今回は、「採用力の底上げ」をテーマにしたイベントをご紹介。
本イベントでは、
・株式会社ネオキャリア 中途採用部 部長 宇田川 奈津紀氏
・株式会社HARES 代表 兼 株式会社ランサーズ 西村 創一朗氏
・PESONAL VENTURE CAPITAL.LLC 代表 チカイケ 秀夫氏
といったHR領域で活躍されている3名をゲストに迎え、それぞれの視点から企業の採用力について語られています。
本記事では、それぞれ3名が考える「企業の採用力を底上げするためのポイント」について記事にまとめました。
1、宇田川流、採用戦術・戦闘体制のつくり方
【登壇者】宇田川 奈津紀 | 株式会社ネオキャリア 経営企画本部 中途採用部 部長
人事界隈や人材業界界隈で、メスライオン の異名で知られるスカウト採用のプロフェッショナル。前職のIT企業で、入社後4ヶ月でダイレクトリクルーティング経由で20名を採用。狙った候補者に対し、積極的に会いにいき、口説き、確実に入社に導くことから、「肉食系人事」と言われ、そこからいつの間にか、「一撃必殺のメスライオン」と呼ばれるようになる。現在は、ネオキャリアにてスカウトを主軸に代表直属特命採用責任者兼中途採用部部長として勤務。 また、その他にも大手人材会社にて、社内向け研修や年間1,500社が受講した人事向け採用セミナーの講師を務める。
私は、去年の4月からネオキャリアで採用責任者をしています。
4月の入社時は、「中途採用部には時短の女性が一人だけ」という状況だったのですが、そこから今は9人の組織となり、従業員3,000人を超える規模の会社の中途採用を預かっています。
そのような環境において、私が日々採用をおこなう中で重要にしていることは、「採用の戦闘体制をつくること」です。
本日はそのことについてお伝えしたいと思います。
「戦術を疑え」その求人は本当にそのやり方で正しいのか?
最初にお伝えしたいのが、「戦術を疑ってください」ということです。
「本当にこの求人はこの採用手法で効果が現れるのか」「他にもっと採用に効果的な手法があるのはないのか」と、現状の採用手法を疑い、戦術を変えていくことが採用において非常に重要だと感じています。
採用するうえで、紹介会社・求人媒体・フェア・ダイレクトリクルーティング・リファラル・アルムナイなどさまざまな採用手法がありますよね。
私は、これらを総合的かつ効果的に運用することが必要だと思っています。
例えば、すべての求人を紹介会社にだけお願いしていたら、おそらくものすごく採用費がかかってしまったり、待ちのスタンスですから求人内容によっては採用が遅れてしまう可能性もあります。
そのため、ひとつの求人に対して、必ず複数の戦術を組みます。つまり、ひとつの求人に対して複数の採用手法を組み合わせて同時並行で採用をディレクションしていきます。
私のチームでは一人ひとりのスキルや特性にあった採用手法を任せています。紹介・媒体・フェア・ダイレクトリクルーティング・リファラル・アルムナイとそれぞれ自分が得意とする採用手法で持ち場を守ってもらっています。
そうすることで、突発的な求人が発生した際にチーム全体ですばやく戦術を組んで戦略に落とし込むことができます。
属人的能力を持つ採用メンバーの集結が会社を強くする
私は、採用という仕事はさまざまな能力が求められるものだと考えています。
たとえば、
- 内定から承諾までのパーセンテージを引き上げる=クロージングの能力
- 採用成功に導くための効果測定=マーケティングの能力
- 社内外の協力体制を組む=ディレクション能力
- 求人広告やスカウト作成=ライティング能力
- 採用広報やイベント企画=企画力
- 採用PLの作成や現場の売り上げ状況を把握しながら採用を進める=経営分析能力
など、さまざまな能力を持っている人の集団が、会社の採用を強くすると信じています。
そのため、これらの能力を持っているメンバーを集めたり、育成したりしながら強い組織をつくっています。画一的な組織よりも多様性のある組織のほうが、新しいチャレンジや変化にも柔軟に対応できると思います。
トレンドワードに踊らされるな!
ダイレクトリクルーティングやリファラルは、2015年あたりから頻繁に使われるようになったワードです。去年の末あたりからは、アルムナイがトレンドワードですね。
私がお伝えしたいことは、「トレンドワードに踊らされないでください」ということです。大事なことは、これらの採用手法を自社用にカスタマイズしてPDCAを回して自社の採用の形に作り上げるということだと思っています。
トレンドワードに踊らされずに、入社という成果地点までにどのようなプロセスがあって、どこで歩留まりしているのかといったことをしっかりと理解することが重要だと思っています。
あと、私が大事にしている言葉が一つあります。「採用には愛が必要」ということです。
私は、スカウトメールとラブレターは一緒だと思っています。そのため、どんなときでもフルカスタマイズで求職者一人ひとりに対して「なぜ、あなたに会いたいのか」「なぜ、あなたの力が必要なのか」といった想いが伝わるようにスカウトを書いています。
これは、私のメンバーや人事の皆様に伝え続けていこうと思っていることです。求職者一人ひとりに対して愛を持って、丁寧に接することが採用成功につながると信じています。
2、”複業”という選択肢、新しい働き方が採用力になる
【登壇者】 西村 創一朗 | 株式会社HARES CEO、ランサーズ株式会社 複業社員
大学卒業後、2011年に新卒でリクルートキャリアに入社。MVP受賞歴多数。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアの実践者として活動を続けた後、第三子となる長女の誕生を機に「通勤をなくす」ことを決め、2017年1月に独立。独立後は「週休3日」で家族と過ごす時間を倍増させながら、複業研究家・働き方改革の専門家として個人・企業・政府向けにコンサルティングをおこなう。講演・セミナー実績多数。2017年9月より「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(経済産業省)の委員を務める。
今急激に複業解禁が進んでいる理由は、産業構造が変化したことで最適な働き方が変わってきているからだと考えています。
「会社に人生を預ける」というこれまでの依存型のキャリアではなく、自立型のキャリアとして、リモートワークやフレックスといったかたちで、”時間と場所を自分で自由に決める“、”働き方を自らデザインする“という時代に変化してきています。
たった3年で複業OKな会社数が2倍に!
今どれぐらい複業解禁が進んでいるのかというと、2014年までは複業OKな会社というのは、本当にごくわずかで全体の14.7%だったのですが、たった3年で複業OKな会社は約2倍に増えています。
それでもまだ全体の3割という見方もできますが、この状況がそう遠くない未来に逆転して、あらゆる業界で複業OKがメジャー・スタンダードになっていくと思います。
一方で、なかなか複業解禁に踏み切れないといった理由として挙げられるのは、以下の3つです。
- 労働時間が長くなりすぎてしまうのではないかという労働時間リスク
- 会社の情報漏洩につながってしまうのではないかいう情報漏えいリスク
- 複業を認めたら優秀な人が出て行ってしまうのではないかという人材流出リスク
しかし、これら3つのリスクは、複業をOKしていようがいなかろうが起こるものだと思っています。
複業はこれらのリスクよりもメリットのほうがずっと大きいと思っています。
複業解禁による3つのメリット
複業解禁には3つのメリットがあります。
まず、1点目が定着率のアップ、言い換えると離職率ダウンです。
新しい仕事にチャレンジしたいとなった場合、これまでだと転職や社内異動といった選択肢しかありませんでした。しかし、複業OKな会社であれば、今の会社を辞めずに新しい会社にチャレンジをすることが可能になります。
これにより「新しい仕事にチャレンジをしたいので転職を考えています」という人に対して、「まずは複業をやってみたら?」といった提案ができるようになります。
また、今の会社に不満があるわけではなく、ただ単に収入を上げたいという人も多いでしょう。このような人に対しても複業をおこなうことで、会社を辞めなくても年収を上げることが可能になります。
このように複業を解禁することで、結果的に定着率やモチベーションを高めることができるといったメリットがあります。
2点目は採用力のアップです。
「複業を解禁したことによって、応募率が5倍になった」「Wantedlyのタイトルに複業OKみたいな内容を盛り込んだだけで返信率が2倍になった」など、複業という言葉が採用において、大きなフックになってきたのがここ1・2年のトレンドだと感じています。
また、リファラル採用にも効果があるようです。というのも、リファラル採用は基本的に”その会社の社員が働きがいを持っていて、紹介したい会社かどうかというエンゲージメント”と、”その社員の方々がどれだけ社外につながりを持っているかというネットワーク”の掛け算で決まるものなので、複業との相性がいいようです。
3点目は組織強化です。
複業は言い換えればコストゼロの社員研修、セルフ研修ともいえます。これは、従業員が業務時間外に社外でそれぞれ自分がやりたいことを通じてスキルを高めてくれたり、ノウハウを獲得してくれたりとパワーアップしてくれるので人材育成のメリットを感じている企業も多いようです。
また、社外で得たノウハウやナレッジを組織に還元してくれるので、社内で新たなことをチャレンジできるようになります。
優秀な人材を外から内へ、内から外へ
今、スキルを持っている人ほど転職活動をしていたり、フリーランスとして働いていたりと、自分のスキルを活かすために複業OKな会社で働くというケースが非常に増えてきています。
そのため、スキルの高い人を採用するために複業OKにする企業も増えています。特にエンジニアやデザイナー、マーケターなど、専門性が問われたり、市場価値が高かったりと採用難易度が高い職種を採用したいという企業ほど複業解禁はマストだと考えています。
これらの人々を採用するためには、フルタイムではなく週末だけ複業で入ってもらって、関係性を築いていき最終的に正社員として採用していくといったことも可能になります。
また、「うちの会社は複業OKですよ」と発信していき、インバウンド・アウトバウンド双方の観点から社外人材の活用も含めて複業を捉えていくといいのではないかと思います。
このように、複業という新しい働き方を「ブームだな」と横目で見るだけではなく、これをどのように自社の採用に活かせるか、採用力アップにつなげられるかと考えていただければと思います。
3、コーポレートブランディングから採用力を高める
【登壇者】チカイケ 秀夫 | PERSONAL VENTURE CAPITAL .LLC 代表
「すべての人にスタートアップを」をミッションに、GMOグループ上場企業での企業理念策定/社内新党に参画。2008年よりGMOグループにてベンチャー企業の立ち上げと、全グループ5000人に関わるプロジェクトにリーダーとして、グループ内ブランディングを経験。熊谷代表直下のプロジェクトで学んだ「ブランディング」を通して、スタートアップ/ベンチャー企業に特化した支援事業を展開。
「人が辞める」「採用できない」とお悩みの採用担当者の声をよく耳にします。
その際に、「なんで人が辞めるんですか?」と聞くと、そもそも会社の問題であることが多いです。
なんで人が辞めるのか、なんで人が採用できないのかといったところをしっかり深掘ってほしいと思っています。そうすると、辞めた人が悪いのではなく、上司やマネジメント層、経営者に問題がある、会社としてイケていないから人が辞めていくということが多くあります。
ここを変えない限り、いくら採用を頑張っても意味はありません。人もお金もどんどん疲弊していくだけです。
伝えたいのは「インナーブランディング」の重要性
ほとんどの会社は、「こういう人がいないから、こういう人を採用しよう」といったように、短期的な目標設計をしてしまっているのではないのでしょうか?
会社がどこに向かっているのかは、CEOが明確にする必要があります。また、自分たちが大事にする一番の価値は、社員全員でブランドづくりやカルチャーづくりをしながら社員全員で考えることが大切だと思っています。
何を伝えたいかというと、インナーブランディングという真ん中のところが重要だということです。
結局、極端な言い方になりますが「ウソをついてる企業」が多いんですよね。例えば、自社がブラック企業なのに採用したいから「うちの会社すごいいいですよ」とウソをついてしまうんです。
それで実際入社してみるとギャップがあり、人が辞めていくんですよね。なので、絶対ウソはついてはいけないと思っています。
コーポレートアイデンティティをCEOが発信し続ける
企業のブランド戦略には、コーポレートアイデンティティとブランド、サービス、マインド、ユーザー体験、パブリックリレーションが必要だと思っています。
コーポレートアイデンティティについては、これはCEOにしか発信できないので、「なぜ会社を立ち上げたのか」といった原体験や「自分たちの会社があることで社会にとってどういうメリットがあるのか」といったことを社会に対して発信してもらいます。
採用に関しても、採用を強くしたいということをまずCEOが発信し、自ら採用にコミットすることが重要だと考えています。
「らしさ」については、CEOだけが決めることではないので基本的には社員全員に考えてもらいます。「それってその人らしいですか?」「うちの会社らしいですか?」「これから入ってくる人はうちの会社らしい人ですか?」「その行動、うちの会社らしくないですよ」といったように、社員全員が同じ判断基準ができる会社は強いですね。
“らしさ”を全員で徹底的に考える
コーポレートアイデンティティはビッグワードが多いので、例えば「笑顔」という言葉に対しても徹底的に、「どういう笑顔がいいのか」「どういった笑顔が自社らしいか」ということを徹底的に話してもらいます。
インナーブランディングは、全員で話し合うことによって初めて自分ごとと捉えて話ができるんですよね。社員全員が「会社のらしさ」や「ブランドらしさ」を自分ごととして自分で発信できるようになってほしいと考えています。
また、インナーブランディングに関しては深さが重要です。サービスのビジョンや社長の思想に共感してくれている人は、おそらく長く働いてくれることが多いのではないでしょうか。
このように「人を採用したい」「人が辞めない組織をつくりたい」と考えている企業は、採用手法や人が辞めない施策を打つことも重要ではありますが、インナーブランディングを社員全員で創り上げていくことが重要だと考えています。
『HR業界の著名3名が集結。企業の採用力を三者三様の視点から徹底討論!』
主催:株式会社FREE WEB HOPE