2019年4月に施行される「働き方改革関連法」。多くの企業で時間外労働の是正やライフスタイルにあわせた多様な働き方の推進が進む中、指標のひとつとして注目されているのが「定着率」の改善です。
本記事では、「定着率の意味と算出方法」「定着率向上の必要性」「定着率向上の取り組み事例」についてご紹介します。
1|定着率が示すものとは?
若年者雇用において課題とされるのが、若者の早期退職。「新入社員の入社3年以内の定着率7割」などという話を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
「定着率」とは「企業に残っている人の割合」のことで、正社員の場合は入社後1年間、3年間などの一定期間を定めて算出されます。一定期間内に離職した割合を示す「離職率」を公表している企業も多いですが、簡単に言えば、「定着率が高い企業=離職率が低い企業」です。
定着率の算出方法は、以下の通りです。
定着率(%)=100ー(定着率を知りたい該当年度の離職率) |
たとえば入社3年後の離職率が30%の企業の場合、定着率は70%となります。定着率が高い企業は退職する人材が少なく、働きやすい環境があるといえます。
2|定着率が重要視される理由
ではなぜ、定着率の向上が必要なのでしょうか?
入社3年で退職した場合の損失は1人1,500万円
人材を採用し、定着・育成につなげるためには膨大なコストがかかります。特に、企業にとって重要な先行投資である新卒採用の場合、1人あたりの採用費用は約53万円。デスクやPCなどの備品や研修費用を加えると、1人100万円以上の採用コストが発生します。(※参考:2018年卒マイナビ企業新卒内定状況調査)
また、採用や教育を担当する社員の人件費や時間など、お金だけでは測れない面が多くあり、1人離職するごとにこれらが無駄になってしまいます。入社3年で退職した場合の損失は1人1,500万円ともいわれており、そう考えると定着率が高いほど、あらゆるコストを低減できるのです。
社員のノウハウが蓄積され、組織力が強化されていく
定着率が高ければ社員1人ひとりのノウハウや成功体験が蓄積され、サービスレベルの向上、ひいては業績向上にもつながっていきます。同時に、社員のモチベーションも上がり、社内に良いスパイラルが生まれます。
このように社員の離職を防ぎ、定着率を向上させることで、組織力の強化につながっていきます。企業を安定的に成長させるためには、「社員の定着」が必要不可欠なのです。
3|社内改革で、定着率向上を実現
次は実際に、定着率を向上させるための改革を「組織風土」と「人事制度」、それぞれの切り口から見ていきましょう。
事例:組織風土編
社員の離職理由で多くみられるのが「人間関係の悩み」です。上司と合わない、腹を割って話せる仲間がいないなど、人間関係のストレスは仕事のモチベーションを低下させる大きな要因のひとつです。
日頃から社内のコミュニケーションを活性化させることで、誰もが気軽に相談し合える環境を整えておくことが大切です。
●上司×部下の1on1(ワンオンワン)ミーティング ●経営方針をざっくばらんに話し合う経営陣との意見交換会 ●部署間交流を目的とした食事会 ●感謝の気持ちを伝え合うサンクスカードの導入 など |
事例:人事制度編
また、「人事制度の改革」も定着率向上につながる取り組みのひとつ。キャリアプランやビジョンを描くことができれば、その企業で働き続けるメリットがイメージしやすくなるからです。
●上司・同僚・部下など、複数名による360度評価 ●希望部署の異動にチャレンジできる、ジョブ・チェンジ制度 ●「働く場所の自由」を実現するテレワーク制度 ●男性の育児参加を支援するための育児休業取得の推進 など |
現在の組織風土や人事制度に対して、「どういったものが必要か」「その制度を活用して実現したいことは何か」などのアンケートを全社員にとるのもいいでしょう。働きやすい職場づくりに対して一人ひとりが当事者意識を持つことで、主体性が生まれ、モチベーションの向上にもつながっていくことが期待されます。
新制度の導入にあたっては、一方的にスタートさせるのではなく、社内向けの説明会を開き、導入の背景や期待される効果について説明することで、「社員の納得感」を得ることも大切です。
4|定着率向上をサポートする、新しい力
こういった取り組みは、全社をあげての一大プロジェクトです。人材層の厚い企業であれば、カルチャー浸透や人事制度の抜本的改革のための専門部署を立ち上げることもあります。
しかし、実際は人事部が主導でおこなうケースも多く、業務量過多により人事担当者の時間外労働につながってしまっては本末転倒です。
そんなときは、プロジェクトの準備期間中だけでも、本業である採用関連業務を外部の専門会社にアウトソーシングするという考え方もあります。
会社説明会の集客や応募者管理を委託すれば、空いた時間で制度の見直しをしたり、社員との定期面談の機会を設けてフォローアップしたりなど、あらゆる施策にも余裕を持って取り組むことが可能になります。
定着率向上のために何ができるかを考えたとき、その取り組みを実行するための環境整備にも目を向けるといいでしょう。そこから、働き方改革につながるヒントが得られるかもしれません。