され、ワンバックの場合は「1+1」の答えを「2+3は?」と問われた時に答える。つまり計算の答えをすべて覚えておいて、ワンバックだったら1個前の問題の解答を出して正解。ツーバックなら2個前の問題の解答を出す、というものです。
実は僕自身も「Nバック課題」をやっていて、ようやく今6バックまできました。
村山:めちゃくちゃ自信ないんですけど(笑)。
高山氏:それが、「脳トレ」で有名な東北大学加齢医学研究所教授の川島隆太先生は22バックまでやっていらっしゃると聞き、衝撃を受けましたよ(笑)。
とはいえ、Nバックに習熟しても、流動性知能向上につながるのかどうかという点については論争はまだまだありますし、まだ科学的に証明されたとは言えません。
ただ脳トレ自体、誕生してからほんの何年かの世界なので、これからまだまだ優れたトレーニングが開発されるでしょう。実際に、VRを活用した認知機能のトレーニングの開発が世界中で進んでいるという話も聞きます。
とにかく未来という観点から見た時に、若いうちから意識して脳の健康に取り組む人が増えてくれば、脳の健康寿命が格段に延びて仕事の現役期間も延び、いわゆる「生涯現役」が実現していくのではないかと考えています。
イチロー選手とカズ選手があの歳で現役なら、僕らビジネスマンも脳トレで100歳まで認知機能を維持しバリバリ創造的に働いて結果を出して、はじめて彼らの偉大さに釣り合いますよね。
村山:面白いですね。僕も尊敬する経営者のひとりは65歳でケンタッキーフライドチキンを起こしたカーネル・サンダースです。
高山氏:そうなんです。僕は「100歳で起業したい」とよく言っているのですが、自分が作った会社に君臨し続けて100歳になってもまだ現役だというのではなく、100歳になってからまた新しいビジネスを生み出したいなと。
生産年齢人口が減り続ける日本においてシニア層の活躍が欠かせないなら、脳の健康を維持して、あわよくばイノベーションを起こす老人をどんどん増やしていきたい。未来には100歳で起業して、110歳で上場する社長もきっと出てきますよ(笑)。
村山:転職市場で言えば、20年くらい前から近年まで「35歳転職限界説」がまことしやかに囁かれていて、その理由の大半が、35歳を過ぎると新しい知識を仕入れられなくなって考え方も硬直してしまうというものでした。
でも高山さんのお話から、いまこれって過去の遺物だと。労働市場におけるシニア層の活躍はもちろん、転職も起業も当たり前の明るい未来がイメージできましたよ。
脳を総合的にサポートして健康な状態に導く『ブレインフィットネス』
村山:とはいえ、現時点で認知症予備軍になってしまって、先々働くことはもちろん、暮らしを楽しむこともできなくなってしまったら、もったいないですよね。
今の日本で見かけるのは、公民館の認知症予防教室や、パソコン教室の脳トレ、フィットネスジムのシニア向け介護予防体操、あとは任天堂DSの脳トレゲームぐらいですが、『ブレインフィットネス』では具体的にはどんなトレーニングをしていくのですか?
高山氏:たしかに日本ではまだまだ選択肢が限られていますが、アメリカでは“ブレインフィットネス”という言葉自体が普通に使われていて、マーケットの拡大に伴っていろんな脳のトレーニングサービスが出てきているのですよ。
村山:ターゲットとなる年代は、イメージより下ですよね。
高山氏:はい、「アミロイドβ」と呼ばれるアルツハイマー病の原因物質は、認知症発症の20年~25年ぐらい前から脳内に溜まりだすということが判明したので、中年期からの対策が重要だといろんなお医者さんや研究者が指摘しています。
認知症予防と言うとご高齢の方向けのイメージがあるでしょうが、実は予防は45歳から始めても決して早すぎない。50代60代はすぐに始めるべきだと考えています。
中年期の生活習慣病である糖尿病や高血圧になると認知症の発症リスクが上がるという研究結果もありますから。
村山:まさに今から始めなきゃ(笑)。でも、脳のジムなのに、筋トレもやっておられますね。
高山氏:筋トレや有酸素運動といったフィジカルなエクササイズも実は脳トレなんですよ!
筋トレをやることでBDNF(脳由来神経栄養因子:Brain-derived neurotrophic factor)と言われるニューロンの成長を助ける物質が増加したり、“脳の働きは脚力と相関する”という研究結果も発表されています。
有酸素運動のエビデンスはこの領域では数も多く、「中之条研究」で知られる東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チームが、1日に8000歩20分の早歩き、これをしっかりやっていくことで認知症を含めていろんな病気を予防できるという研究結果を発表しています。
また、バイクを漕ぎながらゲームをするといった「デュアルタスク」のトレーニングが認知機能を強化するために非常に効果的です。
村山:なるほど。睡眠は質と量のコントロールですか?
高山氏:はい。良質な睡眠をとるためのノウハウの提供なども行っています。
脳から老廃物を運び出す「グリンパティック系」と呼ばれる導管システムが、睡眠中にもっとも活発に働くのですが、これがアルツハイマーの原因物質であるアミロイドβも排出してくれるので、睡眠のコントロールが認知症予防につながるのです。
睡眠の研修をやる企業も最近増えてきていますし、“睡眠不足が忙しそうでカッコイイ”といった時代はもう終わりです。
村山:あとはストレスケアですよね。
高山氏:ストレスが溜まると、副腎皮質から、コルチゾールというストレスホルモンが分泌されて、これが過剰になると脳の海馬の神経細胞にダメージを与えます。
去年NHKが放送した「キラーストレス」という番組で有名になりましたが、やはり心身の健康のためにはストレスをコントロールしなくてはいけませんから、「マインドフルネス瞑想」を取り入れています。
先ほども出てきましたが、ミューズと言うデバイスを使って、瞑想時の脳波の状態を可視化し、その習熟度を確認しながら進めるトレーニングですね。
これらを全部パッケージにして、マンツーマンで提供するのが『ブレインフィットネス』です。
AIがある程度進化しても、高度な判断をして最終的にリスクをとったり、何らかの創造をしていく仕事はまだ当面人に残っていくでしょう。
今、すでになんでもスマホで検索できる時代になりました。いずれイーロン・マスクが立ち上げた「Neuralink」が目指すように、思考が脳から脳にダイレクトに伝わる時代も来るかもしれません。
しかし、得た情報から高次の判断をしたり何かを創造するベースとなるのは過去のいろんな経験値や記憶の積み重ねであり、脳の基礎体力としての認知機能を維持することが重要であることはこれからも変わりないと考えています。
脳のフィットネスで「生涯現役」を目指す、未来型アンチエイジングを広めていくつもりです。
村山:僕も100歳での起業に向けて、いまから脳の健康を心がけていきたいと思います。
本日はありがとうございました!