今回は、テクノロジーと企業経営の未来を考えるカンファレンス『SPIC2018』を取材。
慢性的な人手不足、働き方の多様化、産業構造の急速な変化など、「働き方改革」が叫ばれている現在。
その中で、生産性向上を目的としたテクノロジーの導入が注目を集めていますが、「どんなツールがあるのか?」「導入して何が変わるのか?」「どのように運用すればよいのか?」など、本格活用に至っていない企業も多いのではないでしょうか。
本イベントでは「テクノロジー」×「生産性」をテーマに、政府関係者、有識者、企業の方々による、リアルな導入実態を紹介しています。
これからの時代の企業成長のために、「テクノロジー」を活用する経営戦略のヒントになれば幸いです。
【主催】一般社団法人 at Will Work
“働き方を選択できる社会づくり”の実現に向けて、ノウハウの蓄積・体系化・共有を通じ、企業・人・団体の働き方事例の共有プラットフォームとして、2016年5月20日に発足。今回の『SPIC』も含め、『Work Story Award』や『働き方を考えるカンファレンス』などを開催している。詳しくはこちら▶at Will Workについて
目次
SPIC2018とは?
「生産性」は本当に向上するのか?
SPICとは「Saas Productivity Improvement Conference」の略で、これからの時代に求められる最先端のテクノロジーの活用の事例をユーザー視点で紹介するカンファレンスです。
今回の「SPIC 2018」は、記念すべき第1回目となる開催。変化の激しい社会の中で、企業競争力を高め続けるために、今後どう経営戦略を描いていくべきか、新しい気づきにつながる会となりました。
その中から今回は、【KEY NOTEセッション】と【パネルディスカッション】の様子を一部取り上げてご紹介します。
SPIC2018の冒頭に2本のKEY NOTEセッションがあり、パネルディカッションではコミュニケーションツール、HRTechツールの活用についてお話されていました。
※SPIC2018レポートは、3回に分けてお届けします!この記事では、【KEY NOTEセッション】をご紹介します。
KEY NOTEその1|生産性向上へ向けた”働き方改革 第2章”
テクノロジーの発展が著しい第4次産業革命を背景とした時、経営に必要な考え方はどういうものなのかが具体的にお話されています。
白石 紘一氏 | 経済産業省 産業人材政策室 室長補佐 弁護士
東京大学・同法科大学院卒業後、2011年に司法試験合格。都内企業法務系法律事務所にて弁護士として企業法務、労働法務等に従事。2016年9月より、経済産業省において「働き方改革」をはじめとした人材政策を担当する産業人材政策室に、任期付公務員として着任。「働き方改革」「人生100年時代」に関する政策立案に従事し、法的側面に加え、企業人事制度の変革、HRテクノロジーや兼業副業の普及促進等を担う。
企業側の「人材に対する考え方」も、働き手側の「働き方」も変わりつつある
今、人口減少という現実に直面している社会では、働き手側の「働き方」も、企業の「人材に対する考え方」にも変化が生じています。
「人生100年時代」とよく言われますが、人が100年も健康に生きる社会が訪れる時、これまで80歳程度という平均寿命を前提に考えられてきた3つのライフステージ、『教育を受ける』『仕事をする』『引退して余生を過ごす』というフローを大きく見直さなければならないとしています。
こうした人生の捉え方の変化が、働き手側の意識の中で「ひとつのキャリアに固執せず、マルチに働き、能力・スキルを永続的に向上させる」ことの重要度が増し、「働き方の変化」をあと押していると考えられます。
【出典】経済産業省 「人生100年時代」を踏まえた「社会人基礎力」の見直しについて
また、人口は2010年頃をさかいに減少に転じており、生産年齢人口は2060年にはほぼ半滅するという予測が立っています。
つまり、これからの日本では、すでに生じている「人材不足」という問題が更に加速していくことになります。こうした背景の中で、企業の競争力強化のためには、今以上に労働力の「量」と「質」の向上が必要になってくるのです。
こうした背景が企業の「人材への考え方」に変化をもたらしています。
第4次産業革命、AI・データ時代の到来により、技術のブレークスルーが起こる現代、あらゆる産業・企業・職種でテクノロジーが活用され、市場の変化はとてつもなく早いスピードで進んでいます。
データ量は2年ごとに倍増し、合わせて処理性能は向上、AIもディープラーニング等により非連続的に発展しています。このような【AI×データ】の台頭により、付加価値を創造する企業競争力の源泉も変化しているのです。
工業化が進んだ近代は「ヒトの量」そして工業機械などの「モノ」が企業競争力の源泉でした。テクノロジーによる自動化が進む現代では、設備投資のための「カネ」が源泉となり、この先の将来に関しては、イノベーション・知的労働のための「ヒトの質」が重要視されるようになると考えられます。
変化の激しい市場に対応していくには、この「ヒトの質」を維持・向上するために、人材への継続投資、そして能力発揮にむけた環境構築が企業にとって重要な経営戦略のひとつとなるでしょう。
変わる世界とテクノロジーの活用に期待されること
「ヒトの質」向上のためには、企業は能力発揮にむけた環境構築を推進することが求められます。これが「働き方改革」につながっています。働き方改革の第1章は「長時間労働への規制強化」ですが、これは改革のほんの序章にすぎません。
今後の企業経営に必要なのは、「働き方改革第2章」として、【生産性】と【エンゲージメント】を強化していくことです。
エンゲージメントとは、海外で生まれた考え方ですが、働き手が「自分ごととして、そこで働く喜び」を感じている状態のことです。我が国における「熱意あふれる社員」の割合はなんと6%しかなく、139か国中132位という結果なんですね。「やる気のない社員」の割合は70%ですので、エンゲージメントは驚異的な低さです。
生産性に関しても世界各国と比べれば低いのですが、企業は今後、「高付加価値」を生み出していくこの2つ要素を高めることが求められます。
企業が生産性、エンゲージメントを高めていくためには、「働き手の自律」「多様性の許容」「人材投資」が必要ですが、これらを下支えするのがテクノロジーだと思います。
企業にとって【人材戦略=経営戦略そのもの】です。働き方改革とは、つまり業務改革であり、経営改革でもあるのです。
【アナログ・デジタルの融合】を強化し、働く一人一人の喜びを最大化させ、企業の成長を促進していくことを期待します。
KEY NOTEその2|テクノロジーで変わる経営の未来
柳川 範之 氏 | 東京大学大学院経済学研究科 経済学部教授
1988年慶應義塾大学経済学部通信教育課程卒業。1993年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。慶應義塾大学経済学部専任講師を経て、1996年東京大学大学院経済学研究科助教授、同准教授を経て、2011年より現職。NIRA総合研究開発機構理事。厚生労働省「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会事務局長、経産省「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する研究会」座長、内閣府「2030年展望と改革 タスクフォース」委員等を務めた。東京大学金融教育研究センター・フィンテック研究フォーラム代表。
日比谷 尚武 氏 | 一般社団法人at Will Work 理事
2003年、株式会社KBMJに入社。取締役として、会社規模が10名から150名に成長する過程で、営業・企画・マネジメント全般を担う。2009年より、Sansanに参画し、マーケティング&広報機能の立ち上げに従事。並行して、OpenNetworkLabの3期生としても活動。現在は、コネクタ/名刺総研所長/Eightエヴァンジェリストとして社外への情報発信を務める。並行して、 株式会社PRTable エバンジェリスト、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会 広報委員、一般社団法人 at Will Work 理事、ロックバーの経営 なども務める。
今、経営層が直面しているのは、デジタルトランスフォーム?!
まず、前提条件として【経営が置かれている現状と課題】について整理していきましょう。
大量消費時代の終了にともない、経済成長は限界に達しています。インターネットの普及がもたらしたボーダレスな社会で、生き残るための戦略が必要とされています。
また、前のKEY NOTEでお話があったように、生産性の向上は、日本全体で取り組むべき差し迫った喫緊の問題です。
このように、企業経営が大きく変革を求められる時代において、「テクノロジーの有効活用」が解決の道筋の一つであることは確かな事実なのです。
現在、進められている働き方改革において、企業の対策としては何が必要なのでしょうか。
企業経営者、企業改革の目線でお話させていただくと、捉えるべきビジネスポイントは、【市場に急速な変化が起きている】ということです。
AIが発展する前の【社会のIT化】で見ても、市場には急速な変化がおきていました。急速な変化がある時代に柔軟に対応できる企業が、業績を伸ばしていくのです。
これからの経営戦略で大切なことは、これらの市場変化にうまく、迅速に適応することです。
そのためには、従業員一人ひとりが、より生産性の高い働き方に変えることも必要です。テクノロジーは日々進化し続けています。こうした技術革新は従業員側にとってもチャンスになります。いち早く自分自身のスキルとして取り込み、テクノロジーを活かせる能力を身につけていくことが競争社会を勝ち抜く武器になるでしょう。
もちろん企業や働き手個人をフォローする、政策的なサポートも必要ですね。
企業の経営戦略の要は、「企業ビジョンと働き手の生きがいマッチング」
こうした技術革新が進むと、社会にはどのような変化が起きるのでしょうか。
例えば、2035年の働き方を考えてみましょう。
2035年には、時間と空間に縛られない働き方になります。そうなると一つの会社に縛られない働き方が実現できるんですね。
これまでは、就職の際に選べる企業・仕事は一つしかありませんでした。ファイナンスの基礎にもあるように、資産は分散することが大切です。同様に考えれば、一つの企業に自分の全キャリアを預けるのはリスクでしかありません。
それが、副業・パラレルワークが当たり前になる社会では、仕事を選択し、組み合わせ、みずからのキャリアを自分自身でより柔軟に描くことができるようになるのです。
この状況を前提に、企業側では従業員の働かせ方を再考することが求められます。
テクノロジーが普及する社会では「テクノロジーの台頭により仕事がなくなるかもしれない」という働き手側の懸念がありますよね。実際のところはどうなのでしょうか。
この問題に対して、企業目線で考えると、2つのジレンマがあります。
現在の慢性的な人手不足に対し【人員を増やさず生産性をあげ、いかに効率化するか】は至上命題です。そのためには生産性の高い優秀な人材を囲い込みたいと考えます。ですがこれからの時代は、優秀な人材であればあるほど、自分の可能性を模索し、パラレルワークを選択します。企業としてパラレルワークを認めると、その人材は辞めてしまう可能性もありますよね。ジレンマです。
こうした状況は、すでに大なり小なり発生していると思います。優秀な人材を囲い込むことは限界に近しいのです。働き手としても、ひとところでキャリアを描くのも限界です。
企業がこうした状況を生き抜くためにも【企業のビジョンと働き手の生きがいがマッチする人材をどれだけ惹きつけておけるか】が今後の企業経営の要になるのではないかと考えられます。
また、もう一つ押さえるべきポイントがあります。
それは、テクノロジーの力を借りてあらゆる自動化を進めれば、効率化をはかることが出来て、業務効率(生産性)が上がる、と簡単に考えがちですが、日本社会ではそう簡単に生産性は上がらない、ということです。
なぜかといえば、業務工数は減らせても、簡単に従業員を減らせないのが日本社会だからです。
AIやテクノロジーを導入して、業務効率が上がり工数が削減されても、今までその業務に携わっていた従業員を簡単に減らすことができません。そうなるとテクノロジー導入分のコストだけ増大し、結果的には経営を圧迫します。
こうした状況の改善策として考えるべきは、AIやテクノロジーの導入により不要になった人手を、どうトレースするかです。
今まで携わっていた仕事とは別の仕事で、生産性高く付加価値を生み出せる仕事を創ることが必要なのです。
なるほど、テクノロジーをただ導入するだけでは、今直面する課題解決にはならないということですね。企業が成果を生むためにどうすれば良いのでしょうか。
市場のテクノロジーの変化に合わせて、経営戦略を変えていくことが大切ですね。どんなに良い技術を導入しても、人の配置や事業戦略を並行して変えていかなければ、企業の発展は難しいでしょう。
従業員はどんな仕事をしているのか。その業務内容を整理をして、組織を再編・再構築していくことが必要になると思います。
業務効率化ツールひとつを導入するにあたっても、ただ、テクノロジーを導入しても意味はありません。魔法のツールではないのです。そのツールが、テクノロジーが、現状の何を変えてくれるのか、どういう効果を得られるのか。
市場の技術の変化と、先々の企業戦略をしっかりと考え、経営のかじ取りをしていくことが、今我が国の企業力向上のために求められていることではないでしょうか。
近日中に、パネルディスカッションテーマ【コミュニケーションツール】【HRTechツール】をそれぞれ公開予定です。