こんにちは、株式会社JAMの組織コンサルタント菊地です。
今回は、約35社の保険から比較して選べる保険相談ショップ「保険 de あんしん館」などを首都圏中心に多店舗展開している、アセットガーディアン株式会社の組織づくりについてご紹介。
保険会社の概念を変革し、今急成長しているアセットガーディアン。その秘訣は「理念経営」にあると言いますが、自らの理念を社員全員に浸透させることに、ものすごく苦戦されたとのこと。
それでは、同社代表の内野氏は何を実践したのでしょうか?その結果得た学びや気づきについて、内情をお伺いしました。
【人物紹介】内野 道雄 | アセットガーディアン株式会社 代表取締役
目次
1. 内野氏が考える、成長企業の組織づくりのこだわり
JAM:「成長企業の組織づくりのこだわり」ということで、アセットガーディアンさんの組織づくりをお伺いしたのですが、一番のこだわりはどんなところにありますか?
内野氏: 理念経営を実現することを大上段に掲げて、組織づくりをしていることだと思います。特徴的なのは、保険業界では非常識である「完全固定給制」にしていることですね。
まず大前提として、保険の業界はいわゆるフルコミッション、歩合給です。通常の保険会社に勤める社員は最低賃金プラス歩合という事業所得で、社員でもあるんですが、個人事業主でもあるという状況です。
JAM:リスクとリターンが大きい世界ですね。
内野氏:そのルールだと、いわゆる定量評価しかないですから、理念に沿った行動などの定性評価というのはほぼありえない業界です。もちろんそれには、良い面もあると思いますが、僕が描く理想の組織ではないんです。
当たり前ですけど、いきなりフルコミッションだったら新卒採用もできないですよね。
2. アセットガーディアンの考える営業マンのあるべき姿
JAM:新卒がすぐお客様に契約をいただくのはハードルが高いですね。でも、なぜフルコミッションにしないことが理想なのですか?
内野氏:保険は、契約をいただいたら終わり、というものじゃないですよね。
むしろ契約をいただいてからが始まりで、その方の人生というのは「その方がお亡くなりになるまでと、残されたご家族に継承していくまで」と考えると、保険というのは80年のお付き合いだと僕たちは思っているわけです。
80年寄り添ったサービスを提供するとしたら、一匹狼でできるはずがない。
そう考えたら、一人の営業マンが担当し続けることも大切ですが、組織としてお守りして、80年末長くやっていくということが、本来保険代理店のあるべき姿だと思っています。
そうなると、組織としてお客様に寄り添っていくことが大切だと感じ、フルコミッションではなく、組織全員で役割分担をするという完全固定給に行き着きました。
JAM:確かにそうですね、もしかしたら営業が職を変えることもありますし、しかも80年という長期に渡って一人で担当し続けるというのは現実的ではないですね。何があっても組織として引き受けることができる体制を作りたかったということですね。
内野氏:はい、保険は入り口のコンサルティングがすごく重要だと思っています。でもそのあとの保険金給付などの出口のサービスも同じぐらい大事なので、それができる体制は組織じゃないといけないよね、という考え方からスタートしています。
正直保険屋は、自分がトップセールスマンになって、一人でやっている時のほうがよっぽど儲かります。この会社を19年やってきていますが、一人で創業した当時が一番収入が多かったです。
JAM:一人でやっていた方が収入が多いものの、1人で80年間お客さんをアフターフォローしていくことはできないから組織化する考えに至ったということですね。
内野氏:そうですね。価値観に良い悪いはなくて、合う合わないがあるだけだと思っていますが、 保険営業で一山当てたいのであれば、他の保険会社に行ってくださいと思っています。
僕たちは保険の入口と出口のサービスを、永続性を持って提供するために、仲間みんなでやっていくことを大切にしようと決めました。
さらに、仲間・お客様と一緒にやっていくためには、人を大事にしよう、人に積極的に関わっていこうと思っていて、じゃあその先に何があるのかと考えると理念である「出会えてよかった」と思っていただく人生を歩んでいこうと。
じゃあそのためにどういうことを約束して、どんな行動をしていくのか、というのがこの『AG-HEART(クレド)』なんです。未来に対する価値観を合わせていないと、人が集まったって何の意味もなさないわけですよ。
【AG-HEART】
理念:『出会えてよかった』のために
人や企業、あらゆる『出会い』を大切にし、あんしんと幸せを提供し続けることが私たちの使命です。
JAM:「稼ぐ」ことが第一義という方は、アセットガーディアンさんの価値観とはそぐわないということですね。
内野氏:保険業界は8割の人が稼ぐことができずに、2割の人が生き残ります。
「売った人がえらい」という価値観で業界が100年続いていて、その価値観がスタンダードなのであれば、僕たちの価値観の方が非常識なわけです。
だから、しっかりとその価値観を明文化して伝えていかないと、別の志向の人が混ざってくるわけです。
3. 理念を明文化したことにより、多くの気付きを得ることができた
JAM: 『AG-HEART』をちゃんと明文化しようと思ったきっかけは何かあったんですか?
内野氏:店舗拡大をして、どうにもこうにもうまくいかなくなったことですね。
3億円ぐらい調達して、2007年に1年で10店舗出したんですよ。それに伴って1年間で40〜50人採用して、10人の店長に権限委譲していったら、それぞれの店長たちの軸で物事を判断するようになりました。
それによって、意図しないことがたくさん起こったんですね。外側から見たら一気に10店舗進出して勢いがあるように見えたかもしれませんが、中身はボロボロでした。
僕の心の中に理念はあったんですよ。でも、みんなに浸透させるような明文化されたものっていうのはなくて。伝えたつもりでも、伝言ゲームになってうまくいかなかったんです。
人は失敗した時はまず感情で物事を考えるんです。そうすると悩んでしまうんですよ。悩むと何が生まれるかっていうと、人の至らなさが見えてくるんです。
「やるって言ったのにやらない」「俺はこう言ったのに」と全部人のせいとして考えてしまっていました。でも悩んでいても答えは出てきません。
そこで思考を転換して、今まで人のせいにしていたところを全部自分のせいだと考えて、その至らない部分を潰していこうと考えました。
人に任せることは正しい。けど任せ方がまずかった。だからやっぱり軸、共通言語をみんなでちゃんと共有できるようにするべきだと思って、理念をつくろうという考えに至りました。
JAM:理念を明文化することで、採用基準も変わってきますし、セルフスクリーニングにもなるので集まる応募者の質も変わってきますよね。
内野氏:そうですね。明文化する前は、自分の中にあった価値観を大切にして採用をしていました。急成長していたので、即戦力として活躍してもらうために経験者採用ばかりおこなっていました。
経験者はお客様が来れば接客ができるんです。保険業界はお客様を見つけるマーケット開拓が一番難しいので。
そして、経験者は今までの会社では歩合でやっていたので、普通だったらこれだけ売ったらコミッションがこれくらいもらえるはずという感覚になります。
でも、組織だと、集客にコストがかかって、組織で役割分担をしているから人件費がかかって・・・という投資をすることになります。
残りの金額から給与を支払うという普通の企業では当たり前の感覚が、保険業界にはないので「これだけ売っているのに…」という気持ちになっていくんです。
JAM:経験者を採用したいものの、経験者だからうまくいかないという葛藤があったのですね。そこから採用の方針はどう変わっていったのですか?
内野氏:全て理念に基づいて、理念に共感する人だけを採用して、中途採用も保険業界の常識がない未経験者を採用していきました。
でも未経験者採用は、最初の1年は十分な売上をつくることは難しいので、IPOを目指して四半期ごとに会社として成果を出し続けることは大変でした。
短期的な成果ももちろん大事ですし、会社のフェーズによっては絶対必要なのですが、改めて自分の経営スタイルは一過性のものではなく、永続性を大切にしたいというところに行き着きました。
それをやりきるためには、何が必要だろうと考えて、理念や行動指針を自分でつくりました。
ですが、2015年の設立15周年の時に「理念が、長くて分かりにくいからフルリニューアルしたらどうか」という話になって全員で作り変えたのが今の理念です。
4. 社員全員で作った理念を見たときの内野氏の感想は?
JAM:今の理念は全員で作ったのですね。「全員で」というのはどんな方法で作ったのですか?
内野氏:プロセスとしては、100名の社員全員が小グループを作って、聞く項目、語る項目を決めて、グループごとにディスカッションをしました。10グループあったら10個の意見が出てきます。
そうしたら、10個のグループのメンバーをシャッフルしてディスカッションをする、というのを4回やりました。人をシャッフルして違う人と話すとまた新しい気づきが出るんですよね。
それを今度は「理念委員会という」、6人ぐらいのメンバーが有志で手を挙げてくれて、ディスカッションで出た膨大なデータをマッピングしていって、言葉を考えて、一字一句決めていきました。
ちなみに、この理念づくりにも、理念づくりのプロセス設計にも、私は全く関与していなくて、理念委員会がとにかく頑張ってくれました。
JAM:理念づくりのプロセスに携わらないというのは、かなり勇気のいることだと思いますし、最終的なアウトプットが社長のイメージと違うということが起こりそうだと思いますが、AG-HEARTを見た時にはどう感じたんですか?
内野氏:2015年の15周年パーティーの時に初めて見たんですが、初めて社員の前で泣いてしまいましたね。普段は全くそういうキャラじゃないんですけど、堪えきれなかったですね。
「理念が大事だ、理念が大事だ」と言い続けて、みんなが同じことを考えてくれていることが分かった瞬間は本当に嬉しかった。
私が直したのは「てにをは」くらいです。
私がみんなに任せながら経営をして、文化を作ろうとしてきましたが、完成したものを見た時には「ああ、文化ができた」と思いました。全社員で作った理念なので、そこからの浸透度合いは半端じゃなく早かったですね。
JAM:全員でつくった理念であれば、思い入れもありますし、プロセスもわかるので理念に込められた本当の意味も伝わりますよね。
内野氏:理念と人事評価、給与テーブル、そして文化。これが全部一気通貫していないと意味がないというのは分かっていたので、人事制度は、売った人が極端に評価されるフルコミッションではなく、チームとして勝つという完全固定給です。
でも1年も運用するとリニューアルが必要で、組織づくりは本当に永遠の課題だと思っています。
5. 再現性のある「型」をつくることで、未経験でも成果が出せる育成方法
JAM:社員の育成についてはどのようにお考えですか?
内野氏:保険業界は2:8の世界だと言われていて、2割の成果を出して生き残る人と、8割の成果を出せずに業界を去っていく人に分かれます。
でも、それだと組織を永続させていくことはできないじゃないですか。100人採用して80人が辞める会社だと倒産しますよね。
であれば、極端ですが100人採用したら100人が育って、100人が活躍するという組織を作らなきゃいけないと思ってます。
しかも、うちはフルコミッションではなく固定給のため、その保険業界の常識を持った経験者ではなく、新卒や未経験者を採用することを大切にしています。
だからこそ、その未経験者が成果を出せる育成をすることに、非常に力を入れています。
JAM:固定給の人事制度や理念経営だけでなく、採用も保険業界の中では非常識と言われる考え方を実践されているのですね。
内野氏:固定給とか、理念経営とか、保険業界では全く当たり前じゃないですよね。でも、だからこそアセットガーディアンの立ち位置はバイイング・パワーのあるものになっています。
理念経営をして、未経験者や新卒を採用しながらも育成して戦力にするというのは、優績代理店の中でもかなり稀有だと思います。
JAM:保険の営業は非常に難易度が高いと思いますが、未経験者や新卒をどうやって育成されているんですか?
内野氏:まずは、他社の保険会社で生き残っている2割のベテラン営業と戦った時に勝ち続けられるように、定性面として、AG-HEARTの浸透です。
理念を明確化して浸透させて、評価をして、文化・社風まで落としていくっていうことがすごく大事です。
もう1つは定量的な部分です。デファクトスタンダードと言って、公的な標準ではなくて、僕たち営業マンが失敗事例も成功事例も経験した中で、どうすれば成約につながるのかという本質的な基準を「型」にして新人に伝えています。
JAM:成果の出る「型」をつくっているということですね。ぜひ詳しく教えてください。
内野氏:保険会社に入社したら知識の研修を受けるので、知識面は同じ情報を持っているということです。
でも、人によって成果が大きく異なる。ということは、Know How(知識)ではなく、Do How(行動の仕方)に違いがあるということです。
そのDo Howは、トップ営業マンの頭の中だけに存在してるわけです。
保険の知識をインプットするだけではなく、どう活かして行動するのかというところが大切で、他の人はこうしている、ではなくて、アセットガーディアン流という型にするからこそデファクトスタンダードになります。
成長・成功に向けた型を創造しつづけることを大切に考えているわけなんです。
JAM:再現性のある「型」をつくることで、未経験や新卒でも成果が出せるということなんですね。<
内野氏:そうです。世の中には守破離という考え方があります。日本での茶道・武道・芸術などにおける、あるべき姿が継承され、かつここまで応用・進化できたベースとなる思想です。
どんな業界でも長く継承されている業界というのは、型があるわけです。空手も型があるし、歌舞伎も舞の型がある。まずは徹底的にその型をマスターするわけです。
そして、その型があるがゆえに、その型と自分との差が分かって、目の前のお客様に合ったより良い型に応用することができます。
そして、最終的に自分の型に進化させることができる。型がなくて、自分の頭だけにある経験値は継承はできないんです。
保険業界で売れている2割の人というのは感性が豊かとか、センスがいいいわけです。知識をどう活かして行動しているかという「Do」にヒントがあります。
その「Do」って感覚なんですよ。誰にも教えることができません。でも因数分解していくと、どうやら6合目までは同じストーリーで辿り着いているということが分かりました。
6. 型破りな人間になるためには、本来の型を知らないとなれない
JAM:人それぞれ、表現やキャラクターは異なるもののストーリーに共通点があるのですね
内野氏:はい、その6合目に行くまでの型を徹底的に守ると、成長できるという流れをつくっていきました。型というのは、マニュアルではなく軸となる考え方で、迷った時に立ち戻る場所です。
「型にはめるっていうことは金太郎飴をつくるんですか?」と聞かれることがありますが、大違いです。
型を破るためにも、型を知らなきゃいけないんです。型破りな人間になるためには、型を知らないとなれないんです。
武道の達人も基本を知っているからこそ、より応用した技を作り出せるわけです。基本ができていなければ、信頼できないですよね。
型は目標達成に向けた最も大事な考え方であり、お客様の期待値を超える「質」を明確化したものです。型を守ればちゃんと合格点にいける。なぜ言い切れるのか。
私やトップ営業マンが何千件とお客様にコンサルティングをしてきた経験を活かして、頭の中を言語化してきたからです。これはものすごく、めんどくさくて大変です。
型を最初につくってから10年くらいたちますが、今でもブラッシュアップしてしています。
JAM:保険の営業は難易度が高いので、60点まではこの方法で登ってという道筋があると新人としてもできるかも、という気持ちになりますね。
内野氏:新人で山の麓にいる時には、山の頂なんて雲がかかっていて見えないんです。見えているところは、やり方が分からない、やったことがない仕事という断崖絶壁なわけです。
そこで日々、仕事だ、予算だと言われているうちに本当にできるのかなという気持ちになってくる。
だから、保険の仕事で頂までいくのは2割になってしまうんです。それだと組織は成り立たない。
100点の頂に行くために、連結している山が図の60点の山です。理念に共感した諸先輩たちが必ず登っている山であると。だから、頂上は雲がかかって見えないかもしれないけど、信じて登ってきてほしいと伝えています。
JAM:この図は非常に興味深いですね。60点の山までは型で登って、60点から100点にいくまでは主体性で登るということですね。
内野氏:本当は主体が一番です。好きに登ってほしいんです。でも麓から「好きに登りな」というと、2割の人しか登れないんです。60点までとれたら、100点までの登り方はいくらでもある。
A店長とB店長が80点だった場合、その2人の60点までの登り方は一緒で80点までいく方法は全く違う。でも店長は、自分の80点のやり方を伝えようとしたくなります。
アセットガーディアン では、80点をとる育成をするのではなく、まずは60点をとるための育成をします。
60点まではティーチング、60点以上はコーチングです。60点にたどり着いたら、自分なりの80点をどう目指すか。それは主体性に任せます。
JAM:新卒の方は60点に何ヶ月かけてたどり着くんですか?
内野氏:23ヶ月で60点の山まで登って、店舗に配属されてOJTでその60点を磨いていきます。
稲盛和夫さんが、「仕事の成果=考え方×熱意×能力」とおっしゃっていますが、僕たちは圧倒的な考え方を、まず型としてロープレなどで伝えます。
本当の60点は現場に行って、成約率、顧客単価などの数値目標とともに実現してもらいます。ちなみに去年の売上1位は、入社2年目の女性です。
7. 内野氏が思う「良い組織」とは
内野氏:先輩からしたら、育てるのはかなり大変だと思います。ロープレもかなり回数を重ねるので大変なはずです。でも、先輩もそのまた先輩にやってもらっていて、育てることが文化になっています。
僕は、人が人を育てるのではなくて、文化・社風が人を育てると思っています。
例えば、みんなが気持ちよく働いていて、気持ちよく挨拶している会社に、挨拶ができない人が入ったら挨拶できるようになると思っています。
逆もしかりで、自分が挨拶をして誰も返してくれなかったら、自分も挨拶をしなくなります。
それと同じように、アセットガーディアンでは理念に基づいた文化・社風をつくることで、型を徹底的に身につけるサポートをして60点を登るサポートをする。そして、個人も組織も成果を出す組織をつくっています。