現在、少子高齢化により労働人口が減少しているなか、企業による「シニア採用」に注目が集まっています。
その背景として、労働人口不足があり、さまざまな雇用形態でシニア層を採用する企業が増えてきているのです。
シニア採用が積極的におこなわれている業種や、実際に採用している事例について関心がある人事担当者もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本記事では、シニア採用をするメリットや課題、シニア採用を実践している企業の具体例など、「シニア採用の実態」についてご紹介します。
※本記事では65歳以上の方を「シニア」と定義します。
【1】シニア採用とは
シニア採用とは、定年退職した65歳以上の人材の雇用を目指す採用手法です。
現在シニアといわれている方々は、団塊世代と呼ばれている高度経済成長期やバブルを経験した世代です。
国立社会保障・人口問題研究所によると、シニア人口(65歳以上)は3,619万人になるとされています。これは日本の総人口の約4分の1を占めています。
労働人口の減少から人材不足に悩む企業が多い中、人材確保の手段として65歳以上のシニアを雇用する「シニア採用」は、大きな注目を集めています。
1-1 シニア採用の実態
「シニア採用」に注目が集まっているなかで、積極的にシニア層を活用している業種をご紹介します。
下記の図は直近半年間以内に非正規雇用の採用業務に携わった20~69歳の男女1519人に聞いた調査です。
非正規雇用をおこなっている企業のうち、シニア層の採用をおこなっていると答えたのは63%でした。
そのうち上位3つの職種について詳しく説明します。
警備・交通誘導
他の業種と比較して高収入な仕事であることから、警備・交通誘導はシニア層からの応募を多く獲得できています。
また、未経験でも採用しやすいことも、警備会社がシニア採用を活用している理由です。
介護
介護業界は特に人手不足が深刻な業種の一つです。
「介護経験がある」「要介護者と年齢が近いためコミュニケーションが取りやすい」といった理由から、即戦力としてシニア層採用されています。
販売・接客(コンビニ・スーパー)
大手コンビニなどでシニアスタッフの採用が進んでいることもあり、シニア層の積極採用がおこなわれている業種です。
1-2 さまざまな雇用形態
企業は、正社員やアルバイト・パートなど、さまざまな雇用形態でシニア層を採用しています。
たとえば、SCSK株式会社は2018年7月に、シニア人材活用を促進することを目的とした新制度「シニア正社員制度」を導入しました。
これは60歳で定年を迎えた社員に対し、65歳を第2の定年とする正社員としての雇用制度を保証する制度です。
また、JR東海は定年退職後に再雇用を希望した社員に60歳から65歳まで、契約社員として働くことができる環境を整えています。
このように、「シニア採用」はさまざまな雇用形態で実施されています。
それぞれの雇用形態の違いについては下記の記事をご参照ください。
【2】シニア採用のメリット・課題
本章では、シニア採用のメリットと課題についてご紹介します。
2-1 シニア採用のメリット
①人手不足の解消・改善
冒頭で触れたように、日本全体として労働人口の減少が進むなか、シニア採用によって労働力の確保が期待できます。
下記の図はシニア層を採用する意向を持っている企業へ「採用したい理由は何ですか?」と質問した際の回答です。
図のように、シニア採用をしたい理由でもっとも多かった回答は、「人手不足の解消・改善にあるから(56.1%)」でした。
グラフから、シニア採用を労働力の確保と期待している企業が多いことがわかります。
②経験や技術を持った人材
シニア層は、豊富な経験や技術を持っていることから、即戦力として企業に貢献してくれる可能性が高いです。
その経験の豊富さや技術力の高さを活かして業務をこなしてくれることや、専門的な内容業務に対応してくれることも期待できます。
また、災害などのトラブルが起こった際でも、シニア層は豊富な人生経験から冷静に対処してくれるかもしれません。
③幅広い世代とのコミュニケーションが取れる
シニア層には、子育ての経験や長年の社会人の経験があるため、子供からビジネスマンまで、幅広い世代の方々との接し方が身についている人が多くいます。
そのため、従業員やお客様とのコミュニケーションが必須となる、サービス業界や接客業界におけるシニア採用は、多くのメリットが期待できるかもしれません。
④勤怠態度が真面目
ディップ総合研究所の調査によると、シニアを雇用して良かったと感じる点として、企業の約4割が「遅刻などがなく、真面目」「定着率が良い」と回答しました。
また、「定着率が良い」と回答した31.9%は「シニア従業員の定着による人件費の削減ができた」と回答しています。
2-2 シニア採用の課題
①体力面・健康面での懸念
現在シニア層を採用している企業に「シニアを採用して感じた課題として当てはまるもの」について調査しました。
結果、「体力・健康を維持できない」という回答がもっとも多いことがわかりました。
特に、「ホールキッチン・調理補助(飲食・フード)」と「警備・交通誘導」の2つの業種は上記の課題が顕著にあらわれるかもしれません。
立ち仕事のような体力的な負荷がかかる仕事においては、シニア層の体力面に課題を感じる企業は一定数存在するようです。
しかし、「課題に感じたことはない」と回答した企業も多く、全体回答のうち2番目に高い項目でした。
配属先を工夫することで、シニア層の体力面・健康面のリスクを減らすことができるかもしれません。
②配属を慎重に考える必要がある
シニア層に限らず、企業で活躍してもらうためには人材配置が重要です。
たとえば、若手の従業員が集まっている部署の中にシニア人材を配置しても、周囲と打ち解けることは難しいかもしれません。
現在の業務や組織体制を慎重に考えた上で、シニア層が実力を発揮できる配属をする必要があります。
【3】シニア層のタイプ
anレポートは、全国の60歳以上でアルバイト・パートに従事している844人にどのような価値観を持って働いているか調査しました。
まず、シニア層のアルバイトに対して「アルバイトをする一番の目的は何ですか?」という質問をしました。
調査の結果、もっとも多かった回答は、生活費やお小遣いといった「お金を稼ぐため(36%)」でした。
しかし、「健康維持するため(25%)」、「社会とのつながりを感じるため(24%)」、「仕事のやりがいを感じる(12%)」と僅差で他の回答が続きました。
本章では、これらの目的別にシニアを4つのタイプに分け、それぞれのタイプの特徴をご紹介します。
3-1 「お金を稼ぐため」に働くシニア層
「お金を稼ぐため」に働くシニア層は、年金だけでは生活していけないという場合や、年金までのつなぎのため、または老後に向けての蓄えるためにアルバイトをしています。
主な目的がお金を稼ぐことであるため、4タイプの中でもっとも多く働き、稼いでいるタイプでしょう。
仕事探しにおいて、「長い期間働くことができる」ことや「給料の高さ」を重視する傾向があります。
アルバイトをして嬉しかったことを聞くと、「自由にできるお金がある」といった声があがりました。
3-2 「健康維持するため」に働くシニア層
「健康を維持するために」働くシニア層の特徴は、定年退職後に家にいることが多くなり運動不足になることや、生活のメリハリがなくなり生活リズムが乱れていることがあげられます。
働く理由として「仕事なら強制的に体を動かすことができる」というコメントがあったことから、アルバイトは軽い運動をおこなうことに近いと言えます。
仕事探しにおいて、「働く時間が短い」ことを重視する人が多く、平均勤務時間としては4~5時間が目安になります。
アルバイトをして嬉しかったことを聞くと、「元気で若々しく過ごすことができる」といった声があがりました。
3-3 「社会とのつながりを感じるため」に働くシニア層
このタイプのシニア層は、定年退職をきっかけに家で過ごす時間が多くなってしまい社会からの疎外感を感じているでしょう。
再び社会とのつながりを感じることを求めてアルバイトを始めます。
仕事探しにおいて重視する点は、「やりがいがある」と回答した人が多い傾向があります。
アルバイトをして嬉しかったことを聞くと、「感謝されること、頼りにされること」といった声がありました。
3-4 「仕事のやりがいを感じるため」に働くシニア層
このタイプのシニア層が仕事の探しにおいて重視する点は、当然「やりがいがある」という回答が多いです。
希望職種を見てみると、「講師・インストラクター、医療・福祉・介護」が多い傾向があります。
自身の能力を発揮したいという思いがあるため、過去の就業職種や専門的な能力が必要な職種を希望する人がいるでしょう。
アルバイトして嬉しかったことを聞くと、「教師としての経験からの助言で保護者が喜んだ」「難しい問題を解決して感謝された」といった声があがっています。
【4】シニア採用を実践している企業
ここまでシニア採用のメリットや課題、シニア層のタイプなどをご紹介しました。
本章では実際にシニア採用をおこなっている具体的な企業を3つあげ、シニア採用をおこなうことで得られる効果を見ていきます。
4-1 株式会社ドン・キホーテ
MEGAドン・キホーテ三郷店では、早朝に搬入された商品を食品売り場のスタッフだけで店頭に品出していました。
レジや接客と並行して品出し作業をするため、全ての商品を陳列するまでに時間がかかり、午前中の売り場はかなり乱雑な状態になるといった課題を抱えていました。
さらに、食品売り場で学生スタッフの卒業などが相次ぎ、アルバイトを募集することになりました。
そこで、『(1)買い物しやすい店を作るため、品出し専門の仕事に特化 (2)若い方だけでなくシニアの方々にも働く場を提供する』という方針がグループで決まりました。
実際に採用してみると、シニアスタッフは責任感が強く、遅刻する人がめったにいないことや、仕事が早めに終わったら自然に同僚を手伝うことなどを通して、スタッフ間のチームワークが向上に貢献してくれました。
チームワークが向上した結果、品出しが効率化され、翌月から午前中の売り上げが5~10%も増加しました。
4-2 SCSK株式会社
SCSK株式会社は2018年7月からシニア人材活用を促進すること目的とした「シニア正社員制度」を導入しています。
制度導入の背景として人事担当者は、今後10年間で60歳を迎える人は全社員の25%に達することがわかっており、60歳以降も働いてもらわなければならない状況だったと話しています。
SCSKでは50代の早い段階で60歳以降のキャリアに関する研修を受講し、54歳までに継続雇用希望有無を決定します。
その後、継続雇用を希望する場合には、60歳以降はシニア正社員となり、評価軸や報酬についても従来の社員とは別枠になります。
SCSKは、60歳をゴールとして第一線から退くようなイメージを、シニア正社員制度によって、シニアがコア人材になれる環境を整えることを目指しています。
4-3 株式会社モスフードサービス
モスバーガーもシニア採用を積極的におこなっています。
広報担当者は、「シニアの方は仕事に取り組む姿勢も真面目で、人生経験を積んでいるからお客様への気遣いも若い方とひと味違います。お店の雰囲気もよくなるといった効果が多くあります」と話しています。
また、孫のような年代のお客様に対しては、シニア層ならではの経験から、物腰柔らかな対応をしてくれるのでお客様や従業員からの評判が良く、店舗に大きく貢献しています。
【5】まとめ
労働人口が減少するなかで、「シニア採用」を積極的におこなっている企業は多くあります。
しかし、効果的にシニア採用をおこなうためには、採用をしたことで得られる効果を認識してから採用を検討する必要があります。
そこで、本記事で紹介した具体例などを参考に自社での「シニア採用」を考えてみてはいかがでしょうか。