「人と組織を動かすエンジンになる」をテーマに発足した人事コミュニティ『HR ENGINE』のイベントレポートをご紹介。
今回は、株式会社マネーフォワードの採用グループリーダーの小川 昌之氏と広報の青木 香菜子氏による「人と組織を動かす採用広報」についてお届けします。
小川氏は採用担当者として「なるべく早いフェーズで採用広報の専任を配属/採用すべき」と述べ、人材を採用する上での採用広報の重要性について説いています。
青木氏は採用広報として「採用広報の成功には継続が重要」と述べ、マネーフォワードのWantedlyを活用した採用広報の成功事例をアウトプットしていました。
では、マネーフォワードの小川さんと青木さんが考える、採用広報の重要性と大事にしていることはどのようなものなのでしょうか。
是非、ご覧ください。
小川 昌之|株式会社マネーフォワード 社長室 人事部 副部長 採用グループリーダー
2006年に千葉大学大学院を修了後、広告代理店、ソーシャルゲーム事業会社にて営業やディレクター、人事の業務に従事。キャリアコンサルタントとして、多くのエンジニア・デザイナーのキャリア相談を実施した経験も持つ。マネーフォワードには社員数約70名の時にジョインし、約3年で従業員数約300名となった現在まで採用領域をリード。
青木 香菜子|株式会社マネーフォワード 社長室 広報 MoneyForward’s ROOM 編集長
京都の大学を卒業後、リクルートグループ関西支社にてHR媒体制作や営業に携わる。その後、スタートトゥデイにてアパレルブランドのコンサルティングなどの経験を積む。2013年より旧nanapiにてWebマーケティング、広報の立ち上げを経験する。2015年よりマネーフォワードにて広報に従事。
目次
採用広報はできるだけ早いフェーズで専任を採用/配置すべき
小川氏:今回は「人と組織を動かす採用広報」がテーマということで、当社の採用広報の取り組みと、その取り組みの中から僕が感じた広報の重要性をお伝えできればと思います。
広報はフクロウだと思う
小川氏:まず、僕が当社で採用活動を続けてきた中で、広報の重要性を感じることが多々ありました。その中で、私は「広報はフクロウだと思う」という結論にいたり、同じタイトルで当社のWantedlyにブログを書いているのですが、その内容について簡単にお伝えします。
ベンチャー企業を山登りにたとえると「雲の上にあるような高い頂上を目指している」。それほどに先が見えない高いビジョンを目指してるのがベンチャー企業だと思っています。
はるか雲の上の頂上を目指すにあたって、「自分が今いる場所が正しい場所なのか」「ちゃんと頂上に向かって歩いているのか」「気づいたら仲間がいなくなった」とか「自分がどこにいるのか、どこに進んでいるのか」というのを、途中で見失いがちだと思っています。
そんなベンチャー企業にとって、広報というのはスポットライトのようにメンバ-や道のりを照らしてくれる。そして、道しるべになってくれる、そんな存在だと思っています。
ギリシャ神話に「夜道をフクロウが照らしてた」と、そんな話があります。それが僕の思う広報と合致して「広報はフクロウ」だなと考えています。
というのも、広報がメンバーや事業、サービスにスポットライトを当てることによって、従業員のエンゲージメントやロイヤリティーを高めたり、会社のビジョンがブレていないことをメンバーに伝えてくれるからです。
すると、企業の方針にそってメンバーのベクトルを統一することができるので、企業としてのパワーがすごく大きくなっていくと思っています。
【広報は、「フクロウ」だと思う。|マネーフォワード Wantedly ブログ】
マネーフォワードの採用広報としての取り組み事例
小川氏:採用広報の目的は非常にシンプルで、「社内向け」と「社外向け」に分けています。
社外向けの採用広報としては、「まだ見ぬ候補者の方々が働いてみたいと思える会社」「採用したい人から応募がくる会社」というようなブランディングができたらいいなと思っています。
社内向けの採用広報としては、とにかく既存メンバーが「働きたいと思える会社であり続ける」ということ。後は、リファラル採用に繋がっていきますが「働く場所として紹介したくなる会社である」ということ。そんな会社であり続けたいなということで、採用広報の目的を徹底しています。
そんな中で採用広報としての「取り組み事例」をご紹介します。
フルタイムRubyコミッターの採用
小川氏:当社のサービス開発においてはプログラミング言語「Ruby」を採用しており、そのエンジニア採用を、より一層進めたいという課題がありました。
そこで、当社においてオープンソースソフトウェア(OSS)である「Ruby on Rails」の発展を推進していくための取り組みとして実施したのが、「フルタイムのRubyコミッター職」の採用です。これは、Rubyの開発や改善に注力するという新たなポジションで、当社が給料をお支払いしています。
OSSであるRubyと、そのRubyで開発しているマネーフォワードのサービスの発展に繋げていきたい、そして「OSSに恩返しをしよう」という代表の辻の思いがこもった試みでもあり、結果的には採用広報としても価値のある取り組みになりました。
※マネーフォワードの「フルタイムRubyコミッター」について知りたい方はこちら!
【フルタイムRubyコミッター採用までの道のり|マネーフォワード エンジニアブログ】
Wantedlyの活用
小川氏:社内外に向けた広報活動のひとつとして、Wantedlyを活用してブログやインタビュー記事を作り、さまざまな情報を発信しています。
Wantedlyでの発信に力を入れる前、2016年1月にはフォロワー数が約1,000人でしたが、2017年12月には約7,200人まで伸びました。
その結果として「ブログを読んで応募しました」という候補者も非常に増えました。また、スカウトメールを送る際には、候補者の職種に関連のある記事を添付することで、返信率が大幅に上昇するなど、大きな成果を得ています。
また、ブログの内容をきっかけとした、社内コミュニケーションも増え、自主的に「私もブログを書きたいです」というメンバーも増えてきましたね。
情報を言語化すること、それを発信することの大事さが、社内に浸透してきているかな、と感じています。
ですので、できる限り早いフェーズにおいて、「専任の採用広報を優先的に採用、配置したほうがいい」、というのがこれまでの経験による私の考えです。
採用広報を継続させるために重要なこととは?
青木氏:私のパートでは、マネーフォワードで採用広報として地道にやってきたことを、お伝えできればと思います。よろしくお願いいたします。
採用広報を始めたきっかけ
青木氏:2015年に私自身が入社する前から、マネーフォワードのサービスや会社については、代表の辻(CEO・辻 庸介)などのインタビュー記事がたくさん出ていたので、そこからキャッチアップができると感じていました。しかし、社内の雰囲気や社員のことって、外からは当時あまりわからなかったんです。
ですので、入社後は、「広報をする上で社内のことをもっと知りたい。よし、みんなに聞いてみよう」と考えました。
そこで、広報の方であれば、実施されている方も多いかと思いますが、各チームのチームリーダー全員に1on1を実施したんです。各チームが何をやっていて、どんな課題を持っていて、どんなチームを目指しているかを、最初の1ヵ月程で全チームにヒアリングをしました。
そのヒアリングを通して、「会計士試験に合格しているエンジニア」「元バンドマンのCSメンバー」など、社内には面白い人がたくさんいることを知ったんです。
そして、各チームのメンバーやミッションなどそこでヒアリングした情報を、マネーフォワードで活用している「esa」というツールを使って全社に共有すると、思いのほか好評だったんです。そんな反応を目の当たりにし、「現場メンバーのことを社内外に発信することは、組織のモチベーション向上にも繋がるかもしれない」と思ったのが、採用広報を始めた最初のきっかけです。
「オウンドメディア」ではなく「Wantedly」を活用した理由
青木氏:私が入社した2015年から1年間は、組織が100人から200人に拡大するタイミングでした。急激に従業員が増えたことで、「ほかの部署はなにをやっているのか」「メンバーの顔と名前が覚えられなくなってきた」といった課題がでてきました。このことがきっかけで、会社として「さらに採用広報に力を入れよう」という意思決定をしました。
当時は、メルカリさんがメルカンを立ち上げるなど、企業が採用を目的としたオウンドメディアを活用する事例が増えてきており、当社においても、「オウンドメディアをつくるのか」、「Wantedlyを活用するのか」を検討をしました。
しかし、当時のマネーフォワードでは、オウンドメディアを立ち上げるよりも、プラットホームであり一定数のユーザーがいるWantedlyの方が、より多くの方に記事をみていていただける可能性があるのではと考え、「Wantedly」での発信を決断しました。
採用広報のKPIの設定に関して
青木氏:KPIに関しては、社外向けとしてWantedlyのランキングと、フォロワー数。社内向けとして、購読率をひとつの指標としました。
「採用数は追わないのか?」という観点もあると思いますが、どこかで採用数を追うフェーズがくるのかもしれません。ただ、採用広報で最初から採用数だけを追うというのは、「ちょっと辛くなってしまうかもな」とも思います。
当社では、ランキングが上がってフォロワーが増えることでユーザーからの認知度も上がるのでは、という考えで、それらの数値を社外向けのKPIとし、社内においては「ブログを読んでいるか」「ブログが会社を理解する上で有益な情報かどうか」などのアンケートを実施し、購読率を計測しました。
その結果、ありがたいことに回答者の購読率は90%を超えており、「有益ですか?」という質問に関しても、【非常に有益】【有益】を含めると、90%を超える結果となり、皆がブログに興味を持って読んでくれているというのが、実感できた結果でした。
【社外向けに起こった変化】
「採用への貢献」
- 採用のPDCA高速化につながった
- Wantedlyランキングは14位→6位、フォロワーは3倍超に
- 新入社員のほぼ全員が入社前にブログを読んでいる
- 面接を受ける人の2人に1人はブログを読んでいる
【社内向けに起こった変化】
社内のことがよくわかるようになった
- 社員から「よく読んでいるので他人な気がしない」と言われる
- 社員から「ブログを書きたい」「インタビューに出たい」「取材しに来てほしい」と声をかけてもらえるようになった
- 社外の友人などから「あのブログみてます」などの声をいただけるようになった
採用広報を継続させるために必要な5つのこと
青木氏:最後に、私が採用広報を継続するためのポイントをご紹介します。まず、採用広報でつまずくのは、この5つかなと思っています。
【継続に大事な5つのこと】
- やるやらの腹決め
- ネタに困ったら記者の目で社内をみる
- いつ、どうやって書くか
- 成果を発信する
- 社内の協力体制
やるやらの腹決め
青木氏:マネーフォワードの広報と人事の場合、社長室という組織の中に広報と人事があるので、相談先は社長や役員になります。
そこで、当時は会社として「採用広報に力を入れる」という意思決定をしました。
ネタに困ったら記者の目で社内を見る
青木氏:つぎに、「メディアの視点で社内を見る」ということが重要だと思います。
たとえば、ブログの企画を考える時に、2月だったら「バレンタインに関して、社内でなにかやっているかな」といったように季節感を交えて検討することもあります。最近は、バレンタインを禁止している企業さんもあると思いますが、あえて「こんな理由で禁止しています」とブログにするだけでも、ネタになるかもしれません。
また、ネタをつくる上で大事なのは「攻めと守り」の観点だと考えています。「攻め」というのは、社内の出来事や、世の中の時事ネタなどいろんな要素を含めて様々な企画を練り、多くの方に読んでもらえるような記事を作るということです。また、先程もお伝えしましたが、現場の社員にリサーチをする行動力も「攻め」の1つです。
こういった「攻め」の姿勢は大事ではありますが、一方で「守り」の意識も大事です。広報の方は常に意識されていると思いますが、外に出る情報は、どこで誰が読むものなのかはわからないので、「これは社内向けにはいいけどユーザーさんがみたらどう思うかな?」「クライアントが読んだら微妙な気持ちになるかな?」といった視点で、記事を作ることも非常に大事だと考えています。
いつどうやって書くのか
青木氏:採用広報を専任するにしても、兼任するにしても、大事なのはセルフマネジメント力だと思います。採用広報の仕事は、極論でいうと、締め切りがありません。
プレスリリースのように期日があるわけでもなく、サービス開発のようにローンチの期限があるわけでもないので、自分自身で企画を立て、タスク管理ができるかどうかというのは、とても大事だと思っています。
成果を発信する
青木氏:繰り返しになりますが、採用以外のKPIを置くことで、最初の1歩が踏み出しやすくなるのではと思います。
また、マネーフォワードでは、全社員が出席する週次朝会などで「Wantedlyブログでフォロワーが増えています、ランキングが上がっています」というように成果を報告していました。
このように、「採用広報で何をしているのか」を全社員に向けて啓蒙することは、採用広報担当者が業務を進めやすくなったひとつの要因だと思います。
社内の協力体制
青木氏:マネーフォワードには、代表の辻が「広報の大事さを組織に発信してくれている」という土台があるおかげで、従業員が広報に対してとても協力的なカルチャーです。
その上で、私を含めた広報担当者は、掲載情報やプレスリリース情報などを、常に社内のコミュニケーションツールで発信しています。
現場に向けて広報活動を知ってもらうための取り組みを継続してきたこともあって、「広報はこんな風に活動してるのか、じゃあ協力しようかな」といった感じで、社内全体が協力してくれる文化ができていったのだと思います。
採用広報に役立った私の性格
青木氏:おまけにはなりますが、私は「その人のいいところを見つける」ことが少し得意なんです。この性格が採用広報を継続する上で活かせたことのひとつかもしれません。
あとは、たくさんの記者の方とお会いしてきた広報の経験もあってか、自然と「もっと話したくなる相槌」をしているようです。計算してやっているわけではないのですが、これはインタビューを受けたメンバーが教えてくれました。
また、社員にインタビューするときは、事前に社員のことを調べるようにしています。インタビュー時には「僕・私のことを知ってくれている」と社員に感じてもらえた方が、話してもらいやすくなると思っています。
そして最後に、固い雰囲気で話を聞くのではなく、あえてちょっと「へらへら」してみたり、みんながリラックスして話せるような雰囲気づくりを意識しています。その方がみんな色々話してくれるので。(笑)
【採用広報を継続させるまとめ】
- 専任を置くとある程度の成果が出た
- 攻めと守りを意識したネタづくり
- セルフマネジメントは重要
- 採用数以外のKPIを考える
- 経営陣の理解と社内の協力体制が糧になる
さいごに
いかがでしたでしょうか?
マネーフォワードが取り組む採用広報は、一般的に求人情報や転職サイトに記載されている情報とは異なり、その会社でどのようなことがトレンドになっているのか、社員がどのような雰囲気で仕事に向き合っているのかが、社外の人からも理解できるような広報をおこなっています。
企業のサービスや業績などを公表するだけでは、魅力を伝えることが難しくなってきている今、職場の環境や、働いている人のリアルな情報を求めている求職者が増えてきているのではないでしょうか?
採用広報をおこなうことで、採用人数といった成果に直接結びつけることは、難しいかもしれません。しかし、専任を配属し、採用広報としての活動を継続させていくことで、企業のブランディングにつながり、社内外にファンをつくり、結果的に採用活動に大きなシナジーを生み出せるかもしれません。
【イベント概要】
- 「人と組織を動かす採用広報について考える会」
- 主催:HR ENGINEファウンダー/西村 創一朗、橋本 祐造
- 開催日時:2018年1月29日(月)19:00~21:00
- 開催場所:株式会社ネオキャリア 新宿サテライトオフィス