企業が候補者を「選ぶ側」から「選ばれる側」になりつつあると言われている中で、優秀な候補者を集め、採用に結び付けるために注目されているのが「採用CX」や「カルチャー採用」です。
本記事では、2021年8月25日・26日に開催したHR NOTE CONFERENCE2021より、株式会社人材研究所の曽和さんをモデレーターに、株式会社メルカリの木下さん、note株式会社の中西さんに、各社でどのように採用CXやカルチャー採用に取り組んでいるのか伺ったセッションの内容をご紹介いたします。
- 採用CXを取り入れたいけど何から始めていいか分からない
- 自社にもっとカルチャーを浸透させたい
- 実例をもとに、自社の採用活動を見直したい
といった経営者や人事担当者、マネージャー層の皆様は、ぜひ参考にしていただければと思います。
登壇者紹介
木下 達夫|株式会社メルカリ 執行役員CHRO
P&Gジャパン人事部に入社し採用・HRBPを経験。2001年日本GEに入社、北米・タイ勤務後、プラスチックス事業部でブラックベルト・HRBP、2007年に金融部門の人事部長、アジア組織人材開発責任者を務めた。2011年に8ヶ月間のサバティカル休職取得。2012年よりGEジャパン人事部長。2015年にマレーシアに赴任し、アジア太平洋地域の組織人材開発、事業部人事責任者を務めた。2018年12月にメルカリに入社、執行役員CHROに就任
中西 麻子|note株式会社 Organization Success 人事ユニット マネージャー
2012年、新卒としてヤフー株式会社に入社し、人事部門にてHRBPや人事企画業務に携わる。2019年5月、株式会社エブリーに入社し、マネージャーとして人事制度の企画・運用およびHRBP業務、採用業務に従事。2020年7月にnote株式会社にジョインし、人事ユニットのマネージャーとして、人事領域全般を担当。
モデレーター
曽和 利光|株式会社人材研究所 代表取締役社長
関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。
目次
こんにちは、本日モデレーターを務める、株式会社人材研究所の曽和と申します。
本日は、メルカリさんとnoteさんで採用に携わられているお二人に、「どのように候補者体験を最大化するか」「どうカルチャーを醸成しているか」についてお話ししていただきます。
それでは、木下さんから自己紹介をお願いします。
メルカリの木下です。
弊社では「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスをつくる」というミッションを掲げており、このミッションを非常に大切にしながら採用活動をおこなっています。
特に、‟Go Bold”、‟All for One”、‟Be a Pro”の3点にこだわった候補者体験を設計しています。
本日は、どうぞよろしくお願いいたします。
noteの中西です。
弊社は2011年に設立し、今年で10周年を迎えました。
「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」というミッションを掲げており、このゴールが社員を導く北極星となっています。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
ありがとうございます。今日は各社の採用設計について、様々な角度からお話を伺っていきたいと思います。
1. 各社の「求める人材」「採用手法」「採用フロー」の変化
それでは、早速始めていきましょう。
まず、組織が急成長するフェーズでの採用活動を経験してきているお二人だと思いますが、それぞれ「直面している課題」について教えていただけますでしょうか。また、その課題に対して、どのような採用手法を取っているのかも併せて教えてください。
中西さんからお願いします。
1-1. 7倍にも増えたポジションを採用するために|note株式会社の場合
私はnoteにコロナ禍に入社したため、はじめは周囲も候補者側もオンラインに慣れていなかったことで、少し混乱した状況はありましたね。
また、ここ2年くらいでサービスが急成長したというのもあり、当初は8ポジションしか無かった採用枠が、7倍の56ポジションに増えました。
「質」と「スピード」を担保して、かつ「候補者体験」を大切にしながら56ポジション分の採用を推進することは、非常に難しいと痛感しています。
7倍はすごいですね。
そのような中で「採用手法や採用フローが大きく変わった」というようなことはあったのでしょうか?
採用枠が増えた分、採用フローは複雑になりました。なので、候補者にとって何が本当に必要なのか改めて整理し、必要の無いものは捨てる判断をおこないました。
たとえば、採用フローの前半は自分があまり関わらなくても回るように、外部のRPOの会社への委託の比重を上げています。候補者との日程調整や簡単なやり取り、エージェントさんとの調整やスカウト、などですね。
反対に、採用フローの後半で、「候補者体験の質」を上げることに注力しています。
採用の軸として‟カルチャーマッチ”を重視しているので、「これだけは捨てられない」というポイントを見極めながら採用活動に組み込んでいる形です。
また、求める人材も少しずつ変わってきていまして、かつては「0→1」で事業を推進できる人を求めていましたが、現在はそこに加え、シニアプレイヤーや全体のマネジメントができる方を求めているポジションが増えています。
初期選考でのスクリーニングに力を割かずに、選考の後半における動機付けに全力を注げるようにしたんですね。
ちなみに、面接のスタイルや回数、担当者はどのようにしていますか?
基本的に、面接は3回実施しています。
候補者によってケースバイケースではありますが、一次面接は現場社員、二次面接もそれを深ぼる形で周辺部署のメンバーにお願いしています。
最終面接では、役員による面接をおこなっています。
中西さんの采配で、一人ひとりの採用をカスタマイズしているんですね。
もちろん現場と相談しながら進めていますが、誰を担当にしたら相互理解が深まるかという点は意識して采配をしています。
そのため、役職や社歴関係なく幅広い社員の方に面接を担当してもらっています。
また、採用の全体設計に関わっているコアメンバーは、私を含めたリクルーターが3名くらいで、そのアシスタント2~3名とともに運営しているような状況です。
ありがとうございます。
続いて、メルカリ木下さんの採用活動に関する課題と対策、ここ数年における採用手法の変遷などについてお伺いします。
1-2. グローバル化とスケールアップに対応するために|株式会社メルカリ
私が入社した3年前は、弊社のIPO直後のタイミングで、投資家の方々に対する採用方針の説明や、会社を卒業をされる方への対応などが増え、会社として大きく変化する時期でした。
IPOするまでは「国内・ネット業界」というターゲット層をメインに採用活動をおこなっていましたが、IPO後は「海外採用」に力を入れ始め、その年だけで海外向けの新卒採用で50人ほども採用しています。
社内に日本語ができない方が入ってきたことは、自社のカルチャーにも大きな影響を与えました。
また、メルペイを始めたことで、今までとは異なる視点を持った方も必要となり、ネット業界に限らずメガバンクから転職してくる方なども出てきました。
私はよく「村」から「町」へ変化したといった表現でお伝えしているのですが、規模が大きくなった「町」では仕組みづくりが必要になるため、GAFAをはじめとする、ある程度スケール化した会社を経験した方にジョインしてもらい、一緒に「町づくり」をするようになりました。
人材の多様化を進めながらスケールアップをしたんですね。採用手法に変化はありましたか?
ターゲットとなる候補者のプロファイルが多様化したことで、リクルーターも力技ではなくCXデザインを反映できるプロセスを踏めるような取り組みをおこないました。
これまでは完全に自前で採用を進めていましたが、noteさんと同様にRPOを活用することで、多様化する採用ニーズに対応できるようにしました。
そして、その際にドライバーとなったのは「キャンディデートサーベイ」です。
もともと多くいたネット業界からの候補者には、すでに最適化されたプロセスがありました。しかし、海外の方の採用はオンラインで完結する場合が多く、カルチャーマッチしているかについてどのように見抜けば良いか手探りな状態でした。
しかし、このサーベイによって色々なことが分かり、たとえば「通訳を介すことなく英語話者を面接官にすることで、満足度が上がる」ことを知って、通訳を介すスタイルを廃止したりしました。
キャンディデートサーベイでは、具体的にどのような項目を聞いていたのでしょうか?
面接での体験、リクルーターの評価、会社のカルチャーが分かったか、などを、採用か不採用か問わずに伺っていました。
今回ご縁がなかった候補者の方にも、回答していただける場合が多かったです。
創業時から「社員全員がリクルーター」という意識は変わらず持っていて、リファラル採用を評価しており、規模が拡大しても4割の社員がリファラルで入社していることも影響しているかもしれません。
なるほど。リファラルで入社される方が非常に多いんですね。
リファラル採用をしたくてもできない会社さんも多いと思いますが、社内でリファラルからの採用を増やす際に気をつけていることはありますか?
人事や経営陣から呼びかけるだけではなく、各組織やチームのリーダーに先陣を切ってやってもらっていることですね。
そこで貢献してくださる方をレコグナイズ(承認)することも心掛けており、もちろん人事評価にも影響させています。
ありがとうございます。3年間でかなり多くのことに取り組まれたことが分かりました。
どちらもRPOを導入することで、内製のパワーをコアな部分にだけ当てているところは共通していましたね。
2. 自社に根付くカルチャーの「作り方」と「見つけ方」
続いてのテーマです。
ここまで成長フェーズに併せて採用プロセスの変化があったことをご紹介いただきましたが、ここで採用CXの軸となる「自社のカルチャー」について詳しく教えていただきたいです。
改めて、自社にカルチャーがどれくらい根付いているとお考えなのか、そしてそれが具体的な行動にどう結びついているのかお伺いします。
それでは、木下さんからお願いします。
働いているメンバー同士の日常会話の中で「それってもっとGo Boldにできるよね」「その動きってAll for Oneだったよね」と使っている場面はよく見かけますね。
社員の普段の会話の中で、会社のバリューが出てくるのはすごいですね。
どのようにバリューを浸透させているのでしょうか?
人事評価のプロセスの中に、既にバリューが組み込まれていることが大きいと思います。
たとえば、採用の際は面接官が記入するフォームに「この方はGo Boldの点においてどうでしたか?」といったように書いてあるので、自然とバリューに基づいた視点で候補者を見るようになります。
入社後の評価も、「バリュー:パフォーマンス=50:50」の割合で評価しています。中長期的には、バリューを体現する人がこの組織の未来を創ると考えているからです。
また、ピアバリューにも取り組んでいて、マネージャーだけではなく仲間同士でもバリューに基づいた評価をし合うようにしています。
さらにメルチップというピアボーナスの制度や、表彰制度の1つに「Go Bold賞」があるなど、日々の行動パターンの中にバリューが自然に組み込まれています。
メルカリさんでは、レコグナイズ(承認)の段階を一番意識していて、賞賛が報酬になっているんですね。
ただ、このようにバリューが根付いてきてはいますが、組織の規模が大きくなって新たに2つの課題が生まれたと感じています。
1つが、色々なカルチャーの方がいるため「ハイコンテクストからローコンテクストへ」を意識しなければならないことです。
たとえば、弊社では性善説を大事にしていますが、それを外国籍の方に説明する際はそのまま英語にするのではなく、”trust and openess”に言い換えるなど、一歩踏み込んだ説明をするように心がけています。
もう一つが、Go Boldの定義が規模の拡大によって変化することです。
メルカリのユーザー数が増えていくごとに、Boldの規模も大きくなっていきますが、そのイメージが社員それぞれで異なってしまうことがあるので、どのように伝えていくべきかは課題として残っています。
本質は変わらないけれど、そのレベル感や求められている難易度をどう伝えていくかが難しいんですね。
それでは中西さん、noteでのバリューの根付き度合いやバリュー浸透のための施策について教えてください。
noteでも、社員一人ひとりがミッションに向かってバリューを体現しようとしています。また、職種問わず、ミッションやバリューに共感して入社を希望される方も多いです。
たとえば、「クリエイター視点で考えよう」というバリューがありますが、当社では社員一人ひとりがnoteを自分で書く文化が根付いています。
また、noteらしいなと思うのが「すばやく試す」ところです。
たとえば、なにか提案を持っていく時に資料を作り込みすぎると、「企画書は箇条書きで持って来い」と怒られます(笑)。まずはラフ案を出して、PDCAを素早く回そうという文化なんですね。
他にも、メルカリさんと同様に、noteでもパフォーマンスとバリュー半々で評価していますし、会社が大きくなっても、代表の口から社員全体に向けてバリューに絡めた話を週に1度してもらうようにしています。
社員みんながnoteの伝道師になっていくために「代表自らのことば」はとても大切だと考えています。
ちなみに、メルカリさんと比べて、リファラル採用率は20%に届いていないくらいなので、これからどんどん強化していきたいと思っています。
先ほど、メルカリさんは面接官の評価シートにバリューを組み込んでいるといったお話がありました。
noteさんでは採用基準とバリューをどう結びつけていますか?
「カルチャーマッチを主軸にしよう」というメッセージを打ち出しているので、どんなに能力やスキルがあっても、カルチャーへの共感がない場合はお見送りにしようと決めています。
たとえば、面接官研修の中で使う質問集がありますが、その中身は当社の6つのバリューに沿った質問をもとに設計しています。
この面接官研修は、社歴関係なく受けてもらうことで、社員全員がnoteのカルチャーを語れるようにしています。
3. 候補者・社員にカルチャーを浸透させるために工夫していること
続いてのテーマです。
候補者のカルチャーフィットを採用プロセス内で確認するために何をしているか、オンライン対応含め教えてください。
中西さんからお願いします。
最も工夫しているのは、「候補者と会わない時間をどう活用するか」です。
たとえば、各選考ステップの間に、候補者に読んでおいてほしい記事を職種ごとにカスタマイズして送っています。
一次面接の前には会社の概要が分かるような記事を送り、二次面接の前には仕事内容に踏み込んだ記事、最終面接の前には経営視点を組み込んだ記事をお送りするようにしています。
このように会わない期間に記事を読んでもらうことで、会社に対する理解を深め、面接で深い話をできるようにしています。
段階に応じて、会社に対する理解がどんどん深まっていくように設計しているんですね。
そうですね。
先ほど社員個人もnoteで発信をしていると申し上げましたが、候補者の方もそれを読めば会社の雰囲気やどんな人がいるかなどが分かり、極論「カジュアル面談はいらなかった」という意見を候補者の方からいただくこともありました。
結果的に採用のスピードアップに繋がっていると思います。
木下さんはいかがでしょう?
2年前から「カルチャードック」を始めています。
これは、会社のカルチャーを文章化し、海外の方にも伝わるように可視化したものです。
採用・評価やダイバーシティー・インクルージョン、退職といったところまで全て文章化し、毎年アップデートしています。
どれくらい分量があるのですか?
8ページくらいです。
暗黙知ではなく形式知にすることで、一人ひとりがブレることなく「メルカリはこういう会社だから」と物事を判断できるようにしています。
我々のカルチャーに共感し、それを強化してくれる方に入社していただきたいので、まずカルチャードックを見ていただくことはマストです。
今のメルカリは、よく「大きくなったからもうチャレンジすることはないよね」「キラキラで理想的」と言われがちですが、まだまだ課題はたくさんあると思っています。
メルカリで働いている人たちは、自分たちがここで止まるとは思っていませんし、攻めのモードで働いています。もちろん、これから働く方にもチャレンジする姿勢を求めています。
そのためのメッセージ発信を、オウンドメディアをはじめとしたあらゆる場面で実施しています。
これからはオンラインも採用手法の主流の1つになる中で、今まで肌で感じていたことをとにかく言語化して視覚化する重要性を実感しました。
4. 質疑応答
それでは質疑応答に移りましょう。
Q1. サーベイの回答率を上げるためには?
まずは木下さんに質問です。
求職者へのサーベイ回答率が高いとのことでしたが、回答率を上げるために工夫されていることはありますか?
メルカリを受ける方は、合否にかかわらずメルカリのファンになってほしいというフィロソフィーをもとに面接を実施しています。
そのため、ご縁がなかった場合でもサービスに愛着を持っていただき、それが回答につながっているんだと思います。
Q2. 面接官にどのようなトレーニングをしているか?
続いて中西さんに質問です。
noteでは56ものポジションを採用しているとのことでしたが、面接官にはどのようなトレーニングをしているのでしょうか?
いつ誰が面接に出ることになっても良いように、入社後は随時面接官トレーニングを受けてもらっています。
一人ひとりがnoteの代表なんだというマインドセットをもってもらうように取り組んでいます。
とはいえ経験の差はあるはずなので、面接のイロハや質問集など構造的なものはご用意しています。
また、経験の浅い方には経験が豊富な方とセットにして面接に臨んでもらうようにしています。
Q3.人が足りない場合もカルチャーを優先するか?
カルチャーマッチを大切にすると、採用基準は上がると思います。
そのため、なかなか人数が採れないという問題も想定できますが、もし現場に人が足りないとなった場合はどのようにバランスを取っているのでしょうか?
迷ったら採用しません。
面接官が3人いた場合、一人でも渋ったらどんなに人が足りなくても見送るようにしています。
逆に、カルチャーフィットさえしていれば、多少スキルが足りなくても後から補うことができると考えています。
これができるのは、インナーブランディングの浸透の賜物ですね。
中西さんはいかがですか?
カルチャーマッチよりも目の前のリソースを優先することで不幸になるのは、結局現場の社員です。
このことを、経営陣だけではなく各リーダーにも意識してもらうようにしています。
あとは、バリューに沿って質問を設計しているので、カルチャーありきの採用を続けることができると思います。
両社とも、たとえ人が足りないという状況下でも、カルチャーマッチを最優先するという姿勢が共通していましたね。
お二人とも、本日は貴重なお話をありがとうございました。