こんにちは!HR NOTE編集部です。
もうすぐ4月。新しい年度となります。4月以降のタイミングで、人事評価のフィードバックを行う企業も多いかと思います。
しかしこの人事評価、評価シートへの記載が複雑で面倒だったり、フィードバックに時間がかかったり、フィードバックがあいまいだったりと、既存の制度に満足できているでしょうか。
自社に合った最適な人事評価制度の構築は人事の課題の一つです。そこで今回は人事評価制度に関して、Adobeの事例を紹介します。Adobeは2012年に従来の制度を廃止し、新しい制度を生み出しました。
スタックランキングシステムがもたらす弊害
Adobeにとって人事評価はマネージャーと従業員が最も恐れているプロセスの一つでした。年間一度または二度実施されますが、従業員への有用なフィードバックを提供するという目標を果たしておらず、従業員の士気も上がらず、きわめて非効率的でした。
Adobeはデジタルマーケティングとデジタルメディアソリューションの世界的リーダーですが、従業員へのフィードバックに関しては、いまだに一昔前のやり方に依存しており、Adobeの人事担当上級副社長Donna Morris氏は、自社の人事評価制度に危機感を持っていました。
そして、自社で調査した結果、Adobeは人事評価のフィードバックに年間で2,000人のマネージャーによる80,000時間が必要となることが明らかになりました。この工数は、40人の従業員の年間の全就労時間に相当します。
さらに、毎年Adobeが実施している競争的なランキングシステムに対し不満を抱いている従業員が数多く退職していきました。
実際に従業員の声に耳を傾けると、「自分たちは会社のために貢献しているにもかかわらず、よくやってくれたという労いの言葉もなく、適切なフィードバックがされていないと感じており、失望している」という多くの意見があることがわかりました。
Morris氏は次のように言っています。
私たちはこの人事評価プロセスを見直すつもりです。このままでは、個人へ評価のフィードバックを与えることができても、多くの場合、当社の中核となる従業員の自発的な退職が増えていくでしょう。
今までのAdobeの人事評価は、スタックランキングシステムと呼ばれる、マネージャーが従業員をランク付けし、最低ランクの従業員を解雇するという仕組みでした。現在は廃止していますが、過去にはマイクロソフトやExpediaも取り入れていました。
スタックランキングシステムは、従業員を個々人の成績に従ってランク付けを行い、上位20%、中間70%、下位10%と振り分けをします。
このモデルでは上位20%が多大なボーナスを受け取る一方で、下位10%は70%の中間層がより良い成績を上げるように動機づけすることを狙い、解雇されてしまいます。
マネージャーもチーム内で毎年解雇するべき下位10%を決定しなければならず、多大なストレスがかかっていました。
Morris氏は以下のように述べます。
しかし、下位10%を辞めさせることなく、すべての従業員が良い成績である場合、あるいはすべての従業員が改善のきっかけだけあれば成果が出せる場合にはどうでしょうか?
GEのCEOであったJack Welch氏によって広まったスタックランキングシステムは、長年の間に幅広い批判を受けるようになりました。
スタンフォード大学ビジネス経営学部教授のBob Sutton氏は、「スタックランキングは非倫理的な競争を煽り、士気を台無しにする環境を作り出す」と明言しています。
スタックランキングが職場へもたらしたものは、それぞれの従業員に隣に座る人よりも良い成績を上げるように要求することでした。
その結果、従業員がアイデアを共有し協力することを阻み、不健全な競争が生まれました。
これらの課題に悩まされ、Morris氏とそのチームは完全にスタックランキングシステムを廃止し、従業員のやる気を下げるのではなく、従業員に役立つソリューションに置き換えることを決定しました。
Check-In制度への移行
数か月間の調査と従業員にフィードバックを求めた後に、Morris氏と彼女のチームは「Check-In制度」というソリューションを生み出しました。
Check-In制度は、継続的にリアルタイムで行う形式にとらわれないフィードバックの仕組みです。複雑な評価用紙やアンケートを廃止し、マネージャーに自身のチームと実際にコミュニケーションをとる時間を多く与えることを求めます。
マネージャーは、従業員に何を期待しているかを明確に伝え、フィードバックを与え、また受け取り、従業員に職業上の発展の機会を提供することをキーファクターとします。
また、Check-In制度の形式と頻度は、完全にマネージャーに任されます。
Check-In制度での会話は3ヶ月に1度が必須条件ですが、あるマネージャーはその期間よりも多く実施することを好み、あるマネージャーは定期的な1対1の会話の実践へ発展させることを選択しました。
マネージャーはまたこの新しいシステムでは、フィードバックに対してオープンであることが求められました。
そこでAdobeは、建設的なフィードバックを提供する方法、そしてチームリーダーとして自身のフィードバックを受ける方法をマネージャーに訓練する、全組織的なワークショップを実施しました。
さらに、スタックランキングの廃止は従業員の目標達成度合いに対して適切な報酬が与えられることを意味しました。
従業員の成績に応じてどのくらいのインセンティブが支払われるのか、マネージャーはある程度の予算を与えられ、その分配に関して決定する裁量を与えられました。
主体性を持つ従業員が増え、自主退職が30%減少
Morris氏はCheck-In制度は、人事評価の次のタイミングがやってくるのを待つのではなく、マネージャーが従業員と骨の折れる会話をすぐに持つことを求めていると説明しています。
その結果、自主退職の割合は30%減少し、故意ではないやむを得ない退職が50%増加したとAdobeは報告しています。
良い成績を上げている従業員は「評価されていると感じる」という報告をし、改善の余地がある従業員はCheck-In制度によりサポートされ、励まされています。マネージャーはチームメンバーの昇給について自身で決定することができ、チームを最も効果的に指導する方法に関して訓練を受けています。
Check-In制度は、従業員とより頻繁に交流することにより、マネージャーがコミュニケーションとリーダシップスキルを磨くことを可能とし、そのスキルが弱いマネージャーは従業員から何を求められているかを聞かざるを得なくしています。
78%の従業員は、マネージャーからのフィードバックに対して常にオープンであると明言しました。
また、Check-In制度は従業員エンゲージメントを高め、すべての従業員がAdobeの企業成長における利害関係者であると感じ、自社に対して誇りを持って働くようになりました。
最後に
いかがでしたでしょうか。
人事評価制度の構築、運用は多くの時間と労力を必要とするもので、最適解が見つけにくいかと思います。
しかし近年では、HRTech市場の盛り上がりにより、人事評価をサポートするクラウドサービスも増えてきています。
日本国内でも、あらゆる人事評価制度の構築・運用、人事評価データの見える化などがパソコン上で簡単に管理できるシステムサービスが多くあります。
それらのサービスは人事考課の工数を大幅に削減し、マネジメントの効率化の実現の大きく役立ちます。
今回のAdobeの事例のような、従業員エンゲージメントが高まる人事評価制度の構築に向けて、人事評価システムサービスもますます注目されていくでしょう。