経団連による「現行の就活ルール廃止」を機に、日本の就活スタイルは転換期を迎えようとしています。
そんな日本の就活と比較して、世界の就活事情はどのようになっているのでしょうか。今回は、2019年6月2日(日)にテレビ東京で放送された『世界就活』について記事にまとめました。
番組内では、武井壮氏、角谷暁子アナウンサー、そしてパーソルホールディングス株式会社の佐藤裕氏がパーソナリティーを務められました。
変わりゆく今後の日本の就活スタイル、佐藤氏自らが取材に臨んだ三か国の就活スタイルとはどのようなものなのでしょうか。普段あまり目にすることのなかった世界の就活についてご紹介します。
佐藤裕氏 | パーソルホールディングス株式会社 はたらクリエイティブディレクター
法政大学文学部英文学科卒業後、外資系企業の営業コンサルタントに従事した後、株式会社インテリジェンス(現・パーソルホールディングス株式会社)に入社。現在は、キャリア教育支援プロジェクト「CAMP」のキャプテンを務める。年間200本以上の講演・講義を国内外で実施している。パーソルホールディングス株式会社 グループ新卒採用統括責任者、株式会社ベネッセi-キャリア特任研究員、株式会社パーソル総合研究所客員研究員、関西学院大学フェロー、デジタルハリウッド大学非常勤講師も務める。
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。
1 | 仕事選びのプロ、佐藤裕氏
「熱心な就活生であれば佐藤裕氏のことを知らない人はいない」というぐらい学生の間でも有名な佐藤裕氏。今まで関わった学生は15万人に上るといいます。
パーソルホールディングス株式会社でグループ新卒採用統括責任者を務められていると同時に、「すべての人が楽しく働けるように」という思いで社外でも精力的に活動されています。この項目では、佐藤裕氏の活動についてご紹介します。
1-1 | はたらクリエイティブディレクターとして活躍
「あなたは仕事が楽しいですか?」という質問に対して、「仕事が楽しい」と回答した日本人の割合は全体のわずか6%。これは調査をした世界139か国中132位と最低ラインに位置しています。
1日の大半を仕事が占めていますが、その時間を楽しめていない人が94%もいる、という現在の日本。
この現状を改善するため、佐藤氏は「はたらクリエイティブディレクター」としてすべての学生に向けて、キャリア教育の大切さ、楽しく働くことなどを各地で講演されています。
1-2 | “CAMP”のキャプテンとして活動
CAMP(Career Activate Management Program)とは、若年層向けのキャリア教育支援で佐藤氏自らが運営されている活動です。
日本の就活指導の多くが、企業から内定を獲得することをゴールにしていることや、新入社員のおよそ30%が3年以内に離職していることが続いている現状に疑問を感じた佐藤氏。
就活を考える大学生、就活に差し掛かる前の世代に向けて、自分のキャリア形成や企業・社会への理解を深めることができるようにという思いから、佐藤氏自ら自らを啓発活動をおこなわれています。
就活イベントといえば、大規模な会場でおこなわれる合同説明会のイメージが強いですが、CAMPは「はたらくを楽しむ」未来について考えるきっかけを創出するフェス型のイベントとして開催しています。
2 | 大きく変わろうとしている日本の就活事情
毎年春先になると慣れないリクルートスーツ姿の学生をオフィス街で見かけることがあると思います。
このように、企業が新卒者を対象に毎年同じ時期に採用活動をし、卒業後すぐに勤務させるという新卒一括採用方式が、日本では長年採用されてきています。
しかし。経団連による就活ルールが、2021年卒以降撤廃される発表があり日本の就職事情は大きな変革期を迎えることになります。新卒一括採用が撤廃されることによる企業への影響、また人事はどのように対応すべきなのかをご紹介します。
2-1 | 現在の就職活動の現状
現在の日本の就職活動では、大学3年生の3月から企業説明会、大学4年生の6月に採用面接を解禁する『就活ルール』がここ数年の流れになっています。
この就活ルールは、経団連が毎年発表しているものですが、経団連所属企業の6割が規定の選考期間よりも前倒しで採用活動をおこなっており、ルールが形骸化しています。
また、就活ルールは経団連に所属している日系企業にしか適用されないため、経団連に非加盟の企業(外資・ベンチャー系企業)が優秀な学生を確保するためにさらにスケジュールを前倒ししている傾向があります。
採用活動のほか、学年に関係なく参加できるインターンシップが就活ルールの形骸化にさらに拍車をかけていると言われています。
企業側は「インターンシップは選考とは無関係」と発表していますが、インターンに優秀な学生が参加していたら当然目をつけ、場合によってはアプローチをします。こうした背景からインターンシップも選考の一環になっています。
2-2 | 就活ルールが撤廃されることで生じる企業への影響
経団連による現行の就活ルールが撤廃されることが発表されましたが、実際どのような流れになるのでしょうか。
現時点で決定されていることは、2021年卒の学生までは「大学3年生の3月に企業説明会を開催、6月以降に採用面接を解禁する」という現行ルールが適用されます。そして、2022年卒以降の就職活動については検討中としています。
当面は現状維持となる就職活動の流れですが、現行ルールの廃止により通年採用を設ける企業が多くなると見られています。
通年採用が一般化することで、学生側は選択肢が広がるといったメリットが生まれます。これから就活の変革期を迎えようとしている中で、企業が気をつけることは何なのでしょうか。
2-3 | 通年採用一般化後に企業が気をつけたいこと
通年採用が一般化することで、海外のように低学年からの長期インターンシップが当たり前になるでしょう。
学生が既存従業員と肩を並べて仕事をしていると、その企業の良い面・悪い面のどちらも見えてくることは当然です。
そうなると、企業は学生に対して都合の悪い面を隠すことが難しくなります。つまり、学生側は「企業の成長性」「その企業で自分が活躍することができるか」ということを重要視する傾向が強まるでしょう。
通年採用が一般化すると、企業は今まで以上に採用戦略を強化する必要があります。
3|イタリアの就活事情
ここからは、佐藤氏が実際に訪れた三カ国について取り上げていきます。
イタリアといえば、観光地として有名です。世界遺産登録数は世界一(54個)、外国人観光客は年間約5800万人(日本は2800万人)、国際観光収入は年間約4兆5千億円(日本は3兆4千万円)と、観光業が国家を支えている状態です。
こう見ると、イタリアのGDP成長率は潤っているように思えますが、実際はイタリアの景気は低迷中です。
では、景気が不安定なイタリアの就活事情はどうなっているのでしょうか。
3-1|イタリアのラフな就活スタイル
ナポリで開催されている企業合同説明会を覗くと、リクルートスーツを着ている学生はなんと1人もいません。
日本の就活といえば、説明会に参加する学生のほとんどはリクルートスーツを着用します。日本とイタリアの就活スタイルは、全く異なるのです。
合同説明会には50社以上が出展しており、それぞれの企業がブースを出しています各ブースに長蛇の列ができている様子も、日本の合同説明会では目にしない光景です。
各ブースに列ができるのは、出展企業の社員と学生が1対1で話合っているためです。このとき、学生は自分の経歴を説明し、履歴書を渡すそうです。
そして、企業が学生に興味を持った場合のみ、後日連絡をするそうです。つまり、企業の合同説明会で同時に「プチ面接」をおこなっているのです。
日本では、企業が募集する職種を公表し、興味を持った学生が応募をするという流れが一般的です。
しかしイタリアでは、企業はどの職種を募集しているかを学生に公表せず、企業が学生に興味を持った場合に連絡するという日本とは逆の流れが主流なのです。
3-2|イタリアの就活必勝キーワードは「コネ」
現地の学生はイタリアの就職で必須となる要素は「コネ」だそうです。
【現地の学生の声】
「イタリアの就活は本当に最悪!」
「コネがすべてよ」
「コネ無しで新卒で就職するのはほぼ0%だよ」
「イタリアで新卒の学生が職を得るのはとても難しいんだ」
「例えば、血縁関係とか、コネがないと絶対無理!」
では、コネがない就活生はどのようにして内定を得るのでしょうか。
佐藤氏は、企業にコネを持たないグレゴーリオさんの「コネなし面接」の現場に潜入しました。グレゴーリオさんは、投資コンサルの仕事に就くことを夢見る大学生です。
【グレゴーリオさんの就活に対するスタンス】
- 面接対策はしない
- 自信満々
- 立場にこだわりはない
- 勤務時間にこだわりはない
いざ、希望するコンサルティング会社の面接に挑むと、社長から聞き慣れない言葉が返ってきました。
社用が提案した「研修契約」とは、若者の雇用促進のために政府が打ち出した、30歳未満を対象にした期限つきの採用制度です。
社会保障費などが控除されるため多くの企業が実施していますが、実態は安い賃金で学生を使い捨てにする企業も存在するようです。
結局グレゴーリオさんはその場で研修契約を結ぶことはせず、面接を終えました。
3-3|とことん若者に厳しいイタリアの就活
なんと、イタリアの24歳の失業率は32.7%!日本の4%という数字と比べると異常なほどに高いことがわかります。佐藤さんによると、この数字の理由は、そもそも採用枠がないためだそうです。
イタリアの学生は、20代で就職できずにアルバイトで頑張り、30代でようやく手に入れた仕事は手放さないのです。
そのため、イタリアには転職する文化がほとんどないそうです。日本のように、とりあえず就職して、「あれ、ちょっと違うな」と感じて転職するというケースがイタリアにはないのです。
また、イタリアの大学生の3割以上が、卒業後に就職できない事実もあります。イタリアの学生は、コネが無ければ大学を卒業しても就職できない現実があるのです。
一方で、すべてのコネが悪いとは言い切れません。
従業員全員が身内のレストラン店主は、「悪いコネも必要だけど良いコネもある」と言います。コネを使って働くことのメリットは、すでに信頼が出来上がっているからこその連携プレー・質の高い接客ができることだそうです。
4|フィンランドの就活事情
北欧の国フィンランドは、社会福祉制度が充実しており、国民の幸福度が世界一国として有名です。
【フィンランドの社会福祉制度】
- 小学校から大学院の授業料無料
- 18歳未満は医療費が無料
- 出産は検診も含めて無料
フィンランドの学生たちはどのような就活をおこなっているのでしょうか。
4-1|就職より起業を目指す学生が多い
佐藤氏がフィンランドの学生たちに話を聞くと、「起業したい」「企業に興味がある人が多い」との声が多く上がりました。
今、フィンランドの学生の間では「起業」がブームになっているのです。ちなみに、全世界で30億ダウンロードを突破した大ヒットゲーム「アングリーバード」の開発会社など、世界的に有名なベンチャー企業がフィンランドから生まれています。
そのおかげで、フィンランドでは中学生の47%、高校生の38%が起業したいと考えているそうです。
4-2|起業ブームの秘密は「ユニーク教育」
中高生を起業にかり立たせている理由は、フィンランド独自のユニークな教育にありました。
佐藤氏が訪れた小中学校は、まるで大学のように充実した施設。学校内の教室も、日本の環境とは全く異なり、オフィスのようにきれいな空間です。
授業の進め方も特殊で、生徒自身のペースで進めることができるカリキュラムになっています。生徒たちの自主性を伸ばし、モチベーションを上げるために自由な授業となっているのです。
こうした教育によって培われた自主性が、自分で事象を起こしたいという考え方に繋がるようです。
さらに、フィンランドのユニーク教育には「12歳の特別授業」もあります。
特別授業がおこなわれているのは「ウリトゥスキュラ」という施設。生徒がバーチャルな職業体験を通じて経済活動を学ぶことができるそうです。中には25の企業と公共施設を再現したブースが並び、ブースに12歳の生徒がやってきて、職業体験をおこないます。
この授業で、生徒たちは社会のお金の流れを知り、企業への関心が高まるというのです。
フィンランドの学生は、世界一幸せな国で、もっと幸せになるための起業を目指していることがわかりました。
4-3|フィンランドの素晴らしい教育
日本の就活は「どの業種にいきたいのか・どの職種に付きたいのか」が優先しされがちです。
しかしフィンランドには、経済の根幹である活動を通して、経済的な価値を生むことを教える教育の仕組みが整っています。
お金を稼ぐ根本的なところを教えるため、どの職種・業種でもお金を稼ぐという経済活動に興味が持てる教育ができているのです。
まず小学生で、自分の意欲を掻き立てられているため、中学2年生・3年生でインターンシップをしたがる生徒が多くいるそうです。
また、企業も中学生を受け入れる準備が整っていることは、世界的に見ても素晴らしいことです。
5|アメリカに飛び出した日本の学生
アメリカといえば世界トップの経済大国。GDPは世界の4分の1を占めています。アメリカのなかで、最先端の企業が集まるシリコンバレーで将来を夢見て企業した学生がいます。
5-1|日本を飛び出し起業した28歳の若者
起業の聖地シリコンバレーで2年前に起業を果たした浜田さんは、スマホで出退勤を管理できるビジネスアプリを開発した起業家です。
浜田さんはもともと、東京大学大学院を卒業後、日本の企業に就職しています。しかし、「起業したい」という強い気持ちから退職し、2016年に「Junify」を設立しました。
浜田さんは起業時、「日本の中だけでこじんまりとしたビジネスをやりたくない、最初からグローバルなマーケットに行きたいと考えた」と言います。そこで、スタートアップが集まるシリコンバレーを拠点に選んだそうです。
今の仕事について浜田さんは、「趣味が仕事。遊びに来ている感覚でオフィスに来ているので、楽しいです。」と述べています。
【浜田さんから日本の就活生にメッセージ】
「学生のうちは自分の好きなことに打ち込むのが良いと思う。できれば日本だけを見ずに広い視点で自分が貢献できることを考えると良い。」
日本を飛び出した浜田さんは、自分の未来をしっかり見据えていました。
6 | まとめ
各国の就活の様子はいかがでしたか?
同じリクルートスーツ、かっちりした髪型、採用面接では定型文を述べる学生が多く見られる日本の就活。
それに対して、ご紹介した国々の就活事情では学生が主体的となって就活に臨んでいることが多いという印象を受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
海外のやり方が大切なのではなく、視野を広げること、色んな価値観を持つことが大切です。
そして、佐藤氏は『就活をやめよう、急に夢を決めてやりなさいというのは難しい。未来を予測したり、近くのビジネスに触れてもらって、そこで見えた景色で色んなことにチャレンジしてほしい』と番組内でコメントしています。
日本の就活事情は大きな転換期にあります。こうした背景やどんどん多様化する働き方に企業は対応を講じる必要があります。
URL:https://news.paravi.jp/sekaishukatsu/
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。